白金の竜王の異名を持つツァインドルクス=ヴァイシオン――ツアーは夢うつつのまどろみの中から、急速に意識を浮上した。自身が有する広範な知覚が、こちらへと向かってくる気配を察知したからだ。
ツアーはアーグランド評議国永久評議員の一人であり、他と一線を画する竜王たちの中でもさらに頭抜けた力を持つ最強の竜王だ。その力に似つかわしくないほど優しげな声で話すことでも知られているが、だからといっておいそれと彼のプライベートな空間に近づく者はほとんどいない。その数少ない例外が人間だというのだから、人間とは恐ろしいものだと彼は複雑な感情を込めて思う。
そして今回近づいてきているのも彼がよく知る人間だと気配から察した。その者が彼と二百年来の付き合いを持つ戦友ではなく、つい最近できた己の息子だと分かると、その姿を見せる前から思わず目尻が下がり口元がほころんだ。やがて我が子が部屋に姿を見せると同時に彼に声をかける。
「おかえりノウェ、そろそろ翼は生えたかい」
「……そろそろ勘弁してくれよ、父さん。ただいま」
ツアーの声にやや嫌気がさしたようにしながらも律義に答えたのは明るい茶髪に幼さを残しながらも端正な顔立ち、白い鎧を着込み、片手剣を腰に下げ左腕に盾を備えた人間の少年だった。
少年の名はノウェ。ある日いつものように白金の傀儡を遠隔操作しながら探し物をしていたツアーが、少しばかり訳ありの赤子を見つけた。悩んだ彼は結局その赤子を連れ帰り、人間の友人の協力を得て育てることに決めた。その友人には随分と笑われたものだが、ノウェと名付けられたその赤子を育てることには全面的に協力してくれたおかげで、四苦八苦しながらも無事に育て上げることができた。
幼いノウェがたどたどしくも意思を伝えられるほど言葉を話せるようになったころ、彼は翼が生えたら父さんと一緒に空を飛ぶんだといった。友人からツアーを父と呼ぶように教育され、父と子の関係を理解したノウェは自分もいつかツアーのように翼と尻尾が生え、鱗がそろいドラゴンになるのだと信じていた。それゆえにドラゴンが鳥の様に空を飛ぶと知ってからは、ことあるごとにツアーと共に空に舞う夢を語っていた。
流石にこのままではまずいと思ったツアーが自身の傀儡を使ったり友人の手を借りてノウェを街に行かせ、様々な種族との交流の機会を増やしてノウェの意識改善を行った。その試みのおかげで種族の差、ドラゴンと人間の違いを知り自分が人間だと理解してからはそういったことを語ることはなくなった。
そのままノウェがある程度大きくなったころ、ツアーの中で悪戯心が首をもたげる。ふとした何気ない調子で、唐突にノウェに聞いてみた。そろそろ翼は生えそうかい、と。ノウェは一瞬何を聞かれたか分からなかったかのように呆けたが、意味を理解したとたんにバツの悪そうな顔を赤くし、顔を背けて黙り込んでしまった。その反応がツアーの琴線に触れた。と、同時に未だに昔のネタで自分をからかってくる友人の気持ちを少しだけ理解した。
かつて、白金の傀儡を使ってある戦いに参戦していたころ、のちに十三英雄と語られる戦友たちはその傀儡を人間だと信じて接していた。そのことを申し訳なく思ったツアーは戦いが終わった後にそこにいるのが中身のない傀儡であり、操る自分の正体がドラゴンであると伝えたところ、彼らは騙されたと憤慨してしまった。それによって仲がこじれたというわけではないが、二百年たった今になってもなお友人から、自分の戦友はあの傀儡であってお前じゃないという風にからかわれるようになった。
ノウェの反応を見ると、その友人が繰り返し自分をからかってくる気持ちがわかる気がする。友人から見た自分もまたこんな風なのだろうかと思いながら、その場はノウェに謝って機嫌を直してもらいながらも、それから幾度となくそのことを聞いては反応を楽しんだ。ふとした瞬間に、忘れたころに、この前聞かれたばかりだからすぐにはないと油断したころに。回数を重ねるにつれて次第に反応は悪くなり、辟易した態度を見せられるようになったが、この悪癖はしばらく治らないだろう。友人と同様に。
◇
「今日の冒険はどうだった、ノウェ」
「いつも通りだったよ。そろそろアダマンタイト級への昇格試験を受けてみないかって打診されたけど……」
現在ノウェは冒険者として活動してる。その階級はソロでありながらもオリハルコンであり、実力もその評価に不足しないものである。それどころかアダマンタイトも視野に入り、『救世主』などとたいそうな異名をつけられているが、そのことでツアーに驚きはない。とある事情から、ツアーはノウェに多大な期待を寄せている。それこそ、最低でもスレイン法国が言うところの神人に匹敵する潜在能力があるのではと。
「そうかい。でも君はまだ若い。アダマンタイトになると権利が増える反面、課される責任も大きくなるからね。まだ上にあがる必要はないんじゃないかな」
「うん、俺もそう思う。今はまだ学びたいことも多いし、今度組合に行ったときに断っておくよ」
「そうするといい。冒険から帰ったばかりだし、今日はもう休みなさい」
「それほど疲れてないんだけど……わかったよ」
ツアーに挨拶をして部屋を出ていくノウェの背を見て、ツアーは目を細める。我が子の成長が楽しくて仕方ないといった様子だ。そんなツアーの胸中に、先ほどまで見ていた夢の内容が思い起こされる。
それは五百年前の出来事。おとぎ話として知るものも少ない八欲王との戦いの最中、当時を生きたものしか知りえない語られない歴史。
八欲王と人間以外の種族との生存競争が熾烈を極めたころ、どこからか戦場に大きな石が投げ入れられた。それは異界のドラゴンと巨大な卵のような物体。それらはどこからともなく現れ当時の戦いに巻き込まれたが、両勢力を相手にしてなお善戦する強大な力を持っていた。そんなドラゴンは、ともに落ちてきた卵を必死に守ろうとしていた。ときには己の命も顧みずに卵を守るその姿に、ドラゴン自身の子供なのだろうかと疑問が湧きたったが、事実は違った。
ドラゴンはその卵を『骨の棺』と呼んだ。ドラゴン族の悲願を託す『兵器』であるとも。それを聞いた八欲王の一人が顔色を変えて別の名を呼んだ。『再生の卵』、そして『断頭台』。それからその王は執拗に異界のドラゴンを狙い、ついに撃ち滅ぼすとすぐに卵も破壊した。その後、彼は戦場を離れ姿を消した。両陣営ともに困惑に包まれたが、姿を消す直前に零していた言葉によると、他の卵を探しに行ったらしい。
それから戦争が八欲王側の勝利で終結し、自らの欲によって滅んでから今に至るまで、その王の姿を見た者はいない。どことも知れぬところで滅びたのか、今もなお卵を探し回っているのかは、ツアーですらわからない。
それからしばらくの間、戦争に敗れ余裕がないこともあり、卵のことは忘れられた。やがて戦争の傷跡が癒えたころ、ふとツアーは卵のことを思い出す。そして、八欲王の言葉を信じるならいくつも存在するらしいそれに興味を持った。当時の竜王に勝るとも劣らぬ異界のドラゴンが、その身を挺してまで守った棺。絶大な力を持ち欲望に満ちた王が恐れ自身の財産を放棄してまで破壊して回った卵。
そしてツアーは白金の傀儡を使い未だ見ぬ卵を探すことを決意する。探し始めてすぐに魔神と十三英雄と出会い、その戦いに参加することになったが、その戦いを終えるとまた卵の捜索を再開した。
そして二百年近くたったつい最近、二つの卵を発見するに至る。一つは自らが保有する宝物庫に運び込んだが、もう一つについては少し困ったことになった。丁度ツアーが二つ目の卵を見つけたタイミングで、卵の中から人間の赤子が生まれたのだ。赤子を前にしてツアーは悩む。が、さして時間をかけずにつれて帰ることに決めた。もとより卵に興味を持って探し回ったのだ。卵に関連する子なら、連れて帰らねば意味がないだろう。人間の友人に仔細は伏せ、人間の子供を拾ったから育てるのを手伝ってほしいと頼み、あとは先に述べたとおりである。
◇
ツアーはノウェのこと、異界のドラゴンと八欲王の言葉、そして宝物庫に残るもう一つの卵について考える。正直、卵の使い方などまったくわからないままだが、その名前から何となく予想はできる。『骨の棺』『再生の卵』死者を納め、新たな命として生まれ変わらせるのだろう。『兵器』『断頭台』と言わしめるほどの強大な力を与えて。
その卵から生まれてきたノウェについては自然と期待が高まる。今後、彼がどういった成長をし、何を選択していくかはわからないが、彼がドラゴンの子供としてではなく、人間として生きていくのならばそれもいい。ただ、スレイン法国のような思想には染まってほしくないなと思う。
そしてもう一つの卵について。あれをどうしようかと考えたとき、ある考えが脳裏に浮かぶ。それもまた、最近おさまりが悪い悪戯心が生んだものなのかもしれない。
(この先ノウェに死ぬようなことがあれば……その時は、彼を再び卵の中に入れてみるのもいいかもしれないな)
そんなことを思いつつ、ツアーは再びまどろみの中に落ちていった。
原作(DOD2)のノウェは子供のころのことでからかわれても照れないけど、ツアーの悪戯心を強調したくてここでは照れてます
話の内容を思いついたけど書かないだろうなってキャラと概要
エリス(DOD2):王国戦士長の部下であり、クライムの戦いの師ポジション。クライムに想いを寄せるようになりラナーにいろいろと腹黒いことをする。クライム爆発しろ
レオナール(DOD):カルネ村に弟たちと共に滞在する神官。まだ幼いころのンフィーレアのにおいをクンカクンカしたり、森で野草摘み(意味深)してるときに法国の工作員に村を襲われ、復興したカルネ村でルプスレギナの主な遊び相手になる。でも相手が女性だから満足できない
マナ(DOD、DOD2):小さいころに法国の神官をしていた母に捨てられ、ズーラーノーンに拾われて聖女として扱われる。ズーラーノーンの情報がなさ過ぎて書けない