ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

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4.6話. [本当の作戦]

「シャワーを数分浴びただけなのに…」

 

茫然とした顔で髪を拭く萌実の眼前には、一様に表情が硬い4人の姿。

硬い表情と、水を打ったような異様な静けさが、仕事を増やされた会社員の顔を髣髴とさせる。

そんな様子が萌実には何故か声をかけづらく感じ、気が付けば無言で髪を拭き続けていた。

真顔の四人と、髪を拭き続ける一人。

 

「萌実ちゃん、凄い髪拭くね」

 

ぼんやりと髪を拭き続ける萌実の横に、いつの間にか、(比較的ダメージの少なそうな)ヨメミが立っていた。

少し手持ち無沙汰な感じで声をかけてきた辺り、彼女も萌実と同じように場の雰囲気に何をしていいのか分からなかったのかも知れない。

そして、残る三人はいまだに動かない。

 

「これって…何が起こったのかな?」

 

恐る恐る尋ねた萌実に、ヨメミは少し首を傾げる。

 

「新しい作戦が出た、みたいな感じかな」

 

成る程。

随分と簡略化されているが、その説明で萌実に場の空気の原因というものが何となく理解できた。

度重なる重要なミッションと、時間の制約の板挟み状態での精神状態を保とうと空元気を出して頑張っていたエイレーンが、新しい作戦を言い渡されて思わず潰れたのだろう。

きっと残る三人もそれにつられる形だ。

 

「ふぅん……新しい作戦って?」

 

さして興味無さそうな問いに、ヨメミはそれと同じトーンで返す。

 

「過去に戻って、歴史を変えるって」

 

萌実は眉をしかめた。

始めは認識違いかと頭の中でヨメミの言葉を反芻し、それでも理解できずに眉をしかめたのだ。

 

「え、へ?過去」

 

「そう、過去」

 

「?????」

 

冗談だよね?

そう、言おうとした時だった。

 

「シミュレーション結果が出ました、最適なチーム編成としては」

 

突然流れ出た人工音声に、萌実はぎょっと目を向ける。

無機質、それでいて流暢な音声だ。

まるで人間が喋っているみたいに…

 

「ヨメミさん、萌実さん、そしてベイレーンさんがこちらに残って下さい、そしてエイレーンさんとべノさんがアカリさんの拉致を…」

 

「なんの事?」

 

度重なる情報の嵐に、萌実の脳内は?マークで一杯になる。

 

「申し訳ありません、萌実さんが居るのでもう一度作戦を言います」

 

「まず一つ、過去に光データとして人を送るといったのですが、様々な要因を考えた結果、アカリさんを送るという事で決定しました」

 

「そして方法としては、アカリさんを宇宙エレベータを改造した装置でスキャンし、データ化した後に発信機事星の近くまで飛ばします」

 

「超新星爆発によってできたワームホールにアカリさんのデータを送信し、過去の地球の人工衛星にデータを入れます」

 

矢継ぎ早に言われた言葉に、萌実はエイレーンたちと同じように顔が固まっていくのを感じた。

 

「そしてタイムリミットは明日です、明日の正午までにアカリさんを海岸線沿いにある宇宙エレベーターに連れてきてください」

 

「ちょ…ちょと待って貰ってもいいかな?」

 

情報の突拍子の無さと量に、頭がぐらぐらする感覚を覚えた萌実は、悲鳴のような声を上げた。

 

「そもそもアカリちゃんを連れてこないといけない理由って何なのかな、それになんで明日までなの?」

 

当たり前の質問だが、それによって今後の対応は変わってくる。

アカリを明日までに連れてこないという選択肢があるなら難易度は下がり、より成功率が上がるはずだ。

 

「そもそも、こっちにもやらなきゃいけないことあるし…」

 

「ウイルスは送らないことになりました、それと、アカリさんを連れてこなければならない理由ですが…」

 

人工音声の言いよどむ様子が人間臭さを醸し出し、萌実が微かに感じる違和感がその強さを増してゆく。

 

「先ほどヨメミさんが、歴史を変えるとおっしゃっていましたが、むしろ歴史を変えないように、かつ、より良い方向に改善するのが今回の目的です」

 

「まるでアカリちゃんの影響力がものすごく少ないみたいな言い方だね」

 

ヨメミのちょっと不服そうな言葉に、人工音声はええ、と応じる。

 

「まあ、アカリさんならば…と言った所ですね」

 

少々含みを持たせた言い方だが、そこに突っかかるのがなんだかはばかれた萌実は、開きかけた口をそっと閉じた。

 

「続いて、宇宙エレベーター改造についてなのですが、宇宙エレベーターに元々備え付けてある人体のスキャニング技術を改造して、出力と精度、そしてメモリを宇宙ステーションのデータセンターに直接つなげます」

 

「つまり、宇宙ステーションとの連携が取れればいいのですが…萌実さんとヨメミさんに残ってもらったのはそのためです」

 

「…え、二人にそんなコネあったんですか?」

 

少し疲れた様子のエイレーンが不思議そうな目で萌実たちを見つめる。

どうやら心の踏ん切りはついたらしい。

 

「はい、萌実さん、ヨメミさんのお姉さんに当たる方です」

 

萌実はゾワリと背筋の鳥肌が立つのを感じた。

まさかここまで調べられているとは思ってもいなかったからだ。

 

「…萌恵の事を言っているの?良く知ってるね」

 

ヨメミの心底驚いた声をうわの空で聞きながら、萌実は数年前の事を思い返す。

萌恵。

萌実とヨメミの姉にして、宇宙ステーションの乗組員として数年前に宇宙ステーションに飛び立った存在。

数年前の事件で全く連絡がつかなくなり、互いに安否すらわからない状態だった彼女だが、果たして無事なのだろうか。

そんな萌実の心中を察してか、人工音声はやんわりとした口調になる。

 

「ええ、そもそもこの二年間、地球への支援活動は萌恵さんを中心とするチームがその役割を大きく助けていました、彼女は現在も健在で、連絡が取れる状況にあります」

 

「ですので、話を付けるのを貴方方二人、そしてベイレーンさんにお願いしたく思うわけです」


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