メツブレイド2 ~小僧と俺の楽園への旅~ 作:亀ちゃん
若干黄金の国イーラのネタバレがあります。
一方その頃、古代船のデッキをシンやヒカリ、そしてニアが歩いていた。ヒカリが人間の入った箱を持ち、シンはじっとそれを睨む。ニアはというとずっとうつむいたままだった。
ニアは少年が殺されたところを見てしまった。少年とはそりが合わなかったけれど、なんだかんだ仲良くはしていた。それなのに、彼には何にも罪が無い筈なのに殺されてしまった。それが納得できず、シンに抗議したが聞き入れてもらえず、失望していた。
「――ニア、殺してください」
「え? 何を?」
そんな時、ホムラが声をかけた。いつの間にか姿を変えていたのだろうか。俯いていたニアは何のことかわからず、もう一度聞き返す。
「彼らの命の代金はすでに支払っています。私たちが天の聖杯を手に入れたっていう話、知る人間が少ない方が都合がいいですから」
そう冷たく言い放つホムラに、ニアは困惑した。
「で、できないよ――この人たち関係ないじゃん!」
「おかしなこと言いますね。あなた、自分が何のためにここにいるか忘れちゃいましたか?」
「け、けどさ――」
ニアはそれでも嫌だった。なぜ殺さなければならないのか。
そんなにあの態度に痺れを切らしたホムラはヒカリに変わり、きっと睨み付けた。
「ああもう、めんどくさい女ね! もういい、私がやる!」
そういってヒカリはデッキ端に固まっているサルベージャーたちに歩み寄ろうとした、その時だった。ヒカリの持つ箱が突如、黒く染まり始めていったのだ。それは広がり始め、やがて箱全体が覆われ始めていった。ヒカリはとっさにそれを投げ捨てると、箱の中から、黒い渦が天を穿った。そして屈折し、古代船内部の入り口付近に落ちていく。
衝撃で船が揺れ、土煙が巻き起こる。そしてその中から――メツが姿を現した。
そして――
「――――うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!!」
デッキの床から、叫び声が聞こえた。それと同時に、先ほどと同じく黒い奔流が床を突き破り、その中からレックスが、飛び上がって現れた。右手には、紫色の刃を持つ片手用の曲刀が握られている。
レックスは着地の衝撃に耐えつつ、自身の敵であるシン、そしてヒカリを睨んだ。
「――レックス……その剣、まさか――」
「いきなり後ろからとは卑怯じゃないか――それが大人のすることかよぉっ!」
レックスは剣を突きつけながら叫んだ。そして、後ろに控えているメツを見た。
「行くよ、メツ!」
「いいぜ、小僧!」
そういうと、レックスは敵に向かって走り出した。それを視認したシンは、剣の柄を手に取った。
「――いい。私がやるわ」
そういうとヒカリが前に出て、突進するレックスを迎え撃った。ガキンと激しい金属音が響き、レックスは敵意をむき出しにしながら力任せに押し出していく。ヒカリはあざ笑うように払い、レックスを弾き飛ばす。
「悪いわね。彼の力をそう簡単に使わせるわけにはいかないのよ。私が相手をしてあげるわ」
そういって挑発的な笑みを浮かべた。
一方メツはレックスの元へと走り寄る。レックスに力を与えるためだ。だが、それを察知したヒカリのブレイド、ザンテツが襲い掛かり、とっさのところで一撃を避けた。
「お前――どけぇっーー!!」
メツが攻撃されているのを見たレックスは激昂し、ばっとヒカリに飛び掛かった。ヒカリは表情を変えずにレックスの攻撃を防ぎ、返していく。
ニアはこの状況に困惑し、ヒカリに叫ぶ。
「やめなよヒカリ! 相手は子供じゃないか!?」
「子供ですって? 冗談はよしなさい! あいつはね――」
今の言葉は聞き捨てならないとヒカリはニアを睨み、レックスを押し返す。
「――とっくに天の聖杯のドライバーよ!」
そういってヒカリはレックスへと斬りかかり、戦闘は継続される。それをニアは茫然と見つめていた。
そんな中ヒカリは、神々しく光る大剣を振り下ろし、レックスの一撃をはじく。そしてレックスの腹を蹴り飛ばした。
「ぐわっ!」
レックスがひるんだ隙を狙い、ヒカリは上空へと武器を投げ飛ばした。そして、飛び上がってキャッチしたザンテツが受け取り、交差させた風のエネルギーを放つ。しかし――ザンテツの拘束を逃れたメツがレックスの前に立ちふさがり、バリアを張って防いだ。
「あ、ありがとうメツ」
「礼なんか言っている暇なんかねぇよ! 行くぞ!」
「――ああ!」
バリアを解き、レックスとメツは突進していく。ザンテツが阻もうと刃を投げつけるが、全てメツのバリアが防いだ。そしてレックスが再びヒカリに攻撃を仕掛けていく。
「みんな、今のうちに早く!」
レックスが叫ぶと、それまで闘いを見ていたサルベージャーたちが次々と逃げていく。それにヒカリが舌打ちをする。
「ヒカリ、いまだ!」
ザンテツがエーテルエネルギーを送り、ヒカリは武器を握りしめた。目線は逃げるサルベージャーたちへと向けられていった。
「お前の相手は、俺達だー!!」
レックスは叫ぶと、闇の刃をヒカリに放った。ヒカリはそれに気づき、やむを得ず溜めたエネルギーを放ち、相殺させた。その衝撃で爆発を起こし、煙が巻き上がる。そしてそれに隠れるようにレックスとメツは飛び上がった。頭上には、闇のエネルギーを纏った片手剣が見える。
「くらえっ――!!」
喉が枯れるほどに叫び、ヒカリへと叩きつける。ヒカリはしかとレックスを見つめ、つぶやいた。
「――なんでこんな子供が、って思ったけど……その瞳の色、もっと注意しておくべきだったわね」
「何のことだ!」
「――教えないわよっ!!」
ヒカリが開いた左手から光の筋を放ち、レックスを吹き飛ばした。どうにか着地したレックスは、再び剣を構えきっと、同じく着地したヒカリを睨み付けると地を蹴り上げた。
「――やるじゃない。天の聖杯をそこまで扱えるなんて。でもね――」
ヒカリは、口角をそっと上げる。そしてじっとレックスを見据えた。レックスはそのまま剣をヒカリ目がけて振り下ろす。だがそれは、難なくかわされてしまった。
「なにっ!?」
宙を斬ったレックスはヒカリを探すべく目を泳がせる。だが、それがいけなかった。
「はぁっ!!」
「ぐあっ……!」
突如レックスの鳩尾に鋭い蹴りが襲いかかった。何かが込み上げてくるような感覚を味わいながらレックスは甲板の上を転がっていく。武器もまた、レックスの手から離れてしまった。
「小僧! ーーちっ、どけぇっ!」
メツはレックスのもとへと駆けつけようとするも、ザンテツが嗤いながら阻む。
「調子に乗らないでくれるかしら……?」
不機嫌そうにいい放つと、横たわるレックスに止めを刺すべくだっと駆け出した。
だがーーヒカリの横の空間のエーテルエネルギーがとたんに反応が大きくなっていったのを感じ、ヒカリは振り向いた。
「何!?」
すぐさまザンテツを呼び出し、エーテルバリアで防がせる。いったい何事かとヒカリがエーテルバリアの向こうを覗くとそこには、ビャッコとそれにまたがるニアがいた。ビャッコは倒れているレックスの前に庇うように塞がった。
バリアを解くと、ヒカリは憤怒の表情を隠さずにニアに叫んだ。
「何で邪魔するの? あなた頭おかしいんじゃないの?」
「おかしいのはそっちだろ!? 子供相手に……!」
ヒカリは、きっと睨み付けて一歩前へと詰め寄る。
「貴女――自分の立ち位置、理解してる?」
「わかってるよ! けどね――」
「ああもう、めんどくさいわニア!」
ヒカリが怒りを顕わにしている間にも、メツは、レックスが落した武器を拾い上げ、ヒカリへと迫っていく。ヒカリは舌打ちをしながらメツに応じた。金属音が激しくぶつかり、両者一歩とも譲らない。
「――ふぅん、寝起きにしてはいい太刀筋じゃない? 思い出すわね、500年前を」
昔を懐かしむようなセリフを言い、口角をあげるが、目は笑っていない。
「それで、やっぱり目指すの? 楽園を」
「――ああ、それが俺の望みだからな!」
「だったら――させるわけにはいかないわね!!」
そういうと、ヒカリは強く剣を振り、メツを押し払う。メツはよろめきつつも、距離を取り、どうにか構え直す。
一方蹴られて倒れていたレックスは立ち上がり、メツの名前を呼ぼうと口を開く。だが、メツの背後には、一隻の戦艦がいつの間にか現れていた。そして戦艦からは、箱型のミサイル銃が二丁現れた。そしてその重工は、メツに向いている。
「メツ、危ない!!」
レックスが叫んだと同時に、銃弾は放たれた。レックスの声に気づいたのか、メツはすぐさま振り向き、エーテルバリアを張る。しかし、雨のように打ち続けられる銃撃に耐えられず、バリアは破壊されて吹き飛ばされてしまう。レックスはすぐさま駆け寄り倒れ込むメツに触れる。
「大丈夫か、メツ!」
「あぁ、なんとかな」
しかし非情にも、銃口はこちらを向いている。メツを連れ出して逃げるべきだと考え、体を起こそうとする直前、ビャッコの影がレックスたちの前を遮った。
「やめろぉ!」
ニアの声と共に、ビャッコもエーテルバリアを張った。レックスたちはその背後で身をかがめる。
しかしビャッコでも完全に防ぎきることはできず、ドライバーであるニアが、弧を描いて遥か彼方まで飛ばされていった。このままでは雲海の遥か底まで落ちてしまう。レックスはだっと駆け出し、ニアを追いかけていった。
「ニア―ッッ!」
叫びながら全力疾走し、船外へと投げ出されたニアを追ってレックスは飛び降りた。思い切り手を伸ばし、すっかり意識を失ったニアの細い腕をつかむ。その瞬間レックスは身をひるがえし、左腕についているアンカーを船の壁へと打ち付けた。ワイヤーが伸び、みごとに食い込むと、レックスは帰還すべくワイヤー収納を行おうとする。
しかし――敵は悠長に待ってはくれなかった。
「しぶといわね、レックス。でも、それもここまでよ!」
船上から投げかけられた言葉と共に、隣の船の機関銃がレックスへと向く。
「くそっ!」
このままワイヤーを収納し、引き揚げたところでその上にはヒカリもいる。また落とされてしまうだろう。万事休すか。そう思い、レックスは目を閉じる。
だが、その直後爆発音が聞こえた。レックスは目を開けて、音のする方を見る。どうやら隣の船から煙が上がっており、そこから音がしたようだ。まじまじと見つめていると、どこからか風を切る音が聞こえた。そこを見ると見知った巨神獣がこちらへと迫ってきた。
「じっちゃん!!」
レックスの呼びかけに、セイリュウは蒼い瞳を向けて答える。そのまま、ヒカリたちのいる船へと旋回し、その上空を飛んでいく。セイリュウは船上に立つ仮面の男、シンをじっと見つめた。
「シンよ――お前はまだ……」
セイリュウは思い出す。500年前に別れたあの日の事を。あの日のシンは、悲壮な決意を抱きながら背を向けていた。その姿は500年経っても、変わらない。
セイリュウはもう一人の人物に目を向ける。そしてわずかに目を見開いた。
「あれは――ヒカリか」
なぜ此の者が――セイリュウは僅かに思考が混乱しかけた。しかし今すべきことは、昔を懐かしむことではない。セイリュウは船を通り過ぎ、再び旋回すると口に炎をため、船上に放った。圧倒的なエネルギーを秘めた巨神獣の攻撃は床を破壊し、蒸気を上げ、視界が悪化させた。ただ、そこに立つ心は微動だにせず、背に収められた長刀の束に手をかける。そして、セイリュウの火球がシンに迫った瞬間、剣を抜き払った。炎は見事にシンの目の前から二分し、炎はV字の軌跡を床に描く。セイリュウは特に驚きもせず、その隙に壁でぶら下がっているレックスの救出に向かった。
「乗るんじゃ、レックス!!」
セイリュウが叫ぶと、メツはビャッコに跨り、レックスの元へと向かう。船の壁を走り、そのままメツは手を伸ばしてレックスを乗せた。そして、ビャッコはばっとセイリュウに飛び移った。
「行くぞ、落ちるなよ!!」
乗ったことを確認して清流が言うと、速度を上げて船から逃げていく。
「逃がさないで、撃って!!」
ヒカリの指示により、隣の船がセイリュウに射撃を開始した。雨のように撃たれていく銃撃にセイリュウは苦しむが、沈めるほどの威力ではない。ヒカリは苛立ち、主砲の展開を指示しようとする。しかし、シンが手で制した。
「無駄だ、射程範囲外だ。戻るぞ」
シンの見逃すような態度に、ヒカリは腕を組み非難の目線を向ける。
「追わないの?」
「目覚めたのならそれで十分だ。後はヨシツネに探らせる」
そういうとシンは背を向けて船内へと戻った。
ヒカリはシンの背中を見つめながら、先ほどのシンの行動の意味について考えた。そして、シンの考えが分かった時、口端を上げた。
「そういうことね――」
ヒカリはじっとセイリュウが逃げた方向を見つめ、そのまま踵を返してシンの後を追った。