「ほっほっほーー!」
一人の老人の不気味な叫び声が聞こえた。老人はひどく興奮しており、しきりと何かをしゃべっている。近くのゲージには白いマウスが一匹入っており、ゲージの中を縦横無尽に駆け巡り、今にもゲージは壊れそうだった。
「ついに、ついに、ついにぃ! ワシの研究の成果が現れたのじゃ! ほっほっほ! 素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい、素晴らしいぞ!」
老人の名は白神源助。白神は興奮のあまりその長い白髪と白髭を振り乱し踊りまくっていた。これは彼がテンションが上がってしまった時についしてしまう癖だ。手を上げたり下げたり、横に振ったり、思いのままに踊っており、その様は盆踊りなどの躍りなどよりヨサコイのような激しいものだった。
ただし、白神は別にゲージの中の現象に興奮していたわけではない。彼が興奮している理由は現在彼が左手に持ち頭上でぶんぶん振り回している緑色の液体の入ったガラス瓶なのである。
白神には夢があった。それはまだ若き日にテレビか何かで生物の神秘について特集を見た時にできた。白神は人間が作るものなどとは次元のちがう神秘的な特性に圧倒され、強い衝撃を受けた。そしてそれと同時に自分の手でそれと同レベルの現象を作り出したいと強く願うようになった。
そして白神は約70年の歳月をかけて、この緑色の液体を完成させた。液体の名は「ゲノムブレイク」。その効果は投与された生物のあらゆる遺伝子の働きを活発化させ、通常の能力を20倍にまで上昇させてしまうというもの。今までの常識からは考えられない代物だ。しかし白神はそれを個人で完成させてしまったのである。
「ほっほーー! ほっほっほーーー!」
およそ狂人にも見える白神だが、天才というものは多かれ少なかれ変人が多いいものだ。白神はそのなかでも郡を抜いていた。
白神は人生の絶頂にいた。あとはこの薬をあらゆる生物に投与し、研究するだけだった。そしていつか自分の夢である生物の神秘を再現する。それこそが白神の望みだった、のだが、、、、、、
「うぅ! ぐぅう、な、なんじゃこれは、、、。」
白神は突如胸に強い痛みを覚えた。今までに感じたことない痛みだった。痛みからか、力が抜けてしまったのか、手から薬が入ったガラス瓶が落ちる。
ガシャン!
まるで今までの全てが無駄になるような、そんな予感を白神は感じた。
「ぐ、ぐはぁ!」
口から大量の血を吐き出し、うつ伏せなる。全身の力は抜けていき、呼吸も苦しくなっていく。
突然のことで事態を把握できない白神だったが、その闘志は衰えていなかった。彼の心にあるのは強い生への執着だった。
(やっと、やっと達成できるのじゃぞ? ワシの夢が現実となるのじゃぞ? こんなところで死んで良いのか? 言いわけないじゃろうが!!!!!)
思えば彼の人生は研究だけだった。そしてその研究は全く認められず、いつも小馬鹿にされてきた。認められず、夢も達成できずに死ぬのは彼のプライドが許さなかった。
(死ねん死ねん死ねん死ねん死ねん死ねん死ねん死ねんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!)
薄れ行く意識の中で、そう願い続けた彼はついに死を超越した。
彼の魂は天高く飛び、とてつもない意思をもって導かれるようにどこかへ消えていった。
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(どうして私は不幸なの?)
女は血のように赤い瞳から涙を流しながら考えていた。この世界は力ないものに残酷だ。そう女が気づいたのは
5歳の時。いつも優しかった父と母が死んで叔父に引き取られた時だった。叔父は商人で金持ちだったが、彼女を奴隷のようにこきつかった。毎日叔父の機嫌次第で虐待を受けた。
10歳の頃からは性的な虐待が加わり、食べ物も二日に一回程度しか与えられなかった。
耐えられなくなりスラム街に逃げるまではよかったが、そこでも結局体を売らなければ食べ物にはありつけなかった。年齢が30を越えたことで、どんどん客も付かなくなっていった。身体を売るのは苦痛だ。しかし生活のために必死に身体を売る相手を探し誘惑する。彼女はその矛盾した行為により心も体もボロボロだった。
(誰か、私を殺して。)
心からの願いだった。誰かに救ってほしかった。しかし自分では怖くて死ねない。彼女は苦しんでいた。それを哀れに思ったのか、突然女の中に何かが入っていった。
ドクン、ドクン!
胸に鋭い痛みが襲ってくる。女はうずくまり胸を押さえた。ひどい痛みだ。このままでは死ぬだろう。そう女は直感した。そして彼女はすぐに抵抗をやめる。その顔は先程とはうってかわって幸せそうだった。彼女にとってはこの現世こそが地獄なのだ。
その後、彼女の体からまばゆい光が発せられた。
身体つきがどんどん幼くなり、くすんだ赤茶色だった髪が一切のくすみのない、真っ赤に染まった。肌も瑞々しく白く綺麗になった。女も幼い頃はとても美しいと評判の娘だったが、現在の彼女とは比べることさえできないほどだった。それほどまでに美しかった。
彼女は閉じていたまぶたを開いた。血のように赤い瞳は以前となんら変わらないが、その瞳に宿る生命力は雲泥の差だった。そして薄いピンク色の唇を開き、鈴の鳴るような声を発した。
「ほっほっほ。ワシ復活じゃ!」
ここは血と魔物の国、ローレンス帝国。軍事に魔物を取り入れ、圧倒的戦力によって領土を増やしてきた軍事国家。その帝国の帝都の外れにあるスラム街に一人の少女が今、現れた。
後に「神を怖れぬ者」と呼ばれ、世界に多くの災厄をもたらす少女である。
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