メツブレイド2 ~小僧と俺の楽園への旅~ 作:亀ちゃん
しばらく歩くと、トラの家についたようで、トラがピョンピョンと跳ねた。レックスとメツを中に招き入れて客間まで案内する。
トラの家は、隠れ家のようになっており、わりと狭い。家具以外はいろんなガラクタが散らかっている。しかしこれだけ散らかっているのは変だ。まだ子供のノポンなのに、母親や父親はいないのだろうか。
「なあトラ。君は一人暮らしなのか?」
「そうだも。父ちゃんいたんだけど今はいなくなっちゃったも」
「え? それはどういうーー」
「それよりトラ、おめぇ俺たちを助けたもうひとつの理由があるっていってたよな? 教えてくれねぇか?」
メツがレックスの言葉を遮ってトラに質問した。その後メツはレックスを軽くどつく。
「――そんなこと聞くんじゃねぇ。言えねぇことだってあるだろうが」
「ごめん……」
密かにメツとやり取りをしてトラの話に耳を傾ける。
「実はトラ、ドライバーと仲良くなりたかったんだも」
「へぇ、トラドライバーに興味あるんだ」
「当然だも! ドライバーと一心同体になって戦うドライバーはすんごいんだも! レックスのアニキの、オトモになりたんだも!」
「あ、アニキ!?」
いきなりトラからアニキという言葉が飛び出してレックスはおったまげた。はじめてであって間もないのにアニキ呼ばわりとはなかなかない経験だ。
「アニキはアニキも! トラより偉いからそう呼んでいるだけも!」
つまりドライバーじゃないから偉くないってことか。何ともおかしな上下関係だ。レックスは呆れながら反論した。
「いやぁ、でもオレ新米だしそもそもドライバーだろうが何だろうが関係ないだろ。第一オレはアニキって言われるほど年は離れて――」
「いいじゃねぇか、小僧。呼ばせてやりゃあ。お前みてぇなガキを慕ってくれてんだ、ならそれを受け入れてやればいい」
メツがぽんとごつい手を置いてにっと笑って見せた。レックスは呆れ気味にため息をついてメツの手を払った。
「……わかったよ。好きに呼べばいいよ」
「やったも! トラは、レックスのアニキの、"オトモ"になるも」
「オトモって……友達でいいじゃんか。オレとトラは、友達だ」
「ももっ!? やったも! トラは、アニキの"オトモ"ダチも! うれしいも!」
「なんだか変わった奴だね……」
「まったくだ。ノポンって生き物は500年前からも変わらねぇな」
レックスは頭を掻きながら跳び跳ねるトラを見つめ続けていた。ただ、いつまでもこうはしていられない。レックスは表情を引き締めてトラに問いかける。
「それでさトラ。トラはこの街のことには詳しい?」
「ん? 詳しいも。トラはずっとここに住んでるも」
「じゃあさ、軍に捕まった人がどこに連れていかれるかは知ってる?」
「小僧、まさかニアを助けるのか?」
メツが尋ねるとレックスは当たり前だろと即座に返す。
「ニアは俺たちのために身代わりになったんだ。だったら助けないとだろ?」
「……まあ予想通りの答えだな。んで、トラはわかるのか?」
「ももー……それはわからないも。トラはあくまで一般市民だから、わからないも。こればかりは聞き込みをするしかないも」
「じゃあとりあえず手当たり次第聞かないとな。じゃあ早速ーー」
「待つも! その前にご飯を食べるも! ご飯を食べなきゃお腹一杯にならないも!」
トラがうきうきとした表情で言う。しかしレックスははぁとため息で答えた。
「あのなぁトラ。俺たちにはそんな暇はないんだよ。ご飯はあと、とにかくニアをーー」
助けないと、という言葉を言おうとした時、レックスのお腹から情けない音が漏れた。場は静寂に包まれ、恥ずかしさにレックスは視線を落とす。
「ほらも、アニキもお腹ペコペコだも」
「……だけどこれくらいなら我慢はできるよ」
「小僧、ここはトラの提案に乗った方がいいぜ。まだ兵士どもは彷徨いているだろうししばらくここで身を隠した方がいい。下手に動いたら面倒なことになりかねねぇ」
「メツ……はぁ、わかったよ。でもご飯っていってるってことはトラが作るのか? 言っておくけど俺はただ焼いたりすることしかできないぞ」
「ん? トラもできないも。いっつもインスタントですませてるも。それなら人数分あるも」
「えぇ、インスタントか……まあそれでもいいけどさ」
「待ちな小僧、トラ。俺は多少は料理に自信があるんだぜ?」
メツがニヤリと笑いながらレックスとトラを見る。
「え、そうなの? なんか意外だね」
「なにも料理ってのは女だけがするもんじゃねえからな。トラ、キッチン借りるぜ」
「使ってくれて構わないも! メツの料理楽しみだも!」
「ま、待てメツ! お主本当に作るつもりか!?」
レックスのヘルメットからふわふわとじっちゃんが飛んで現れた。トラは後ろに飛び下がって驚く。
「な、なんだもこの生き物は!?」
「ああ、紹介するの忘れてたよ。じっちゃんだ。セイリュウっていうんだよ」
「わ、忘れてたとはなんじゃ! この愚か者が!」
「ももー……こんなちっこいのがアニキのおじいちゃんとは驚いたも……」
「ちっこいとはなんじゃまったく! ーーまあそれは良いとして、メツよ、本当に料理を振る舞うつもりか?」
「あぁ? 当たり前だろ? 俺の料理は"ヤミツキ"になるって評判なんだぜ」
「へぇ……ヤミツキか! それは楽しみだな! 早くつくってくれよメツ!」
うきうきとした表情を浮かべるレックスにメツは親指をたててキッチンへと立つ。トラの家には何故か人間用のピンク色のエプロンが置いてあったので、それを着用して早速調理を始めた。
「セイリュウのじじいはいるか?」
「死んでもいらんわい! トラ、ワシにはインスタントを頼む!」
「もったいないも! じっちゃんも食べるも! ヤミツキになるも!」
「ばかもん! 奴の料理をなめるな! お前たちも今すぐインスタントに変えるんじゃ! さもなくばーー」
「できたぞ、俺手製の料理だ。今日のは自信作なんだ」
「はやっ!?」
セイリュウと話している間にメツの料理は出来上がっていた。メツは全員に料理を配膳し非常に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
だが、メツの表情とは裏腹に、レックスたちの表情は曇った。
「な、なんだこれ……」
「ももー……すんごい匂いも……見た目も、破壊力がすごいも……」
「それみたことか……って、なんでワシの分まであるんじゃ! いらんわい!」
「そういうなよじいさん。500年のブランクはあるが、きっとうまく仕上がってるぜ」
メツは自信たっぷりに言うが、この料理からは食欲を感じさせない。まず見た目はとても直視できるものではない。紫色の液体がどばっとかかっており、形は崩壊している。盛り付けもあったものではなく、あちこちに飛び散ってしまっている。具材も何が入っているのか一見しただけでは全くわからず、何という料理なのかも皆目見当がつかない。
加えて匂いが強烈だ。甘い匂いでも辛い匂いでもなく、ただただ酸っぱそうな匂いだ。しかし、酸っぱいといっても胸が焼けそうな酸っぱさであり、とても口にできそうなものではない。下品な表現になってしまうが、逆流させた胃液の匂いに近い。
「ち、ちなみにメツ。これはなんていう料理なんだ?」
レックスが鼻を抑えながら尋ねる。こんなすごい臭いを放っているというのに、メツは気づいている様子がない。
「ふっ、こいつは"メツスペシャルプレート-天の聖杯仕立て-"だ」
「うむ……うまく的を得ているのがまた……」
「はっはっは、誉めても料理しか出てこねぇぜじじい!」
「誉めてないわい! うぅ……こいつを食べるのか……」
「も、もしかしたら匂いはすんごいけど味はうまいかも知れないも! とにかく食べてみるも!」
「そ、そうだな! 食べてみよう!」
そういって、レックスとトラはいただきますと震えた声でいうと、目を瞑って一口頬張った。
(ん? あれ、思ってたより美味しーーーーんがっ!?」
最初は肉の旨味がわずかに響き渡り、うまいと感じた。だが、その直後ーー甘さ、辛さ、酸っぱさ、塩辛さといった風味が乱暴に混ざりあった味が瞬時に襲いかかり、口の中が蹂躙された。これはもう処理できるものではない。レックスたちはたちまちオーバーヒートを起こし、そのまま意識を失った。
「……酷い目にあったも……」
「まだ胸焼けがするよ……」
「メツの料理は500年前から一切変わってないのじゃ。悪いままな」
トラとレックスとじっちゃんはありったけの水を飲んでどうにか口のなかを浄化させるとため息をついた。
「ったく、俺の料理の真の良さが分からねぇとはな。がっかりだぜ」
「あのなぁ……メツは自覚ないのかよ……」
「あぁ? なんだよ自覚って?」
「ーーもうやめるも料理の話は。思い出すだけでトラ吐き気がするも……」
「そうじゃな……ニアの救出を考えた方がよっぽど建設的だわい」
二人はレックスをじっと見つめ、二度と触れるなと言うような目線を送ってきた。レックスは強く頷き、テーブルに肘をついて考えた。
「さっきトラはいったよね、街の人に聞かないとわからないって。でも、メツって結構目立つんだよね……」
「けっ、悪かったな。だが確かに俺の姿形は明確に知れ渡ってるだろうぜ」
「となれば変装は必須じゃな。なにかよい方法はあるかの?」
「それならトラいい考えがあるも!」
そういうとトラは跳び跳ねながらクローゼットへと向かった。そしてクローゼットからトラが取り出したのは――赤色の猫耳フードパーカーだった。丈は長く、とてもノポン族が着るようなものではない。人間だって切られる人は限られるほどの大きさだ。何故そんなものをトラが持っているのかと一同が疑問に思った矢先、トラはとんでもないことを言い始めた。
「これを被って、メツの変装を行うも!」
「――あぁ?」
メツの声が殺気立つ。だが、無理もない。大男が着るようなものではないからだ。どちらかというと、可憐な少女が着るものだ。
「もっとまともな服はねぇのかよ! 俺はんな趣味はねぇんだよクソッタレ!!」
「ま、まともな服ていってもこういうのしかないも! 人間の男物の服は一着もないも!」
「何でトラはそういうのもってるんだよ……」
レックスは呆れつつも、ほかに代替案が無いことに気づく。メツをこのまま歩かせるのは余りにも危険だから変装はしなくてはいけない。かといってレックスは替えの服装なんて持ってきていない。ここは、メツには悪いがあれを被ってもらうしか方法はないだろう。
「ねぇメツ。でも、それしかないんだったらそれを被るしかないよ……」
「小僧……てめぇまで頭イカレちまってるのか!? こんなもん似合うわけねぇし第一余計目立つだろ!!」
「いや案外さフードを深くかぶれば男だってばれないんじゃないかな? ちょっとガタイはいいけど……」
「取りあえず着てみればわかるじゃろ、メツ。これも天の聖杯の宿命じゃ」
「てめぇら……後で覚えておけよ……!」
メツもまたほかにどうしようもないことに気づき、渋々とフードを被る。メツは若干視線を落とし、恥ずかしさに顔を引きつらせながら、レックスたちを見た。レックスたちがメツを視界に収めた瞬間、思わず笑いがこみ上げた。
「あははははははっ! メツ、ぜんっぜん似合ってないよ!!」
「こりゃ傑作じゃ!!」
「女の子に着せたかったけど、これはこれで面白いも!!」
「笑うんじゃねぇ!! 好きでやってるわけじゃねぇんだよこっちは!!」
メツは怒りを顕わにして吠えるが、眩しい赤色にストライプが何本か入ったデザインのフードを、大男が来ているその絵面で笑わないはずがなかった。メツは暫く生き地獄を体験することを思い知らされ、頭を抱えたのだった。
???「あの料理――切り捨てたくなる」