けたたましく開かれた扉の先には、逆光に浮かぶ数人の人影。
比較的大柄な彼らの中には、宣教師と言われている男の姿もある。
怒りの形相を浮かべた彼らは、復讐すべき相手を目の前に見つけ、やがて困惑した表情を浮かべた。
「ミラ……イ…様?」
初めに口を開いたのは、明らかに動揺を見せた宣教師だった。
「死んで…」
死んでいる、と。
そう口走った宣教師に、辺りに動揺が走る。
まさか、既にこの世を去っていたなんて予想すらしていなかった。
心の底で、そう思ったであろう宣教師は、頭を垂れた。
彼からすれば、死を予想すること自体間違っていたのだ。
絶望的な状況下で現れた救世主。
科学の知識が多少あっても、神の化身として心の拠とすることで精神が楽になると気づいた彼らは、形から崇拝を初めた。
が、それはアカリの持つカリスマ性から段々と現実味を帯び、やがて本当に神の化身であると錯覚するようになっていた。
不思議な能力など無い。
しかし、常に先頭に立ち、自分達を導く道しるべとしてそこに居る。
ただそれだけで、崇拝するには十分だった。
そんな彼女に何故牙を向いたのだろうか。
殺すためだったのだろうか。
……。
いや違う。
本当は、再び導いて貰いたかったのだ。
目的の失った自分達を、死にゆく仲間に希望を失った自分達を。
彼女に牙を向くことで、もしかしたら導いてくれるかもしれない。
そう願って、ただ、それだけで怒りという感情を纏ったのだ。
カラン。
金属のパイプが床に落ちる音。
その音に我に返った彼らの目からは、怒りという感情が消え失せていた。
代わりに、どこか虚ろで、困惑した目をしている。
まるで、迷い子のような目だ。
そんな彼らを、敵意をむき出しにして睨むエイレーン。
「お前たちの所為で…」
地の底に響くような声に、べノは慌ててエイレーンの肩をつかんだ。
が、エイレーンの右手は既にピストルにかかっている。
「やめ!」
必死につかんだエイレーン右手は、ガクガクと震えていた。
恐怖なのか、怒りなのか、哀しみなのか。
そのどれだか分からない程にごちゃ混ぜになった感情。
「一番辛いのは、残された人なんですよ…」
ポツリと呟いたエイレーンの声は、シンと静まり返ったエレベータ内を反響する。
「もし彼女が貴方達と同じ、普通の人間だったら、彼女は死ななくて済んだのに…」
万人の頂点であったからこそ、アカリは死にゆく人々に最後まで寄り添った。
結果的にそれが感染に繋がってしまうと知っていながら。
「お前たちの所為で…」
瞬間。
ダンッ…!
広大な砂漠に、銃声が鳴り響いた。
~〜~
「駄目、観測できない」
硝煙の香るライフルを傍らに置いたヨメミは、無言でベイレーンから2本目のライフルを受け取った。
ガチャ、
そしてボルトハンドルを引き、ガチャりと戻してふたたび宇宙へと銃口を向ける。
ミサイルが着弾するまでもう20秒切っている状態。
「見えるか!?」
「うん、でも距離が量れない」
こちらに一直線に向かってくるソレは、スコープで覗けばかろうじて点として見える程度。
距離が全く取れないヨメミは、それでもヤケクソに引き金を引いた。
ダンッ!
数秒の間を置いて、萌実は首を横に振る
「観測不能!駄目、外してる!」
端末に送信されたミサイルのレーダーからの情報では半径一メートルにすら弾は入っていない。
「分かった次弾」
「おう!」
手を伸ばしたヨメミに、ベイレーンは弾を込めたライフルを渡し、撃ち終わったライフルを受け取る。
「ありがと!」
ヨメミが打ち、ベイレーンが装填。
二丁あるライフルのローテーションで、数撃って撃ち落とす作戦。
、がしかし弾は無情にも当たる気配を見せない。
「当たってない」
「次!」
「おう!」
12秒
「下方向に感あり」
「次!」
「ほら!」
9秒
「下掠ってる!」
「次!」
「っ!」
焦り、そして疲労。
4キロもある銃を振り回し続けた腕は、既に疲労に悲鳴をあげ、微かに震えている。
「命中!、でもまだ!」
萌実の恐怖の感情が混じった声に、ヨメミも次を催促する。
6秒
「掠った」
「っ!!」
3秒
次当たっても、中心を確実に貫いても。
燃料の爆発に確実に巻き込まれるだろう。
そうなれば、幻覚剤に着火し、効果は発揮されることになるが確実にこちらの命が助からない。
だから、もう終わりだ。
、と普段の彼女達だったら思ったかもしれない。
死を覚悟し、諦める
そんな行動に走っていたかもしれない。
しかし、そんな彼女たちは、全く諦める気は無かった。
最後の最後まで生き残る手段を見出す。
少なくとも、そこまでしなければ今はいけない気がした。
だから、残り三秒で、彼女たちは一斉に挙動を変えた。
端末を放り出した萌実はサブマシンガンを構え、ベイレーンは二人の腰のベルトに手を掛ける。
ヨメミはただ冷静にスコープを覗き込み呼吸を止める。
二秒。
萌実は全身で銃身をがっちりと固定し、サブマシンガンの引き金を引いた。
断続的な発射音と共に打ち出される弾幕。
それを尻目に、ヨメミは動かずにスコープを覗き続ける
一.五秒
ベイレーンは両足に力を込め跳ぶ体制に入った。
、がまだヨメミは撃たない。
引き金にかかった指には力は込め、いつでも発射できる状態で不動。
その目は、だた冷静に獲物だけを見つめている。
一秒
ヨメミは動かない。
だが、ここで跳ばないともう間に合わない。
そう判断したベイレーンは跳躍の体勢に入る。
「跳b!」
跳ぶ、とベイレーンが叫んだ。
まさにその瞬間だった。
明鏡止水の域に入っていたヨメミは、その瞬間を待っていたかのように引き金を引ききった。
ダンッ!という炸裂音。
その音を聞きながら、ヨメミはベイレーンに引かれるように後方へと跳躍。
残り一秒。
そのギリギリまで耐えきったヨメミの目には、全てがスローモーションに見えていた。
離れてゆく白トラックも、ただ茫然と空を眺める市民の姿も。
そして、中心をまっすぐに貫かれ、内側から破裂するミサイルの姿もありありと見て取れた。