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場所を特定するまではそう時間はかからなかった。
朝食の時の女性が言った通り、一番大きな白ビルに男はいた。
土埃の舞う薄暗いビルの中で、男は地べたに座って、地図の様なものを広げている。
男のただならぬ雰囲気に、二人は気圧される。
「なんだ、俺に用か?」
地図から目を離す事無く、男はアカリ達に声をかけた。
いつぞやのしゃがれ声にアカリは体が強張るのを感じる。
そんなアカリを見かねてかヨメミが一歩前に出た。
「たのもーう!!」
ヨメミは、素っ頓狂な声を上げた。
予想よりも1オクターブ程高いその声に、アカリも思わずヨメミを見る。
「わっ私達食糧補給班に入りたくて!」
それまで地図へと集中していた男は、ようやくヨメミへと目線をやった。
その目は訝し気にヨメミを見つめる。
「………」
男は何もしゃべらない。
ただヨメミとアカリを交互に見るだけ。
やがて、男は飽きたそぶりで目を反らした。
「キミ達には無理でしょう、駄目」
「ええ…!?」
突然の門前払いに、アカリは慌てた。
少なくとも対話なら出来ると踏んださっきまでの自分の認識の甘さが痛くしみる。
(しまった、この先を考えていなかった)
アカリは咄嗟に疑問を投げかける。
「何でですか?」
時間稼ぎの常とう手段だ、これで少しは時間稼ぎになってくれる筈。
しかし、男はそれに対して更に疑問を畳みかける。
「なら、キミたちはどうして食糧調達班に入りたいんだ?」
アカリは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
答えなんて一つも用意していない。
ましてやこの場で考えるなんて不可能に等しい。
「私たちは……」
しどろもどろに言葉を紡ぎつつ、頭を回転させて言葉を探す。
だが、言葉は詰まったように出てこない。
(どうすれば…)
その時、ヨメミが唐突に声を張り上げた。
「元気だからです!!」
その返答に、しゃがれ声の男は首を横に振った。
「空から落ちてくるのを拾うだけだ、元気はいらない」
突っぱねるような返しだが、それでもヨメミは引き下がらない。
「じゃあ何が必要なのか教えてください!」
しゃがれ声の男はキッパリと言い切る。
「近寄ってくる生物を殺すことが出来る能力」
殺す力。
追い返す能力では無く、殺す能力。
アカリも今の今まで多くの野生生物と食糧を奪い合ってきたが、直接手を下して殺したことは無い。
しゃがれ声は更に続ける。
「飢えた野生生物程危険なものは無い、生半可な気持ちで行ったら死ぬだけだ」
そこまで言うと、男はシッシと手を振る。
そして再び地図に目を落とした。
取り付く島もなさそうだ。
隣のヨメミはどうしよう、とアカリを見つめる。
そんなヨメミにアカリは左手の平を見せる。
(大丈夫、策は出来たから)
アカリは一歩前に出た。
男はまだ地図を読み込んでいる。
スゥ、と息を吸い込んだアカリは、腹の底から声を張り上げた。
「じゃあ、強ければいいんですよね!?」
男はアカリへと目線を投げる。
その目は先程までとは違い、ギラギラとしていた。
「そうだな」
男の答えに、アカリはニヤリと笑った。
「だったらここで試させて下さい」
そう言うとアカリはファイティングポーズを取り、右腕を下から上に、ゆっくりと動かした。
挑発だ。
「構わない」
挑発された男は、何でも無いかのように答えると、のそりと立ち上がった。
さっきまで読んでいた地図を後方へ投げ、首を回す。
熊の様な男だな、とアカリは思った。
殺気に満ちた男の声が、室内に響き渡る。
「構えろ」
アカリは無言で右足を下げ、拳を構えた。