ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

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3.1話. [迷い子を探して]

白い外套を纏い、エイレーンは砂の中を南西まっすぐ歩いていた。

 

吹き付ける風が行く手を阻もうと体を押し、そのたびに吹き飛ばされまいとその場にうずくまり、耐える。

 

弱り切った彼女の身体では、風を耐えるのは難しい。

 

風が吹くたびに立ち止まるのがもどかしかしく感じる。

 

自然との攻防を繰り返し進む事二時間、ようやく目的地らしき場所に到着した。

 

手に持った小型端末では、赤い丸と、青い丸がほぼ一致している。

 

赤い丸は、衛星が最後に観測したアカリの所在だ。

 

エイレーンは背負ったスコップを手に持ち、足元の砂を掻き出し始めた。

 

アカリはきっと地下シェルターで生き延びている、という淡い期待がほのかに胸をよぎる。

 

やがてスコップの先が白いコンクリートに当たった。

 

きっとシェルターの一部だ。

 

エイレーンは、そこから北に真っすぐ溝を掘っていく。

 

10m縦に溝を掘り、それを1メートル間隔で横に枝を派生させる。

 

格子状に広げた枝が、10mにもなろうというところ。

 

スコップの先端に、コンクリートではない感触を認めた。

 

金属製の扉が現れた。

 

エイレーンは地面と扉の僅かな隙間にスコップの先端をねじ込んだ。

 

そのままテコの原理で扉を押し開けると、備え付けの梯子が少しこちら側に出てきた。

 

震える手で梯子を掴み、ゆっくりと降りてゆく。

 

埃だらけの部屋の中心に、“ソレ”はあった。

 

見覚えのある黄色いザックが中央に鎮座していた。

 

エイレーンは思わず息を飲んだ。

 

「アカリの…」

 

その震える手でザックを持ち上げる。

 

ザックはずっしりと重かった。

 

~~~

 

飛び出すようにしてシェルターを後にしたエイレーンは、北へ北へと歩を進めた。

 

目的を見失ったその目は何も見えておらず、足は自立した生き物のように動く続ける。

 

その細い体に黄色いザックが重くのしかかるが、歩くスピードは緩めない。

 

「アカリさん…今助けますから…」

 

エイレーンは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 

やがて、野犬の遠吠えが聞こえ始めた。

 

辺りは既に薄暗く、頭上には上弦の月が昇っていた。

 

ふと、耳元で声が聞こえた。

 

「エイレーン」

 

ぼんやりとエコーのかかったその声に、エイレーンの意識は夢から現へと引き戻された。

 

“ああ夢か”とエイレーンは一人呟いた。

 

~~~

 

「ねぇ、エイレーン」

 

少し苛立ちの込められた少女の声に、エイレーンはムクリと体を起こす。

 

そして、寝起きの筋肉を伸ばしながら、少女に“起きてますよ”よプラプラ手を振る

 

行き場を失った欠伸がエイレーンの口から漏れた。

 

「ねえこっち来てよエイレーン」

 

少女の催促に、エイレーンは再び“わかってますよ”と手をプラプラ揺らす。

 

室内灯の眩しさに目をしばたたかせながら、ついでに首も回す。

 

「懐かしい夢を見ました」

 

エイレーンの言葉に、白髪の少女はモニタから目を離す事無く返事をする。

 

「へぇ?どんな夢?」

 

「萌実さんと出会う直前の夢です」

 

「そんな事もあったね」

 

萌実は表情を変えることなく、淡々と返事をする。

 

エイレーンにはその様子が“早く手伝え”という催促を暗に意味している様に感じた。

 

「で、どこを手伝えばいいのです?私は何をすればいいのです?」

 

「はいはい、ここだよネボスケさん」

 

萌実はモニターに大きく表示された地図を指さす。

 

その指さした場所に、エイレーンはげんなりとした表情で萌実を見た。

 

「また食糧投下位置ミスったんですか?」

 

「違うよエイレーン、よく見て」

 

「はい?」

 

エイレーンはぼんやりとかすむ目で地図を凝視する。

 

萌実の指した辺りに白い小さな点を認めた

 

「何ですかこれ?」

 

「ふっふ~」

 

萌実は得意げにキーを叩く。

 

すると、モニターに青い文字が画面中央に出現した。

 

―解析を開始します………―

 

―火星用運搬トラック―

 

エイレーンはおお、と小さな歓声を上げた。

 

「で?これが?」

 

「この写真の日付見てみてよ」

 

「11月2日ですがこれって……」

 

「アカリちゃんが攫われた日だよ」

 

エイレーンは思わず息を飲んだ。

 

運搬用トラック、そして攫われた日付。

 

エイレーンがまさしく求めていたものがそこにあった。

 

「どこで見つけたんですかこの写真!?」

 

「フォルダにあったよ?エイレーンがハックして見つけたんじゃないの?」

 

「何もしていませんよ!?」

 

エイレーンは少し混乱した様子で萌実を見た。

 

「お、落ち着いてよエイレーン、ほらお水飲んで」

 

萌実はキーボードと一体化したディスク上から、水の入ったカップを差し出した。

 

差しだされたエイレーンは、震える手でそれを受け取り口に含んだ。

 

「!……ゲッホッ!!ゲッハッ!!ハッゥ!!…ゲッッホッッ!!」

 

エイレーンの明らかな動揺ぶりに、萌実ははぁ…とため息をついた。

 

「乗り込みに行こう、エイレーン」

 

声が出せないエイレーンは涙目で頷いた。


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