インフィニット・デスロイヤル   作:ホラー

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暗き教室で哀しむ少女達

「グスッ……」

「…………」

 

 あれから二、三時間後。此処はIS学園の一年一組の教室。室内は今、暗い雰囲気に包まれていた。お通夜宛らでもあるが女子生徒達は今、哀しみに包まれていた。

 中には嗚咽を上げ、中には哀しい表情を浮かべながら瞼を閉じている。本来ならば勉強の時間でもあるが自習と言う形で潰れた。そこは喜ぶべきであるがそれも出来ない。

 彼女達はある事で哀しんでいた。それは、さっき学園側が警察から連絡された衝撃的な内容。戦慄もするが愕然ともする。その内容は学園側の唯一の男子生徒、織斑一夏の負傷だった。

 教師達や生徒達から見れば、更には世間から見れば、男子生徒が負傷したと言う出来事は衝撃を走らせる。一晩で全世界に報じられ、初回全体に大きな打撃を与える。

 どうなるのかは彼の生か死かで決まる。紙一重とも言えるが希望かつ、絶望にも近い。が、それは絶望の方が多いだろう。何故なら、一夏が死んでも、彼の代わりはいるのだ。

 脱落した一彦が造り、一夏の右腕を元に造られたクローン、織斑二夏である。彼は今、医務室で療養しているが近い内、否、今日中にも回復するだろう。

 同時に彼は数日後にはIS学園の生徒として迎えられる事が学園側の話し合いで決まったのだ。後は本人次第の気持ちでもあるが転入してくると言う意味で入学してくる事は決まっているのだった。

 が、今はその話題さえも出ていない。否、その事は未だ、全校生徒に伝えていないのも原因だった。二夏の事よりも、同級生である一夏を心配、否、心配するかしないかで困惑していた。

 同時に誰一人会話をする気配はない。そう言った事を、別の意味での明るい話題を出せないでいる。誰一人、一夏の安否を気にしない者はいないのだ。

 逆に矛盾しているとしたら、一夏の死を誰よりも喜ぶのは、ISにより染まり、それが原因で広まった男尊女卑主義者達だろう。自分達の立場を危うくさせる彼は邪魔でしかないだろう。

 同時に彼がいるであろう病院を責める危険もあるがそれは無理に等しい。何故なら……否、今は教室内に走る沈黙かつ、何時まで続くかも判らない状況を彼女達はただただ、待機する形で黙っていた。

 

「……グスッ、えぐっ」

 

 そんな中、ある少女もいた。その少女は空色の長い髪、紅い瞳に眼鏡を掛けている、弱々しそうな少女であるが彼女は泣いていた。大粒の涙を流して泣いていた。

 理由は勿論、彼女は織斑一夏の安否を気にしているのと、彼の無事を祈っている事だった。更なる理由としては彼、一夏に想いを寄せているからだ。

 彼は自分達の家の従者に過ぎないが自分達を守る為に、ある大男と共に傍にいてくれた。自分達を守る為に悪役に近い事をしたり、時には自分達には心を開かないがどんな時でも駆け付けてくれた。

 死の危険が迫っても、自らの命を危険に晒してでも守ってくれた。彼が居なければ自分はいなかった。同時に彼には味方はいなかった。その為、恩を返す意味でも彼の凍った心を氷解させようとしていた。

 しかし、そう言った行動は出来ていなかった。否、出来なかった。彼はいざと言う時以外、誰とも会話をしない。それが原因でもあるが彼女は彼の味方になろうと決めていた。

 同時に味方は他にもいた。自分の姉や自分達の幼馴染みであり、従者でもある布仏姉妹がいるのだ。彼女等と共に点々その前に姉に対して、彼の事をよく見るように怒った事もあるがそれが功を奏し、姉を彼との接し方や彼を信じる事を決めたのだった。

 彼は一人ではない、自分達がいる事を教えたかった、なのに何故だ? 結果は最悪な形で迎えられてしまったではないか。彼は死にかけているではないか、と。

 少女、更識簪はその最悪な出来事に涙を流しているが止まる気配はない。それどころか、想い人である彼の無事を祈る以外、何も出来ないでいた。

 簪はそれに気付きながらも己の無力さも気付き、更に泣いた。

 

「かんちゃん……」

「簪さん……」

 

 そんな彼女に、二人の少女が慰めの声を掛ける。彼女達も困惑しつつも哀しい表情を浮かべている。片方は薄茶色の長い髪に茶色い瞳の少女と長いブロンドの髪を後ろに纏め、紫色の瞳が特徴的な外国人だった。

 布仏本音と、シャルロット・デュノアの両人だった。二人は簪の様子に気付き、声を掛けているが彼女は一夏の事を思い、泣いている事に気付いたのだ。

 しかし、自分達だって彼の事は心配している。同時に簪の事も心配しているが何方も心配している事に変わりはない。友人として接しているのもそうだが今は慰めるのが先だった。

 

「かんちゃん、イッチーは……っ」

 

 刹那、本音はその先を言わなくなった。否、これ以上、簪の心を抉るような発言は控える事にしたのだ。一夏が無事なのは望んでいるが死んだら元も子もない。

 簪は一夏に想いを寄せている。彼を喪う事は彼女の心に暗い影を落とす意味にも近いのだ。同時に彼女だけではない、一夏に想いを寄せているのが他にもいる。

 推測でしかないが彼女も近い内、彼の大切さに気付くだろう。が、今の一夏の傍にいるのは紛れもなく、彼女だ。一夏の傍におり、瀕死の彼の傍にいるのは彼女なのだ。

 簪の姉にして、自分や自分の姉の上司でもある彼女が一夏の事を誰よりも心配しながらも一番後悔しているのだ。本音はそれに気付くがそれ以上の事も言わない。

 簪と彼女の姉は冷えきった仲である。最悪、更に亀裂が、深い溝が更に出来る危険もあるからだ。簪には悪いが、彼女の姉、更識楯無に全てを託すしか方法はない。

 嫉妬ではないが彼のみに起きた出来事を知っているのは彼女だからだ。本音はそれに気付きながらも「イッチー……」と呟きながら泣いた。

 

「本音……」

 

 そんな彼女にシャルが慰める。簪だけでは無く本音も哀しんでいる。シャルはそれに気付くが彼女も一夏の安否を気にしているのだ。彼は……否、自分は国の未来を無理矢理背負わされている。

 この衝撃な真実を知ったら彼は怒り、彼女達との友情を壊す意味にも近い。自分だってそんな事をしたくはない、が、自分の身内を盾にされている以上、自分には従うしか方法が無いのだ。

 シャルはそれに気付きながらも目を附せるが下唇を噛みながら震えた。己の無力さに嫌悪し、殴りたい衝動に駆られる。一夏を心配しているのと自分の首が命じた愚かな行為。

 シャルはそれに葛藤しながらも前者を選んだ。友情を選んだのだ。父だったらそう言う筈だ。亡き母を誰よりも愛し、誰よりも娘である自分を心配している。

 自分よりも他人を優先する男だ。シャルは父の事を思いつつも一夏の事を気にしている為、葛藤しつつも辛そうにしている。

 

 

「一夏……」

 

 彼女達だけではない。ある少女も一夏の事を心配していた。大和撫子とも言える少女だった。美しくも黒の長い髪に黒い瞳の少女だった。

彼女の名は篠ノ之箒。一夏の幼馴染みにして彼に想いを寄せ、ISを造った天災の妹である。

 彼女は一夏の事を心配しているが彼が死ぬ事を恐怖しているのだ。しかし、同時に更識姉妹には嫉妬しながらも一夏を心配している。何方かと言えば嫉妬にも近いが箒の場合、愛憎が入り混じっている。一夏を想い、更識姉妹を憎む、と言う意味だった。

 

「……っ」

 

 しかし、箒は一夏の変わりように驚きと哀しんだ。あの時の彼は、今の彼は昔とは違い、冷酷な青年へと変貌していた。何が遭ったのかは判らない。

 だが、自分を拒絶し、あろう事に千冬や、もう一人の幼馴染みにさえも拒絶している。彼に何が遭ったのかは知りたいが今は一夏の無事を祈る事しか出来ない。

 

「……一夏」

 

 少女は目に薄らと涙を浮かべる。無事でいてくれ、と。が、箒自身は気付かないだろう、しかし、それも矛盾するように彼女は何時の間にか、ある事を考えてしまった。

 

「……私に……力があれば……」

 

 箒は泣きながらそう呟いてしまった。箒は求めていた。自分に力があれば彼を守る事も出来、彼と一緒に闘えると。その為には力をどうやって手に入れるかだった。

 箒はそれを捜すが……ある結論に達してしまう。それは……姉に頼る事だった。姉を嫌っているがいざと言う時に彼女を使う。彼女の悪い癖でもあるが何故それを使うのかは判らない。

 箒は姉の事を思い出しつつも一夏と共に闘える事や更識姉妹や二夏よりも使える事を証明させる為にもだった。

 

 …………が、それが一夏と更識姉妹達を困惑させる意味である事を箒は知らない。そして、最悪な結末を招く事も彼女自身は知らなかった。

 そして、あの時の。一夏と楯無のやり取りを見ていた事、それはつまり、更なる悲劇の幕開けとは、この事であったのだった。




 

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