ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

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5.3話. [窮鼠]

「利用するだけ利用して最後は殺しに来るなんて本当にロクでもない奴らですね!」

 

エイレーンは珍しく感情に任せて怒りをぶちまける。

その目線の先には一塊の集団。

車に乗った彼らは砂ぼこりを上げてこちらに向かってきていた。

殺意に満ちた空気。

その空気感は、数百メートル離れた場所からでも十分に感じられる程に激しいものだった。

 

「お姉ちゃん、怒るのは良いけど殺すのは駄目だよ」

 

「知ってますよ!本っ当にフェアじゃないですけどね!」

 

荷台にぶちまけられた銃の数々を見ながらエイレーンは返す。

麻酔銃でもあれば…。

悔しそうに奥歯を鳴らしたエイレーンは手に持ったリボルバーの弾数をちらりと見た。

 

「そろそろ着く筈」

 

「わかりました、着いたら何するって言われてますか?」

 

「分かんないけど多分隠れるのが先決だよね、アイツらを動けなくさせることが出来るならだけど」

 

「行き当たりばったりですね、っと……通信が…」

 

胸元で鳴り出した端末を取り出すとベイレーンの声が流れ出した。

 

『たった今作戦の詳細が決定したから伝えるが、とりあえずお前らは三人そろって宇宙エレベータに乗ってくれ』

 

「わかりました、アイツらの鎮静化は誰が?」

 

『宇宙ステーションから幻覚剤を乗せたミサイルがここに落とされる、それが地上で上手く爆発してくれれば大丈夫だ』

 

「…分かりました、では彼らを十分に引き付けた状態で爆発すればいいと」

 

『ああ、だからあいつらが到着してから発射される予定だ、着くのは三分後』

 

「……」

 

『まあ、軌道を予想して避けるには十分だろ』

 

「確かに直撃は即死ですからね」

 

『ああ…、とまあそんな感じだ…っと見えてきた』

 

「私たちがですか?」

 

『うん、って言うか物凄いスピードだな!?…ちょっ…これ激突す』

 

「あ、ベイレーン手を振ってくれてるんですね、おーい」

 

『いやちょ…待っ!早く止めてくれ!これはマズイ!』

 

「自動運転ですよ?」

 

『冷静に返すな!!つーかおいらはまだ死にたくねぁああああああああ!!』

 

恐怖の感情に満ちた悲鳴をあげながら逃げようとするベイレーンに、猛烈な勢いでつっこむトラック。

そのタイヤは残り100m辺りで動きを止め、激しい砂ぼこりを立てながら真っすぐに滑っていく。

 

「ああああああっぶなぁぁあああ!!!!???」

 

その軌道はわずかにずれ、ベイレーンからわずか50cm右で停止した。

 

「大丈夫ですかベイレーン」

 

一応、という形で労いの言葉を掛けるエイレーンを尻もちをついたベイレーンはキッと睨む。

 

「お前知ってて……いや…まあいいや、兎も角三人はエレベータに乗ってくれ、後はオイラたちがやる」

 

「わかりました…頼みます」

 

「ああ、任せとけ」

 

親指を立てたベイレーンに親指を立て返し、三人は円柱状の”宇宙エレベータ”に乗り込んだ。

 

ーガチャ

 

重厚な音を立てながらゆっくりと閉まる扉を尻目に、ベイレーンはトラックの荷台の上に飛び乗る。

 

「ヨメミ、萌実、武器を選んでくれ」

 

後ろで様子をじっと見つめていた二人は無言で言葉に応じる。

 

「エレベータになるべく生きた状態で全員乗せるのが目的だ、その手段はもちろん問わない……というか、手段を選ぶ暇なんて無い」

 

「分かってるよベイレーン、なるべく殺しはしないから」

 

照明弾とサバイバルナイフを持った萌実は腰を上げた。

随分と穏やかな表情なのは彼女特有の精神力によるものだ。

 

「ああ、そう言ってもらえると安心…ヨメミ、スナイパーライフルは要らないだろ」

 

「野生生物がもしも現れたら迎撃出来るように一応持ってるだけだよ」

 

「……まあ、それなら」

 

対するヨメミは静かな殺気を放つ。

一見真剣な表情と錯覚してしまうその顔には、明らかに笑っていない目。

 

「殺すなよ?」

 

ベイレーンの思わず言った言葉に、ヨメミは笑顔で応じる。

 

「大丈夫、全員生かせるように頑張るからね!」

 

相変わらず笑わない目だが、それでもベイレーンはそうか、と応じるしかない。

 

『第一陣到達まで約2分を切りました』

 

「分かった、一応Miraiシステムの移行も終わったんだよな?」

 

『現在アカリさんが搭乗しているエレベータのコンピュータに』

 

「100%?」

 

『はい』

 

「なら安心だね、で、ミサイルは?」

 

『仮に全員がまとまっている場所に直撃した場合を想定し、なるべく拡散した瞬間を狙います』

 

「ふーん…」

 

困ったように鼻を鳴らした萌実はふと、何かを思いついたようにベイレーンを見た。

 

「ねえ、ベイレーン、逆に私達で囮になれば時間は稼げるんじゃないかな?」

 

「…まあ、トラックもある事だしな」

 

ベイレーンは数秒間悩むそぶりを見せ、ニヤリと笑った。

 

「その案のった!」


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