有馬、ゼノヴィア、イリナの三人は日本に到着し、特に感づかれる事無く駒王町に潜入することに成功した。そして潜伏して早々別行動をとっていた。理由は大層な物でなくただ単に私的理由で、だ。
駒王町に潜伏成功したイリナは、この町に住む幼馴染に会いたいと潜伏の意味わかってんのかと言う発言をした。当然これにゼノヴィアは難色を示す。これでは何のために隠密行動をしているのかわかったものじゃないと。
そう言われるとイリナも反論することはできない。元々教会の仕事で日本に来たわけであり、仕事に支障をきたさないのならまだしも、少しでも任務の妨げになるのならそれは控えるべき行為だ。正しく正論である忠言に渋々ながら納得するも、意外にも有馬が許可をおりた。
ただしと釘を打つように条件を付ける。
一つ、ゼノヴィアと共に行動すること。
二つ、悪魔と諍いを起こさないこと。
三つ、コカビエル、及びその関係者を発見しても深追いしないこと。
以上の条件を守るなら自由に行動していい。
楽観的な性格のイリナは喜色に顔を緩めるが、ゼノヴィアは顔を顰める。それもそうだ、わざわざ苦労して悪魔にばれず潜入したと言うのにこれではその意味がない。
有馬の指示に納得はできないが、上司の指示である以上従わないわけにはいかず、渋々と言った様子で頷く。
有馬とて何も考えなしで許可を出したわけではない。この任務はメインを有馬、サポートをイリナとゼノヴィアの二人で行う事になっている。そこで有馬は二人を囮に使う事にした。あたかも教会の戦士ですと言った服装の二人を放り出すことで敵の目を二人に向けさせ、その間に有馬が本丸を潰す。敵戦力の把握、拠点位置の探索、コカビエルの思惑、それらを一切合切考えていない穴だらけもいい作戦だが、そこはさして気に留ず、失敗した時は正面から屠ればいいと考える何とも脳筋の鏡の様な作戦だ。
そんなことで到着早々別行動をとっていた有馬だったが、路地裏から金属と金属、具体的に言えば真剣同士が衝突する音が僅かに聞こえる。人避けの結界も何もしかけられていないにもかかわらず、運よく周辺に人影は見当たらない。
何かスイッチを押す音が聞こえ、次の瞬間有馬の右腕にトランクの代わりにレイピア状の得物が握られる―――――ナルカミだ。
音をたてずに路地裏に入り、状況の確認を行う。地面に散らばる砕かれた剣、そこで二人の少年が剣戟を交わしていた。一人はコカビエルに強奪された聖剣を振るう少年、もう一人は尋常ならぬ殺意を撒き散らし獰猛に斬り掛かる悪魔の少年。
確認してからの行動は速かった。
ナルカミの刃が花開く。中心部に雷が形成され、バチチチッと迸るエネルギーは、さながら獲物を前にした猟犬を彷彿させる。
限界まで溜められたエネルギーが放たれ、雷は地面を削りながら敵目掛けて奔る。
寸でのところで新手に気づき、聖剣使いの少年は飛来する雷撃を躱そうとステップを踏むが、その程度で振り切れるほど甘くはない。
今まで直線的だった雷は動きに反応する様に向きを変え、敵を追尾する。
驚きに目を見開く暇も無く、雷撃に呑みこまれた少年の右腕は高温に焼かれ焼失する。
全身が沸騰するような激痛が身体を駆け巡り、息を吸い込み絶叫しようとするもそれすら許されない。声を出す間も無い速度で懐に飛び込みナルカミを一閃、上半身と下半身が泣き別れになる。更に念には念を入れ頭部を串刺し、電撃を内部から流し込む。
未だ意識があったのか、数度ビクンと身体が揺れるが、それも直に収まり物言わぬ肉塊に変わる。
「白い髪…白いコート……トランク………教会の死神、有馬貴将ゥゥゥ!」
有馬の乱入によって呆気に取られていた悪魔の少年だったが、すぐに再起動し、目の前の人物の特徴を口遊み、目を見開く。その正体が有馬だと気付き、先程までの撒き散らしていた殺意が何倍にも膨れ上がり、呼応する様に周囲に幾つもの魔剣が咲き乱れる。
「ありま、アリマ、有馬、有馬ぁ!?僕は、お前を許さない!?お前さえいなければ、仲間が!同志たちが!皆が死ぬことはなかったぁ!?死ね死ね死ね、
有馬に浴びせられる途方もない殺意―――――!
憎しみ、憎悪、厭忌、厭悪、嫌悪、言葉では尽くせない程圧倒的な殺意、それが力となり、路地裏を埋め尽くすほどの魔剣が刃を剥く。
突拍子もない攻撃に対し、有馬は一切動じることなく聖剣を回収、無造作にナルカミを振るう。それだけで殺意を乗せた魔剣は簡単に砕かれる。
自身の攻撃を容易く一蹴した相手に舌打ち、激情に身を任せ遮二無二に斬り掛かる。
「お前が、お前さえいなければ、僕達は失敗作として処分されることはなかった!有馬貴将、僕はお前を絶対に許さない!お前が、死ぬまでッ!!」
あらん限りの怨嗟を吐き捨て、乱雑に魔剣を叩きつける。
その攻撃を片腕一本で涼し気に受けきる有馬、それによって更に憎悪の火が焼べられる。
「炎よ!我が憎悪を糧に燃え盛れッ!」
魔剣から迸る炎
「そして吹き荒れろ、そして業火となりて奴を焼き払え!」
加えて魔剣から吹き荒れる強風、重なり合った魔剣が紅蓮の業火となり有馬を襲う。
カチリ、何かスイッチが押された音が響く。
「遠隔起動」
ボソリと呟かれた一言。
瞬間、紅蓮の業火が掻き消える。
晴れた視界には地面から隆起する物体が見える。それが二本の魔剣を壊し、効力を無に帰した。
「解除」
「なっ!?」
有馬が再び呟くとそれは消え、悪魔の少年の目の前に死神が姿を見せる。
すれ違いざま数撃斬りつける。
「ガァァァッ!」
鋭い斬撃、左腕に一つ、腹部に一つ、両足に二つ、どれも致命傷とまではいかないが、機動力となる両足が斬られ地面に膝をつく。幸い深くまでは達していないが、戦闘に多大な支障をきたすことは間違いない。
少年は新たに創りだした魔剣を杖に立ち上がる。圧倒的劣勢にもかかわらず、その憎悪に濡れた瞳は尚有馬を親の仇のように睨めつける。その眼は追い詰められた獣のそれだ。ただでは死なない、死ぬならお前も道連れだと雄弁に語っている。
だが、そんな決死の覚悟を嘲笑うかのように、有馬は踵を返しその場から離れていく。
「待て!まだ終わっていないッ!僕はまだ戦えるぞ!逃げるな、有馬貴将!」
必死の制止、血走らせた目を限界まで見開き、張り裂けんばかりに声を上げるも足取りが鈍ることはない。
「ふざけるな!僕を見逃したつもりか!?返せよッ、みんなを返せよォ……ッ!あ”り”まあ”あ”あ”あ”ッ!!」
失敗作と断じ、殺された同士に変わって復讐をする。それが生き恥を晒してでも生き永らえてきた彼の目的。その目的を目の前に手も足も出なかった。それどころか相手にすらされなかった。それが血涙が出そうな程悔しく、歯痒く、自身の力の無さを呪わずにいられなかった。
彼の慟哭も空しく、ぶつけようの無い叫びが路地裏に反響した。
□■□■
「どうした、何か不都合でも起きたか?」
「ああ、被験体の一人が行方知れずでな。まったく、道具に余計な思考は必要ないと剥ぎ取ったが、しまったな。何か不測の事態に巻き込まれたか?あれには貴重な聖剣を持たせている。失う事は避けたいものなのだが、どうしたものか」
「悪魔が感づいたか?それともミカエルが派遣した狗どもか?」
「さてな、被験体の内の一人が教会から派遣された悪魔祓いを確認したと報告があった。それも態々残りの聖剣を持って、だ。こういうのを日本ではカモがネギをしょってきたと言うのだったか?まあいい、たかだが子飼いの狗二匹にやられる程、エクスカリバーも柔ではない。例え悪魔が相手だとしても、聖剣に掛かれば物言わぬ案山子に変わり果てる。最も、それは使い手に左右されるがな。やはり急拵えの被験体では聖剣に釣り合わぬか」
「御託は良い。今ある聖剣三振りでどの程度の規模だ?」
「精々余波で半壊させる程度だ。貴方の本来の目的を遂行するなら最低でも四本、欲を出せば六本は欲しいな。それだけあれば開戦の狼煙として十分だ」
「なら俺も重い腰を上げるとしよう。大戦の幕開け、それの前座にもならんだろうがな」
「私にとって大戦の再来などどうでもいいよ。私が求めるのは完成された聖剣だけだ。その為なら協力は惜しまんさ」
欲に塗れ天より堕ちた神の被造物、彼はかつて天使であった頃から度し難いほど純粋に、同族すら嫌悪するほど無垢に一つの事を望み続けた。そして待望し続けていた願いが今叶おうとしている。
そこに至るまでの犠牲に罪悪感は無く、引き起こされる惨状には歓喜の声をあげるだろう。
その為なら重い腰の一つや二ついくらでも上げるだろう。
それこそが彼の望みなのだから。
仲間にすら理解されず、願いを否定されようとも構わない。
お前たちが否と叫ぶ声を言葉を真っ向から否定し、取り返しのつかないところまで自分が御膳立てしてやろう。
「悪魔や天使、そんな種族よりも堕天使が最強であることを俺が示す。舞台に上がることを拒むと言うなら、平和で蕩けきった頭に些か刺激を与えてやろう。さあ、舞台の幕をあげてやろう」
悲報、奪われた聖剣は三本ではなく四本だった!
教会の警備体制どうなってるの!?