ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん
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3.3話. [探り合い]

 

エイレーンは流れる景色を茫然と眺めている。

 

数年ぶりの車の感触が、何とも懐かしく感じる。

 

思えば、トラックの荷台に乗るのは人生で初めてだ。

 

代わり映えのない退屈な景色をその目に映しながら、エイレーンはふと思った。

 

絶望的な状況にも関わらず、思考は何故か冷静だ。

 

「ゴメンね、無理矢理連れてきちゃって…」

 

鼻にかかった声に、エイレーンはちらりと少女に目をやる。

 

その顔には、さっきまでの殺伐とした雰囲気など無く、寧ろバツの悪そうな表情がある。

 

エイレーンは運転席へと目を逸らす。

 

人の姿の無い運転席で、ハンドルがひとりでに回っていた。

 

「謝るより拘束を解くのが先ですよね?」

 

「ゴメンね、それは無理なんだ」

 

間を置かずに、少女は答える。

 

軽く舌打ちをしたエイレーンは、再び外に目を移す

 

何も無い、退屈な景色が左から右に流れていく。

 

「分かってるとは思うけど、飛び降りたところで助けは来ないよ」

 

「……そうみたいですね…」

 

エイレーンは、息を漏らした。

 

痺れかけた手を揺らすと、手首に垂れた鎖がじゃらじゃらと音を立てる。

 

「萌美って名前に聞き覚えはありますか?」

 

目の前の少女は目を大きく開いた。

 

「えっちょいっ…えっ!!!???」

 

少女はうろたえた。

 

言葉が見つからないのか、ただ口をパクパクさせる。

 

「探しているのですか?」

 

少女は頷いた。

 

しめた、とエイレーンは心の底でほくそ笑んだ。

 

「では車を止めて下さい、彼女を探しているのでしょう?」

 

少女は首を横に振った。

 

「それは出来ないよ、この車自動運転だから」

 

エイレーンは一瞬言葉に詰まる。

 

しかしこの好機は逃せない。

 

「成る程、では萌美さんには足で来てもらいましょう」

 

エイレーンはくるりと後ろを向き、縛られた手首を差し出した。

 

「彼女は金属探知機持っています、ですから金属投げれば追ってきますよ」

 

エイレーンは鎖をじゃらじゃらと鳴らす。

 

「早く外して投げて下さい」

 

突然の展開に少女は目を白黒させる。

 

先程までの覇気は既に消え失せていた。

 

あとひと押しで折れるだろうと、エイレーンは更に畳みかける。

 

「早く!私は逃げませんから!!」

 

「うぅ~…」

 

少女は観念し、懐から取り出した鍵で錠を外す。

 

じゃらりと大きな音をたてて、落ちた鎖。

 

少女はそれを手繰り寄せ、慌てた様子で後方に投げた。

 

「ついでに私の服も投げておきましょう」

 

エイレーンも、後に続くようにして羽織っていた白外套を投げた。

 

白外套は空中でブワリと広がると、大きく膨らみ、砂ぼこりの中地に落ちる。

 

エイレーンは心の中で、ニヤリと笑った。

 

しかし、それを悟られぬように何食わぬ顔で少女に振り向く。

 

「さて…」

 

振り向いた先に少女はいない。

 

なんで、と思った瞬間、顎先に何かが掠めた。

 

「え゛っ…」

 

エイレーンの視界がぐらりと揺らぐ。

 

体重を支える脚も、緊張が解けたかのようにガクッと折れる。

 

制御を失った身体は、重力の赴くままに倒れ込み、待ち構える少女の腕に収まった。

 

薄れる意識の中、エイレーンは右手を力いっぱいに握りしめる。

 

鋭利なセンサが食い込む痛みを右手に感じながら、エイレーンの視界はやがて暗転した。

 

~~~

 

「エイレーン?」

 

萌美は端末を右手に歩を進める。

 

その声は少し枯れ、顔には疲労の色も伺える。

 

エイレーンの捜索から一時間程経過し、身体も活動限界を感じていた。

 

「どこにいるのエイレーン…」

 

萌美はもう一度置かれている状況を振り返った。

 

忽然と消えたエイレーンの反応は、最後に見た地点から5kmも先。

 

きっと、野犬に荷物を端末ごと盗られたのだろうし、きっとこの先遠くない場所にエイレーンはいる筈。

 

そう思って捜索を始めたが、不思議な事にエイレーンの反応は何一つ見つからない。

 

最初は焦って探していたものの、進展しない状況に今では焦りを通り越してうんざりする。

 

しつこく照り続ける太陽照らされ、萌美は心の中で悪態をついた。

 

そんな萌美の心情を知ってか知らずか、右手の端末が騒々しい音を奏で始める。

 

「何なのよもう…」

 

騒々しい端末をみると、対象物と距離3メートルという文字が目に飛び込んでくる。

 

「ほぇ?」

 

顔を上げた萌美の視界に、白い布の様なものが飛び込んできた。

 

「何なのあれ」

 

独り言のようにつぶやいた萌美の足元がじゃらりと鳴った。

 

「えっ?」

 

音の主を見つけようと、萌美はかがむ。

 

…と同時に、砂にうっすらと入った痕を見つけた。

 

ついさっき出来たものだろう。

 

砂に描かれたタイヤ痕は白い布までまっすぐに伸び、その更に先へと続いている。

 

萌美の頭の中で、何かが噛み合う感じがした。

 

「まさか…」

 

白布を引き上げ、萌美は何かに納得したように頷く。

 

「誘拐されたのね」

 

萌美は観念したかのようにザックを背負い直すと、タイヤ痕を辿るようにまっすぐ歩きだした。






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