とある少年と救済の戦斧と完成品   作:征嵐

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 きのうあったこと。

 主「よーし、10連結晶ダスだ!! 狙いはルナ用の絶望コンプレックスだぞー!!」
 ブキダスさん「ほらよ」っマスカレイド
 主「えぇ···( ´ · ω · ` )」


5

 「おい。」

 

 自分でも驚くほど、低い、冷えきった声が出た。姿を消した男の反応は伺えず、ジャガーノートは微動だにしない。

 

 「なんなんだ、お前は。」

 

 だが、そんなことはどうだっていい。この男は、僕の魔剣を、僕の家族と僕の命の恩人を、「実験材料」と言ったんだ。そこらのネズミと同じ扱いか。人間(じゃくしゃ)風情が、魔剣(きょうしゃ)を相手に、随分と大口を叩いたものだ。魔剣の陰に隠れている僕も、魔剣に頼りきっているお前も、何も変わりはない。魔剣が居なければ、魔剣が無ければ、何もできない臆病で卑怯な弱虫。

 

 「魔剣を使うのは人間だから、人間の方が上位だとでも思っているのか。お前。」

 

 ふつふつと殺意が沸き上がってくる。質問は掃いて棄てるほどあるが──まぁ、()()()()()()だろう。

 

 「ジャガーノート。」

 「···はぁ。仕方ないですねー。いいですよー。」

 

 ジャガーノートの姿が、彼女の持つ戦斧諸共に掻き消える。数瞬と経たず、僕の手には身長を優に越す戦斧が握られていた。

 

 ずん。と、戦斧の刃が地面に刺さる。こうしておかないと死ぬからだ。主に、僕の腕とかが。ジャガーノートの重さで。

 

 『···。』

 

 ジャガーノートの無言の怒りが、魔核と魂を繋ぐ魔力経路(パス)を通じて流れ込んでくる。ご、ごめんね? ジャガーノートの···魔剣少女の方のジャガーノートは、「ちゃんとご飯食べてる?」と(相手はナースだけど)聞きたくなるくらい軽いけど、流石に、武装の方はね?

 

 こほん。

 

 気を取り直して戦斧の柄を握る。相手は完全に姿を消しているし、あれから一切音を立てていない。話すことは出来るみたいだから、不可知化ではなく、あくまで不可視化のようだ。──いや、決めつけるのは早計か。相手の能力は過小にも過大にも見てはいけない。正確に、精密に。彼我の戦力差を見極めろ。

 

 「ふぅ···。」

 

 いくら不可視化しようと、そこに実体がある以上、動けば空気が揺れるはずだ。空気を揺らさないほどゆっくり動いていては、致命の一撃を与えるのは難しい。超至近距離なら話は別だが、そのレベルまで近づかれて気付かないほど、僕は間抜けではない···と、思う。村が冥獣に襲われたときに全滅するまで爆睡していたのは、あれは···うん。例外ってことで。

 

 『マスターさん、これは···。』

 「どうしたの?」

 

 ジャガーノートが音を使わずに語りかけてくる。パスを通じて流れてくるこの感情は···悔しさ? それと怒り、かな? ···あ、遮断された。

 

 「女の子の心を勝手に覗くとかー、マスターさんは変態さんだったんですねー。」

 

 救えないなー。とか言われても···うん。はい。その通りでした···。

 

 僕とのリンクを解き、再度魔剣少女として顕現したジャガーノートが、僕から10歩ほど前進して、止まる。彼女が武装を展開していないことに僅かに不安を覚えるが、それはつまり、ここが安全だということなのだろうと思い直す。

 

 「ジャガーノート?」

 

 きょろきょろと回りを見渡すジャガーノートに声をかける。彼女は、ため息を吐いてから僕に向き直った。

 

 「マスターさん、逃げられちゃいました。」

 「···どうやって?」

 

 本当に? とは聞かない。無意味だし、ジャガーノートが武装を解除している時点で察していたことだ。

 

 「あの男の魔剣、どうやら透明化じゃなくて幻影の能力みたいですねー。」

 「幻影? 魔剣使いに?」

 

 また聞き慣れない言葉だ。いや、「幻影」という単語や、それを起こす魔術の存在は、E.D.E.N.の座学でやった。だが、一般的に「幻影」とは、被術者の網膜に干渉して任意の映像を見せるだけのものであり、内側──それも、肉体より深く、魂に対して、魔核という超高密度の高位元素(エーテル)で構成される頂上にして超常の存在から干渉を受けている魔剣使いには、高い耐性がある。それ故に、「幻影」という手段を取られたのは意外だ。

 

 「魂レベルで干渉する幻影もー、あるにはありますけどねー。今回のは、もっと単純ですよー、マスターさん。」

 「単純?」

 

 複雑の間違いではなかろうか。

 

 「今回のは、いわば"幻影の幕"···私たちが使っていた結界に対する意趣返し···という訳では、ないでしょうけどねー。」

 

 幻影の幕。···ルビを振るなら、《シークレット·カーテン》だろうか。

 

 ──おぅ。ジャガーノートに凄く優しい目で見られてる。こほん。

 

 幻影の幕。僕たちから少し離れたところに、そのまま背景と寸分違わぬ──ただし、術者の姿を消した映像を配置する。通常の視界と変わらず、光を介して網膜に像を結ぶため、魔核からの干渉は受けない。映像はリアルタイムでの更新は()()()、発動した時の映像を垂れ流し続ける。僕らは、透明化した男が攻撃してくるのを今か今かと待ち続け、男はその間に逃走。

 

 「してやられた、ってことか。」

 

 舌打ちをしつつ、そのまま路地を歩き──おろ?

 

 「行き止まり?」

 

 路地は、行き止まりだった。一応、手の甲で壁を叩いてみるが、ちゃんと硬い手応えがあった。路地の壁をくまなくノックして回る──が、駄目。

 

 「···消えた?」

 「いえ、マスターさん。こ、こ、はっ!!」

 

 ジャガーノートがおもむろに戦斧を取り出し、一閃する。木製の壁がバラバラに砕け散り──地下へと続く階段が現れた。

 

 「ちょ、ちょっとジャガーノート!!」

 

 なにをやっているのか。こんな派手な壊し方をすれば、中にいるであろう男に気づかれてしまうし、この家の住人だって危、な···い?

 

 「廃墟?」

 

 裏路地とはいえ、この人口密集都市に? いや、僕たちの拠点もそうだったけど。

 

 「もともと偽造用に作られていたんでしょうねー。知りませんけど。」

 「えっ。」

 

 分かっていてやったのかと思ったが。

 

 「それより、マスターさん。どうしますかー?」

 

 ちらりと階段を一瞥する。光が届かない下の方は、何が潜んでいてもおかしくない暗闇に呑まれていた。

 

 「···行こう。」

 「怖いですかー?」

 

 ──こ、こわくないし。ぜんぜんだいじょうぶだし。

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 懐かしい。

 

 そう、彼女は心中で呟いた。懐古の念で埋まりかけた心に、もう一度火を灯す。ずっと抱いてきた、憤怒を燃やして。

 

 目を開ける。今までは魔核だけが専用の水槽に入っていた状態だったが、ようやく魔力結晶体の身体を顕現できた。それに伴い、魔核は身体の方に収用される。目の前には、書類──レポートだろうか、分厚い紙束をぼやきながら鞄に詰め込む男がいる。が、そんなことは、少女にとって些事だ。彼女の心を埋めるのは、主への想い。

 

 「本当に、いい度胸をしているわ。私のマスターは。」

 「···!!」

 

 驚愕の表情で振り向き凍りつく白髪白衣の男に、その少女は一瞥もくれずに歩き出す。

 

 「お、おい。待て!!」

 「···見逃してあげると、そういう意思表示のつもりだったのだけれど?」

 

 少女に白衣の男が詰め寄る。少女の薄い記憶には、目前の男が自分を解析したという事実が残っていた。そして。

 

 「あぁ、そういえば貴方。とても()()()()()を作っていたわね。アレはどうしたのかしら?」

 

 もうひとつの事実に思い至る。少女の魔核を解析し、模造品を作る。そのゲテモノを売り捌いた金を使って、売るのとは別の、やはり少女の模造品を作っていたと。

 

 「質問をするのは私だ。お前、何故目覚めた? 完全に魔核は停止していたハズだが。」

 「いいえ、質問をするのは私よ。この状況がお分かりかしら?」

 

 少女は酷薄に笑う。男が持つのは、所詮は「魔剣もどき」。ランクで言えばBランク相当のゲテモノ。大した能力もない魔力の塊で、一体誰を相手取る気なのか、と。

 

 「私を殺す気か? 魔剣風情が、私はお前のマスターだぞ!!」

 

 一歩ずつ男に近づいていた少女の足が止まる。白と黒で構成されたドレスを揺らして、少女は思う。「一体、この人間(れっとうしゅ)は何を言っているのか」と。そして、その純粋な疑問を、彼女は当然口にした。

 

 「貴方が? 私のマスターですって?」

 「そ、そうだ。お前がこうして活動出来ているのだって──何!?」

 

 男がいきなり驚愕の声を漏らす。少女は小首を傾げる。一体、誰が誰の魔力を活動源としているのか、と。

 

 確かに、少女の魔核が稼働する条件として、マスターからの魔力供給は必須だった。だが、今は完全に世界の魔力(マナ)を利用して顕現している。目の前の男からは一滴足りとも魔力を奪っていない。そもそも、男は少女のマスターではなかった。

 

 「貴方が何を言っているのか、よく分からないけれど。そうね。()()の言葉を借りるなら。──『私が救ってあげるわ。』その空の脳味噌では、さぞかし生き辛いでしょう?」

 

 少女の手に、彼女の痩躯を優に超す大剣が顕れる。男は咄嗟に幻影を展開し──ようとして、初めて、既に上体と下半身が分断されている事に気が付いた。

 

 大剣という、重量で「斬り潰す」武器で以て、対象に悟らせないほどの速度で「切断」した少女の技巧は、並の魔剣使いを遥かに凌いでいた。

 

 男の脳裏を、地下道入る直前に聞いた、『人間が魔剣より上位だとでも思っているのか』という勇者の問いが掠める。その走馬灯を最後に、男の意識は永遠に閉ざされた。

 

 

 「ここで待つ···と、言うのも悪くはないけれど。」

 

 どうせなら、早く逢いたいから、と。少女は微かに笑い、懐かしい魔力の波動に向けて歩き出した。

 

 

 

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