ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

21 / 37
4.2話. [疑惑]

「何で宗教と言う形で皆をまとめたんだろうね」

 

モニタを見続けているべノに、寝転がった萌実は声をかける。

 

コンピュータ室から脱出を失敗したエイレーン達は、”何故か”コンピュータの制御を命じられ、集団でコンピュータ室で宇宙エレベータの進捗を確認させられている。

 

今は休憩時間で、皆各々好きな事をして過ごす時間だ。

 

べノはモニタから目を放し、面倒くさそうな表情を浮かべて振り向いた。

 

「何で急に…」

 

「だって、万能の女神様を皆が信じちゃったら、何かあった時に誰も動けなくなっちゃわないかな」

 

大人しそうな顔の彼女だが、考える所はしっかりと考えているようだ。

 

べノはヨメミをちらりと見た。

 

彼女は萌実の太ももを枕にして、気持ちよさそうに昼寝をしている。

 

同じ顔なのにどうしてこんなにも性格が違うのか。

 

べノにとって、それが本当に不思議でならない。

 

「そんなの、AIが考えた結果だから、最善がそれだったんじゃないかな?」

 

べノの答えに、萌実はそっか、と頷く。

 

……

 

いや、待てよ。

 

AIは、過去のデータを分析し、学習する。

 

つまり、AIの答えは既存のデータから得られたものであって。

 

中世の環境と似た環境だったから中世の政治体制を参考にした…

 

しかし、宗教はやがて廃れ……

 

”革命”

 

突然浮かんだその言葉に、べノの頭の中で稲妻が走った。

 

「革命!そうか!革命だったんだ!」

 

突然湧き出たその”答え”に鳥肌がブワリと湧きあがる。

 

「なっ!?なになに…!?」

 

萌実の方を見ると、寝起きのヨメミは辺りをキョロキョロ見回し、萌実はこちらを不思議そうな目で見つめている。

 

べノは、ゴクリとつばきを飲み込んだ。

 

「萌実ちゃん、ヨメミちゃん、これ、結構まずい状態かも」

 

<ガチャリ

 

「ただいま戻りました」

 

「ただいまだお」

 

散歩に行っていたエイレーンとベイレーンが、丁度入ってきた。

 

丁度いい。

 

この事は速く伝えなきゃ…。

 

「「皆ちょっと相談があるんだけど(ですが)」」

 

強い責任感から発した言葉は、ものの見事にエイレーンのそれとハモった。

 

~~~

 

「へぇー…」

 

気の抜けた様子で返事をするヨメミは、同時に魂すら抜けたのかと思うほどにとぼけた顔を見せた。

 

「絶対的な神を信じ込ませた後に、裏切ることで、人々の信仰をそのまま機械へと移す…と?」

 

エイレーンのかみ砕いた解釈に、べノは頷く。

 

「うん、裏切られた人間は、その真逆のものを信じる傾向にあるって言うし…」

 

「でしたら、このパンデミックもAIが引き起こした…と?」

 

「それは分かんないけど……」

 

「…ありえるとは思うお、いや、寧ろそうとしか思えない」

 

 

「逆に考えるべきなんだお、ウイルスが何処から何を”媒介”にここまで来たのかを考えると…」

 

ウイルスの伝達手段には、生物が関わる。

 

生物の体内に入り込み、増殖し、別の生物の体内に入り込むのだ。

 

もし、この場所で自然発生したウイルスでなく、何かを媒介して来た場合…

 

「食べ物が感染経路の可能性もあるお」

 

食べ物の中に、これらのウイルスが紛れ込んでいたとすると、自然に体内にウイルスを取り込むことになる。

 

「でも、そうなるとアカリちゃん達権力者が全く罹って無いのはどうして?あたし達もだけど全員同じものを食べてる筈だよ?」

 

ヨメミの鋭い問いに、ベイレーンはそうか、と頷く。

 

死亡した人間、感染が確認された人間は、いずれも平民と言われる人のみ。

 

逆に、平民以外には全く異常が無いのだ。

 

「元々抗体でもあったか、食べる時にはそのウイルスが死滅していたか、若しくは既に感染してしまっているかだが…確かに…平民だけと言うのは不思議だお」

 

平民のみが感染する理由などあり得ない。

 

明らかに”変”な状況だ。

 

考え込むベイレーンにべノはおずおずと手をあげた。

 

「ベイレーン、話は変わるんだけど、逆にこれで生き残る人間を選別しているとしたら?」

 

「生き残るのは、権力の中枢に入り込み人々を統治できる能力のある人間、そしてその近くの人々」

 

「あとは、宗教に頼らずに一人で行動して、生き残った人じゃないかな?」

 

ベイレーンは成る程、と頷く。

 

「全て、能力が高くなければ生き残れないように出来ているんだお、権力者もそう、この事態に対処し、”殺されない”能力が必要だお」

 

”殺されない”能力、それはつまり、革命を起こさせずに統治させる能力の事だ。

 

だが、それは厳しいものがある。

 

日に日に高まる不満の色は、ほぼ部外者であったエイレーン達の目にもあからさまに分かる。

 

これらの不満を無くすのは無理だ。

 

「あの…それで、私から皆さんにお願いがあるのですが…」

 

申し訳なさそうに手をあげたエイレーンに、全員の視線が集まる。

 

「アカリを救出するのを手伝って欲しいのです」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。