うだるような暑さの中、太陽の熱線が降り注ぐ中を、砂煙を上げて白いトラックは砂の大地を走り抜ける。
運転席には相変わらず人影は無く、同乗者の四人は、妙にそわそわした様子で辺りを見回してる。
………
いや、ヨメミと萌実は落ち着き払った様子だ。
ヨメミに至っては寧ろ嬉しそうにしている。
(下手したら、数少ない人類を滅ぼしてしまう可能性だってあるのに、何故彼女達はいつも通り振る舞う事が出来るのでしょうか…)
二人の神経の強さに、エイレーンは呆れを通り越して最早感動していた。
「エイレーンとアカリちゃんの住んでた家に行くの楽しみだな~」
(ぬかしやがりますね)
人の緊張感を知ってか知らずか、呑気なヨメミに、エイレーンは心の底で悪態をついた。
何だか緊張している自分が馬鹿らしくも感じる。
「萌実さんも住んでいた場所ですし、そこまで楽しい場所じゃありませんよ」
「ちょっとエイレーン、それどういう意味かな?」
少し怒った様子の萌実に、エイレーンはにっこりと笑う。
「そこにいたからって胸は育たないです、アカリも私も胸が大きいのは素質があったからで…」
「エイレーンだって所詮Bカップじゃん」
「揺れるのと揺れないのでは大きな差です」
「私だって揺れるからね!!」
「あー…お前ら、口喧嘩は止めよう、そろそろつきそうだお」
ベイレーンの言葉に、運転席の向こう側を見やると確かに見覚えのある小さな四角が黄色い平面の上に落ちていた。
「あれみたいだな、じゃあ作戦の確認をするお」
「先ず、宇宙ステーションのネットワーク環境に接続し、ウイルスを送信するのが今回の目標だお」
「で、そのウイルスがこのメモリの中に入っているから、ウイルスを改造してとか゚何とか…」
「まあ、明日の19時頃に設定すればいいらしいが…」
ベイレーンは困ったように全員の顔を見回した。
「お前らの中で、これを書き換える自信があるやついるか?」
「「「「無理」」」」
「だよなぁ…」
ベイレーンは困ったように眉をしかめた。
「いや、実はな、オイラもどうやって書きかえればいいのか全く分からなくてだな」
ベイレーンの突然のカミングアウトに、残る四人もうんうんと頷く。
「そもそも何のウイルスかわからないし、そもそも何でオイラ達がこんな所に来ているのかすらも…」
「そうですね、ミサイルを操作する…とは言われていますが…」
「ウイルスでミサイル操作なんて無理じゃないか?」
「そんな事を言われましても…」
「そもそも…おぉう!?」
突然のブレーキに、ベイレーンはつんのめる。
目の前には大きな大きな金属製の箱。
エイレーンが数か月前に住んでいた箱だ。
「あ、着いたのか…」
ベイレーンは拍子抜けしたように目をしばたたかせた。
箱、と聞いていた割に随分と大きなソレは、静かに圧を放っている。
「行きましょう皆さん、」
後ろのエイレーンがよっこらせ、と腰を上げた。
他の3人もそれに習う。
「え?あ、入っていいのか?」
「はい、でもちょっとだけ待ってください」
エイレーンは、恐る恐るトラックから飛び降りると、4m程先の入り口のパネルに手を触れた。
黄色いパネルが緑色に切り替わり、扉がガシャリと音を立てて横にゆっくりとスライド
そのメカニックな動きに、ヨメミは一人歓声を上げる。
「か…かっこいい…!…ガションって言った…」
ヨメミの歓声に、エイレーンは得意げに鼻を鳴らした。
「ええ、なにせこの扉は宇宙でも使える程のものでして、密閉度、頑丈さ、そしてギミックの深み、どれも最高で…」
エイレーンの話を右から左に流しながら中に入ると、こじんまりとしたリビングらしき部屋が目に飛び込んできた。
住むには十分な広さ、中央の丸テーブルを退けさえすれば四人は寝れるだろう、奥に見える扉はシャワールームとトイレだろうか。
生活環境がかなり整っている。
さらに右手のモニタには日本語で、(お帰りなさい)の文字。
その文字に、何故だかほっとする。
微かなファンの音が少し気にはなるがそれでも居心地は最高だ、それに何より、
「空気が美味しい」
思わず出た感動の言葉に、べノもスウッ…と深呼吸。
そんな二人を萌実はほほえましそうに眺めている
「どうですか、居心地がとてもいいでしょう」
溢れんばかりのドヤ顔エイレーンが、ヨメミを引き連れる形で部屋に入ってきた。
すぐ調子に乗るエイレーンに、素直なヨメミが褒めたたえまくったのだろう。
混ぜるな危険。
そんな文字がベイレーンの脳裏に浮かび上がった。
「宇宙でも良く用いられる太陽光パネルによる発電システムに加え、地熱発電システム、熱平衡による発電システムを…」
エイレーンの言葉を遮るように、ガシャリと音を立てて扉が密閉される。
「あ、そうなんですよ、この子頭が凄く良くて、空気を効率的に循環させるために、というか循環システムが全体的に…」
スイッチが壊れたアイスクリーム製造器のように、説明を口から垂れ流すエイレーン、そして聞き入るヨメミ。
チラリとべノを見ると、しれっとコンピュータに端末を接続する作業に取り掛かっていた。
萌実も、シャワールームらしき扉に入っていく。
「………」
終わりの見えない説明地獄に、べノの手伝いでもしようとベイレーンはそっと踵を返した。
その時だった。
「…キコエマスカ…ミナサン……」
べノが接続した端末から、人工の音声が流れ出した
無機質ではあるが、良く通る声。
後ろで騒ぐエイレーン達も、その声に動きをピタリと止めた。