ミライから来た少女   作:ジャンヌタヌキさん

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2.1話. [統率された世界 ]

目を覚ますと、広い倉庫の様な建物の中だった。

 

床はコンクリート打ちっぱなしで、窓は無く、飾り気のない天井にライトが埋め込まれている。

 

広さは小学校の体育館程。

 

喉に違和感を覚えながらも、アカリは身体を起こそうと身をよじる。

 

、が何故か起き上がれない。

 

見れば手首が縄でぎちぎちに固められている。

 

無理矢理起き上がろうと身をよじらせると、締め付けられた手首にズキリと痛みが走った。

 

「おはよー!起きたんだ」

 

少女の声が真後ろで聞こえた。

 

アカリは身をよじらせ、声の主を見上げる。

 

銀色がかったショートヘアの少女だ、好奇心に満ちた顔でアカリの顔を覗き込んでくる。

 

アメジストを連想させる紫の瞳が物珍しげに揺れた。

 

人懐っこそうな笑顔で少女はアカリに話しかけた。

 

「やっぱり綺麗な金色だね!」

 

少し鼻にかかった声が嬉しそうに弾む。

 

(誰だろう?)

 

アカリの怪訝そうな顔に少女はあっと声をあげる。

 

「ゴメンゴメン!縄を解いてあげるね」

 

そう言うと少女はアカリ縛っている縄を解き始める。

 

「あ、ありがとう…」

 

アカリは拘束の解かれた手首を回しながら少女を見た。

 

その恰好は至って普通の女の子の恰好。

 

アカリはおずおずと少女に話しかけた。

 

「ここは何処?」

 

「ゴメン…分かんないんだよね」

 

少女は申し訳なさそうに謝ってきた。

 

大丈夫だよ、と返しながら辺りを改めて見回す。

 

「うん…」

 

少なくともアカリが今までこんな場所を見たことが無い。

 

あの白装束の群団にさらわれたと言う事が想像に難くない。

 

「私さらわれて…」

 

「うん、キミが運び込まれた時何となく察してた」

 

「さらわれた人って他にいるの?」

 

「いるよ、あたしの他にも数人」

 

「元の場所に帰れた人って…」

 

「いないと思う、帰れた人は今まで見たこと無い」

 

アカリは軽い目眩を覚えた。帰れないという現実が突きつけられ、目の前が真っ暗になる。

 

そんなアカリをたしなめるように少女はでもね、と続けた。

 

「恰好は怪しいけど盗賊とかじゃないから安心してね」

 

(どう安心すればいいの…?)

 

アカリはそう思ったが、言わなかった。

 

そんな事よりも早く帰りたいと言う思いで頭の中で一杯だ。

 

居ても立っても居られないアカリは腰を上げた。

 

、と同時に、けたたましい金属音が響き渡った。

 

この部屋の唯一の扉が勢いよく開けられた音だと気づいた時には、彼は既に部屋の中に入ってきていた。

 

「目は覚めたか?」

 

力強い男の声が室内に響く。

 

背の高い白装束の男が、カツカツと音を立てこちらに歩いてくる。

 

浅黒い肌に、少し角ばった輪郭、鋭い目つきと少しつり上がった眉、体躯は標準だが、その肩で風を切る様子から、何だか大きい人のように感じる。

 

「宣教師様だよ」

 

少女がコソッと耳打ちしてくる。

 

宣教師様と言う単語に馴染みは無かったが、その背格好と態度だけで分かるものがある。

 

彼が白装束での権力者で、彼がアカリを誘拐した原因の一人だ。

 

理不尽な仕打ちの原因が目の前に立っているのだ。

 

「元の場所に返して!」

 

アカリは吠えた。

 

どうしようもない怒りが奥の方から込み上げてくる。

 

そんな事を全く気にしない様子で、男はアカリの正面に中腰で座った。

 

「やっぱり俺の思い描いていたソール様そのものだ…」

 

「聞こえなかったの!家に帰してください!」

 

再び吠えると男は驚いた顔を見せた。

 

「なにを言っているんだ?君の家はここだよ」

 

まるで話が通じない。

 

男はまくしたてるように続けた。

 

「キミはここでソール様の化身として生きるんだ!」

 

「弱きものに手を差し伸べ、道を作るとソール様はおっしゃられた」

 

「ソール様の教えを賜った私たちのやるべきことは一つ、弱き者に手を差し伸べる事だ」

 

一方的な言い方に、アカリの怒りは爆発した。

 

「うっせえ!いいからとっととエイレーンの所に返せ!!」

 

「だから」

 

「おめーの言い分なんて知ったこっちゃねぇんだよ!!」

 

「あるさ、何せキミはソール様からのお告げによってここに居るんだから」

 

「んだとぉ?」

 

「ソール様が教えた通りの所に君はいた」

 

「なに訳の分からない事を…」

 

そこまで言うと、男は舌打ちをした。

 

その目線は隣にいる銀髪の少女へと移ってゆく。

 

「おいヨメミ」

 

「なっ…なんですか!?」

 

声を掛けられた銀髪の少女は怯えた様子で返事をした。

 

「お前に教育を任せる」

 

ヨメミは驚いた様子で男を見つめた。

 

そんなヨメミに男はフンッと鼻を鳴らした。

 

「明後日までに受戒を教え込め、でないと…」

 

そこで男は首を斬る仕草をした。

 

ヨメミの顔がだんだんと青ざめてゆく。

 

男は満足そうに笑うとソール様の導きがあらんことを、と言い、カッカッと音を立てて扉口の向こう側へと消える。

 

後に残されたアカリは、茫然とした表情で男のいた空間を見つめ続け、ヨメミが、青ざめた様子で空を見つめていた。

 

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