「何で宗教と言う形で皆をまとめたんだろうね」
モニタを見続けているべノに、寝転がった萌実は声をかける。
コンピュータ室から脱出を失敗したエイレーン達は、”何故か”コンピュータの制御を命じられ、集団でコンピュータ室で宇宙エレベータの進捗を確認させられている。
今は休憩時間で、皆各々好きな事をして過ごす時間だ。
べノはモニタから目を放し、面倒くさそうな表情を浮かべて振り向いた。
「何で急に…」
「だって、万能の女神様を皆が信じちゃったら、何かあった時に誰も動けなくなっちゃわないかな」
大人しそうな顔の彼女だが、考える所はしっかりと考えているようだ。
べノはヨメミをちらりと見た。
彼女は萌実の太ももを枕にして、気持ちよさそうに昼寝をしている。
同じ顔なのにどうしてこんなにも性格が違うのか。
べノにとって、それが本当に不思議でならない。
「そんなの、AIが考えた結果だから、最善がそれだったんじゃないかな?」
べノの答えに、萌実はそっか、と頷く。
……
いや、待てよ。
AIは、過去のデータを分析し、学習する。
つまり、AIの答えは既存のデータから得られたものであって。
中世の環境と似た環境だったから中世の政治体制を参考にした…
しかし、宗教はやがて廃れ……
”革命”
突然浮かんだその言葉に、べノの頭の中で稲妻が走った。
「革命!そうか!革命だったんだ!」
突然湧き出たその”答え”に鳥肌がブワリと湧きあがる。
「なっ!?なになに…!?」
萌実の方を見ると、寝起きのヨメミは辺りをキョロキョロ見回し、萌実はこちらを不思議そうな目で見つめている。
べノは、ゴクリとつばきを飲み込んだ。
「萌実ちゃん、ヨメミちゃん、これ、結構まずい状態かも」
<ガチャリ
「ただいま戻りました」
「ただいまだお」
散歩に行っていたエイレーンとベイレーンが、丁度入ってきた。
丁度いい。
この事は速く伝えなきゃ…。
「「皆ちょっと相談があるんだけど(ですが)」」
強い責任感から発した言葉は、ものの見事にエイレーンのそれとハモった。
~~~
「へぇー…」
気の抜けた様子で返事をするヨメミは、同時に魂すら抜けたのかと思うほどにとぼけた顔を見せた。
「絶対的な神を信じ込ませた後に、裏切ることで、人々の信仰をそのまま機械へと移す…と?」
エイレーンのかみ砕いた解釈に、べノは頷く。
「うん、裏切られた人間は、その真逆のものを信じる傾向にあるって言うし…」
「でしたら、このパンデミックもAIが引き起こした…と?」
「それは分かんないけど……」
「…ありえるとは思うお、いや、寧ろそうとしか思えない」
「逆に考えるべきなんだお、ウイルスが何処から何を”媒介”にここまで来たのかを考えると…」
ウイルスの伝達手段には、生物が関わる。
生物の体内に入り込み、増殖し、別の生物の体内に入り込むのだ。
もし、この場所で自然発生したウイルスでなく、何かを媒介して来た場合…
「食べ物が感染経路の可能性もあるお」
食べ物の中に、これらのウイルスが紛れ込んでいたとすると、自然に体内にウイルスを取り込むことになる。
「でも、そうなるとアカリちゃん達権力者が全く罹って無いのはどうして?あたし達もだけど全員同じものを食べてる筈だよ?」
ヨメミの鋭い問いに、ベイレーンはそうか、と頷く。
死亡した人間、感染が確認された人間は、いずれも平民と言われる人のみ。
逆に、平民以外には全く異常が無いのだ。
「元々抗体でもあったか、食べる時にはそのウイルスが死滅していたか、若しくは既に感染してしまっているかだが…確かに…平民だけと言うのは不思議だお」
平民のみが感染する理由などあり得ない。
明らかに”変”な状況だ。
考え込むベイレーンにべノはおずおずと手をあげた。
「ベイレーン、話は変わるんだけど、逆にこれで生き残る人間を選別しているとしたら?」
「生き残るのは、権力の中枢に入り込み人々を統治できる能力のある人間、そしてその近くの人々」
「あとは、宗教に頼らずに一人で行動して、生き残った人じゃないかな?」
ベイレーンは成る程、と頷く。
「全て、能力が高くなければ生き残れないように出来ているんだお、権力者もそう、この事態に対処し、”殺されない”能力が必要だお」
”殺されない”能力、それはつまり、革命を起こさせずに統治させる能力の事だ。
だが、それは厳しいものがある。
日に日に高まる不満の色は、ほぼ部外者であったエイレーン達の目にもあからさまに分かる。
これらの不満を無くすのは無理だ。
「あの…それで、私から皆さんにお願いがあるのですが…」
申し訳なさそうに手をあげたエイレーンに、全員の視線が集まる。
「アカリを救出するのを手伝って欲しいのです」