Drag-on OVERLORD   作:蝿声

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DOD屈指の魅力的なあの女キャラです


ごちそう、いっぱい

 スレイン法国の南方に位置するエイヴァージャー大森林、その大森林内部にはエルフの王国が存在する。しかしその国の王の在り方は酷く歪であり、絶大な力を持ちながらも自国や国民に対して関心をほとんど持っていない。

 強大な力を持つ自分の血を濃くひく子供を多く産ませ、子供たちによる最強の軍隊を作ることに執心し、何人もの女エルフとの子作りにばかり勤しむような王だ。母となる女たちも強いほど強い子供が生まれてくる可能性が高まると考え、女ばかりをスレイン法国との戦線に送り込み続けている。

 しかしそんな彼の目論見は全くと言っていいほど上手くいっておらず、送り込んだ女たちが強くなることも、満足がいくほど強い子供が生まれてくることもない。そんな現状に苛立つ王の横暴はますます苛烈さを増し、周りの者たちの被害が増えていくことになる。

 

 さて、そんな横暴な王だが、ここ最近は非常に奇異な姿がしばしば目撃されるようになった。自らの居城としている建物の最奥に位置する部屋に、王が自らの手で食料を運ぶ画だ。今日もまた、王は手に食料を持ちその部屋の扉の前に立つ。王は部屋の中にいる者を思うと自然と笑みが浮かび、楽しげな様子で扉を開けた。

 

「今日も持ってきてやったぞ、アリオーシュ」

「かわいい子供たち……私が守る、かわいい、かわいい……あはははははは、きれいぃぃ!」

 

 

 アリオーシュという名の女エルフ。彼女もまた王の手によって戦線へと送られ、また王との間に子をもうけていた者の一人だ。かつての彼女に対する王の期待は高かった。戦争で才能を開花させた数少ない一人であり、その実力は漆黒聖典のメンバーにも勝るとも劣らないものだったからだ。だが、彼女を評価するならば、重すぎた愛と脆すぎた心について特筆すべきだろう。

 アリオーシュは横暴な王との間にできた子供であろうとも我が子を愛していた。才能が花開く様子はないが、自分が身を挺して子を守ればいいと考えていた。だが、如何に強かろうと戦争という非情な現実において、一人で大切なものを守り切ることはできなかった。

 アリオーシュの強さは法国にも知られ、当然ながら相応の戦力が差し向けられる。複数の聖典のメンバーに囲まれた彼女は深手を負い、敗走を余儀なくされた。アリオーシュが逃げた先で見たものは、子供を置いていた村が炎の中で崩れ落ちていくシルエットだった。

 狂乱状態に陥った彼女は泣き叫ぶように我が子の名前を呼びながら炎の中へと飛び込んだか、徒に身を焦がすだけで、誰一人として、最愛の我が子すらも助けることはできなった。

 

 その日以来、アリオーシュは壊れてしまった。子供を見ると慈しみながら襲い掛かり、守るといいながらその身を文字通り喰らい腹の中に収めるという凶行を繰り返すようになった。

 周囲の者は彼女を恐れ、しかしその力ゆえに止めることも叶わず、王に嘆願し、王がアリオーシュを己の居城に連れていくことで住民たちは恐怖から解放された。同時に、横暴な王が非常に速やかに恐怖を取り除いてくれたことで、民たちの間に少しだけ王を見直す気風が生まれた。……まあ、それは勘違いなわけだが。

 

 

「嫌だ! 離して、お父さん!」

「屑が俺を父と呼ぶな。今日も持ってきてやったぞ、アリオーシュ」

 

 王が手に持っていた子供を投げ捨てるように扉の奥へと放り込む。暗がりの部屋の中に狂笑が響き渡り、子供が地面に落ちる音に混じって水飛沫が立つ音や柔らかいものが潰れる音、からころと固いものが転がる音がする。その原因を探るよりも早く子供は体勢を立て直すと、扉のほうに向きなおり全速力で駆けだした。

 しかし、子供の視界に映るものは今まさに閉じようとする扉と、その隙間から覗く王の裂けたような笑みだった。

 

「手段は問わん。この部屋から生きて出られたなら屑の貴様にも生かす価値を見出してやろう」

 

 そう王が告げると同時に、部屋が完全な暗闇に閉じられる。外気で薄れていた部屋の中に充満していた血の匂い、腐臭が子供の鼻腔をくすぐり、吐き気を催す。

 

「ごめんなさい、良い子になるから、強くなるから! 出して、ここから出して! 王さま! 王さま! お父さん!」

「もう大丈夫、私が守るから……安心なさい。くくくく、あっはははははは! ひとつになりましょう、私の赤ちゃん」

「嫌だ! 痛い、痛い! いたいいたいいたいぃぃ! いやだあぁぁぁ!」




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