ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

17 / 37
コメントとか頂けたら嬉しいです


3.7話. [潜入]

白装束を身にまとった萌美達は、人混みの中をゆっくりと歩く。

 

何年振りかの人混みに、萌美は背中がゾクゾクするのを感じる。

 

「人がいっぱいいるね」

 

隣を歩くべノは、そうだね、と応じる。

 

「ここは特に中心地だからね、いっぱいいるよ」

 

べノは当たり前のように答える。

 

萌実にとって新鮮な風景も、べノにとっては当たり前のことらしい。

 

「所でべノ、作戦についてなんだが」

 

話を切り出したベイレーンに、べノは軽く頷く。

 

「ベイレーンがデータを抜き取って、私達がサポートでいい?」

 

「そうだな、退路の確保を頼むお」

 

「うん、退路の確保なら任せて」

 

二人の会話に萌実も横から加わる。

 

「あ、友達の救出も協力してほしいな」

 

そう言うと、萌実はエイレーンの端末を出した。

 

端末には地図らしき図形が表示されており、中で赤い丸が点滅している。

 

「ここにいるって反応があるんだけど」

 

どれどれ、と覗き込んだべノは、数秒間沈黙ののちに、うっ…と声を発した。

 

「うわぁ……よりにもよって…」

 

先程とは打って変わって、べノは面倒臭そうな声を出す。

 

「ゴメン萌実ちゃん、友達の救出は時間がかかるかも……」

 

首を傾げた萌実に、べノは続ける。

 

「その子、めちゃくちゃ強い奴に匿われてる…」

 

「へぇ…」

 

「女の子で萌実ちゃんに似ている奴なんだけど…」

 

萌実は目を細めた。

 

べノははぁ…とため息をつく。

 

「………うん、大丈夫だよ、私がその友達を救出して来るから」

 

「その代り、データを抜き取るのが先になるけど…」

 

萌実はしょうがない、と頷く。

 

「救出さえできれば大丈夫だよ」

 

べノはありがとうと呟いた。

 

気が付けば人混みの騒々しさは後ろに消えていた。

 

足元のアスファルトの黒に、砂の黄色が混じり始める。

 

三人の正面にそびえ立つビルが、禍々しい雰囲気を漂わせていた。

 

正面に立つ門番らしき二人組からも、目的のものはそこにあると分かる。

 

「正面から行くよ」

 

作戦開始の合図だ。

 

べノは萌実の肩を軽くつつく。

 

「萌実ちゃん、顔出して」

 

その言葉に、萌実の中で何かが繋がる感覚がした。

 

自分と似た少女が、どうやらこの集団では位の高い部分に属しているらしい。

 

成る程ね、と萌実は思った。

 

「分かったよ」

 

萌実は頷くと白頭巾を外し、二人を引き連れるように前にでる。

 

驚いたのはベイレーンだった。

 

「萌実、おま、何でだ?」

 

「それは後で話すね」

 

目の前には白いビルが建っている。

 

前には武器らしきものを持った門番が二人。

 

そんな門番の間の扉を、萌美は何食わぬ顔で通り過ぎる。

 

門番もチラリと萌実を見るだけで気にも留めない。

 

金属の扉を押し、中に体を滑り込ませる。

 

ビルの内部は、薄汚れた窓からの光でぼんやりと照らされていた。

 

「広いね」

 

目の前の光景に、萌実はポツリと呟く。

 

ビルの中は広いエントランスのようになっており、壁際には階段も見える。

 

ベイレーンは不思議そうにあたりを見回す。

 

「周りには誰も居ないようだな」

 

「うん、誰も居ないなんて、警戒するだけ損だった…」

 

突如、示し合わせたかのように、萌実の右ポケットからバイブレーションが鳴り響いた。

 

エイレーンの端末だ。

 

萌実は慌ててそれを取り出すと、その画面に息を飲んだ。

 

画面にはwarningの文字と共に、”危険音域”の文字。

 

萌実は黙って端末の電源を切った。

 

「ところで、べノちゃん」

 

「なに?」

 

「この場所って一体何に使われてるのかな?」

 

靴底がコンクリ―トを蹴る音が、コツコツと反響する。

 

「洗脳」

 

放たれた言葉は少し震えていた。

 

成る程な、とベイレーン呟く。

 

この場所を特定するのに、べノは様々な犠牲を払ってきたのだろう。

 

「…まあ、ヤバイ集団だとは思っていたがそこまでとはな」

 

ベイレーンはため息交じりにべノに尋ねる。

 

「…で、何階に行けばいいんだお?」

 

「すぐそこ」

 

べノは、取っ手の無い扉を指さした。

 

「たぶんあそこにある」

 

無機質な扉と言うのが正しいのだろうか。

 

見た限りでは何も特徴も無い、のっぺりとした白い扉だ。

 

萌実は扉を指先で軽く押した。

 

白い扉は、キィ、と音を立てて開く。

 

「…凄いね」

 

室内は、扉の簡素さとは真逆の騒々しさだった。

 

目の前の巨大なコンピュータ群は忙しなさそうにランプを点滅させ、熱を排出するためのファンが、大きな音で回転している。

 

端末を取り出したベイレーンは、ケーブルを機械に接続した。

 

巨大な機械は驚いたようにランプを点滅させた。

 

「何分かかるかわからないが、誰か来たときは対応頼むお」

 

萌実はうん、と頷く。

 

洗脳に使う場所だ、来るのはろくでもない人間の可能性が高い。

 

なるべくなら誰も来て欲しくは無い。

 

だが、期待とは裏腹に現実はそうは上手くはいかないらしい。

 

「誰か来たかな?」

 

べノの言葉に、萌実は耳を澄ませる。

 

誰かが言い争う声。

 

門番と関係者だろう、何か不備があったに違いない。

 

例えば、顔パスで入ってきたはずの人間が、もう一度入ってきた、等。

 

「べノちゃん、脱出経路は確保できてるかな?」

 

べノは頷く。

 

「地下に空洞が広がっているから、そこから脱出する」

 

「じゃあベイレーン次第だね」

 

萌実はそう言うと白頭巾をかぶる。

 

「終わったら声掛けてベイレーン」

 

「任せろ」

 

その言葉に萌実は白い扉を開き、人気の無い広いロビーに出た。

 

コツコツと音を立て、萌実はゆっくりと空間の中心に向かう。

 

表では騒ぎが収まったらしい、外へと繋がる扉がこちら側にゆっくりと開かれた。

 

外からの光に浮き出たシルエットは、小柄な二人組を映し出す。

 

「久しぶりだね」

 

萌実は入ってきた二人に声を投げる。

 

「萌実ちゃ…」

 

聞き覚えのある鼻声に、萌実は手をふる。

 

前にいるのはヨメミだ。

 

そしてワンテンポ遅れて後ろの一人が驚いたように声を発した。

 

「萌実さん!?」

 

その抑揚の無い声には聞き覚えがある。

 

萌実はほっと溜息をついた。

 

「エイレーン、無事で良かった」

 

その言葉に、ヨメミはエイレーンを庇うように前に進み出た。

 

「萌実ちゃん、久しぶりに会えて嬉しいよ」

 

ヨメミは少し嬉しそうな声を上げた。

 

「久しぶりだねヨメミちゃん、迎えに来たよ一緒に帰ろう」

 

久しぶりの再会に、萌実も嬉しそうに言う。

 

「萌実ちゃんがこっちに残ってくれればうれしいんだけどな」

 

後ろに控えるエイレーンは、困惑した様子で萌実を見た。

 

萌実は親指で白い扉を指す。

 

「それは無理な相談だよ」

 

「力ずくでも?」

 

萌実は答えない。

 

扉の蝶番がギィ、と音を響かせた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。