ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

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4.3話. [生贄として]

罪を感じるのは、心を持つ生物の特権である。

 

人を愛し、人の為に涙を流せる者は、紛れもなく人であり、であるからこそ、人の生は美しいのだ。

 

過去に、こんな言葉を本で読んだ覚えがある。

 

確か、性善説論者の人が書いた詩だ。

 

不完全な人間の美しさと、人間特有の愛の素晴らしさについてが解かれていた。

 

私にはこの言葉に続きがあると思うのだ。

 

人の為に流した涙は、人を人から遠ざける。

 

無限に傷ついた皮膚は鋼のように硬くなり。

 

枯れた涙は、その流れを忘れる。

 

しなびた心は、元に戻ろうともせず。

 

行き場を失った愛が、自らを傷つけ始める。

 

もし、生贄と言う形で、この苦しみから逃れられるのなら、私は喜んで生贄になろう。

 

例え、それが無意味だと分かっていても。

 

だって、今の私にはそれしか出来ない。

 

何の力も持たない小娘が一人、神の化身を演じた。

 

それだけでも奇跡に近かったのに、これ以上何もできる筈がないのだ。

 

「……はぁ…」

 

きっとすぐにクーデターが起こる。

 

そして私は民によって殺されるのだ。

 

殺され、ごみのように扱われ……。

 

行き場を失った民は、そのまま滅びる。

 

いや、滅びるしかない。

 

主導者が自分たちであると分かってしまったら、生き残るすべは無くなってしまうのだから…

 

だからせめて、私の為にも、民の為にも、私はその前に”美しく”死ぬ。

 

民の興奮が最高潮になる前に、私は自ら死ぬ。

 

そうすれば、もしかしたら民は皆混乱してくれるかもしれない。

 

パニックが起こるかも知れない。

 

死んでほしくなかったと思うかもしれない。

 

そうしたら宇宙エレベータの存在を何らかの形で見せればいい。

 

伝記に記されたノアの箱舟のように、崩壊した世界から人々を守る強固な檻を。

 

そこへ、数人の信者が宇宙エレベータに乗ればいいのだ。

 

”ミライ様の声が聞こえる、これに乗れば救われると仰っている、と”

 

そうやって、事が大きく成れば、流れに流される形で大衆は動き始めるだろう。

 

全く…本当に…

 

自ら考える事を止めさせ、盲信させることが大衆の命を救う事になるとは、何とも可笑しな話だ。

 

そして、これが私が来る以前から計画されていた事なのだから、本当にゾッとする。

 

全人類が、何年も人工知能Solの手のひらで踊らされ続けたのだ。

 

それが、全人類を救うための最善の手段だとしても。

 

本当に気持ちが悪い。

 

「クーデターはあとどれくらいで起きそうですか?」

 

「3日もあれば起こる筈だ、そう言った動きが少しづつ活発化している」

 

成る程。

 

だったら2日後だ。

 

「では、2日後に集会を開きます、その時に自害するので…」

 

宣教師は面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

「ただ死ぬだけで終わったらつまらないぞ」

 

美しく死んだところで、民の心に何も響かなければ何も意味はない。

 

男はそう言いたいのだろう。

 

イエスキリストが信仰を得たのは、死した後に復活したから。

 

そう聞いたことがある。

 

つまり、死の間際に人智を超えた何かを行う事で、神としてあがめられ、信仰を得るのだ。

 

「でしたら自害直後に”奇跡”でも起こしましょう」

 

幸い、宇宙には巨大な宇宙ステーションが存在している。

 

それを使えば何かしらできる筈だ。

 

男もその考えに至ったらしい。

 

「宇宙ステーションから何かしらを落とすくらいしかできないぞ、そんなの食糧投下と変わらない」

 

「そうですね…」

 

そう、全くその通りだ。

 

確かに、宇宙ステーションが出来ることは限られている。

 

特に地球上に干渉する方法は、何かを投下する程度しかできない。

 

地上が二度焼き払われたあの日から、宇宙ステーションはそれのみを……

 

………

 

ああ、そうか。

 

そうだったんだ。

 

「それとも何か?落下軌道を変化させて流れ星でも作る気か?」

 

流れ星。

 

そんなロマンチックな方法もあるんだ…。

 

「いいえ、落とす物が違います」

 

そう、落とすべきものは

 

もっと凶悪で。

 

人の命を奪うために作られたもの。

 

「ミサイルを落とします」

 

何発でもいい。

 

神の怒りを表現できればいいのだ。

 

死の直後、人々に恐怖を与えればいいのだ。

 

私の死骸に縋りつくようにすればいいのだ。

 

「それは…」

 

男は驚きのあまり見開き、やがてその目つきは哀れな者を見る目つきへと変化した。

 

馬鹿の虚言。

 

ミサイルなんて軍事に関わる部分に干渉できるわけが無い。

 

そう言いたいのだろう。

 

だが、それを可能にする方法はある。

 

「言いたいことは分かります、しかし、私も策があると思って言っています」

 

この地上が二度焼かれた理由。

 

一度目は核によって。

 

そして二度目は迎撃ミサイルによって。

 

一度目の核爆発によって生じたパルス波によって、制御を失ったミサイルが地上に落下した結果だ。

 

「核が発射されたという信号を送り、迎撃ミサイルを発射させます、それだったら可能でしょう?」

 

「そんなの……」

 

「Solシステムから宇宙ステーションに送るのは無理なのは分かっています、使うのは別のシステムです」

 

Solシステムとは独立したもう一つのシステム。

 

二年前、エイレーンと一緒にいたあの場所で、突然現れたあのシステム。

 

「システムMiraiを使います、そのためのチームを発足させてください。」

 

死が確定した今。

 

もう、後には引けない。

 

民の命が最優先で。

 

洗脳してでも助けなければならないのだから。

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