真・恋姫無双~鈴々伝 作:硝石
今回は上手い区切り方が思い浮かばなかったので少々長めに作られています。
よって短くて直ぐに読み終えてしまいそうな文章を期待している方は御注意下さい。
今回のように長くなってしまう場合には適宜このような前書きをする予定です。
では早速始めましょう。
先生が去ってからというもの、途端にやることが無くなった私は鈴々山賊団の方に力を入れていた。何故かというとこの鈴々山賊団、ちゃんとした野菜等が手に入るのだ。そのことが分かった私が味をしめてしまったのは言うまでもない。名前が物騒であるが、子供の遊びだからと黙認されている。そのため村の大人たちが黙認しきれなくならないようにある程度以上の上物や嗜好品等は持っていかないようにルールを決めていた。
その日も何時もの通り村の中を荒らし回っていると、村の中に待ち侘びた一人の女性が立っている。
(綺麗な黒髪…まさか!やっときたのか)
そこには黒髪の山賊狩りこと美髪公、関雲長の姿があった。
家に帰ってどうやって義姉妹になろうかと思案していると、子分の中の一人が役所の役人が関羽に私達の退治を依頼されたとの情報を伝えにきた。子分たちでは歯が立たないので危なくないように家に帰してやる。道中にちょっとした悪戯を仕掛けて私は関羽がここに来るのを待った。
遅すぎではないかと心配になったので確認してこようと家から顔を出すと関羽の姿が見えたのでそのまま蛇矛を片手に持ち待機する。関羽の姿をよく見てみると所々服が破れているのが見えた。落とし穴の底に竹やりを挿しておくのは流石にやりすぎだったか。
「お主が鈴々だな」
「鈴々は真名だからお前に呼ばれる筋合いはないのだ!」
「成程な。では改めて訊こう。お主、名は何という?」
「我が名は張飛、字は翼徳。泣く子も黙る鈴々山賊団の親分なのだ」
「子分が居ないようだが、見限られでもしたのか?」
「年増が来るから危ないって言って親元に帰してやったのだ」
「…子供だから優しく諭してやろうかと思っていたが気が変わった。身体で分からせてやる。――来い!」
よく見ると関羽のこめかみに青筋が立っている。何か拙い事でも有ったのだろうか。大方月の日にでも当たったのだろう。いくら考えても思い当たらないのでそう結論付けると私の方から仕掛けてみる。
「言われなくても殺ってやるのだ!」
崖の上から飛び降り目立った岩肌を踏み台に二、三回跳躍して関羽の前に躍り出る。関羽は私の力を試そうとしているのか真正面から受け止める姿勢を作っている。
(私が子供だと油断しているのか?――それなら!)
歩数を調整し関羽へ蛇矛に込めた渾身の一撃を叩き付ける。
「ぐっ!」
僅かな呻き声とともに関羽の得物を握る手が弱まる。勿論それを狙ってわざと大上段から振り下ろしたのだがここまで上手く決まるとは思ってもみなかった。そのおかげでできた小さいが決定的な隙を見逃しては勝機は無いと自分に言い聞かせ、関羽が受け流せないように蛇矛を振るう。
二合、三合、四合、五合。
拙い、そう私は直感的に感じた。その直感は間違っていなかったようで切り結ぶごとに関羽は徐々に体勢を立て直していく。焦った私が蛇矛を横に薙ぐと関羽は蛇矛の力を利用して後ろへ跳び、仕切り直しの形となった。
得物を構え直した関羽へ再び斬り込もうとした私の手が止まる。私への油断が消えたせいか先程とは比べ物のない威圧感が関羽から発せられていた。下手に動くと殺られてしまいそうなので関羽からの攻撃を待つ。
「なんだ、もう終わりか?ではこちらから征くぞ!」
技術のない私はカウンター狙いだったのだが、ここから先は関羽の独壇場であった。一撃を防いだと思った瞬間もう一撃がやってくる。次の動作までのインターバルが異様に短いので反撃ができない。更には効果的なタイミングでフェイントを仕掛けてくるので今度はこちらが体勢を崩してしまう始末だ。私にできることといえば斬撃の雨の中を掻い潜り、敢えて大振りに薙ぐことで関羽に距離をとらせて決定的な隙を見せないようにすることだけだった。
どれくらいそれを繰り返していたのだろうか。気付けば日が沈み、私達は肩で息をしていた。
一旦落ち着くための蛇矛の横薙ぎだが関羽が受け止めてしまい、次が来ると身構えた私であったが、関羽の得物が私に向かってくることは無かった。どうしたものかと思案しようとする私であったが、そのとき不意に関羽の口が開いた。
「惜しいな」
「あん?…何がなのだ?」
一瞬素が出そうになったが、関羽には聞こえていなかったようだ。
「これ程の強さを持ちながら、やっていることといえば山賊ごっことはな」
「余計なお世話なのだ!」
「張飛よ。お主、幼い頃親を殺されたそうだな」
「それがどうしたのだ?」
「私も幼い頃に家族を失った。村が戦に巻き込まれ、父も母も…そして兄者も。そして私は誓ったのだ。こんな悲しみは二度と繰り返したくない、二度とこんなことが起きないよう目指そうと」
「それが鈴々と何の関係があるのだ?」
「お主は変えたいと思わないのか!戦に巻き込まれ、賊に襲われ、罪もない人々が傷つけられていくこんな世の中を!」
(鈴々もそう思うのだ!…と言いたいところだけど、何故か心に響かないんだよね。史実のような義人な感じがしないというかなんというか…)
綺麗な言葉の中に違和感を感じた私は関羽を観察してみると、直ぐにその違和感の正体を掴むことができた。得物を持つ手を音が出るほど握りしめ、異様に目を血走らせている関羽の姿があったからである。
「本当に自分で考えたのか?」
思わずそう呟いたとき、関羽の動きが挙動不審になった。
「あ、当たり前だろう!」
「じゃあどうしてそんなに追い詰められているような顔をしているのだ?」
「!」
「本当に世の中を変えたいのなら異民族討伐に参加したりどこかの太守に仕官したりして名を上げ、それらの功績を以って都へ渡りを着けるなりなんなりしていけばいいのだ。それなのにどうして目の前の賊を討伐することしかしないのだ?」
「それは…」
「それは、何なのだ?代わりに言ってやろうか?大方、世の中を変えているという実感が欲しいだけなのだ。不安なのではないのか?この広い大陸の中では一個人など簡単に潰される。ひょっとしたら自分の力では世の中は何も変わらないかもしれない。そう感じているからこそ目の前で困っている人を助けるために自分より弱い存在である賊を討伐する。そうして人の喜んだ顔を見て、自分は少しずつ世の中を変えていると自分に言い聞かせて自分を慰めているだ「黙れ!」」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ――黙れっ!」
打ちあっていたときと同様、関羽から斬り込んできているのだが、先程のような精細さは無く、駄々っ子が感情を吐き出しているようにしか見えなかった。
「私だって、私だってそんなことくらいわかっている!賊を退治してもまた新しい賊が現れるだけだと。だが兄者の声が聞こえてくるのだ!世の中を正してくれと。平和な世の中にしてくれと。だから私は…私は!」
そう関羽は感情を爆発させるが、その直後可愛い腹の虫の鳴く音が聞こえ、関羽が顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「え~っと、取り敢えずご飯でも食べて落ち着くのだ」
そういって関羽を家に招き入れる。
自慢の鶏がら?スープで煮込んだ鍋料理を用意している間、関羽はずっと膝を抱えて俯いたまま動かなかった。心配だが私が声をかけても逆効果になりそうなので無言で料理をよそってやる。
俯いたままの関羽であったが、鶏がら?スープに口を付けると
「温かい」
と呟き頬を緩ませたので私も自分の分に口を付ける。
料理も食べ終わり、一息つこうとしたとき、不意に関羽から声がかかる。
「張飛殿、私はどうすればいいのでしょうか…」
そんなこと私に聞かれても困るのだが。
「そんなの自分で決めるしかないのだ。でも、こんなに妹が追い詰められてまで自分の遺志を継いで欲しい兄なんているわけないから安心するのだ」
よしよしと頭を撫でると目を細めつつも嫌がるそぶりを見せなかった。あ、少し頬が赤くなっている。なにこの妹可愛い。
「そう…ですよね。兄者がそんな人ではないと分かっています。ですが一人夜を過ごそうとすると目の前で殺されてしまった兄者を夢に見るのです。張飛殿の言う通り、私の語っていた志は兄者が志していたものでした。しかし兄者は志半ばで私を守って死んでしまった。そんな兄者のために私ができることといえば兄者の志を継ぐことくらいでしたので今まで頑張ってきたのですが、もう駄目になりそうなのです。」
その兄者とやらには悪いが、義姉妹誕生のための足がかりになってもらおう。
「一人でいることに耐えられないのなら、鈴々と家族にならないか?」
「出会ったばかりの方にそのような迷惑は…いや、でも張飛殿といると心が温かくなるな。私はこのような存在を待っていたのでは…でもやっぱり…」
途中からブツブツと言いだしていたが気にせず倍プッシュだ。
「鈴々に遠慮しているならそんなの気にしなくていいのだ。鈴々も一人だったからそろそろ寂しくなってきていたから家族ができると嬉しいのだ。それとも鈴々みたいなのはやっぱり嫌なのか?」
「いえ、嫌ではありません。…そういえばまだ名乗ってませんでしたね。我が名は関羽、字は雲長。真名は愛紗と申します」
「鈴々の真名は鈴々なのだ。これからよろしくなのだ、愛紗」
「はい、よろしくお願いします。姉者」
「姉…者?」
姉者ってことは私がお姉ちゃんなのか?確か関羽の方がお姉ちゃんではなかったか?いかん、頭がこんがらがってきた。
(落ち着け、まずは素数を数えるんだ。2、3、5、7、11、13…)
「駄目、でしたか?」
「え?い、いや、駄目じゃないのだ」
「よかった。…ところで姉者、い、一緒に寝てはくれませんか?」
「それくらいお安い御用なのだ!今から布団敷くから少し待ってて欲しいのだ」
「なら私も手伝いますね」
こうして義姉妹初の共同作業を終えたところで私たちは一つの布団で寝ることになったのだが、
「姉者~♪」
(暑い。というか胸に実った二つの果実が邪魔で動けない!)
ロリ体型な私に喧嘩を売ってるとしか思えないような動作であったが、可愛い妹のために今日くらいは我慢しておこう。だがせめて抱き枕にするのはやめてくれないか。
「まぁなるようになるか。寝よ寝よ」
妹が寝るのを見届けたので私も眠りに就いた。
――結論、私に妹ができた。…どうしてこうなった。