「ここまでにしましょう、セエレ。相変わらず貴方のゴーレムの力は凄まじいものでしたね」
「お疲れ様です、クアイエッセ。任務で外に出ている君にそう言ってもらえると、僕としても励みになるよ」
スレイン法国の中枢部にほど近い、間違っても一般市民が迷い込まないようなところに建設された訓練所に、一人の青年と一人の少年が一定の距離を置いて額に汗をかきながら向かい合っている。訓練所内は所々陥没したり崩れたりと非常に激しい戦闘の痕を残しており、中に立つ両者はそんな訓練所の有様におよそ似つかわしくない甘い容姿をしていた。
クアイエッセと呼ばれた青年は非常に優しげな雰囲気をたたえた優男であり、セエレと呼ばれた少年の見た目はまだ10歳にも満たない金髪碧眼の人形のような子供だった。今この場に二人を知らない闖入者が現れれば、この二人と場の荒れ具合を結び付けられず酷く困惑しただろう。
ある意味その感想は正しい。クアイエッセは強力な魔獣を何体も召喚するビーストテイマーであり、セエレは一体だけだが難度100をも超えるゴーレムを作り出して戦わせるため、本人たちの身体能力は大したものではない。
「それにしても惜しい……貴方のゴーレムの力があれば火滅聖典や陽光聖典でも大きな力となるでしょうに。国の守護の重要性もわかりますが、貴方を表舞台に出しづらいことを考えても何処かの聖典に属したほうが有用でしょうに」
お互い召喚を用いた訓練を終えたクアイエッセの言葉にセエレは困ったような笑いを返す。クアイエッセの言う火滅聖典はゲリラ戦を、陽光聖典は亜人の殲滅を主とする特殊工作部隊であり、その存在は同国の一部の上層部にしか知られていない。幼子を戦場に送り出すかのような危険な発言だが、セエレの幼馴染であり彼のことをよく知るクアイエッセにとっては上層部の判断は納得のいかないものだった。
セエレは見た目こそ幼い少年だが、その実年齢と精神年齢はすでに20を超えている。何故そうなったのかはセエレ自身も把握していない。エルフなどの長命な種族の血が混じっているわけでもなく、星に願ったあの日からセエレの体は成長を止めてしまったのだ。
「それに関しては僕も申し訳なく思っています。同い年の君が命を懸けているのを横目に、僕は安全なところで安穏としているわけですから……」
「っいえ、貴方の任務を軽んずるわけではありません。貴方が国を守っていればこそ、安心して任務に赴けるというものです」
セエレの言葉にハッとすると、今度はクアイエッセのほうが困ったような苦笑を浮かべた。お互いに見つめ合って小さく笑いあうと、クアイエッセから表情を戻して気を引き締めなおした。
「では、私はこれで失礼します。任務の準備もありますので。セエレ、貴方も体を冷やさぬようお気をつけて。……それと、付き合う人は選ぶように。あれとは距離を置くことをお勧めします」
「ありがとう。しかし、自分の妹のことをそんな風に言うのは……」
窘めるセエレの言葉には返さず、クアイエッセは訓練所から去っていく。残されたセエレは少しの間クアイエッセが去ったあとを見つめていたが、同じく訓練所にあとにしようと歩き出したところで新たな人物がセエレの道を遮るように現れた。
「クレマンティーヌ……」
「はぁ~い、セ・エ・レ・ちゃん。元気してた~?」
◇
クレマンティーヌは目の前の人形のような見た目の青年に蠱惑的な笑みを見せながら、その心のうちに憎悪を滾らせていた。生家も年齢も近く、幼馴染といってもいい間柄だが、クレマンティーヌはセエレに対して兄に向けるものと同種の嫌悪を抱いている。クレマンティーヌにとって、セエレはクアイエッセと似すぎているからだ。整った見た目、優れた使役能力、妹を持ち、親に愛された兄と愛されなかった妹という兄妹関係、そして妹を見捨てた。
会うたびに激情を押し隠す必要がある相手だが、クレマンティーヌは事あるごとにセエレと接するようにしていた。こっちは兄と違い、与し易いと判断したからだ。
「今日は話しておきたいことがあってね、私任務の最中にズーラーノーンってところに誘われて、法国を抜けることにしたんだ~」
「えっ!」
突然のクレマンティーヌの告白にセエレは驚き固まった。ズーラーノーンの名前を出され、あまつさえそこに誘われたなどと言えば気でも狂ったのかと思われかねない話だが、セエレが驚いたのはそこではない。単純にクレマンティーヌと会えなくなるという事実に驚いているのだ。そもそもセエレはズーラーノーンが何かも知らない。
「どうして……? クレマンティーヌがいなくなったら、僕は……」
今にも泣きだしそうな顔で縋るような声を出すセエレに、クレマンティーヌは内心で毒づく。
「セエレも気づいてるだろうけど、私って法国とは水が合わないっていうかさ。もっと自由に生きたいんだよね。その点、ズーラーノーンなら望むように生きられそうだからさ」
セエレは非常に特殊だ。成長しない体という異常のために世間からの悪意に晒されぬよう、母親の意向で幼いころから法国の上層部で保護されることになった。法国の上層部は上に行くほど善性が強い者が多くなり、セエレはその善意の中で純培養されるように育ってきた。必然的に、セエレの中で人とは善性、滅私、無欲が当然という認識であり、20歳を超えても人の負の面にはほとんど耐性を備えていなかった。それこそ、自身の持つ欲を強く恥じるほどに。
セエレとクアイエッセの大きな違いがそこだ。他の上層部と同じように無私のクアイエッセと異なり、セエレの感性は一般人と大きく変わらなかった。当然いくつもの欲が生じてきたが、周囲の顔色を窺い常に押し殺して良い子を演じてきた。
そんなセエレにとって、やはり滅私や無欲とは無縁なクレマンティーヌに対して一方的な親近感を抱くことは必然であった。その身体に、見た目にそぐわぬ劣情を抱くことも。
「そこでセエレも一緒にどうかな、と思ってさ」
「僕が、クレマンティーヌと一緒に……?」
「そう。外に出たことのないセエレは知らないだろうけど、人ってのは良い子ばっかりじゃないんだよ。言いたいことは言えばいいし、ヤりたいことはヤればいい。セエレがやりたいことは良い子を演じること?」
「僕は……」
「分かってるよ、セエレがそうじゃないってことは。だからこうやって誘ってるの。だって私たち、幼馴染だしね~」
クレマンティーヌの誘いに、セエレは思い悩む。誘いに乗ることは、今までよくしてもらった人たちを裏切ることだと理解してる。それはしたくないと考えるセエレだが、良い子を演じることにずっとこのままなのだろうかと絶望していたのも事実であった。そして外に出られるということは……。
「外に出ればさ、居なくなったマナを探すこともできるかもね」
かつて見捨ててしまった妹の名前に、セエレは顔を上げた。
なお、ついていったらぼろ雑巾のようにされて殺される模様。
個人的にはオバロ現地人よりもdodの住人が悲惨な目に合う方がしっくりくる。
セエレのこの小説での設定
法国の神官の家に双子の兄として生まれ、妹のマナが虐待されているのを見ていた。6歳の時に妹が捨てられたのを知って、自分も捨てられるのが怖くなり、ずっと母親に愛されることを星に願った結果、永遠の合法美ショタに成り果てた。王国に生まれていれば・・・
タレントで一生に一度だけノーコストでウィッシュ・アポン・ア・スターを使えたとかなんとか。