インフィニット・デスロイヤル   作:ホラー

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突然の来訪者、つらき代理者

「…………」

 

 その頃、此処はIS学園にある医務室。そこには、窓側の簡要ベッドには一人の青年が上半身だけを起こしながら窓の外を眺めていた。白く透き通った肌に、艶のある黒い髪と透き通った赤い瞳。

 爽やかな顔立ちであるが右腕だけは肌色だった。肩から、爪以外、五本の指まで全て肌色だった。くっ付けたようにも思えるが彼は窓の外を見続けている。

 一見、何の変哲も無いがその瞳は、その表情は哀しみに満ちている。この世に絶望しているとかでもなく、全てに諦めた訳でもない。彼は単に、喜びや笑い、怒りを知っている。が、何時も哀しい表情しか浮かべなかった。

 まるで、この世の醜い物を嫌と言う程、見てきたようにも思えた。が、隣のベッドには誰もいない。いたと言う形跡は残っているがそれが誰かまでは、その場に居た彼にしか判らないだろう。

 

「……暇だな」

 

 彼は不意に呟いた。その一言は彼の不満や無駄に流れる時間の中で何時まで待機していれば良いのかに不安を感じていたからだ。何時でも動ける、それさえも出来ないのだ。

 医務室が自分のいるべき場所ではない事は彼が良く判っている。しかし、外に出たいと言う我が儘も有るのだ。話し相手も欲しいが生憎、その存在とも言える少女は今、全快した為に、此処にはいない。

 彼は不意に、隣のベッドを見る。誰もいないのは明らかであるが彼は有る事を思い出していた。それは昨日、自分が彼女と話をしていた事だった。

 それは愉しくも、異文化の習わしや食事、行事等の事だった。何れも彼から見れば興味を濯がせ、衝動させる。彼は生まれて間もないにも関わらず、心が滾られた。

 子供のようにも思えるが少しだけ嬉しかったのは言うまでもない。自分が知らない事を、少女は教えてくれた。少女もまた、彼の行動や喜びを見て困惑していたが何処か心が落ち着いていたのは言うまでもなかった。

 しかし、それも数時間前の話であり、今は独りである事以外、変わらない。青年はそれに気付きながらも空を眺めるだけで時間を潰していた。

 ストレッチは出来ない。安静にしていなさいと言われたら、流石にそれを破る事は出来ないからだ。

 

「……えっ?」

 

 そんな中、青年は近くから気配を感じ、振り返る。

 

「うわっ!?」

 

 刹那、二夏は声を上げた。そこには、ある人物が居た。三十前半の男性で、黒い髪に黒い瞳が特徴的な男性であった。が、左目は抉られたのか眼球はなかった。

 服は黒を基準としているが得体の知れない者としか思えなかった。

 

「だ、誰だ!?」

 

 二夏は彼を見て警戒する。が、男は口を開く

 

「それよりも貴様は、織斑一夏が他の奴らと殺し合いをしているゲームに参加するか? 織斑二夏」

 

 男は彼に対して問いかける

 

「ゲー、ム? ……なんなの、それ?」

 

 二夏は主催者の言葉の意味を理解出来なかった。否、そのゲームと言う物を理解出来なかった。一夏が殺しあいのゲームに参加している?

 

「そのゲームはあの方が考案し、俺が主催者としてプレイヤー全てに助言し、追い詰める」

 

 主催者は二夏を指差す。

 

「お前の義兄でもある一夏はゲームで二人のプレイヤーを倒したーージェイソンを使ってな」

「それって……!?」

「勿論、プレイヤーは他にもいるが、奴が接触したのは楓一美、黒峯一也……それに……まあ、最後の一人は自ら確認しろ」

 

 主催者はそう言った後、軽く鼻で笑う。

 

「ソイツはお前達にとって、強大な敵かつ、動き始める」

「動き、始める?」

「そうだ。まあ、お前が殺されるか、逆にお前が奴が殺すかは、お前の行動次第だ……それと」

 

 主催者は指をパチンと鳴らす。刹那、彼の隣に、ある人物が風のように現れた。

 

「うあっ!?」

 

 その人物に二夏は驚く。黒くも禍々しくはなく、重装備とも言える恰好をしている。が、手にはピッケルを持っており、顔もガスマスクで隠している。

 そう、彼はハリーウォーデン、主催者があの方の命で、一夏の為に用意した二人目の殺人鬼。しかし、肝心の彼は主催者のせいで眠り続ける事となっている。

 その為、彼は誰もいない状況の中で現存している。二夏は彼を視て驚いているが少し怯えている。

 

「おいおい、お前はフレディを視たんだろう? それなのにコイツはダメなのか?」

 

 主催者は呆れながら彼に言った。その言葉に二夏は更に驚くが主催者は言葉を続ける。

 

「まあ、コイツは良いとして、お前はゲームに参加するか?」

 

 主催者は二夏に問う。彼にはプレイヤーとして、一夏不在の間の代理として参加させようとしていた。

 決めるのは彼であり、彼がどうするのかで一夏の生死が決まる。二夏は主催者の言葉で悩む中、主催者はある事を教える。

 

「そうそう、織斑一夏には暫く眠ってもらうぜ?」

「えっ? どういうこと?」

 

 二夏は彼の発言に驚くが男は笑う。

 

「織斑一夏は俺が呪いで寝かせている。暫くは起きないがお前が参加するならば、絶対安静を約束する」

「そ、それって……!」

「まあ、そう言う事だ。お前が参加すればだがな?」

「……っ」

 

 二夏は悩んだ。このまま参加すれば一夏の命は保証される。が、参加しなければ、彼は……二夏はつらそうに答えた。

 

「受……けるよ……そのゲームを」

「そうこなくっちゃな!」

 

 二夏は返事をした。それはイエスであり、義兄である一夏の代理として、ゲームに参加する事を意味していた。

 その返事に男は大層、喜びを隠せないでいた。否、彼自身、二夏がやるだろうと期待していた。ゲームは一人欠けるよりも、何人死ぬのかを期待しているからだ。

 人と言うよりも、人の皮をかぶった悪魔としか言えない。しかし、ゲームを再開するには彼自身、二夏の協力があればこそ、成り立つからだ。

 男は二夏に頷くと、指を鳴らす。刹那、ハリーのマスクの目が紅く光る。

 

「なっ!? ……何をしたの?」

 

 二夏はハリーの様子に気づき、男に訊ねる。

 

「否、彼自身、貴様を飼い主と認めたからだ」

「飼い、主?」

「ああ。殺人鬼は飼い主と認めた奴以外、攻撃する……まあ、知り合いとなれば、攻撃しない」

「僕にとって、メリットなの?」

「まあ、そうなるがな? しかし、デメリットも抱える事になる」

「デメリット?」

 

 二夏の言葉に男は頷く。デメリットーーそれは、殺人鬼を一定時間、解放しなければならない。主な理由は彼らは殺しを生業とする。

 人間を生け贄にする事だが善人であらば悪人、もしくは極悪人を生け贄に捧げる事も可能だった。

 現に一夏、一也、一美の父は抱えている殺人鬼たちに悪人を捧げている。それだけ、殺人鬼たちは飼い主である彼らに忠誠を誓えば飼い犬の如く、逆らわない。

 逆に言えば、生け贄を捧げない事が続く限り、逆らう事もできる。メリットとデメリットであるが男は殺人鬼の飼い方を教えているだけだった。

 

「まあ、貴様がどう思おうが飼い主になった以上、こいつは飼い犬。まあ、せいぜい逆らう事もさせないようにな?」

 

 男はそう言いながら風のように消えた。

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 二夏は男が突然消えた事に戸惑う。勝手な説明だけでは理解できないのだ。否、ゲームを簡潔に説明しただけであり、それ以上の事を男は説明しなかった。

 優位に立たせる事は他のプレイヤーたちよりも贔屓にさせるような事をするからだ。二夏は既にプレイヤーであるが新参者であり、代理でもある。

 

「えっと……あっ」

 

 二夏は戸惑う中、ハリーに気づく。ハリーは自分を見下ろしているが喋る気配はない。否、殺人鬼だからこそ喋る気はないか、もしくは信頼を寄せていないから発言しないのかのどちかかだ。

 あるとすれば、後者の方がハリーの本心なのかもしれない。二夏はハリーを見上げているがぎこちない笑みを浮かべる。

 

「と、とりあえず、宜しくね?」

 

 二夏は握手を求めるように手を伸ばす。しかし、ハリーは微動だにせず、反応もない。二夏は彼の様子に戸惑うが一夏が負傷している以上、彼に選択肢はない。

 

「……どうしょう」

 

 二夏は自分の発言に公開するが過ぎた事は戻れる訳ではない。これから、強大な敵を相手にしなければならないからだった。

 


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