ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん
<< 前の話 次の話 >>

13 / 15
3.2話. [偶然の重なり合い]

 

「北東に35kmだね」

 

あらかた準備を終えた萌美は、手持ち無沙汰な様子でエイレーンに声をかける。

 

それに対し、エイレーンはシステムのチェックの手を緩める事なく答える。

 

「我々の歩くスピードが3.9km/hとして……」

 

「9時間くらいかな」

 

「ええ、今が出発すべき時でしょう」

 

「エイレーン…」

 

萌美は咎める様な目線でエイレーンを見た。

 

“だったら早く出発しろ”という強い念がエイレーンの背中にひしひしと伝わってくる。

 

「仕方が無いじゃないですか、だってこのコンピュータずっと計算しているんですよ?」

 

「それがどうしたのよ」

 

「使わない電力とか色々コンピュータに全振りしてあげたいんです」

 

エイレーンは愛おしそうにキーボードを撫でる。

 

萌美には、その様子がまるで我が子を愛でる母親のように見えた。

 

「エイレーンなんだかコンピュータに対して母性生まれてない?」

 

「そう言えばそうですね」

 

エイレーンは少し固まった、その目は何かを思い返すように空をさまよう。

 

その真剣な表情に、萌美は何かいけない事でも言ってしまったのかと慌てた。

 

「エイレーン?」

 

ふ、と我に返ったエイレーンは、はぁ…とため息をついた。

 

「……まあ、確かに萌美さんよりは母性ありますしね」

 

エイレーンは、悩ましげに胸部の膨らみを強調する。

 

見せつける対象はもちろん萌美だ。

 

揺れる胸部を見せつけられた萌美は、少し怒った表情を見せた。

 

「エイレーン覚えてなさいよぉ!」

 

エイレーンはそれを意に介す事無く、目の前のスイッチをパチパチと切り替えてゆく。

 

やがて、それもひと段落したのか、腰を上げて伸びをした。

 

「完了です、さあ行きましょう」

 

萌美はそれを待っていたかのように、傍らに置いてあった白い外套をエイレーンに投げた。

 

「じゃあそれ着て出発だよ」

 

エイレーンは顔面でキャッチした“ソレ”を上から羽織り、黄色いザックを背負う。

 

モニターに表示された、―いってらっしゃい-の文字に対し手を振りながら、二人は朝の砂漠へと足を踏み出した。

 

~~~

 

陽が昇り切り、更に少し傾き出した頃。

 

エイレーンは砂漠の真ん中で座っていた。

 

「エイレーンはおバカさんなんじゃないかな」

 

さらりと毒を吐いた萌美は、エイレーンに水を差しだす。

 

ありがとうございます、と言いながらエイレーンはそれを受け取った。

 

「徹夜すべきではありませんでしたね……」

 

覇気のない弱音に萌美は眉をハの字に曲げた。

 

「シェルター探そっか、脚つっちゃったんだったらもう歩けないでしょ」

 

「そうですね……頼めますか?」

 

「いいよ、エイレーンはここで大人しく待っててね」

 

萌美はそう言うとカバンから小型の端末を取り出した。

 

「金属探知機能入れておいて正解だったね」

 

萌美は端末を見ながらグルグルと周囲を歩き回り、端末はそれに合わせてホワイトノイズのような音を発する。

 

やがて、ノイズの大きい方角を見つけた萌美は一方方向に歩き出した。

 

「行ってらっしゃい」

 

それを見届けたエイレーンは、眩しさから逃げるように目を瞑った。

 

~~~

 

どれほど時間が経過しただろうか、エイレーンは砂を踏みしめる音で目を開けた。

 

目を開けると、開いた瞳孔に太陽光が目一杯差し込んでくる。

 

光を絞るように目を細め、音のする方向を見ると、白い影がこちらに歩いてきていた。

 

「…?」

 

ぼんやりとかすむその影は、どんどんと近づいてきている。

 

やがて、白い影はエイレーンの前で歩を止める。

 

シェルターを探し行った白髪の少女が、エイレーンの前に立っていた。

 

「お帰りなさい」

 

疲れた笑顔で立ち上がったエイレーンに、少女は少し後ずさる。

 

その様子にエイレーンは少し違和感を覚えたが、まあいいか、と流した。

 

「シェルターは見つかりましたか?」

 

少女は答えない。

 

二人の間を通った風が、少女の白装束をパタパタとはためかせる。

 

少女は強張った表情が、エイレーンの顔を見つめる。

 

反応を示さない少女に、エイレーンは困った顔をした。

 

「あの…」

 

「手を頭の後ろで組んで膝ついて!」

 

「…へっ?」

 

発せられた声は、エイレーンには全く聞き覚えの無い声だった。

 

あっけにとられて固まるエイレーンに、少女は右手を突き出した。

 

鈍く光る金属光沢が腹部に当てられる。

 

「えっ…えっ!?」

 

サバイバルナイフの存在に、エイレーンの背筋に戦慄が走った。

 

背筋に冷たいものを感じながら、言われた通り腕を後ろで組む。

 

少女はナイフをエイレーンに向けたまま、ゆっくりと後方へと回った。

 

じゃらりと鎖の音が聞こえ、やがて、エイレーンは手首に鎖が巻き付けられていくのを感じる。

 

数秒の間の後にガチャリと音が鳴った。

 

「ゴメンね…一緒に来て欲しいんだ」

 

背後からの声は申し訳無さそうに詫びた。

 

もちろん、ナイフはまだ背中に押し付けられている。

 

エイレーンは何が何だか分からず、少女の誘導するがままに歩を進める。

 

つりそうだった脚も、この時ばかりは言う事を聞いた。

 








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。