ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

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1.4話. [暗転する運命]

時刻は4:12

 

目を覚ましたアカリは、まだ眠い目をこすりながら準備を開始する。

 

「さて…」

 

アカリは寝ているエイレーンを起こさないように、黄色いザックに飲料と固形レーションを入れ、持ち運び式のスコップもいれる。

 

「よしっ!」

 

アカリはリュックを背負い、トレッキングシューズのひもをしっかり結んだ。更に日焼け対策に白い外套を羽織るのも忘れない。

 

最後にエイレーンが寝息を立てているのを確認したアカリは、扉を開けようとした。

 

「あれ!?」

 

今までは少し力を込めれば開いたのだが、何故か扉が開かない。

 

「ふぬぬっ!」

 

両足を踏ん張り、全身を使って扉を押す。

 

しかし今度は扉が押し返してくる。

 

「………」

 

アカリは無言で数歩後ろに下がった。

 

そして扉に向かってタックルをかます。

 

ガンッと音を立て、扉は大きく開く。

 

大きく開かれた隙間から、昇りたての太陽の光が差し込み、冷え切った空気が流れ込んできた。

 

「じゃあいってきまーす…」

 

アカリは再度エイレーンが寝ている事を確認すると、目的地までの道を歩き出した。

 

モニターの表示がチカチカと揺れた。

 

~~~

 

ひたすらに歩くこと一時間。

 

「確かここだったかな~?」

 

拠点から北西に5km程歩いた所でアカリはザックをおろし、中からスコップを取り出した。

 

手慣れた様子でスコップを組み立て、鼻歌を歌いながら砂の中に刺していく。

 

突き指し、数歩歩き、突き刺し。

 

すると六回ほど突き刺した辺りで金属製の物を叩く感触が伝わってきた。

 

「ここかな」

 

アカリはスコップを軽く握りしめると、金属音の聞こえた所の砂をすくい上げた。

 

一掻き二掻き。

 

すくい上げていくうちに砂をかき分ける音が金属の表面を撫でる音へと変化していく。

 

その穴が三十センチ程の深さになり、音の主がその姿をようやく姿を現した。

 

「ビンゴ!」

 

金属製の正方形の板が地面におかれている。

 

言ってみれば床下収納の扉を金属製にしたような外見だ。

 

アカリは地面と扉の僅かな隙間にスコップの先端をねじ込んだ。

 

扉が少し浮いた。

 

どうやら鍵はかかっていないようだ。

 

そのままテコの原理で扉を押し開ける。

 

扉の先には梯子が壁に設置されている。

 

スコップをザックに収納したアカリは、梯子をスルスルと降りて行った。

 

地面に着地し、壁際のスイッチを切り替えて備え付けの電灯を点灯させていく。

 

光に照らされた室内は、予想を裏切らないものだった。

 

部屋の中は少し汚れているが、それ以外は普通。広さはそこまで広くなく8畳程で、家庭用の地下埋蔵型核シェルターと言ったところ。

 

壁際に大小二つのベッドがおかれている辺り、両親と子供二人家族だったのか。

 

(逃げ切れなかったのかな…)

 

ふとよぎった感情に、アカリは少し切なくなってしまう。

 

(でも、そんな事よりも食糧を探さなきゃ…)

 

棚の下段にある段ボールを取り出し、開いた。

 

そこには電子レンジで温めるタイプの離乳食、パンの缶詰、レトルトカレー、缶詰のケーキ…。

 

子供二人の四人家族という情報が脳裏をよぎった。

 

(今からその人達の物資を頂くんだね)

 

アカリはゆっくりと手を合わせた。

 

「物資、いただきます」

 

数秒間合掌。

 

シェルターから物資を頂くときの作法、アカリに出来る精一杯の供養だ。

 

やがて、合掌を解いたアカリは、段ボールの中身をザックの中に移していった。

 

「さて、と」

 

必要なものを必要なだけ貰い。残りはあとから見つけた人の為に残しておく。

 

アカリはまだ中身が残っている段ボールを棚に戻し、食糧で重くなったザックを背負った。

 

その時だった。

 

天井から金属がぶつかり合う音が響いた。

 

見上げると梯子の上の扉の隙間からわずかな光が漏れている。

 

あっけに取られていると、若い男の声が扉の外側から聞こえた。

 

「いいか?警戒させるなよ?」

 

しまった、とアカリは思った。

 

きっと後をつけてきた盗賊か何かだろう。

 

しっかりと後ろを確認しておけばよかった。

 

しかし今更後悔しても後の祭り。

 

直ぐに扉がけたたましい音を立てて開かれた。

 

固まるアカリを尻目に、梯子を伝って人がどんどんと降りてくる。

 

梯子を降りて来たのは白い布を羽織った集団。

 

彼らはアカリを取り囲むように並んで立った。

 

「お嬢さん我々と一緒に来ていただけませんか…」

 

白布の集団のリーダー格らしい男が前にずいと出てきた。

 

酷くしわがれた声だ。

 

”お嬢さん”という言葉にアカリはなんだかムカッとした。

 

「そこをどいて」

 

アカリのつっけんどんな要求に男は黙って首を横に振った。

 

「それは出来ません」

 

「食糧が目的なら譲ります」

 

「貴方に用があるのです」

 

食糧を探している”正常な人間”では無い、人を探すイレギュラーな存在だ。

 

底知れぬ恐怖を覚えたアカリは、無言で左足を半歩下げた。

 

ふくらはぎに力を込め、緩める、込めて、緩める。

 

「我々と一緒に来ていただけますか?」

 

「無理っ!」

 

左脚でコンクリートを蹴り、アカリは跳んだ。

 

しかし重心は低く平衡に、ただまっすぐに距離を詰める。

 

突き出した右拳が、男の顎に吸い込まれる。

 

だが男もそれを見切っていたかのように片手でそれをいなす。

 

「くっ!」

 

ならば、と勢いをそのままに後ろ回し蹴りに移行。

 

しかし男の方が早かった。

 

戻そうとしたアカリの右手を掴み、男の後ろ側へと引き出した。

 

捕まれた右腕が斜めまっすぐに引き出され、つんのめるアカリ。

 

アカリの細い首をめがけて左手が襲い掛かった。

 

「へっ!?がっ!…」

 

気が付けば太い指がアカリの首にがっちりと食い込んでいた。

 

頸動脈を圧迫され、血流が止まるのを感じる。

 

「はっ…!…がっ…!」

 

抵抗しようにも呼吸すらままならず、やがて視界が一点に収束し景色が暗転した。


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