ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

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1.3話. [協力]

システム異変から数日が経過した。

 

エイレーンが言うには、“アップデート”と言っていたが機能はそれほど変わっておらず、表記が日本語表示になった程度らしい。

 

エイレーンは、なんですかこのしょぼいアップデートは、と少しムスッとしていたが、アカリにとってはとても嬉しいアップデートだった。

 

英語表記だったからシステムに関して触れることの無かったアカリだったが、日本語表記ならその限りではない。

 

アカリはすぐにエイレーンに助手としてサポートすると申し出た。

 

アカリの突然の申し出に、エイレーンは暫く驚いた様子だったが、二つ返事で応じた。

 

「共有できる仲間が増えることは良い事ですからね」

 

そう言うと、エイレーンは分厚い冊子取り出した。

 

「1000ページの簡易マニュアルです」

 

アカリの笑顔がひきつったものに変わる。

 

嫌な予感がする。

 

少し躊躇した様子のアカリに対し、エイレーンは笑顔で冊子を押し付ける。

 

「助手ですよね?」

 

分厚いマニュアルをアカリの手に持たせると、エイレーンはニッコリと笑った。

 

「このマニュアルが頭の中に入っている助手が丁度欲しかったところなんですよ」

 

「え゛っ?」

 

冊子を開くと、国際宇宙ステーションという文字と大きな図面が現れた。

 

アカリが昔、図鑑で見たことのある宇宙ステーションの一部だ。

 

それぞれの部屋に矢印が伸び、その先にページ数がふられている。

 

試しに開いた遺伝子保管室のページには細かく分けられた表。

 

命令コード表と題して左に10桁の番号とアルファベットで表された文字、その説明が右に細かく書かれていた。

 

「うわぁ…」

 

「もちろん、すぐに覚えろとは言いません、初めは私の指定したログ(命令の履歴)を調べてくれるだけでいいのです」

 

だんだんと青ざめてゆくアカリを見かねて、エイレーンは優しく諭した。

 

「貴方ならきっと大丈夫です。」

 

~~~

 

システム変更から1週間程経過した。

 

傍から見ていると理解出来ない内容も、接し続けていくにつれてだんだんと理解できるようになっていた。

 

それと同時に、事の重大性も身をもって理解することになった。

 

そもそも、情報量が膨大だった。

 

全世界を監視する国際宇宙ステーションのログを二人で辿ろうというのだから当たり前なのだが、しかし情報量はその想像をはるかに超えてきた。

 

全てのログを見るのは現実的ではない。そう判断したエイレーンは、知りたい情報だけを検索するようにして効率化した。

 

そしてそんな効率的な仕事に対し、アカリもマニュアルをもって対応していく。

 

段違いに効率化された事によって得られる情報は日に日に増えて行った。

 

だがそれだけだった。

 

最悪な事に、得られる情報は疑問を大きくさせるばかりで真相を解明するには至らない。

 

分かった事は、各国で独立していた宇宙ステーションから一斉に核爆弾が発射され、99.8%もの人間が行方不明となった事。

 

何故それが起こったのか。

 

真相にたどり着こうにも、ログは1年前の10月27日で途切れてしまっている。

 

「発射直後のログしか残っていないのは妙ですね」

 

エイレーンは神妙な面持ちで呟いた。

 

「自分たちで考えるしかないという事でしょうか、それとも…」

 

全世界のログを全て読み解くか

 

現実的ではあるが、現実的ではない方法。

 

アカリは振り出しに戻された気分になった。

 

~~~

 

システム変更から2週間が経過した。

 

あれほど順調に進んでいた調査にもアカリは限界を感じていた。

 

圧倒的な情報量を前に、寝食を忘れしらみつぶしにログを辿るエイレーン。

 

その代償は明らかに体へと反映されていた。

 

目の下のクマは大きく黒くなり、頬もこけた。

 

このままでは死んでしまうのではないかとさえ思ってしまう。

 

しかし、アカリのそんな心配を他所に、エイレーンはスクリーンに向かい淡々とログを読み取っていく。

 

「アカリさん見て下さい、この文で1つ新しい事が分かりましたよ!」

 

設備の点検を済ませたアカリに、エイレーンは嬉しそうな顔で駆け寄った。

 

右手には分厚いマニュアルが開かれており、四角い部屋の様なものが描かれていた。

 

「この部屋は元々宇宙ステーション一部だったんです!それもワザと落とされた!」

 

本には“自立循環型装置を搭載した部屋”との文字。

 

「えーと…?それってつまり?」

 

アカリは訳も分からず首を傾げた。一体それが何だというのか。

 

そんなアカリの反応にエイレーンはもどかしがった。

 

「ワザと切り離されたものなのです!」

 

「えっとそれって?」

 

「私たちを助けようとしているのです!」

 

間抜けな顔をしていると指摘されるまで、アカリは口をポカンと開けて立っていた。

 

AIが自分たちを守ろうとしているなんて。そんな筈はないと思う反面、確かにそうでないとつじつまが合わないと思う自分もいた。

 

「希望の光が見えましたね」

 

エイレーンの言葉でアカリはなんだか救われた様な気持ちになった。

 

そしてエイレーンも同じ気持ちだったらしい。

 

「自分たちを助けようとしてくれている存在は精神的にもありがたいものですね」

 

と言って笑った。

 

そして、安心しきったのかそのままぐらりと前に倒れ込んだ。

 

「わっ!ちょっ!エイレーン!?」

 

アカリは慌てて正面から受け止めた。

 

身体は軽く、その身は細かった。

 

随分と無理をしてきたのだな、とアカリは思った。

 

ゆっくりと上下する背中を優しく撫でながらマットの上にエイレーンを下ろす。

 

この様子だと明日一日中寝ているだろう。

 

「おやすみ、エイレーン」

 

そう言うと、アカリはエイレーンにシーツを掛けた。


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