メツブレイド2 ~小僧と俺の楽園への旅~   作:亀ちゃん

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第四話:カグツチ

 翌朝レックスたちは目が覚めて起床した。簡単に食事を済ませたあと、今後の予定を話し合うことにした。とりあえずレックスたちの目的は楽園にいくことであるが、まずは情報を集めなくてはならない。故に人が多くいそうな所に行くべきだ。しかしーー

「そういえば、ここは結局どこだかわからなかったな……」

 レックスは何しろ故郷のリベラリタス及びアヴァリティア以外は行ったことがなく、各国の情報は全て伝聞のみでしか知らないので、地理には疎い。

「グーラだよ。スペルビア帝国領グーラ。ここはそうだな、グーラの巨神獣のちょうどお腹くらいか」

「へぇー、詳しいんだなニア。っていうか、ニアのその耳、もしかしてグーラ人か?」

「……今ごろ気づいたのか。そうだよ」

「グーラはお嬢様の故郷なのです」

 ここアルストには、普通の頭髪をした人間に加え、耳を生やした人間もいる。彼らはグーラ人と呼ばれ、主にグーラの地で暮らしている。ただ、外見が違うだけで知能等といった部分は、普通の人間と差がない。

「そりゃあ心強いや。町はあるのかい?」

「あるよ。トリゴの街ってところだけどね。この森を抜けて道なりに上っていけば平原が見える。街はその先」

「よし、いってみよう!」

 一同はニアの道案内の元、街を目指すことにした。湿っている地面に途中足を取られながらも森を歩き続けていると、眩い光が差し込んできた。もしやと思い、森の出口を抜けるとそこには、平原が広がっていた。

「うわぁ……すっごいなぁ……」

「ほっほぉ……こりゃまた壮観じゃ」

「本当にすごいよ。じっちゃんの狭い背中とは大違いだ」

「むむっ、一言余計じゃわい!」

 軽口をたたきながらも、レックスとじっちゃんは目を見開いて、その光景に感嘆する。じめじめしていて閉塞感があったあの森から解放されたというのもそうだが、無限と思えるほどに広がる台地に、溢れんばかりの緑、あちこちを闊歩する多数の動物、そして透き通っている空気。そのどれもが、緑豊かな地ではないところで生活しているレックスにとって衝撃的だった。

「500年前とあんまり変わらねぇな。いいもんだぜ」

 メツもまた腕を組みながらその光景を眺める。

「無効に見えるのがグーラで一番大きな街トリゴだよ」

 たしかに、平原の奥には街らしきものが見える。

「とりあえず街までは送ってく。付いたら、そこでアタシたちの役目は終わり」

「えっ、何で?」

 ニアの言葉にレックスは驚き、振り向く。

「何でって……アタシはアンタらと一緒にいることはできないからね」

「それって、あいつらのことがあるからか?」

「出会ってから日が浅いとはいえ一応――仲間だからね」

「アイツらが仲間? ニアを殺そうとしたんだぞ?」

 レックスの言動を前にして、ニアは目を合わせることができずに背を向けてしまう。

「それでも――アタシの居場所は、あそこにしかないんだ」

「ニア――」

 ニアの言葉にレックスは、言葉が出なかった。彼女にはきっと、何か深い事情があるのだろう。

「さ、いくよ」

 ニアはそういうとビャッコと共に平原へと進んだ。レックスも考えるのをやめて、あとへと続く。

 

 広い平原を歩いていくと、ようやくトリゴの街の大きなアーチが見えてきた。少々足が張ってきたところであるので安堵の息を吐く。

「ここがトリゴの街か……おっきいな」

 レックスが感想を漏らしている横で、ニアは横でぼそりと何かを呟く。

「――ニア?」

 メツが不審に思い尋ねるが、ニアは何でもないとはぐらかした。

「宿までは案内するよ。そこでお別れだ」

 そういうとニアはすたすたと先に進んでしまった。

 トリゴの街は、簡潔に言うと、非常ににぎやかだ。レックスの職場のアヴァリティア商会も大賑わいだが、あちらは市場であるので金に関する話題でしか盛り上がらない。しかしトリゴの街は、生活の場所であるので、様々な話題が飛び交い、それでにぎわっている。

 そして今、何もないトリゴの街の広場でも盛り上がっていた。何でも、グーラが属しているスペルビア帝国の兵士が、ドライバーを募集しているのだそうだ。レックスはそこでドライバーとブレイドの、本来の同調に関して始めて学習した。

 ドライバーとブレイドは、本来"コアクリスタル"を通じて結びつけられる。コアクリスタルとは、ブレイドの源であり、ドライバーの適性がある人間が触れると、そのドライバーのブレイドになれる。レックスを除くほぼすべてのドライバーは、コアクリスタルを通じて、ブレイドとの絆を結んでいるのである。

 スペルビア軍のドライバー募集を見届けた後、レックスたちは再び宿までの道を行く。その道中、レックスはあることを考えていた。

(あの時、初めて出会った時、あいつは悲しそうだった。メツもまた、ほかの誰かによって生まれたんだろうか――)

 メツは普通じゃないブレイドだというのは、周囲の反応や言動で何となくは解っている。しかし、どこが普通じゃないのか、そしてメツが天の聖杯と呼ばれる所以が分からない。自分はドライバーのはずなのに、まったくメツを知らない。

「ねぇ、メツ。天の聖杯って――」

 思い切って聞いてみよう、そう思い、レックスは口を開く。しかし、突如複数の足音がこちらへと迫ってくるのが分かった。

「――一同、抵抗するな!」

 そういわれると同時に、いつの間にか黒い鎧を着用した兵士たちに取り囲まれた。先ほどドライバーを募集していた人にそっくりだ。ということは、スペルビアの兵士か。

「何なんだ、お前たちは!」

「その者、帝国に仇なす、イーラの者であろう」

 兵士はニアを見つめた。恐らくニアを捕まえるために来たんだろう。

「イーラ――ニアは違う!」

「そうか? 白き獣のブレイドを連れたグーラ人のドライバー、人相書きにもそっくりではないか」

「人相書き?」

「これだっ!!」

 兵士はばっと紙をこちらへとみせつけた。そこには、ニアにそっくりの髪型に、ケモノのような顔をした女が描かれていた。

「あ、似てる――」

「なんだってぇっ!?」

「あ、いや違う! 似てない、全然似てない!」

 ニアが爪を立ててレックスを睨み付けてきたので、レックスは慌てて首を横に振る。

「ふん、ところでお前。みたところドライバーのようだが、登録ナンバーは?」

「へ? 登録ナンバー?」

 聞いたこともないワードにレックスは困惑する。

「すべからくドライバーになったものは、例外無く法王庁に届け出なければならない。さてはお前、もぐりのドライバーだな」

「違う! 俺はーー」

「お前たちを連行する! 申し開きは領事閣下の前でするがよい!」

「こいつ会話する気ねぇのかよ……」

 ダメだ、話にならない。レックスは歯噛みをし、グッと拳を握りしめる。

「……レックス。今からアタシとビャッコで仕掛ける。その隙にアンタ達は逃げな」

 ふと、密かな声でニアが言ってきた。しかしそれはニアを見捨てるということ。レックスは、そんな非常な真似ができるほど、大人ではなかった。

「そうはいかないよ」

「これはアタシとビャッコの問題だよ」

「あいつらは"お前達"っていった。ってことは俺やメツも無関係じゃない」

「ったく、相当頑固だね。メツのこれからの苦労と思うと大変だよ」

「全くだ。俺の前の主人様よりひでぇや」

 ーー前のご主人?

 レックスはわずかに眉を潜めた。しかし、今は考えている余裕はない。すぐに目を細め、グッと腰を屈める。

「じゃあ、いちにのさんで仕掛けるよ。アタシは左、アンタは右を」

「わかった!」

「じゃあいくよ! いーち!!」

 ニアがカウントダウンをすると、取り囲んだ兵士達が驚愕した。まさか兵士に囲まれて抵抗しようと思うものがいるとは。

「にーのーー」

「ひ、怯むな! 相手は少数だ! 取り囲め!」

「さんっ!!!!」

 ニアの合図と共に、レックスたちは地から足を離し、一斉に飛びかかった。

 

 

 

「つ、強い! たった二人なのにここまでの差があるとはーーやはりドライバーか!」

「そのうち一人は新米だがな!」

「ぐっ……己!」

「一言余計だよメツ!」

 レックス達に対して全く歯が立たない兵士達がぜえぜえと喘いでいる。これならばーー

「今だ、レックス! 逃げよう!」

 ニアが叫ぶと同時にレックス達も武器を納めて兵士達から逃げるべく全力で駆け出した。だがーー突如目の前に蒼い炎の壁が立ちふさがった。

「うわっ! な、なんだこの炎は!?」

「おい……この炎ーーまさか」

「ーー騒がしいですね。せっかく束の間の休暇を楽しんでいたのに」

 メツの記憶にある、蒼の炎の使い手を思い浮かべた瞬間、女性の声が聞こえた。

「か、カグツチ様!」

 兵士から名前を呼ばれた瞬間、メツはぼそりと呟く。

「……やっぱりな」

 メツは兵士達のもとに立つカグツチを見つめる。すらっとした長身で、青を貴重としたドレスを着ており、非常に妖艶な雰囲気を漂わせている。長く美しい青色の髪をしており、常に蒼色の炎が宿っている。瞳は閉じたままであるが、相手の位置などはすべて把握できるようだ。

「あの炎、ブレイドか? で、でもドライバーは!?」

「私のドライバーは現在ある任務で遠征中です。私は今一人」

「ドライバー無しであんな炎を……」

「ふははは! カグツチ様はなぁ、スペルビア帝国の宝珠とも呼ばれる、帝国最強のブレイド。観念しろ!」

「くっ……!」

 レックス達は臨戦態勢を取り、カグツチを睨む。

「カグツチ様。このもの達はイーラの手の者です。是非ともカグツチ様のお力を御貸しください」

「イーラの?」

 カグツチはちらりとレックス達を見る。すると、レックスの後方に視線が止まる。

「紺青色のコアクリスタルーーまさかとは思ったけれど……」

 ぼそりと呟くと、カグツチは両腰に納めてある二本のサーベルを引き抜いた。

「バクス警備長、殺生は禁じます。生きたまま捕らえなさい」

「はっ。おいっ、例のものを!」

 バクスと呼ばれた男が指示を飛ばすと、レックス達へと武器を構えた。今度はただの兵士ではなく、強力なブレイドが相手。レックスとニアは僅かに恐怖を感じつつも構えた。

 

 

 




しかし書いていて思うんですけど、原作のホムラって序盤はマジであんまりしゃべらないんですね。ネタバレ防止ってのもありますけど。

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