遊戯王5D’s 治安維持局特別対策室   作:ピクサ

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第13話

 

 

 

 ワンレングスの髪が風に(なび)いた。

 顎丈まで伸びる、その少し青みがかった前下がりの髪が、若い"保険医"の面差しを彩る。

 黒のエッグチェアーに腰かけて、タイトスカートから伸びる前脚を優雅に組み読書に勤しむ彼女、"青峰冷夏(あおみねれいか)"のそんな姿を机に突伏す金戸未来はふと密かに覗き見ていた。

 

 女から見ても綺麗な女性だ。気づかれないように眺める未来はそう考える。

 

 時刻は昼休み終わりの保険室。

 夏の日射しを遮る薄茶のレースカーテンが柔らかな風にたなびく。

 カーテンの帳と共に少し揺れた髪を耳に整え直し、開いた本に目を向けていた冷夏が、なにかに気づくようにして突伏す未来の方へと視線をゆっくり傾けた。

 

 覗き見に気づかれたかと未来はギョッとしたが──保険医はそんな未来を気に止めることなく柔らかな笑顔を向こうに送る。

 

「おかえりなさい、星宮くん」

 

 保険医の意識の先が自分ではないと気づいたのは、背後から星宮の姿が昼休みから帰ってきたからであった。

 

 

 

 

 

 前下がりの髪を片方耳止めにするというのが彼女の基本の出で立ちであった。

 右側頭部の髪を優しくかき上げるように耳にかけた青峰冷夏が長机の北側に座る。

 同じく未来の対面側、長机の東側に星宮も腰を下ろす。

 

 なにやら会議でも始まるのかという構図が昼休み終わり後の保険室の隅っこに出来上がった。

 未来は冷夏に質問する。

 

「なにが始まるんですか?」

 

「あなたは今日が保険室通学初めてだからわからないよね。実はね」

 

 取り仕切り役の冷夏は優しく説明する。

 

「実は、保険室通学といってもアカデミアに通う以上学生にはある程度の"履修"を行ってもらうことになってるの」

 

「え?」

 

「"出席日数"が取れても"学力"が追いつかなければそもそも進級、卒業ができないでしょ? 授業に出席できない生徒はやはり授業を受ける生徒に比べて学力面で遅れてしまう……だから一応、わたしがキミたちの先生として、昼休み以降の時間はお勉強を教えることになってるの」

 

 なるほど、と未来は理解を示した。

 冷夏は続ける。

 

「だから、昼休みからは少しだけわたしと一緒に勉強をしてもらうわ。……嫌かしら?」

 

 とんでもない、とばかりに未来は冷夏の言葉を否定した。

 

「い、いえ、 そんな」

 

 不登校児ということで勘違いされがちだが、未来は勉強自体は好きだ。

 飽くまで周囲の生徒との交遊関係に四苦八苦しているのが根本の原因なのであり、アカデミアに通うこと自体を苦に思っているわけではないので勉学に励むこと自体は寧ろ進んで行っていきたいというのが彼女の考えだ。

 

 幸い、同席者の"上級生"も悪い人物ではなさそうだし──気付かれない程度に星宮を横に覗いた未来がぶつ切り言葉の、たどたどしい口調で冷夏の頼みを承諾する。

 

「わたしは、全然、やりたいです」

 

「ありがとう」

 

 にっこりと微笑んだ冷夏が笑顔を返す。

 ──というわけで早速、美人の保険医が"今日"の授業の内容を説明した。

 

「さて、今日の授業なんだけど」

 

 青峰冷夏が事前に用意していた"カードの束"を取り出した。

 今まで沈黙(サイレント)に務めていた星宮が反応する。

 

「デッキ?」

 

「今日の午前、キミたちのクラスではそれぞれ"あるテスト"が行われたんだけど、そのテスト、"何"のテストかわかるかな?」

 

「……?」

 

 冷夏の促すような問い方に未来が疑問符を浮かべた。

 なんのことだろうか。表情にあまり出さない程度に悩む未来に対して対面席の星宮はすぐにその答えにありついた。

 

「デュエルの"実技"テストっすね」

 

 ああ、と得心を得る未来の横で「正解」と冷夏が星宮に花丸採点を贈った。

 当の解答者である星宮は特に舞心した様子もない。

 沈着冷静、どうやらこれが彼の基本的な性格のようだ。未来はそう察する。

 

「その通りよ。だから、"保険室通学組"であるキミたちを除いてアカデミアの生徒はみんな"実技採点"を終えたわけ。となると、(こん)テストで実技評価の採れていない生徒は星宮くんと未来ちゃんの二人(ふたり)だけになったわけで」

 

 つまり──保険医の云わんとする部分を未来は察した。

 

「もしかして、今からわたしたちも"実技テスト"を行うんですか? 今ここで?」

 

「そうよ、わたしの前でね。ごめんなさい、アカデミアの先生方からそうするように頼まれてるの」

 

 取り出したデッキを下げた冷夏が続ける。

 

「今回、ふたりにはわたしの前でデュエルをしてもらうわ。今日はわたしがキミたちの実技の先生役、採点者としてキミたちの実力を測らせてもらいます。それが今日の"お勉強"」

 

 

 ──というわけで、長机を境に向かい合い、臨時的な実技テストを執り行うことになった星宮と未来は、それぞれ持ち前のデッキを取り出し、一応の勝負をすることになった。

 今回は卓上デュエルの形式だ。

 ドサッ……と空気を揺さぶらんばかりに置かれた星宮の"重厚な山札"にふと視線を向けた未来は密かに驚く。

 

("60枚"デッキ……!? )

 

 デュエルモンスターズの山札、つまりデッキは総枚数"40枚以上60枚以下"で組むのが絶対である。

 つまり下限が40枚で上限が60枚。出来るだけ下限に合わせてデッキを構築するのがこのゲームのセオリー。何故ならそちらの方が安定して戦略の軸となる狙いのカードを引き込めるからだ。

 

 逆に言えば上限に近い枚数で組む程"戦略の展開"は安定しなくなる。

 

 したがってわざわざ"上限"に合わせてデッキを組む理由は普通はないのだが──同じく"40枚"のデッキを右手側に置いた未来は思考する。

 

("素人"……?)

 

 いや、様々な関門を突破してきたはずの上級生である星宮が素人であるはずがない。

 未来はその可能性を否定する。

 

(なら"そういう構築"? ……あるいは──)

 

 星宮の右手が分厚い山札の頂点を引きにかかる──。

 

 

(──よっぽど"引き込む(ドロー)"力に自信があるか)

 

 

 推察の最中、星宮綾人と金戸未来の"模擬決闘"は始まった。

 

 

「オレのターン!」

 

 先攻は星宮となった。

 手札に納められた5枚の手札が扇状に開かれる。

 開始の第一手、"レベル3の植物族モンスター"を切り捨てた星宮がとあるモンスターを展開した。

 

「オレは"ダンディライオン"を墓地に送り、"クイック・シンクロン"を特殊召喚!」

 

 カードに描かれたイラストはテンガロンハットを目深に被った小型のロボットのモンスターだった。機械族だ。

 額縁の中に描かれたクイック・シンクロンは三色の"信号機(ターレット)"を輝かせながらピストルを構えている。

 

「クイック・シンクロンは手札のモンスター一枚を墓地に送ることで特殊召喚できる」

 

 それだけではない。

 更に墓地に送られたダンディライオンの効果が起動することを未来は知っていた。

 

「そしてダンディライオンの効果。墓地に送られた時、"綿毛トークン"を2体フィールドに特殊召喚する」

 

 ふよふよと二本の綿毛が星宮の場に浮く……というイメージを未来は感じた。

 昨今デュエルといえばソリッドビジョン端末を利用した形式が多いがこれはこれでかえって新鮮だ。両手で扇状に開いた手札を持つ未来は彼の慣れた手捌きを見ながら内心そう感じていた。

 

 星宮の展開は続く。ここでようやく"召喚権"が消費された。

 

「そして更に"チューニングサポーター"を召喚」

 

 チューニングサポーター レベル1 攻撃力100。

 

 星宮の召喚してきたその"矮小"なモンスターを見て思わず未来の本音が出た。

 

「可愛い」

 

「えっ」

 

「あ、いや、すみません……どうぞ」

 

 チューニングサポーター。

 その名の通りシンクロ召喚における"調整(チューニング)"役を担うモンスターで、自身をシンクロ素材とする場合に"レベル2"扱いとする事が出来る臨機応変な能力を持っている。

 ヘルメット代わりになぜか中華鍋を被っているという少し変な小型のロボットモンスターなのだが、逆にそれが未来の抱く"シュールレアリズム感"のツボを突いてきて本音が漏れてしまったのが先程の結果だ。

 

 周囲への淡白な振る舞いから勘違いされがちだが彼女は結構可愛いもの好きである。

 ──そんな未来の意外な発言に調子を崩された星宮が再度気を取り直し、戦術展開に臨む。

 

「……それじゃあ、レベル1"綿毛トークン"とレベル2扱いとした"チューニング"サポーターに、レベル5"クイック・シンクロン"をチューニング!」

 

 改め直した星宮が"シンクロ召喚"への準備に出る。

 同調の輪を形成したシンクロンが2体のモンスターを包み込んだ。

 

 

「集いし希望が、新たな地平へ誘う。導きをかけて──光差す、道となれ!」

 

 

 Y字型の鉄剣を携えた"黄金の機械戦士"が星宮の場に降臨する。

 

「駆け抜けろ、ロード・ウォリアー!」

 

 攻撃力3000、レベル8の大型モンスターがデュエルの序開(じょびらき)早々登壇を果たす。

 星宮がどこか得意げに表情を浮かべる一方で──次の瞬間、ふたりの間で対戦を眺める保険医の青峰冷夏が腹を抱えるようにして大笑いを起こした。

 

「──アッハハハハ!」

 

「えっ!?」

 

 いきなり謎の大爆笑を起こされ意表を突かれた星宮が、糸に引っ張られるようにして笑い上げる冷夏の方へと振り向いた。

 未だ笑いの退かない保険医。

 対してなぜ笑われたのが理解できない星宮に、なんとか笑いの感情治まってきた冷夏はそんな星宮に向かって(わけ)を説明しはじめた。

 

「いやだって星宮くん、"デュエルディスク"も使ってないのにわざわざ大声で"口上"を読み上げる必要なくない?」

 

 しばらくの思考停止。

 笑われた原因を理解した星宮が頬を紅潮させて赤面する。

 

「あっ……」

 

「"召喚口上"や"技名の宣言"っていうのは飽くまで述べたキーワードをデュエルディスクに"識別 "してプログラムの実行処理をしてもらうものであって、あらかじめ自分でカードを手繰る卓上(テーブル)デュエルでは何の意味もないじゃない」

 

 現在のデュエルディスクは特定のキーワードを音声認識してプログラム処理を実行するようになっている。

 "ジャンク・ウォリアー"を例に挙げるなら"集いし星が~"に始まる召喚口上を述べれば場の素材を消費してエクストラデッキからシンクロ召喚されるように処理されたり、攻撃宣言も技名の"スクラップ・フィスト"を叫べばそれで攻撃宣言の"確定"が行われたことになる。

 "モンスター効果の発動"も同様で"技名"を宣言すれば発動処理されるものであり、例えるなら"ニトロ・ウォリアー"の表示形式変更連続攻撃効果"ダイナマイト・インパクト"が良い例である。

 

 つまり、"召喚口上"や"技名の宣言"には"カッコいい謳い文句"以外にも大切な意味があり、元々機械端末に慣れないデュエリストの"誤入力"を防ぐ為に用意された補助機能だった。それが段々と様式美となっていって伝統化、定着化していった背景が存在するのである。

 したがってデュエルディスクを使わない形式の現在行われている卓上勝負においては(なん)ら意味のない行為であり──。

 

「──ああぁぁぁぁ…………」

 

 穴があったら、入りたい。

 ソリッドビジョン形式に慣れ過ぎた決闘者としての癖、一種の職業病に苛まれて自爆する少年がそこにいた。

 両手で顔を塞ぎ込み、小恥ずかしい感情をひた隠しにする星宮。

 そんな彼を、両手で持つ手札の内側から見上げるように覗き見る彼女、金戸未来は──。

 

 彼を笑うようなことは、しなかった。

 

「終わりですか?」

 

「えっ? ああいやいや」

 

 感情の色合い淡白な未来の催促を受けて星宮が再び気を取り直した。

 冷静沈着に見えて案外ドジというか、年相応の"少年らしさ"を垣間見た未来は密かに予感する。

 

 この人、"雛宮おねえちゃん"に近い人物かもしれない、と。

 

「え、えっと、"ロード・ウォリアー"の効果」

 

 黄金の機械戦士の効果によりレベル1チューナー"ジェット・シンクロン"がデッキより特殊召喚(リクルート)された。

 どうやら"機械戦士(シンクロン+ウォリアー)"が星宮のデッキコンセプトであるらしいと未来は推察する。

 

 そこからの展開は中々に苛烈であった。

 

 まず星宮は呼び出した"ジェット・シンクロン"と余っていた"綿毛トークン"で再びシンクロ召喚を執り行い、レベル2シンクロチューナー"フォーミュラ・シンクロン"を場に呼び出しその効果により1枚の補充(ドロー)権を獲得し更に素材となったジェット・シンクロンの効果で"ジャンク・シンクロン"を山札より手札に加えた。

 "噴出機(ジェット)"が役目を終え"廃品(ジャンク)"になるという暗喩だろうか。カード間にある背景の繋がりを眺める未来は邪推する。

 

 そこから更に"ロード・ウォリアー"に"フォーミュラ・シンクロン"が掛け合わされて"スターダスト・ウォリアー"が場に到来する事となる。

 未来も好きな"破翼の白竜(スターダスト・ドラゴン)"の意匠を受け継ぐ戦士族モンスターだ。

 kc社に務める手前、未来もそのモンスターの存在は知っていた。

 

 あれは不動遊星の活躍を記念して製造された"ふたつの能力"を秘めたモンスターだ。

 

(自身をリリースすることで相手の"特殊召喚"行為を無効にするモンスター……しかも"エンドフェイズ"にまた自己蘇生して戻ってくる……)

 

 少し厄介なモンスターだ。未来はそう思う。

 更にいえば"あれ"には"特殊召喚無効効果"の他に"破壊された際に新たなウォリアー"を呼び出す効果と3000という高い攻撃力がある。

 

 しかも──。

 

「──オレはカードを"3枚"セットして、ターンエンドだ」

 

 この上、後ろに3枚の伏せ札である。

 恐らく向かい来る相手を撃墜、妨害するための"仕込み札(トラップ&マジック)"、ただでさえ厄介なモンスターが立ちはだかっているというのにその布陣を超えるのは生半可な心構えでは叶いはしない。

 

 星宮の残り手札"2枚"。

 彼は"先攻1ターン目"にして堅牢堅固な布陣を築き上げてきたのである。

 

(強い……この人……)

 

 職業柄、様々な決闘者を見てきた未来だが、恐らく今まで出会ってきた人間の中では一番の強敵。

 初手の第1ターン目で"頑強の守り"を固めてきた星宮を見て対峙する未来は確信を抱く。

 

 この"お兄ちゃん"、自分に匹敵するほどの実力の持ち主だと。

 

「わたしのターン」

 

 未来の声音はそれでも淡白に務めていた。

 山札より1枚補充、初手枚数は6枚、後攻のターンが始まる。

 

 彼女が初手に呼び出したのは"ゼンマイネジ"式の兎のモンスターだった。

 

「"ゼンマイラビット"を召喚」

 

 ゼンマイラビット レベル3 攻撃1400。

 

「あら、可愛い」

 

 ブリキ製の赤塗装の兎が描かれたそのイラストを見て、ふたりの間で採点シートを書き込んでいた冷夏が反応した。

 同じく対面する星宮も声に出して関心牽かれたように反応する。

 

「へぇ、やっぱり可愛いモンスター使うんだな」

 

 星宮の使用する小型ロボットモンスターとはまた違った愛くるしさである。

 

「さすが、"妖精伝姫シラユキ"をデザインしただけある」

 

 ふとした星宮の発言に隣の冷夏が興味ありげに反応した。

 

「え、そうなの?」

 

 星宮から未来の方へと視線を切り替えた冷夏が尋ねるように彼女に聞いた。

 

「"カードデザイン"の仕事を請け負ってるとは聞いてたけど、あんな可愛いカードまで描いてたんだ」

 

「え? あ、まあ、はい……」

 

「へぇ」

 

 次の瞬間、何気なく冷夏が放った他意のない、純粋無垢な褒め言葉が──未来の心の奥底に未だ抱き続ける、"2年前の想い出"を引き出すきっかけとなった。

 

「あんな綺麗な絵を描けるなんて、やっぱりあなたは"天才"なのね」

 

 

 ──模擬決闘に臨む少女の表情が、固まった。

 

 

「……?」

 

 星宮が懐疑的に柳眉を動かす。

 

「どうした?」

 

 "わたし、初めてこういう絵を見て感動した"。

 

「…………」

 

 "あまり教科書で見るような絵は身に馴染まなくて……でもこの絵はちがう。芸術に疎いわたしでも素直に感動できたぐらい素晴らしい絵だった"。

 

 "この絵を描いた人は間違いなく天才だと思う"。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 "あの絵を描いたってほんとう?"

 

 "モ、モモモ……モデル?"

 

 "すももじゃなくて?"

 

 "15本目、わたし"甘党"なの"。

 

 

「────」

 

 

 過去の残照が、未来の心の中に蘇ってゆく。

 

 ──"ここが、わたしの作業場(アトリエ)"。

 

 ──"そう、いつも描いてる"。

 

 ──"さあ、入っておねえちゃん。画架(イーゼル)の前にソファを用意するからそこに座って"。

 

 ──"じゃあ描きはじめるね"。

 

 ──"あはははは"!

 

  

「──────」

  

 

 ──あの時ほど素直に笑えたことはない。

 あの時ほど笑顔で誰かと話せたことはない。

 

 "雛宮聖華"。

 二年前、淡白な金戸未来が唯一懐いた、"もうひとりの姉"。

 

 

「──ねぇ、ねぇ、聞こえてる!?」

 

「──!」

 

 保険医の強い呼びかけで意識を"現在"に振り戻した未来が目の前にある確かな"現実"へと戻ってきた。

 ハッ、と眠りから覚醒したように目を見開き表情を震えさせた少女が対面の星宮の姿を捉え受ける。

 保険医だけでなく目の前の少年の表情も少女への心配をあらわにしていた。

 

「だいじょうぶか?」

 

「調子が悪いなら、今日は休んでもいいのよ?」

 

 少女を心配したふたりの言葉が未来へと投げ掛けられる。

 どこか消沈するような表情をみせた銀鼠色髪の少女だったが、その様子に反して彼女は模擬決闘の続行を保険医の冷夏に向かって告げた。

 

 空元気の強がりである。

 

「……だいじょうぶです。最後まで続けますから」

 

「……わかったわ。でも、本当にダメな時はわたしに言ってね」

 

「はい」

 

 保険医の言葉を聞き入れ、再び目の前のデュエルに集中するように──深呼吸する。

 小さな胸を大きく膨らませ、精神を整えるように気持ちを落ち着かせた少女が再び5枚の手札に目をやり戦局を整え始めた。

 伏せ札を1枚、2枚──3枚セット。取り敢えず迎撃用の妨害札はこれで良いはずだ。

 そして少女が次にある"フィールド魔法"を発動しようとしたとき──。

 

 彼の"携帯端末"が、鳴ったのである。

 

「あっ」

 

 とあるフィールド魔法を場に置きかけた未来の意識が、対峙する星宮の方へと引っ張り上げられた。

 こんな大事な時に"携帯電話"の軽快な着信音を、故意ではないとはいえ鳴らしてしまう星宮を保険医の青峰冷夏はささやかに叱責する。

 

「こら、星宮くん。きちんとマナーモードに」

 

「す、すみません……」

 

 叱りを受けた星宮が苦笑混じりに顔を引きつらせながら着信相手の名前を覗く──すると。

 

「あっ」

 

 端末画面に表示された相手先の名前を見た星宮が小さな声を挙げる。

 さも奇妙なタイミングでかかってきたその着信相手の名前は、星宮にとって"ある重要な人物"の存在を示していた。

 焦りをみせた星宮が冷夏に聞く。

 

「すみません、ちょっと出ていいですか」

 

「……ちょっとだけよ」

 

 次に対戦相手の未来にも星宮は承諾を取った。

 

「いいかな?」

 

「い、いいですけど」

 

 少し呆気にとられた未来が返す。

 無事ふたりの承諾を得た星宮がその場で携帯電話の着信に出た。

 耳に端末をあてがった星宮が明るい表情を浮かべて接する。

 

「お久しぶりです、数週間ぶりっすね」

 

 出だしの挨拶を終え、話しを続ける。

 

「え、"明後日"? 土曜日ですか?」

 

 どうやら誰かからの"お誘い"の電話のようだ。

 ──"誰"だろう? ふと邪推した未来は星宮の電話先の人間が気になった。

 

「へぇ、"ペアチケット"を牛尾さんに。いいっすね」

 

 "お誘い"を受けた星宮が好色を示して承諾する。

 

「いいっすよ、行きましょう。はい、はい」

 

 そして次の瞬間──。

 

「じゃあ、"明後日の土曜日"っすね。それじゃまた──」

 

 

 物理的に"星宮綾人"と"おねえちゃん"が近い存在であることを、少女"金戸未来"は察するのである。

 

 

「──"雛宮"さん」

 

 

 その"名前"を聞いた瞬間、"過去の残照"に目を伏せる未来の頭がゆっくり持ち上がった。

 

 

「────えっ……?」

 

 

 動揺に揺れる赤い瞳が、少女の感情を表していた。

 

 よもやこんな場所で"彼女"の手がかりの断片を手に入れるとは、少女も予想していなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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