インフィニット・デスロイヤル   作:ホラー

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 一日早く、投稿出来る範囲まで執筆致しました。前作の数時間後の話ですがこれは二夏が主人公です。


彼を喪う事を恐怖する少女

「…………」

 

 ある日の夜明け前、此処は東京の某所にある、とあ病院の手術室前。そこは身体をメスで切り、怪我した所や病巣を取り除く為に設けられている場所。が、今は、そこを出入り出来る扉の上には『手術中』と紅い光が点いていた。

 その意味は誰かが大怪我を負い、予定されていた日で手術される患者が医師達に囲まれながら治療されている。しかし、何方かと言えば前者が正しいだろう。

 同時に、そこは薄暗い中、看護婦や看護士、医者、患者、清掃員等、一人もいない。

 が、その手術室前には一人の少女が細長い椅子に腰掛けながら俯いていた。顔を両手で覆い隠しているが何も語ろうとはしなかった。その人物は十代後半くらいかつ、空色の長い髪。病院に居る患者がレンタルする服を纏っている。

 同時に彼女は何も語ろうとはしない、何も喋ろうとはしない、誰とも会話しょうともしない、連絡しょうともしない。ただただ、手術室の前で静かに座っていた。彼の安否を気にし、彼が死亡しない事を切願していた。

 彼は自分にとって、欠けてはいけない存在。自分や自分の妹を守る為に自らを犠牲にし、右腕を失いながらも、自分達を守ろうとした。しかし、彼は危険なゲームに参加していた。

 衝撃的な事実かつ、恐ろしい真実。彼女はそれを受け入れ難く、認めたくもない真実。しかし、今はそれを嘆く暇はない、今は色んな意味で今を嘆いている。

 彼はその所為で瀕死の重傷を負ってる。唯一の存命方法は手術で助かるしかない。それは賭けでもあり、医師達の手に懸かっている。助かるか助からないかは彼等の手に懸かっている。

 助かる事を祈っているがただ、待機する事しか出来ないでいた。

 

「織斑、君……!」

 

 少女はポッリと彼の名を、名字を呟いた。彼女は織斑、名を一夏と言う青年を心配していた。手術室にいるのも、彼が手術されている患者でもあるからだ。

 彼女は彼の身内ではないが色んな意味で顔見知りかつ、欠けてはいけない存在だ。少女は最初は彼を警戒していたが妹の叱咤により、彼の見方を変え、彼を支えようとした。

 しかし……彼女は嗚咽を上げる。彼女は思い出してしまったのだ。あの光景を、戦慄的な光景を。燃え盛る炎の中、崩れ落ちる廃工場を背を向ける中、彼の脇腹が突然、血飛沫を上げたのだ。

 同時に彼に反乱を起こすかのように彼の腸が飛び出したのだ。それを、その光景を彼女は目撃してしまった。あの時は驚いたがそれ以上に近くから彼女よりも人回り年下かつ、身長が少女の腰までしかない幼女の悲鳴が響き渡ったのだ。

 恐怖で支配されたような悲鳴だった。そんな幼女を他所に自分は突然の光景に愕然としていたが我に返る意味で叫んでしまった。

 そこからの記憶は曖昧だった。自分達の叫び声に近くを通りかかった人達が救急車等を呼び、彼が運ばれた事、自分と一美は救命士に保護されながらも病院へと連れて来てくれた事、自分は怪我をしていないかを診察された後、此処に居る事も覚えているかどうかも判らない。

 しかし、あの光景だけは忘れられない。彼の腸が飛び出て、血飛沫が辺りに飛び散っている、戦慄的な光景。

 何が遭ったのかも、何が起きたのかも、非現実的な光景でしかなかった。しかし、認めたくはない。あの光景は彼女の脳裏に焼き付き、心に暗い影を落としている。

 それでも、彼女はそれを拭おうと、振り払おうと顔を左右に振った。が、それは消える事もなかった。同時に今は、彼の生存を微かに願っている事が先だった。

 刹那、遠くからハイヒールの音が聴こえた。それだけではない、それ以上に走る音が幾つも聴こえた。彼女はその足音に反応し、其方の方を見る。彼女は目を見開いた。

 そこには、二人の女性が此方へと駆け寄ってきた。何方も二十代前半だが黒の長い髪を後ろで束ねている。黒い瞳が特徴的かつ、黒を基準とした女性用スーツを着ているが表情は焦っている。

 もう一人は緑色のボブカットに翡翠色の瞳。童顔であるがちゃんとした女性であるが黄色を基準とした私服に茶色いブーツを履いている。彼女もまた、焦っているが少女は二人を見ながら立ち上がった。

 

「更識姉……!」

「更識さん!」

 

 女性達は少女を更識と呼んだが表情は違った。黒のスーツの女性は更識を怒りを感じ、もう片方の女性は困惑していた。しかし、そうなるのも無理はない。

 彼女達は更識、否、手術室の中で治療されている者とは知り合いであった。片方は身内であり、もう片方は彼女達が受け持つクラスの生徒の一人だった。

 彼女達が来たのも、警察に呼ばれた事かつ、朝一番の電車を使い、更にはタクシーでこの病院まで来たのだった。が、二人は手術室前に来て立ち止まったまでは良いが黒いスーツの女性、織斑千冬は更識楯無を見ていた。

 表情は険しかった。彼女に対して、良い印象はない。手術と言う名で治療されている自分の弟、織斑一夏に関する事だ。彼を危険な裏家業に引き入れ、尚且つ、死地に赴かせる事をさせているのだ。

 千冬はその事を訊きたかったがそんな彼女に緑のボブカットの女性、山田真耶は困惑しながら見ていた。何か厭な予感がする。女の直感でもあるが彼女は何かを言い掛けようとした。

 刹那、渇いた音が手術室前に木霊した。それは一回しか出なかったがその音の正体は痛々しくも、あるまじき行動を物語っていた。

 

「お、織斑先生……!」

 

 それを間近で目撃した真耶は青褪めながら千冬を呼んでいる。彼女はその光景に戦慄し、愕然としていた。教師にとって、あるまじき行為かつ、赦されない事だった。

 それは社会問題にもなっており、それが原因で心に大きな傷を負った者が何人もいる。千冬はそれを、社会問題となっている行動を平然とやってのけたのだ。

 否、違う。彼女は楯無に対して、憎しみを抱き、怒りをも覚えていたからだ。彼女の家に預けた事が間違いだった。しかし、後の祭りであり、今はそれが戻る事も出来ない。

 千冬は手を上げているが怒りの形相をしながらも涙目であった。怒りと哀しみが入り混じっているが今は楯無を睨んでいる。

 

「……っ」

 

 そんな彼女に、楯無は頬を抑えながら彼女を見ていた。彼女の怒りを肌で感じたのだ。痛くも、彼女の哀しみが籠められている事には気付いていた。

 彼をこんな目にしたのは自分ではないが、自分が所属している所に彼に入るよう言ったのは自分達だ。赦されない事とは判っているが、楯無は目に涙を浮かべていた。

 楯無は未だに頬を抑えているがそれは少し紅かった。とても痛そうであるが無理もない。それは、千冬が楯無に平手打ちしたからだ。頬が紅いの持ち冬が平手打ちをした証拠かつ、教師が生徒に体罰しているのだ。

 さっき言ったのも、その社会問題と言うのは体罰だった。真耶が青褪めているのも、千冬が体罰をした瞬間を目撃したからだった。

 

「……!」

 

 真耶は千冬の行動に言葉を失っている。しかし、千冬は泣きながら楯無の胸倉を掴む。彼女の行動に楯無は驚くが抵抗しなかった。そして、千冬は彼女に対し、怒りが孕んだ声で。

 

「……お前のせいだ!」

 

 彼女は楯無に対して、そう言った。この言葉に楯無は瞠目するが言葉を失っていた。そして、涙目のまま目を逸らす。彼女の怒りの言葉はは、ご尤もだった。

 千冬は一夏を喪う事に恐怖していた。同時に、自分を責めているのも自分に原因がある事に楯無は気付いていたのだ。しかし、千冬は楯無に対し、怒っていた。

 

「お前のせいで一夏は死にかけている……お前のせいだっ!!」

 

 千冬は楯無の胸倉を掴みながら壁に叩き付ける。楯無は彼女の行動に抵抗しないが俯いていた。

 

「お前のせいで一夏は死ぬかもしれないんだぞ!? どうするんだ!?」

「…………」

「何とか言ったらどうだ!? 答えろ!」

 

 千冬は泣きながら楯無に怒っていた。そんな彼女に真耶は困惑しながら「いけません!」と言いながら止めようとするが千冬は楯無に対して怒り続けていた。

 

「お前のせいだ! お前達のせいだぁぁぁっ!!」

「……っぐ」

 

 千冬は泣きながら楯無に怒り続けていた。一夏を還せ、右腕があり、あの優しかった一夏を還せと。しかし、誘拐事件の前かつ、過去の彼の事であり今は現在だ。

 それはどんなに願っても戻れないが千冬は一夏を喪う事で恐怖している、我を忘れているのだ。楯無にも原因はあるのだが全て彼女が悪い訳ではないが楯無は涙を流し続けていた。そして、ごめんなさい、ごめんなさい、と謝罪の言葉を述べる以外、言い訳や抵抗する気配はなかった。

 三人はそれぞれの事をする中、手術室のランプは点いたままだった……。




 次回は色々遭って月曜日からの投稿となります。
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