「あら、起きたのね。」
一人の女が少女(じじい)の居る部屋にドアを開けて入ってきた。年齢は20代後半位の女だったが服装はやはり赤と緑の制服である。
「ここがどこだか分かる?」
女は目の前にいる少女に話しかけるが泣き腫れた目を隠しながら少女は首を振った。
「そう、ここはエルグラム兵病院よ。本来ならあなたはすぐに重要参考人として牢屋行きだったんだけど、魔法の効果が切れた後も意識が戻らなかったからここにいてもらったわ。でももう移動しないとね。」
「い、嫌じゃ。どこにも行きたくない!」
少女は酷く狼狽した様子でベッドにしがみつき、離れようとしない。
「わがまま言わないで。 あなたには容疑が掛かっているのよ? それも殺人よ。ここでごねるようなら罪が重くなるわよ。」
再度要求するが少女はふるふると首を振った。
「仕方ないわね、ならこっちも力強くでいくわよ。」
(うーん一応危険人物だから触れるなとは言われてるけどこれ銀のベッドだし力は出さないよね?)
囚人専用の銀のベッドには2つの魔法がかけてある。一つは筋力半減、もうひとつはマイナス思考弱だ。どちらも逃走防止用だ。
そして女が少女をこちらに寄せようとに触れた時あることに気付いた。
「あなた、震えてるの?」
少女は体を小刻みに震わせ、この世の終わりのような顔をしている。女は事前に得ていた情報(男一人の舌を噛みきる)とのギャップに驚いた。
(これはもしかして、)
ある可能性に気付いた女は右腰に差してある銀色の棒を取り出す。金髪の男の物よりは小さめだ。
「この棒をよくみて、、、ええそうよいいわ、、少し眩しいけど我慢して。」
そういって銀の棒を少女に向けながら小さく叫ぶ。
「<サーチ>」
その棒の先端が光り、少女を貫くように光が通っていき、その後一周して棒に戻って行った。
「やっぱりマイナス思考がレベル5に成ってるわ。あとは新しく精神虚弱状態が付いてるわね。しかもレベル2。筋力半減に至っては筋力1/5になってるじゃない。」
少女は明らかに効きすぎている。それは一般的にはあり得ない出来事だった。なぜならこの世界の人間には魔力が必ずあり、その魔力の最低値を基準にして魔術は定義されているからである。
(つまりこの子には魔力がない、もしくは限りなく少ないってこと? そう考えれば今まで意識が戻らなかったのも<スリープ>の効きすぎだったと説明できるわね。)
女は目の前で心細そうに小さく震える少女を見ながらここからどう運ぶかを考えた。精神虚弱状態は言うなれば心が折れかけている状態のため少しの刺激で廃人になってしまう可能性があるのだ。
ちなみに精神虚弱状態はマイナス思考がカンストした時に起こる進化状態である。カンストはレベル10でおこり、カンストすると1に戻る。
(もう二回もカンストしてるし、レベル3になったら終わりね。一刻も早くこのベッドから出さないと。)
廃人となってしまったらほとんどの人間は戻れない。そのことは誰でも知っていることだった。
「もう一回この棒を見てくれるかしら?」
そういって泣きじゃくる少女に優しく言う女。端から見るとイジメにも見えるかもしれない。
少女はすがるようにその棒を見た。
「<チャーム>」
女がそう叫ぶと同時に棒の先端からピンク色の光が出て、少女を照らす。と、同時に少女の瞳は赤からピンクに変わった。顔は蕩けるように甘くなっている。
その状態をみて、女はため息をついた。
「ご、ご主人様ぁ、そんのに見つめられたら変になってしまいます。」
少女は顔を赤くしてもじもじと恥ずかしそうに喋りながらベッドから出て女に近づいていく。
依然とは口調もかなり違う。
(私はいつからサキュバス並みの魅了使いになったんだろう、、、。)
サーチは三十分ほどは永続して情報を見続けられるのだが、少女が狂信者レベル3と陶酔者レベル4、精神奴隷化レベル8、魅了レベル2に変わったのを確認して女は頭を押さえた。
*******************************************
「面倒なことになった。」
守備隊赤組隊長兼守備隊隊長を務めるダグラスは報告書を見てそう呟いた。彼は肉体派の守備隊の中でも特に巨漢中の巨漢であり、いつも顔は鬼の様に怖い彼だが、その時の彼は苦虫を噛み潰したような顔だった。
悩んでいるのは一人の少女についてである。
少女についてわこることは名前がチェリーであること。もうひとつが魔力が全くないことだった。ただチェリーという名前は少女を発見した屋敷の主人である故人ブータンの手帳に記載されていただけなのであまり信憑性がない。
彼が悩んでいたのはずばり少女の罪状である。一般的に守備隊は犯人と思われる人物を捕まえた場合、その人物を取り調べし、可か不可かを決める。可とされればあとは罪の重さに従って然るべき処置がされる。
つまり守備隊は司法を司っている訳なのだが、冤罪率はほぼゼロと言ってよい。なぜなら彼らには魔道具があるからだ。血に含まれる魔力は金属を中間に挟まなければ放出することは出来ない。
守備隊に捕まった時点で体に取り付けられた金属は全て没収され、逆に守備隊の利になる金属が取り付けられる。なので捕まえた時点でそいつが犯人なら終わりというパターンであった。誤認逮捕をした場合もすぐに自白で犯人ではないことが確認できる。
このシステムのお陰で一部の特権階級を除くほとんどの人間には一切の嘘もつけない完璧な状態であった。
しかし問題の少女であるのだが。
(今までの報告で彼女は通常の何倍もの効果を受けてしまうのは明らかだ。特に精神操作系は特に顕著にその特徴が現れているな。)
ちなみに報告書には身体能力系は3~5倍、精神操作系では20~50倍の効果を受けると書いてあった。
もはや精神操作系は全てアウトだろう。
(しかもこのデータは全て初級魔法のデータだからな。もし、もともと効果があらわれることを前提に作られた魔法や魔道具を使ったらどうなるか、、、。)
別に囚人なら良いじゃない、という声もあるだろうが罪が確定してないうちは善良な市民として扱う、それが彼のポリシーだった。
更に加えるなら部下の中に彼女の安全を訴える団員が多数居るため、彼はこんなに悩んでいるのである。
続く。
話し合わせるために二話書きなおそうっと。