インフィニット・デスロイヤル   作:ホラー

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第5話

「織斑君は、目覚めるかどうか、判らない……?」

「そ、そんな……」

 

 その頃、一夏が運ばれた病院では、楯無と千冬、真耶が診察室で医師の話を聞いていた。彼女達の表情は絶望かつ、悲痛その物だった。

 一夏は目覚める気配はない。その言葉は愕然としか言えなかった。医師も医師で辛そうであるが本当の事を言っただけだった。

 

「はい、彼が運ばれて来た時は既に大量の血を流していました……普通なら、死ぬかもしれない程の量です」

「そ、それでは、織斑君は……」

「……最悪、どのくらいの峠になるかは此方も判断出来ません」

「そ、それじゃあ! 一夏は何時死ぬかも判らないと言うのか!?」

 

 千冬は医師に詰め寄る。匙を投げているとしか思えない発言だが千冬から見ればだろう。そんな千冬に真耶は彼女を慌てて止める。

 

「止めて下さい織斑先生! 先生だってつらいのです! 悪い訳ではありません!」

「放せ山田先生! 一夏は死にかけているのに私には一夏しか居ないのだ! 一夏が死んだら私はどうなるんだ!?」

「先生の気持ちは解ります! ですが今は、今は目覚めるのを待つしか、私達にできる事はありません……!」

「っ……う、うぐっ……うぐっ」

 

 真耶と千冬は嗚咽を上げる。その姿は教師として、もう片方は姉としての涙を流している。その姿は痛ましく、目撃した者達である医師と楯無には辛い光景だった。

 医師は兎も角、楯無はどうすれば良いのかは彼女には判断出来なかった。理由は、あの時の光景を目撃した人物だからだ。恐怖で身体が震え、死ぬのではとも恐れていた。

 一夏が無事で居て欲しい——当主として、また、上司としての願いでもあった。楯無と医師は嗚咽を上げる二人の教師を痛ましくも、同情する中、叫び声が聴こえた。

 その叫び声に嗚咽を上げていた千冬と真耶、楯無と医師は反応し、楯無は反応するや否や、扉の方へと駆寄り、開けた。声がした方へと駆け出す。

 後ろから真耶の呼び止める声が聴こえる中、楯無は背中で受け止めていた。病院内は静かに……なんて言葉があるが今の楯無には関係ない——不安が有ったのと何が遭ったのかを気にしているからだ。

 楯無は駆ける。そんな中、曲がり角を曲がる——楯無は戦慄した。そこには、数人の警官が血だらけで倒れ、壁に凭れ掛かったりしていたのだ。

 楯無は戦慄していたが、ある病室を見た。その病室は……楯無は愕然とすると、慌てて駆寄り、病室の方を見る——そこには、寝台で横になり、幾つものチューブが身体中に繋がれ、目を閉じている一夏がいた。

 そして、その近くには巨躯の男が居た。スキンヘッドで顔にヒッケーマスクを着けている。楯無はそれは誰かが判っていた。しかし、何かを言う前に、その大男は一夏の手を握ると、そのまま風のように姿を消した——一夏を連れて、だった……。

 

「あ、あ————っ!!!!」

 

 楯無は狼狽した。しかし、それは一夏とは一時、否、暫くの別れを意味していたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝——それは早い朝の意味でもあり、一日の始まりを告げる。

 どの国でも、時差はあれども始まりを告げさせる言葉でもある。此処、東南アジアの極東とも言える島国、日本も例外ではない。

 何処も始まりを告げるように活動する人、まだ寝ている人もいる——しかし、当たり前のことであり、誰も気にしない。

 そんな中、此処はIS学園の医務室。

 

「…………朝」

 

 医務室にいる二夏は窓から差し込む光を見て、そうポツリと漏らす。

 その表情は安堵し、同時に不安を抱えている。朝が嫌いだからではなく、朝が来たことを喜んでいる訳でもない——ただ、そう言った感情が皆無だからだ。

 怒り、哀しみなどの感情は産まれた時から覚えた訳ではない。一彦との話で覚えたばかりであり、異文化などはラウラに教えてもらった。

完全な感情を、まだ覚えていない感情を覚えるのには時間がかかり、自分で覚えていくしかない。

 時間はまだあれども、不安は大きくなっていく。理由は——義理の兄、一夏の安否だ。何が遭ったのかを主催者の側近らしき男から聞いた以外、何も知らない。知っていたとしても、自分にできる事はない。

 

「ゲームって何なんだよ……」

 

 それに、ゲームと言っても自分は新米プレイヤーであり新参者。そんな自分がいきなり参加するのは躊躇していた。あの時は一夏の事を思い参加したが知識は愚か、戦闘経験もない。ISを起動したのが一彦の時であり、初陣はラウラ、シャルロットの時以外何もない。

 そんな自分が戦場に身を投げ出されたのはまるで試験のようにも近く、死と隣り合わせの日々の始まりだ。ゲームとは何をするのか、生け贄とは誰を差し出すのか? 男性、女性、もしくは子供……否、そんな事はできない。二夏にとって、優しすぎるが故の葛藤だった。

 自分にそんな事はできない、人の死の片棒を担ぐ事はできない——彼はプレイヤーの中では子供のような存在であり、他のプレイヤー達は幼女を除き、玄人ばかりの存在。

 冷酷、無慈悲、憎悪——負の感情で動き、其々の欲望を吐き出している。自分には、二夏にはそんなのはない。彼は喜怒哀楽は兎も角、悲哀しか理解出来ない。

 一彦に一通りの知識を、ラウラに異文化の事を教えられた以外、何も知らない。体力もあるかどうかも判らない。一通りのトレーニングは受けたが体力テストは受けていない。

 二夏にとって、今までの生活が一変したようにも思われ、更にはこれから高校生として、勉学に勤しむ日々を過ごす事になる。しかし、敵の存在は未だ判らない。

 どんな敵なのかは、判断出来ない。あるとすれば、黒峰一也、楓一美——どちらも敵か味方かも判らない。もう一人、敵は誰なのかは知らない。

 強大な敵なのかも判らない。二夏は悩む中、一夏を思い出す。

 

 自分のオリジナルであり、優勝候補の一人にして、最強のプレイヤー——自分はその身代わりであり、代理。素人であり、未熟者。そんな自分が生き残れるのかは、自分で判断しなければならない。

 二夏は頭を抱える。自分は一夏の代わりなどできるのだろうか? 生き残る為にはどうすれば良いのだろうか? ハリーを使い、勝ち抜く為か?

 そんなのは自分には判らない——ましてや、人を殺す事など、自分にはできない。二夏は優しすぎるのだ——否、一夏が孤独の日々を過ごしたか故に忘れた心優しい性格を引き継いでいる。

 今の一夏には無く、今の一夏が冷酷、無慈悲、憎悪しかない兄に対し、彼は喜怒哀楽はありつつも、哀しみの感情しかない義理の弟・二夏。

 どちらも、幾多もの感情が欠けた状態の義理の兄弟——生き残るのは兎も角、脱落するのは真っ先に彼等となる。生き残るとすれば、二夏が冷酷無慈悲で憎悪の感情を持てば、生き残れる確率は高くなる。

 しかし、今の二夏には、そんな感情はできないだろう。心優しいが故に、生き残る確率は、今の所————ゼロだった。二夏はそんな事を知らない——が、神は彼を見捨ててはいない。初心者には優しい——そんな非現実的な出来事がもうすぐ、起こるからだった。

 それは、フランスから来た、金髪の少女が鍵を握っている————。

 

 

 

 

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