(さっきからこの感じ……この人、不動遊星と関わりがあるのか……?)
どうも先程から目の前の男、牛尾哲はあの不動遊星と接見を果たしているかのような発言をする。
まあ、今はどうだっていい。
既に不動遊星への尊敬の念など自分にはない。
今更そのゆかりの人物と邂逅しようが、既に過ぎた話だ。
「ロード・ウォリアーの効果」
ついさっき呼び出したシンクロモンスターに指示を送る、そのとき。
「待ちな、トラップカード!」
合図を示そうとする星宮に牛尾が素早く割って入った。
「強制脱出装置を発動!」
牛尾はディスクを操作し、星宮に向かってあらかじめ伏せておいた罠を作動させた。
場に開かれたカードの幻影から黄金騎士へと向かって、一直線に素粒子が発射される。
「脱出装置の対象になったモンスターは!」
素粒子が徐々に旋風を形づくり、ロード・ウォリアーを吹き飛ばしにかかった。
「手札に戻る!」
エクストラデッキから特殊召喚されたロード・ウォリアーはこの場合、手札に戻らず元居たエクストラデッキに戻ることとなる。
牛尾は続ける。
「悪いがそいつの効果を許すわけにはいかねえ! ロード・ウォリアーにはレベル2以下の機械族、または戦士族をデッキから呼び出す能力があったはずだ!」
“かつての経験”から牛尾は知っている、アレはその効果で更に場の展開力を促進させる厄介なモンスターだ。
戦局をこれ以上あちらに傾かせるわけにはいかない。効果を起動させる前に吹き飛ばさねば牛尾は場の流れを星宮の手に許すこととなってしまう。
しかし対する星宮も甘くはない。
「墓地の“チューニングガム”の効果を発動!」
立ち向かうように、星宮のディスクも反応を見せて加速音を響かせた。
「墓地のこのカードを除外することで“特殊コーティング”を施し、場のシンクロモンスターを対象にするカードの効果を無効にする!」
星宮の墓地より件のモンスターが除外されたのち、場に構える黄金騎士に緑の特殊液が施された。
向かい来る旋風を艶めくコーティング素材が弾き飛ばす、狙いを妨げられた牛尾がちっ、と舌をうった。
(──隣の芝刈りで落としといたカードか!)
強制脱出装置は敢え無くチューニングガムに妨げられてしまった。
星宮もそう甘くはない、既に布石は落としておいたのだ。
「それで消し飛ぶほど俺のシンクロモンスターはそう甘くない! ──ロード・ウォリアーの効果! デッキから“ジェット・シンクロン”を特殊召喚し、そして──」
騎士に翻されたマントより、新たな“シンクロパーツ”が出現した。
ジェットエンジンを模したような新たな“シンクロン”、現れるやいなやすぐさまそれはチューニングリングへと変貌し傍らの綿毛トークンと同調を始めた。
止まらぬ展開に牛尾は臍を噛む。
「連続シンクロ……!」
「俺は場の綿毛トークンに、ジェット・シンクロンをチューニング! 集いし願いが、新たな速度の地平へ誘う!」
レベル1同士のシンクロ召喚。
間違いない、あのモンスターだと牛尾が勘づく。
「光差す──道となれ! シンクロ召喚!」
再び閃光が奔ったあと、場に新たなシンクロモンスターが呼び出された。
四輪駆動車を模した小型ロボットがターボを噴く。
「月夜に差し込め希望の力! シンクロチューナー、“フォーミュラ・シンクロン”!!」
フォーミュラ・シンクロン レベル2 守備力1500。
四輪駆動車──もといフォーミュラ・シンクロンがロード・ウォリアーの傍らに移動し、その周囲をグルグルと周りだした。
段々と加速してゆくフォーミュラ、黄金騎士の周囲で円を描き続ける。
「……」
フォーミュラの猛回転が桜吹雪を巻き起こす。
桜吹雪に紛れて山札のカードが一枚星宮の手札に加わる。
「フォーミュラ・シンクロンのシンクロ召喚に成功したとき、プレイヤーはカードを一枚ドローできる! さらにジェット・シンクロンの効果、こいつがシンクロ素材となったとき、デッキからジャンクと名の付くモンスター1体を手札に加えることができる。俺はデッキから──“ジャンク・シンクロン”を手札に加える!」
彼の手に加わる“くず鉄モンスター”を、牛尾が警戒するような目で眺めていた。
(はっ……“ジャンク・シンクロン”ね……)
もはや懐かしさを超えて情景さえ浮かぶ。
──感傷に浸っている場合ではない、徐々にこちらが追い詰められているのは確かである。
「……シンクロモンスターとシンクロチューナーがそろった……」
かつて街が“イリアステル”と呼ばれる組織の幹部のひとり、“プラシド”の手によって争いに見舞われた時、不動遊星が
あのとき遠くから眺めた、嵐と曇天を裂き薄明光線に抱かれた美しい剣竜の姿を牛尾は忘れたことはない。
あれこそがネオドミノシティを新たな未来へと導く希望と夢の象徴なのだと牛尾は疑わなかった。
その時使用された素材モンスターが“2体のシンクロモンスター”だったという。つまり──。
「ロード・ウォリアーに──フォーミュラ・シンクロンをチューニング!」
桜の嵐を巻き起こしたフォーミュラ・シンクロンがリングへと変換してゆく。
フォーミュラ・シンクロンの巻き起こした嵐の中で片膝つき、次なる展開へ構えるロード・ウォリアーが空を見上げた。
二つに重なったチューニングリングが天へと浮き上がってゆく、光を放出して夜空を焼いてゆく。
(予想しなかったわけじゃねえが……しかし……)
──まず“シューティング・スター・ドラゴン”ではないはず。あれは不動遊星が明鏡止水の果てに編み出し、生み出したただひとつの、遊星だけが持つカードのはず。
(──マジに、あの召喚法なのか……)
そして今、黄金騎士が空に伸びあがった光に沿って、天へと飛び上がった。
(そうだよな……時代は変わる、デュエルも変わり、想いも受け継がれる)
嵐の速度が急激に増大し、閃光と共に中心に縮み上がってそのエネルギーを集中させた。
地を離れ、球体状を形成し始める嵐──まとめ上げられたエネルギーがその中心で混ざり合って核融合を始めた。
チューニングリングが球体状の周囲を取り囲み頻りに回り始める。段々と速度を上げて金を切るような音を響かせていった。
「集いし力が拳に宿り、鋼を砕く意志と化す」
年重ねた牛尾は想う。変わりゆく時代を認めねばならないだろう、と。
今はもう、"新たな若者"の時代なのだ。
「嵐の加速を持って、星墜つる道に光を示せ!! ──シンクロ召喚!!」
収縮した嵐が一気に膨れ上がり──大爆発を起こして周囲に爆風をもたらした。
「光差す軌跡へ、成り上がれ! 星屑の戦士“スターダスト・ウォリアー”!!」
スターダスト・ウォリアー レベル10 攻撃力3000。
爆風に揺られた牛尾はその体を支えながら、目の前に顕現したシンクロモンスターを眺めていた。
かつての英雄の切り札を務めた“とある竜”の意匠を思わせる、鋭利なスノーホワイト色の翼を生やした大型ロボットは、まさしく風の化身そのものだった。
薄く塗られた水色の胸部に嵌められたアメジスト、そこから伸びる三又槍の如き頭蓋。何ものをも粉砕できよう灰色のロボットアーム。
その趣はとても、かつて牛尾が見た純白の竜の色と似たようなものだった。それだけに、牛尾の心にかつての懐かしさがこみあげてくる。
じっと何かを込めるように星屑の戦士を見つめる牛尾に対し──星宮は待たない。
「バトル」
一声の下、星屑の戦士が飛び掛かる。
「スターダスト・ウォリアーで、セットモンスターに攻撃!」
開かれた翼が一斉に光を纏って、流星の戦士は空をかけた。
「トラップカード!」
伏せておいたもう一方の対抗札をここで開く。
彗星の如く体躯をぶつけにかかるスターダスト・ウォリアーの接近を牛尾が許す事はなかった。
セットモンスターと戦士の間で空間に亀裂が奔り、次元へのひずみが開く。
「“次元幽閉”を発動! 次元の亀裂に吸い込まれたモンスターはフィールドから取り除かれ、このゲームから除外される! 星宮綾人、もうちょいトラップを警戒するべきだったな!」
しかしその言葉とは裏腹に牛尾は確信めいた予感を抱く。
(──これで終わるわけがねえよな!)
あれだけ大掛かりな手段で出してきたモンスターがこうもあっけなく役目を終えるわけがない。
それに──こうもあっけなく終わられては面白くない。
「フフッ……!」
案の定、星宮の表情が挑戦的に弛緩した。
スターダスト・ウォリアーの“残り香”である星屑の残照が一挙に光輝き渦を形成し始めた。
「展開エンジンのロード・ウォリアーに除去を当ててくるあんたのことだ、第二の妨害札があることも読んでたさ。だからわざわざスターダスト・ウォリアーで突撃させてもらったんだ、そっちも敢えてウォリアーを幽閉したのかもしれないが──」
渦が新たな“人型”を形成する、月夜の下にその漂白色の姿を現し始めた。
「本命は──こっちだ」
やがて緑の輪が現れ、その新たな“人型”を囲み朦朧とした姿を確かな形へと整え始めた。
「こいつぁ、“シンクロ召喚”の!?」
「スターダスト・ウォリアー“第一の効果”!」
金音鳴らすチューニングリングの背後で星宮が告げる。
冷涼ながらも艶やかに整ったその顔をリングの中の光が照らす。
「スターダスト・ウォリアーが相手のカードによって場を離れたとき」
そして光が一挙にリングの中心へと集中し、その幾重もの輪をとめどなく外へと広げた。
爆発と共に外へと放射される光の、その閃光の中で、新たな生命がそこに誕生した。
「“ウォリアー”と名の付くシンクロモンスターを、エクストラデッキよりシンクロ召喚扱いで特殊召喚する! 飛び出ろ!」
幾つもの大筒を付けた漂白色の戦士が、閃光の中より飛び立った。
「“スターダスト・チャージ・ウォリアー”!!」
スターダスト・チャージ・ウォリアー レベル6 攻撃力2000。
(たった2000程度!? だが──)
今の牛尾に、自分のモンスターを守れるような伏せ札はない。
「これで障害はなくなった、バトル!」
飛び立ち空をかけるチャージ・ウォリアーが一気に急降下をみせ、眼下の伏せモンスターに向かって急襲をしかけた。
「突き上げろ、スターダスト・チャージ・ウォリアー!」
牛尾のセットモンスターと星宮のモンスターが、激突する。
「ブライトナックル!!」
牛尾が伏せたモンスターは所詮下級程度、レベル6を誇る上級モンスターに歯向かえるほどの力は存在しない。
たちまち消え上せてゆくモンスター、地に伏した“突撃犬”は華細い声で哀愁を告げた。
姿を確認した星宮が目を見開く。
「“アサルト・ガンドッグ”!?」
「そうそう後に退ける俺でもねえんだよ! アサルト・ガンドッグの効果、発動!」
牛尾とて無策でモンスターを伏せたわけではない。
対抗札を突破された時の布石としてこの──“リクルートモンスター”を用意しておいたのだ。
「アサルト・ガンドッグが戦闘で破壊されたとき!」
新たに2体、先程命落とした突撃犬と同型のモンスターが場に現れた。
二頭の赤目が星宮を捉える。
「その同名モンスターをデッキから場に特殊召喚できる、しかも任意の数だけ! ガンドッグ2体を守備表示で特殊召喚!」
デッキで眠り伏していた軍用犬は2体、眠りからの覚醒をもって主人のもとへと駆けつけた。
(ちっ……通常召喚されたモンスターを殴ったあとでは、チャージ・ウォリアーの効果は──)
仕方がない──星宮はさらなるモンスターを墓地より呼び出した。
予想外の行動に牛尾の眉が驚いたように跳ねる。
「っ!? バトルフェイズ中に!?」
「墓地の“妖精伝姫─シラユキ”の効果を発動!」
たちまち星宮の墓地から7枚のカードが取り出され、ゲームから除外されて何かのコストとして支払われた。
デュエルディスクの墓地への差し込み口が光を放ち、地中よりフリルドレスを着た“リス”のような獣人の少女が飛び出す。
赤いリボンの結ばれた柔毛の尻尾が夜桜に揺れる。
「墓地のカードを7枚除外することで、このカードを任意のタイミングで墓地から特殊召喚できる!」
妖精伝姫─シラユキ レベル4 攻撃力1850。
「その見た目で攻撃力1850だぁ!?」
「シラユキの効果、このカードが場に呼び出されたとき相手のモンスターを1体裏側守備表示にできる! 俺は一方のガンドッグを裏側守備表示に変更し──もう一方のアサルト・ガンドッグへとシラユキで攻撃する! バトル! アサルト・ガンドッグの守備力は“800”、シラユキで残った片割れへと攻撃!」
シラユキの尻尾が鞭のようにしなり振るわれる。
「
振り回されたシラユキの尻尾が猛突な勢いで軍用犬の一体をはたきあげ、その脆弱な存在を一振りのもとに葬った。
だが、
(──任意のタイミングでセット妨害を行えるシラユキをここで消費すんのか……!?)
牛尾としては腑に落ちないものがあった。
確かにシンクロ素材や、リリース素材に利用されかねない懸念に乗じてこちらのモンスターを一体でも減らそうとする考えはわからないでもないが、果たしてせっかく墓地に潜ませていた“シラユキ”を消費してまで数を減らす場面だろうか?
シンクロ召喚やアドバンス召喚を警戒するならそれこそその時にシラユキを呼び出し、先程の“裏返し効果”を喰らわせてやればいい。
(プレイングミス──? いや……)
初局から高度な逆転劇を見せてみせたこの、星宮綾人が──?
「メインフェイズ2! 俺はさっき手札に加えたジャンク・シンクロンを通常召喚!」
牛尾の躊躇や懸念、思考など星宮綾人は待たない。彼は淡々と自分のデュエルを進めるだけだ。
星宮の手によって新たに呼び出されたモンスター、ジャンク・シンクロンがサルベージアンカーを投げつけて大地の中から何かを引っ張り上げた。
引っ張りあげられたのは“ドッペル・ウォリアー”。黒い軍服にフックを引っ掛けられて星宮の場に引っ張りだされた。
(まだ召喚権を……!)
「ドッペル・ウォリアーに、ジャンク・シンクロンを“チューニング”!」
もうこのターンで何度目か、再びリングを呼び起こしてシンクロ召喚への準備を始めた。
集束するリング、爆発する光──生み出された命はやはり、新たなロボットモンスターであった。
「シンクロ召喚! 希望の光を暗闇の一閃に、差し込め! レベル5、“アクセル・シンクロン”!」
「くっ──こりゃぁ……!!」
また、シンクロチューナーが現れた。心なしか、赤のオートバイを模したようなその形のモンスターと牛尾の視線が合った。
オートバイの二輪が急回転する、たちまち星宮のデッキから1体のモンスターが墓地に送られた。
「アクセル・シンクロンの効果、デッキから“シンクロン”と名のついたモンスターを墓地に送ることで、このモンスターのレベルをその分“下降”させる」
結果、レベル1のターボ・シンクロンが墓地に送られそのレベルを“4”に引き下げた。
さらにその傍らに生まれる何かの影、あれは──なんだ? 牛尾もあまり見覚えがなかった。
「なんだ──?」
「さらにドッペル・ウォリアーの効果。こいつがシンクロ素材として墓地に送られたとき、場に2体の“ドッペル・トークン”を攻撃表示で特殊召喚する」
ドッペル・トークン レベル1 攻撃力400。
「ターン、エンド」
牛尾へターンが移る。
「……」
しかし牛尾は、ドローする手も止めて星宮の場のモンスターを思慮するように眺めていた。
(い……意味がわかった。こいつがわざわざこの場面でシラユキを呼び起こした理由が……)
現在、星宮綾人の場には5体のモンスターが並んでいる。
(スターダスト・チャージ・ウォリアー、アクセル・シンクロン、妖精伝姫のシラユキ、さらにドッペル・ウォリアーによって生み出されたトークンが2体)
チューナーモンスターであるアクセル・シンクロンのレベルが現在“4”で、残りのモンスターのレベルがそれぞれ“6”、“4”、“1”、“1”。
フィールドを埋めたモンスターのレベルの数々は、あらゆるレベル帯のシンクロモンスターの召喚を実現させたはず。
それを、あえてシンクロ召喚へ繋げず、保留。
(疑似的な"アクセルシンクロ"だ……!)
それは、かつてある男が不動遊星に見せた、特殊なシンクロ召喚法。
(“相手ターンの最中にシンクロ召喚を決め込み、相手の戦術の意表を突く"やり方……アクセル・シンクロン、十中八九ありゃあ……“相手ターンにシンクロ召喚”できる効果を持つモンスター)
牛尾は考える。
(……要点はそこだけじゃねえ、シンクロ素材になったモンスターは当然“墓地”に送られるってことだ。言い方を変えれば、“任意のタイミングで特定のモンスターを墓地に送れる”方法……)
シンクロチューナーのレベルが4として、残りのモンスターを使ってシンクロ召喚できるパターンは5、6、8、9、10。
(──“シラユキ”を素材にされれば“裏返し効果”を再利用される……!)
つまりレベル4同士のアクセル・シンクロンとシラユキを素材に利用しシンクロ召喚を用いればレベル8以上のシンクロモンスターを場に呼び出した上で更にシラユキの再度特殊召喚の準備が整う。
シラユキの効果発動にターン制限などない。あれはコストさえ用意できれば何度でも使用できるフリータイミングの起動効果。
(真っ向から撃墜にかかろうとしても必ずシラユキに妨害される……“隣の芝刈り”で肥やされた墓地をリソースに無限の鉄壁を張られちまう……!)
まさしく堅牢。星宮綾人は“攻め手”と“守勢”を両立させた布陣を決めてきたのだ。
「……しかしとなると呼び出すシンクロモンスター、は……?」
いくら鉄壁の布陣を決め込んできたところで呼び出すシンクロモンスターが中途半端ではその脅威も半減といったところだろう。
目の前の少年のことだ、どうせこの布陣の上で効果的なモンスターを呼び出してくるに決まってくる。
しかしどうやら、今まで牛尾が出会ってきた“ダークシグナー”やら“イリアステル”のような荒唐無稽な連中に比べて彼は常識の範疇に治まるカードを使用するらしい。
“スターダスト・ウォリアー”も飽くまで不動遊星の活躍を記念して製造されたカードだ。
となるとまだ牛尾の思慮範囲でも呼び出してくるモンスターは想定がつくはず。
現在星宮綾人が呼び出せるシンクロモンスターのレベルの組み合わせは5、6、8、10──“9”。
「……」
その数字に行き着いた時、牛尾の脳裏に一閃の如く過ぎるただならぬ光景が浮かんだ。
「……!」
待ちかねた星宮綾人が、何かを察し焦り始めた牛尾に対し挑戦的に告げてみせる。
「さあ……あんたはどう出るのかな、この並びを前にして」
己の持ち札が全て吹き飛ばされる光景──“三つ首の氷竜”が大氷河を起こしてフィールドを呑み込むワンシーン。
(ま、まさか……)
間違いない、市販されているシンクロモンスターは数あれど、あれほどに相手への影響力が大きいモンスターを牛尾は他に知らない。
(“氷結界の龍、トリシューラ”……!)
氷結界の龍、トリシューラ
伝説の三又矛を冠するその竜はシンクロ召喚に成功したとき、相手プレイヤーの手札、場、墓地のカードをそれぞれ一枚ずつ除外できる効果を持つ。
(いやまて、だがあれは現在でも高額で取引されているカード。星宮の野郎が持ってるとはかぎらな……いや、待て牛尾哲)
甘い考えに傾倒しかけた時、牛尾は己の未熟さを叱咤した。
(この期に及んでおれぁ何考えてんだ! “大暴落”から一転立ち直った野郎なんだぞ! 都合よく“トリシューラは持ってませんでした”なんて通用する相手じゃねえ! ……今までのプレイングで散々わかってただろうが!)
自分に都合よく考えてはいけない、ここはトリシューラを所持している前提で考えるべきだ。
ならば星宮はこのあと牛尾が行動を起こしたあとに即座にシンクロ召喚を決めてくるはず……しかし。
(つ……つっても……)
ただいまの牛尾哲の手札は──。
(それをかわせるほどの……手札の残弾は……)
──“ゼロ”である。
(ありはしねえ……!)
動けば、"凍てつかされ"、シラユキに"裏返される"。まさしく"背水の陣"。
牛尾哲はこの土壇場で、覆しようのない絶体絶命の窮地に陥らされるのであった。