遊戯王5D’s 治安維持局特別対策室   作:ピクサ

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第15話

 

 

 

 ──親友を失った日、オレは"魂"を捨てた。

 

 代わりに"絶氷"を心にやどしたのは、

 

 流れる涙さえ凍てつかせてしまえば、平静を装えると思ったからだ。

 

 悔恨の心には"絶対零度"を。

 

 

 だが。

 

 

 ときには絶氷を融解させるほどの、"絶対熱"を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──薄茶のレースカーテンを押し退けて入り込む突き刺すような固い風が、銀鼠色の髪を揺らした。

 無造作に揺れ、風に流れる長髪が彼女の尖らせた表情を彩る。

 怒りと闘志、覚悟に据えられた眼差しが星宮の姿を射抜く。

 白肌の上に浮かぶ"赤燐色の瞳"がまざまざと研ぎ澄まされていく様子が周囲の人物にはよくわかった。

 

「どうしますか」

 

 少女、金戸未来は問う。

 

「わたしの要求した条件──呑みますか?」

 

 そばで見る保険医、青峰冷夏は心配げに星宮を見る。

 

「星宮く──」

 

 しかし。

 

「──?」

 

 その彼の表情が思いの外落ち着き、冷静であったのは保険医からすれば意外であった。

 

「星宮くん……?」

「……」

 

 少年が口を開く。

 

「いいだろう」

「──!?」

 

 唖然とする冷夏の横で、静かに、冷静に、素直に少女の要求を承諾する星宮綾人の姿がそこにいた。

 少年の様子に動揺はなかった。

 

 まるでただの一滴も波紋の揺れていない、静寂の水面のような面構えがそこにあった。

 

 茫然と星宮を見つめる冷夏は考える。

 

(こんな横暴な条件を受けるというの……!?)

 

 仕切り役として二人の間で様子を眺めていた冷夏からすれば金戸未来の要求は無茶苦茶も良いところであった。

 "負けたら潔く諦める"。

 "勝てばその人物のことを教えろ"。

 なんら星宮側の事情を考慮していない、なおかつ、星宮側になんの"徳"も存在しない、まさしく"横暴"かつ"傲慢"極まりない、言ってみれば"我が儘"でしかない条件であったのだ。

 

 それを素直に受け入れた少年の意図が冷夏には掴めないでいた。

 どうしても"打算的"な考え方を拭い捨てられない冷夏は星宮の行動の理由を強く考えてしまう。

 

 "いったい、どうして──?"

 ──目の前の"子供"たちを疑問に見やる冷夏のその一方で、その"子供"たちの決闘は進行した。

 

「で?」

 

 少年、星宮綾人が率直に聞いた。

 

「それでターンエンドか?」

 

 少女、金戸未来も至って冷静に返した。

 

「……聞かないんですか」

「なにがだ?」

「カードの効果」

 

 先ほど発動したフィールド魔法"アンデットワールド"と墓地に埋葬したレベル8モンスター"死霊王ドーハスーラ"を指して少女は述べる。

 

「初めてみるカードですよね? 聞かなくて良いんですか?」

 

 すると星宮はちいさく鼻で笑った。

 

「……?」

 

 嫌味というほどではないが──どこか少女の発言を"愚問"と罵るように面差しを緩めた星宮は、疑問に目を丸くする少女に放りかえした。

 

 "アンデットワールド"と"ドーハスーラ"はまだ市場に流通していないカードであった。

 

 つまり──"公式的"なカードではない。

 

「もったいない気がしてさ」

「……はい?」

「初めてみるカードだからこそ、"決闘の最中"で体験してみない。そうじゃなきゃ──」

 

 少女側のタイムカウントが、ゼロに近づく。

 少年側の手が、山札に引きかかっていた。

 

 

「──面白くない!!」

 

 

 少女側の持ち時間が無くなり、少年側にターンが移った。

 

 挑戦的な面持ちで、どこか楽しむように勢い良く山札のカードを引いた星宮が対戦者の未来を呑み込もうと勝負に差し迫る。

 

 彼の碧色の瞳には"冷刃の輝き"が宿されていた。

 

「──っ……!?」

 

 怒気ではない──迫り来る"疾走感"。

 大寒波の如く押し寄せる少年のその"迫力"は一挙に銀鼠色髪の少女を呑み込んだ。

 

 まるで冷気の顎門(あぎと)に捕らえ喰い付かれたようだ。

 

 微かながらに産毛が逆立つ感覚。

 心中から底冷えするような血潮の退く感触。

 ドロー。

 スタンバイ。

 メイン──。

 

 ──少年の謎の迫力に気圧されかけ過ぎ去る"スタンバイフェイズ"のタイミングを逃しかけた少女は思わず少年に"待った"をかけた。

 

「ま、待って!」

 

 "スタンバイフェイズ"にタイミングを巻き戻した少女は"カードの効果"の発動宣言を果たした。

 

「し、"死霊王ドーハスーラ"はお互いのスタンバイフェイズ時、"フィールド魔法"が場に存在する場合墓地より守備表示で"蘇生"することができる!」

 

 "僧杖を抱く黒鎧の王蛇"の描かれたモンスターカードが守備表示で少女の場に特殊召喚される。

 レベル8、アンデット族、その守備力"2000"。

 ──それがどうした。

 

 なおも"戦車(チャリオット)"の如き少年の勢いは止まらない。

 

「──バトル!」

 

 メインフェイズなど飛ばしてそのままバトルフェイズ。

 つい数秒前に自己蘇生したドーハスーラに向かって少年は"スターダスト・ウォリアー"をけしかけた。

 

「"スターダスト・ウォリアー"で、"死霊王ドーハスーラ"に攻撃!」

 

 "星屑の戦士"の"流星の拳"が、"髑髏の支配者"に差し迫る。

 

「──ブラスティング・フィストォ!!」

 

 スターダスト・ウォリアーの攻撃力は3000。

 死霊王ドーハスーラの守備力は2000。

 結果はスターダスト・ウォリアーの勝利となる。

 だがみすみすと彼の攻撃を通す少女ではない。

 慟哭しながらも手捌きを忘れない少女が"ブリキの赤兎"に指示を下す。

 

「ゼ……"ゼンマイラビット"の効果!」

 

 ──間で勝負を覗く冷夏が疑問に目を丸くした。

 

(──ここで……?)

 

 冷夏は"ブリキの赤兎"の内包するその"特徴的な能力"の詳細を知っていた──だからこその疑問。

 

 このタイミングでその"効果"を発動する理由は冷夏が考えるに存在しないのだ。

 ──少女の叙説は続く。

 

「ゼンマイラビットは"相手や自分のターン問わず"、自分の場の"ゼンマイ"と名のつくモンスターを指定することで!」

 

 "ブリキの赤兎"が、虚空へと消える。

 

「そのゼンマイモンスターを"次の自分のスタンバイフェイズ"まで、"ゲームから除外"する!」

 

 ゼンマイラビット。

 相手のターンでも場の"ゼンマイ"モンスターを一定時間"ゲームから除外"することができる"獣戦士族"の種族を持つモンスター。

 いわゆる"緊急退避"の能力を持つモンスターで、自らにその能力を施すことで敵からの攻撃を"回避"するまさしく"跳ね兎"のような能力を持ったモンスターである。

 

 それゆえに、"ドーハスーラ"の狙われたこのタイミングで"緊急退避"を行う意味はないと冷夏は考えたのだが──。

 

 ──カードを操る当の少女の思惑には続きがあった。

 

「──そして、この瞬間!」

 

 次の瞬間、冷夏は我が耳を疑うことになる。

 

「"アンデット族"のモンスター効果が発動したことにより、"死霊王ドーハスーラ"の効果が起動する!」

 

 保険医の細い眉が、ささやかに動く。

 

「えっ!?」

 

 驚愕に見舞われた冷夏が思わず少女の謎の発言に声を挙げた。

 

「"ゼンマイラビット"が、"アンデット族"!?」

 

 そんなはずはない。ゼンマイラビットはレベル3の、"獣戦士族"モンスターのカテゴリに属するカードだったはずだ。

 そもそも見た目からして"腐敗者(アンデット)"の要素は微塵も感じられない。

 正直"ブリキの赤兎"をして獣戦士族とするのも釈然としないものだが、"アンデット族"は更に釈然としない解釈だ。

 ならばなぜ。

 

 それに冷夏が感ずいたのは少女の場に発動された"フィールド魔法"に視線を落としたからだった。

 

 紫煙噴き上げる鮮血色の池。

 積み上げられた髑髏の山々。

 暗紫色に染まった天蓋。

 

「なるほど──」

 

 同じく"フィールド魔法"の"影響"を察した少年が、彼女の場に視線を落として述べた。

 

「"本質を腐敗させる世界(アンデットワールド)"、か」

 

 少年の明察を受けた少女が淡々と答える。

 

「その通り」

 

 まさしく"イラストデザイナー"という肩書きの通り──。

 

「フィールド魔法"アンデットワールド"は、"場"と"墓地"のモンスターの"本質"、その種族を──」

 

 ──少女は"種族"を"描き変えた"。

 

「──例外なく"アンデット"という色に塗り潰す」

 

 つまり──冷夏は少女がこのタイミングでゼンマイラビットを除外した理由を把握した。

 

("ゼンマイラビット"を……"ドーハスーラ"の引き金(トリガー)に!)

 

 フィールド魔法"アンデットワールド"の影響によりゼンマイラビット、及びスターダスト・ウォリアーは"アンデット族"へと変更された。

 したがってゼンマイラビットは"死霊王ドーハスーラ"の効果を起動させる"引き金役"になったらしい事が冷夏の目にわかる。

 しかもゼンマイラビットの効果は自由なタイミングで発動可能な能力。

 

 つまりいつでもドーハスーラの"撃鉄"を起こせる"引き金"と化したということになる。

 

 そして、その"死霊王ドーハスーラ"の肝心な効果とは──。

 

「ドーハスーラ、第一の効果」

 

 少女の無情な宣告が、少年の使役する"スターダスト・ウォリアー"に襲いかかる。

 

「アンデット族モンスターの効果が発動したとき、場か墓地のモンスターを1体を"ゲームから除外する"」

 

 星屑の戦士が、僧杖からほとばしる暗黒に包まれる。

 

「黒く塗り潰れろ──"ブラックアウト"!!」

 

 ちいさく苦悶の声を挙げる少年も空しく、スターダスト・ウォリアーは拡大し縮小する暗黒に呑み込まれ虚空へと散っていってしまった。

 

「くっ──だが」

 

 ──戦場に微かに残った緑粒子が、輝きを始める。

 

「"スターダスト・ウォリアー"のモンスター効果。このカードが相手の効果によりフィールドを離れた時──」

 

 わずかばかりに場に残留した"星屑の輝き"を橋がかりとして、少年は新たな"ウォリアーシンクロ"をエクストラデッキより取り出した。

 

「その"残り香"をシンクロ素材として、新たな"ウォリアー"モンスターをシンクロ召喚できる!」

 

 "スターダスト・ウォリアー"の残照が、翡翠色の同調輪を作り上げる。

 

「集いし心が、音速の風と成るとき」

 

 同調輪の中を駆け抜ける光が、"黒鉄の主翼を持つ機械戦士"の陰影を映し出した。

 

「風は"黒鉄の翼"となりて、ここに新たな"魂"となる! ──光差す、道となれ!」

 

 少年の声と共に、"黒鉄の機械戦士"は場に到来する。

 

「シンクロ召喚──噴き上がれ、"ジェット・ウォリアー"!」

 

 

 ジェット・ウォリアー。レベル5、炎属性戦士族。攻撃力2100。

 

 

「"ジェット・ウォリアー"のモンスター効果! ジェット・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時」

 

 少年の効果発動宣言により、黒鉄の機械戦士が主翼に取り付けられた"噴出機"を駆動させて、甲高い音を鳴らし始めた。

 

「相手フィールドのカードを1枚手札に戻す事ができる! ──ジェットストリーム!!」

 

 噴出機より放出された螺旋の大竜巻。

 主翼の下部に取り付けられた、双方の噴出機より発射された"熱風の双刃"が黒鎧の王蛇を吹き飛ばしにかかる──しかし。

 

 ここてドーハスーラ"第二の効果"が少女の冷徹な声によって宣言された。

 

「"アンデット族"のモンスターの効果を発動させたね」

 

 ジェット・ウォリアーは現在"アンデットワールド"の効果により、"戦士族"という本質を塗り潰され"アンデット族"と化している。

 

「ドーハスーラ、"第二の効果"。アンデット族モンスターの効果が発動した時」

 

 掲げられた僧杖から、今度は閃光がほとばしった。

 

「そのモンスターの効果を"無効"とすることができる! 脱色能力──"ホワイトアウト"!!」

 

 敢えなく発射した竜巻を杖先からほとばしる閃光に弾き飛ばされ、黒鉄の機械戦士は月並みの打点を残すばかりとなってしまった。

 その攻撃力は"2100"。レベル5の上級モンスターとしては少し頼りないと言わざるを得ない。

 

 しかし守備表示のドーハスーラにはわずか"100"ばかり(まさ)っているのも事実であった。

 

「──バトルだ! "ジェット・ウォリアー"で、ドーハスーラを攻撃!」

 

 蒼炎噴き上げる背面スラスターの勢いに任せて肩を突き出した機械戦士が黒鎧の王蛇の五臓六腑を穿ち抜く。

 

「"バーストチャージ"!」

 

 ──敢えなく貫かれ撃破された死霊の王は再び墓地に眠った。

 しかし、

 

 黒鎧の王蛇が再度、瞬く間に復活するのは時間の問題である。

 

「"ドーハスーラ"をいくら屠ったところで、フィールド魔法がある限りその魂は眠らない……」

 

 冷ややかに少年を挑発する少女は手段を迫ってみせた。

 

「次のターンにはまた復活するよ──さあ、どうするのかな。星宮さん」

 

 しかし──星宮の手は止まるどころか。

 

「──……!?」

 

 音速の如き速さで新たに掴まれた手札の1枚が既にフィールドに差し込まれようとしていた。

 

 彼女が(まばた)きした瞬間の出来事である。

 

「メインフェイズ"2"! オレは──!」

 

 疾駆の速さで場に召喚されたあるカード。

 

 その正体は、先効のターンに"ジェット・シンクロン"の効果で手札に加えられた"あるモンスター"の姿であった。

 

「レベル3チューナー、"ジャンク・シンクロン"を"通常召喚"!」

 

 "そうか、まだ召喚権を残して!" ──走馬灯のようにめまぐるしく場面が展開する中、そう言いたげに驚く少女の表情がワンシーンに伺えた。

 

「ジャンク・シンクロンの効果、このカードが召喚に成功した時、"レベル2以下"のモンスターを墓地より選んで守備表示で特殊召喚できる! オレが復活に選ぶのは──」

 

 外装の凹んだ、橙色のロボットがリコイルスターターを引っ張りあげ、サルベージアンカーを地面に放り投げて"とあるモンスター"を墓地より引っ張りあげにかかる。

 その埋葬されたモンスターとは──。

 

「レベル1モンスター、"チューニングサポーター"だ!」

 

 少年の場に並んだカードは──。

 

 レベル5、"ジェット・ウォリア"ー。

 レベル3、"ジャンク・シンクロン"。

 レベル1、"チューニングサポーター"。

 

 ──ある"絶氷"の予感に勘づいた少女は、すかさず伏せ札に真っ白な手を動かした。

 

「やらせない──!」

 

 中華鍋を被ったロボットが地中より到来を果たした瞬間を捉えて、少女は仕込み札の一枚を開く。

 

 "貯水地"に蓄えられていた"激流"が腐敗の大地に強くほとばしる。

 

(トラップ)カード──"激流葬(げきりゅうそう)"を発動!」

 

 大地を推し進み一挙に押し寄せる高波の潮流が、3体のロボットモンスターたちを捉え喰らいついた。

 唸り潮を巻く蒼の激流が、呑み込んだモンスターの外装を剥がし骨身を砕いて水圧で粉々に押し潰してゆく。

 瞬く間に高潮が退いた先には既に少年の使役するモンスターたちの姿は跡形もなくなっていた。

 

 対して少女の2体のモンスターは津波からはとっくに"避難済み"──なるほど。

 

 自分のモンスターにだけ"避難勧告"を出していた少女に少年は思わず称賛の苦笑いを浮かべてしまった。

 

「さすがじゃないか」

 

 少女の代わりに少年は"激流葬"の詳細を述べる。

 

(トラップ)カード"激流葬"はモンスターの召喚に反応する、味方敵問わず場のモンスターすべてを跡形もなく破壊する"全壊"のカード。けれどその全壊は自分のモンスターを"退避"させる効果と組み合わせることで軽減ができる」

 

 フィールドから既に"避難"していた"黒鎧の王蛇"と"ブリキの赤兎"に星宮は視線をやる。

 

「墓地にいても次のターンに復活できる"ドーハスーラ"や、自由なタイミングでゲームから除外できて戻ってこれる"ゼンマイラビット"みたいにな」

 

「星宮さんこそ、(したた)かですね」

 

 今度は少女"金戸未来"が少年に言葉を返す。

 

「"ドーハスーラ"の効果をやり過ごした上で"トリシューラ"で"完全除去"にかかってくるなんて。"ジェット・ウォリアー"はその布石だったんですね」

 

 少女の推察通り、星宮は先ほど激流葬により粉砕された3体のモンスターを使って"氷結界の龍 トリシューラ"のシンクロ召喚

を執り行おうとしていた。

 "トリシューラ"には相手の場、手札、墓地のカードを1枚ずつゲームから除外できる能力がある。

 それを利用して墓地に埋葬された"ドーハスーラ"を取り除けば2度目の王蛇の復活を未然に防ぐ事ができるはずだった。

 しかし結果は有り様の通り"激流葬"。

 

 少女の仕込み札の方が一枚上手だったのだ。

 まだ少女には"2枚"の伏せ札が残っている──既に現在のゲームステップは"メインフェイズ2"。

 

 "バトルフェイズ"を行えない以上通常の手段では少女のライフポイントを削れないのは明白だった。

 

 なおかつ少年は既に召喚権を使用している──ここから展開するのは少し厳しい。

 やむなく"ターンエンド"の宣言を行う少年の姿がそこにあった。

 

 第3ターン目は少女側に白星がついたと言ってもいい。

 

「わたしのターン──」

 

 流れるように少女が山札の一番上を引きにかかる。

 

 空気を切り裂く音とともに、少女が戦局へ切り込みにかかった。

 

「──このターンで決める!」

 

 スタンバイフェイズ、墓地より再度"黒鎧の王蛇(ドーハスーラ)"が復活を果たす。

 続け様にメインフェイズ。

 空手の中に補充したカードを横合いに一瞥した少女は"勝利宣告"を果たしたのちそのカードを弧を描くようにして場に放り込んだ。

 

「わたしは魔法(マジック)カード、"アドバンスドロー"を発動! 自分の場の"レベル8モンスター"を墓地に埋葬し代わりに2枚ドローする!」

 

 更なる手札の補充を果たして少女はその小さな白い手に2枚のカードを握り込んだ。

 その内の新たな1枚が屍界に差し込まれる。

 

 そのカードには"二足で立つ黒い体毛の牛頭(ごず)の鬼"が描かれていた。

 

「"牛頭鬼(ごずき)"を通常召喚!」

 

 豪碗体躯を横軸にめいいっぱいに振るわれた牛頭鬼の大槌が腐敗した戦場の地を叩き鳴らす。

 

 牛頭鬼。

 山札(デッキ)に眠るアンデット族を揺り起こし、生者なき"墓地"へと誘う牛頭を持つモンスターだ。攻撃力は1700。

 少女が初めに発動した魔法カード"おろかな埋葬"に似た能力を持つモンスターといえる。

 

「"牛頭鬼"の効果。このカードは1ターンに一度だけ、デッキに眠るアンデット族を1枚墓地に"埋める"ことができる! わたしが送るのは……」

 

 瞬速的に山札より取り出される"球根"。

 牛頭鬼の黒鉄の大槌により上から叩かれ墓地に埋め込まれたその球根が。

 

 いま、発芽を果たして"赤い椿の花"を咲かせる。

 

「"グローアップ・ブルーム"! さあ、その赤椿の芳香(アロマ)で──」

 

 グローアップ・ブルーム。

 球根に赤椿の花を咲かせたアンデット族のチューナーモンスター。

 戦闘能力の存在しないまさしく"萌芽"の為の役割を持つモンスターであり、その役目は専ら墓地に"埋められる"ことにある。

 地中に埋められた球根が、死者たちの"魂の残骸"を吸い取りあげ、栄養とし、鮮血色の"赤椿"を咲かせると──。

 

 また新たな"霊魂"が、花の香りに(いざな)われるのである。

 

「──新たな"腐敗者(アンデット)"を呼び寄せよ!」

 

 "グローアップ・ブルーム"の特殊効果。

 それは。

 

 "アンデットワールド"の墓地に埋葬された際、山札(デッキ)より"レベル5以上のアンデット族モンスター"を場に特殊召喚するというものである。

 

「さあ、来て──わたしの内側に存在する、確かな"深紅色(クリムゾン)"!」

 

 疾走(はや)く、そして華麗に山札より引き抜かれた、"赤き外套を羽織る銀髪の女吸血鬼"が、鋭利な大鎌を携えて場に到来を果たす。

 

 

「"ヴァンパイア・グリムゾン"を、特殊召喚!!」

 

 

 ヴァンパイア・グリムゾン。レベル5、闇属性アンデット族。攻撃力2000。

 

 

「これは──」

 

 星宮が何かを察知したと同時に間で見る冷夏も気づいた。

 "ヴァンパイア・グリムゾン"。

 

 あれは場のアンデット族に実質的な"破壊耐性"を付与する死神のモンスター(グリムリーパー)だ。

 

(ヴァンパイア・グリムゾン。攻撃力2000、守備力1400のレベル5モンスター。けれど肝心な部分はそこじゃない)

 

 進行する決闘の様子を尻目に、冷夏は怪訝に目を細めて内心で呟く。

 

(──肝心なのは、あれがまさしく"主人(プレイヤー)"の"生き血"を吸って場のモンスターに"破壊耐性"を付与する"吸血鬼"だということ)

 

 ヴァンパイア・グリムゾンにはある特殊な効果がある。

 ひとつは"耐性効果"。自分の場のモンスターが破壊される場合、その破壊されるモンスターの数だけ"1000ライフポイント"を払う事で、その破壊を"なかった"ことにする効果である。

 ある種、生き血を代償に"破壊される"という事実を"塗り変える"能力であると言える。

 

 つまり少年は更に局面的に不利を強いられたということである。

 

 ──しかしそれ以上に気になる事が冷夏にはあった。

 

(内側に存在する、"深紅色"……)

 

 なんというか──絵具に(なぞら)えた発言が彼女には多い。

 

 本質を"塗り変える"カードだとか。

 黒く"塗り潰す"除外効果だとか。

 効果無効を"脱色"と表現したりだとか。

 

 グリムゾンに関しては露骨に"内側の紅色"と彼女は述べた。

 ということは──視線を少女に向けた冷夏は内心察する。

 

(これらのカードの数々が……まさしくあなたの"心"の"表れ"だというの……?)

 

 

 本質の腐敗した世界──そのフィールド魔法が意図する意味合いとはいったい──。

 

 

 ──そこまで考えた時、冷夏にある推測が立った。

 

(まさか──)

 

 ある"可能性"に気づいた保険医が、星宮の方を向く。

 

(あなたは最初から気づいていたの、星宮くん──?)

 

 ──なおも決闘は進行する。

 激流により更地となった少年の場。

 "三魂"の死霊が並んだ少女のフィールド。

 

 "グリムゾン"の刃が、少年に向かって突き立てられる。

 

「……これでもう、わたしの"腐敗者"たちは破壊されない……並大抵の"仕込み罠(トラップ)"では通用しない!」

 

 少女の進撃の掛け声により、それぞれの死霊は統制的な動きをとって更地の少年の場に進軍を始めた。

 

「バトル!」

 

 牛頭鬼を筆頭とした行軍が星宮綾人の陣地に攻め入る。

 

「まずは"牛頭鬼"で直接攻撃!」

 

 豪腕で横薙ぎに振るわれた大槌が、星宮の命をかすめ取った。

 ライフポイントが"2300"に降下を果たす。

 

「くっ──」

 

「"ゼンマイラビット"でさらに"ダイレクトアタック"!」

 

 次にブリキの赤兎が攻撃力1400の頭突きを喰らわした。

 持ち前の脚力を活かした突進が星宮の魂を強く叩く。

 少年のライフカウンターは更に"900"へと更新される。

 

 そして殿(しんがり)の"死神(グリムゾン)"が──。

 

「さあ、赤く"染まれ"! "深紅色(グリムゾン)"でダイレクトアタッ──」

 

 ──その進撃を泥中より立ち上がった"鉄十字のかかし"に止められた。

 

「──なっ──!」

 

(トラップ)カード、オープン!」

 

 潜ませていた仕込み罠のひとつを少年は立ち開かせた。

 

「"くず鉄のかかし"! このカードは相手モンスター一体の攻撃を止めた後、さらにもう一度フィールドに装填(セット)される!」

 

 グリムゾンの水平に振るった鉄鎌は敢えなく鉄十字に阻まれ、"ガキンッ"、と鈍くも甲高い音をアンデットワールドに大きく響かせた。

 赤い外套をはためかせながら、何度も大鎌を叩き込むが鉄十字は一向に倒れる気配はない。

 

「……"破壊"じゃない、攻撃を"無効"にするカード……」

 

 ──諦めるしかない。少女は勝利を目前にしてグリムゾンの後退を余儀なくさせられた。

 このターンの攻撃を諦めた少女は残りの手札を場に仕込んで少年にターンを渡す。

 惜しみざまの終了宣言が保険室に響く。

 

「……ターン、エンド……」

 

 "もう少しで、雛宮おねえちゃんに届いたのに"──そんな様子の少女。

 

 しかしなおも少女側の優位に変わりはないのは確かだった。

 

(さすがね……)

 

 少女の札捌き(カードプレイング)を見た冷夏は密かに分析する。

 冷夏は金戸未来の記録シート採点項目の"プレイング"の部分に"二重丸"をつけた。

 

(付け入る隙がないわ、まるで鉄壁の"要塞"を見ているみたい。"穴熊"と例えてもいい……入ってくるものを容赦なく叩き潰して反撃を仕掛けるその様はまさに"穴の中の怪物")

 

 "ドーハスーラ"と"仕込み罠"の相乗効果により相手に付け入る隙を与えず、自分が攻め入る際は"グリムゾン"で用意周到に"破壊耐性"を付与して理詰め的に相手の命を刈り取ろうとする姿勢。

 

 言うなれば"カウンタースタイル"。

 悪手を打つ相手ほど呑み込まれやすい少女の戦い様がそこにあった。

 冷夏は少女を見やりながら改めて思う。

 

(さすが、アカデミア中等部"最強"の女子生徒)

 

 美術館を持つ"画家"でもあり。

 上流企業専属の"イラストデザイナー"でもあり。

 なおかつ"デュエルモンスターズ"の腕前でも退けをとらない辣腕の決闘者(デュエリスト)

 

 まさに"才能"の塊。それゆえに──。

 

(たぶんこの子、なんでも手に入ってきたんでしょうね。だからこそ、手に入らないものに対しては……)

 

 ──"ちょっと、ワガママなのね"。

 少女の"欠点"を心中で突いた冷夏はそう"金戸未来"のことを評した。

 

 一方。

 冷夏は次に"星宮綾人"の方へとその審美眼を差し向けた。

 

(さて、アカデミア高等部"二番手"の星宮くん)

 

 興味の笑みと眼差しを浮かべた冷夏が期待を寄せる。

 

("赤掘"くんの二番手に甘んじていたキミは、ここからどういう風に逆転してくれるのかな。当然だけど──)

 

 今度は星宮綾人の"欠点"を、冷夏が心中で突く。

 

 

("不動遊星"の模倣のままでは、あなたは間違いなく負けるわ)

 

 

 "だって星宮くんがいま掴んでるそれは、あなたの本質(デッキ)ではないもの"──。

 

 ──試験官を務める保険医は星宮綾人という少年の内に潜む"成長の壁"を容易く見抜いてみせていた。

 

 

 

 

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