遊戯王5D’s 治安維持局特別対策室   作:ピクサ

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第6話

 

 

 

 考えてもみよう。

 

 たとえここで牛尾が打開策を引き当てても、効果を発揮する前に高確率でトリシューラに粉砕されてしまうのだ。

 召喚時、あるいは発動時に窮地を打開するような効果のカードを引けばトリシューラに割って入られずにこちらの狙いを行使できるが、それはそれで星宮側はまた別のシンクロモンスター、それも除去耐性を持つモンスターを呼び出す可能性は高い。

 

「ドローしないのか?」

 

 冷ややかな告げ口で星宮はさらにそう催促をしてくる。

 自分の長考がデュエルの進行の妨げになっているのは理解している、だがどうすれば。

 

(くっ……引くしかねぇ!)

 

 引くしかないし、退()くわけにはいかない。

 

(もう二度と雛宮のやつを失望させるわけには、いかねえんだよ!!)

 

 退けぬ想いを込めて、己の腕に携える山札から一枚、希望へのカードを引き抜いてみせた。

 即座にカードを確認しその札に牛尾は光明を見出す。

 彼は一縷の望みをたくしてそのカードを差し込み口に流し入れた。

 

「オレはマジックカード、“強欲で貪欲な壺”を発動!」

 

 牛尾の引き当てたカードを目の当たりにし、星宮は肝抜かれたように目を見開いてみせた。

 

「ここで手札増強カードを……!?」

 

 本来なら星宮はドローが終わった後のメインフェイズ、牛尾がアクションを起こし優先権を放棄した後にアクセル・シンクロンの効果でアクセルシンクロを決め込んでみせるつもりだった。

 アクセル・シンクロンが効果を使用できるのは相手ターンの“メインフェイズ”。ドロー時を狙って牛尾の手札を枯渇させるということは不可能だったのだ。

 ならばメインフェイズに──そう考えたところにあの手札増強カードが飛んできた。

 

「“強欲で貪欲な壺”の効果、俺はデッキの上から10枚のカードを除外し……!」

 

 この勢いにかけるしかない。

 牛尾は猛る勢いで山札のカードをゲームから除外し、

 

「デッキから2枚、ドローできる!」

 

 多くのカードと引き換えに2枚のカードを手札に得てみせた。

 ここでシラユキと、そしてアクセルシンクロの両方に対処できる手段を得なければならない。

 牛尾は嘆願の想いでデッキに望みをかけ、2枚のカードに望みをたくした。

 恐る恐る引き当てた“2枚”のカードを覗き込む。

 

 それは──“このターン”においてなんら役にたたない2枚のカードであった。

 

(くっ……!)

 

 片方はレベル7を誇る“最上級”モンスターで、片方はレベル4の攻撃力“0”のモンスター。

 もう一方は2体のリリースが必要で、もう一方は下手に伏せたところで牛尾が予想するに容易くトリシューラに処理されるモンスター。

 

 この2枚のカードは、両方それぞれ“場”と“墓地”に置いてこそ本領を発揮する、特殊なモンスターだったのだ。

 

(……)

 

 だが──。

 

(やるしかない……)

 

 牛尾哲という、プライドの高い男は──一度決めた約束を破れるような人間ではないのだ。

 

(雛宮……)

 

 雛宮聖華は、敗北に恐れおののく自分をかばい、その身を焼いてまで自分を護ってくれた。

 "街のため"とほざいて、どうしようもないプライドに固執していた自分を、彼女は献身的に守り包んでくれた。

 

 馬鹿みたいだ。

 いちいち“不動遊星の影”を追って、何かに固執し、己を見失っていた、自分の愚かさが。

 

 馬鹿みたいだ──存在意義に固執して、結局護るべき者を何も護れていなかったことが。 

 

 

「星宮」

 

 

 端的な呼びかけが、何かに固執する少年の気を引かせた。

 

「……?」

 

 少年は何も答えず、ただ呼びかけた牛尾の、静かに落ち着いた表情を見て眉をこらすだけだった。

 唐突な呼びかけに、応えることはない。

 

 星宮綾人は敢えて誰かに応じるようなことはしない。そう決めていた。

 

「はっ、だんまりかい。まあいいさ……そのまま聞いてくれ」

 

 先程の様子とは一転、いやに落ち着いた様子で牛尾が何かを語りはじめた。

 

 その手に握られた手札の向こうに彼は、何かを見出しながら話をはじめた。

 

「俺な……そのデッキを使ってたやつと昔、“追いかけっこ”してたことがあるんだよ」

 

 やけに拙い表現だった。

 

「“……”追いかけっこ“……?」

 

 流石の星宮も、唐突な話の切り口に困惑の色を一瞬過らせて疑問に伏すしかなかった。

 “かつての英雄”のデッキを使用していた人間と、“追いかけっこ”。

 

 つまり、それは。

 それが推察できぬ程、星宮も愚かな男ではなかった。

 

「すごく速い奴でな……追い抜いたと思ってもすぐに追い抜かされるんだよ」

 

 目の前の頬傷の男の語りは、どこか神妙で、身に迫るものがあった。

 表現自体は拙いのに、いやに身に迫ってくる感覚。

 まるでつい先日までそこにあった“現実”が緩やかな波となってこちらに這い寄り、足元を呑み込んでいくかのような感覚。

 

「そういうことを何度も繰り返してたんだがよ、いつの間にか俺なんかじゃ追いつけないほどにそいつは速くなっちまったんだよ。速く、素早く、そして“遠く”へ。俺は一度も勝てなかったそいつの、その“影”をいつの間にか……追いかけるようになっていた」

「……」

 

 それでも星宮は冷淡に徹した。

 

「──だから?」

「所詮お前さんも一緒ってことだ」

「……?」

 

 次の瞬間、頬傷の男の小さな波のような言葉が──立ち昇る激流となって星宮の胸に襲い掛かった。

 

「“赤堀陸の影”をいつまでも追い続け、元ある“居場所”から目を背け続けるお前さんは所詮俺と同じってことさ──世間からそっぽ向かれて駄々こねる幼稚なお前さんはな!」

 

 ──牛尾のその言葉が、星宮の心を大きく逆撫でた。

 

「……っ……!!」

 

 土足で気持ちに踏み込んでくる男に星宮は心をとがらせる。

 

 ──少し事情を知った男に、己の過去を言及される謂れはない。

 

 自分とその周囲の関係に、土足で踏み入られる筋合いはない。

 

 自分と“リク”の間柄に、節操なく説教を垂れられる筋合いはない。

 

 心の奥底に秘めていた葛藤に灯火が芽吹いて、内なる激情が星宮の冷涼な顔にふつふつと表れはじめた。

 

「……おまえ……!」

「さあ、来てみな」

 

 牛尾がすかさず啖呵を切る。

 

「決めてみせろ星宮綾人! お前さんの場にはおあつらえ向き“5体”のモンスター、容易くこの俺を葬り去ることができるぜ!」

「……っ!?」

「いちいち世間に目を背けるぐらいならば!」

 

 この牛尾の言葉が少なからず──彼、星宮綾人の心に小さな波を立て始めさせた。

 

「デュエルでぐらいてめぇを剥き出しにしてみな、かっこつけの引っ込み思案さんよ! さあ──俺は“ターンエンド”を宣言するぜ! お前のターンだ!」

 

 この牛尾の発言が、星宮綾人に攻撃態勢を取らせてみせた。

 

 お望み通り即刻、闘いを終わらせてやる。

 

 その脆弱な軍犬もろとも吹き飛ばしその減らず口を閉じさせてやる。

 

 決めに行く。

 

 だが、

 

 本当にこのまま素直にモンスターを突撃させるべきなのか? 勘のいい星宮綾人は牛尾の言葉を素直に取る“危険性”を思案した。

 

(──罠だ!)

 

 星宮は対峙する敵の手元に握られている二枚のカードに注意を向けた。

 

(これは罠だ! 場に何も伏せないのはおかしい、あいつは恐らくあの手札の内に“手札誘発”のカードを引いた!)

 

 “手札誘発”とは特定の条件を機に手札から効力を発揮するカード群の名称のこと。

 その条件はさまざまであり“モンスター効果が発動した際”、“直接攻撃を受けた際”になどを効果の条件に指定するモンスターが数多く存在する。

 中には攻撃を宣言した際そのモンスターを破壊させるものや、そもそもバトルフェイズ自体を終了させる効果のものもある。

 

 つまり星宮が推測するに牛尾は先程のドローでそういったモンスターを引いたのだ、こちらが攻撃を仕掛けた場合罠を起動させる手札誘発モンスターを。

 

「あんたの言う通り決めてやる、だがそれは!」

 

 だがこの布陣の前には関係ない。ささやかな望みも根こそぎ狩りとる。

 

「牛尾哲──あんたのカードをすべて“凍てつかせて”からだ!」

 

 ターンが循環する。

 ドロー、そしてメインフェイズ。

 煽られるままに調子を昂らせた星宮が、使役するモンスター達に指示を下した。

 

「さあ、"トリシューラ"よ!」

 

 構えていた3体のモンスター達が一斉に立ち上がり──。

 

「今、三又の氷槍を携えて──!」

 

 ──光となったモンスター達は星となり、群青の大海を駆け抜けた。

 月に交わる形で形成されてゆくチューニングリング。

 アクセル・シンクロンの同調輪はシラユキとドッペルトークンを呑み込み、シンクロエネルギーを輪の中に怒りの炎を燃え上がらせた。

 淡い光が輪の中を駆け巡る。

 空を駆け巡り、熱張る空を震わせた。

 

「すべての因果を、断ち切り離せ!!」

 

 牛尾の頬傷を冷気が撫でた。

 

(来る!)

 

 吹きすさぶ夜桜に、冷気の風が混じる。

 段階を踏んで強くなる風、そして空気。

 空が震えを起こす度に突き刺すような疾風が強まっている事がわかった。

 

(冷気の風が、星宮の怒りが、サイコ能力が、カードの力を具現化させている!)

 

 そして、夜空に浮かぶリングが収束し──。

 

「──シンクロ召喚!」

 

 月夜に爆ぜる。

 爆発により生じた、夜を埋め尽くす程に広がる光の列波が、容赦なく牛尾の目を突いた。

 

「くっ!」

 

 そして爆発の光の中──幾重にも迫り来る"物体"の気配に牛尾は気づく。

 

「なっ──!」

 

 それは"氷"。

 鋭利な切っ先を大地に向けて光を降り注ぐ氷。

 爆発の閃光に混じり、星空から流れ込むようにして"氷槍の篠突く雨"が牛尾に向かって降り注ぎ始めていた。

 

「じょ……」

 

 氷礫なんてレベルではない、ひとつひとつが"巨岩"とも表せるほどの巨大さ。あるいは"隕石"と呼んでもいい。

 

 まさしく"流星群"。

 "氷"が"星"となり、幾多もの"槍"が"雨"となって、ひとつひとつが余すことなく牛尾を穿ちにかかっていた

 

「冗談じゃねえぞ!」

 

 ひとつ目の着弾、間一髪牛尾は飛び退けて避けて着地に成功した。避けられた氷槍は地を抉り大地に突き立つ。

 だがまだまだ。ひらり舞う夜桜を氷槍は次々と弾いて、標的に向かって隕石の如く降り注ぐ。

 氷の弾丸雨はまだ途切れない。弾丸は次々と牛尾を狙い、襲いかかってゆく。

 

「くっ、うお……!」

 

 命からがら、避け続けてゆく。

 だが──。

 

「──うおああぁぁーー……!!」

 

 ──とうとう、牛尾は避けきれず、氷の雨に呑み込まれてしまった。

 追い討ちをかけるようにして後続の氷星が、氷の下敷きになった牛尾の体を次々と埋めてゆく。

 ようやくして氷の猛襲が段落し、終わる。

 そして降り注がれ大地に付き合った氷塊ひとつひとつが氷の山となり──。

 

「これが……氷結界の竜がひとつ……」

 

 星宮の正面前に──牛尾の姿を呑み込む程の"氷の棺"が造り上げられた。

 

「"トリシューラ"の力」

 

 学校と、星宮との間に作られた"氷の山"。

 夜桜重なる氷塊のモニュメントを眺めながら星宮はひとり静かに言葉をつぶやいた。

 これがサイコデュエリストの能力、カードの力を"実体化"させる力。

 星宮のサイコ能力に反応した"シンクロモンスター"が力を奮って眼前の敵を氷の前に仕留めた。

 例の"シンクロモンスター"が星宮の下に降り立つ。

 

 夜空から降りたったその"青き氷龍"の姿は、あまりにも"無感情"的だった。

 

 

 氷結界の龍 トリシューラ レベル9 攻撃力2700。

 

 

 三つ首の顎門を高く鳴らして、氷龍が夜空に吠えた。

 仕留めた相手の体を確認に覗くトリシューラ、続くようにして星宮も氷の山の方へと近寄った。

 

「あっけなかったな」

 

 どこぞのキャップ帽の男と同じように、星宮が吐き捨てる。

 氷の下敷きになった牛尾に冷淡な眼差しを向けて、星宮が語った。

 

「氷結界の竜トリシューラにはシンクロ召喚時、相手の手札、場、墓地のカードをゲームから除外する効果がある」

 

 それが先ほどの氷の流星群の正体。

 あれは飽くまでモンスター効果の一環だったのだ。

 トリシューラの効果で場と墓地のアサルト・ガンドッグと牛尾の2枚の内の1枚の手札をゲームから除外した。

 

「けれど──」

 

 冷徹な瞳を氷に反射させて、星宮は踵を返した。

 

「それ以前にサイコ能力の力に耐えられなかったようだな……」

 

 "サイコデュエリストには、サイコデュエリストが対処するのが適任"──以前来訪した雛宮聖華の言葉を思い出す。

 常人がサイコデュエリストに挑むのは危険、死ぬ可能性がある。

 故に適性のあるサイコ能力者が対処に向かうのが妥当、彼女はそう語っていた。

 だからこそ星宮は今更ながらに思う。

 

「馬鹿なんだよ、あんた。どうして……」

 

 どうしてまた、"誰かを傷つけるような真似"をしてしまったのだろうと。

 

「どうしてサイコ能力者(オレみたいなヤツ)に関わろうとしたんだ……!」

 

 "また──これだ"。

 降り注ぐ夜桜に想いを乗せて、湧き出る哀愁をつぶやく。

 

「……ハア、ハア……」 

 

 サイコデュエリストの力に常人が耐えるのは難しい。

 故に彼女、"雛宮聖華"は対サイコデュエリストにサイコデュエリストを宛がおうとしていたし、星宮もそれは理解していた。

 

 化物(自分)常人(牛尾)は戦うべきではなかったのだ。

 

 デュエルをすれば感情が昂る。

 感情が昂れば"サイコ能力"が暴走してしまう。

 

 "サイコ能力"が暴走すれば相手を傷つけてしまう。

 

 あの時の、"リク"のように。

 

 

「クソッ……!」 

 

 今度は──拭いきれないぐらいの、大きな罪を重ねた。

 

 隣を通りすぎる花弁に、あふれだす情緒を、星宮は乗せる。

 

「……俺は……」

 

 もうデュエルはしないと誓っていた。

 もうサイコ能力は暴走させないと決めたのに

 

 もう、誰も傷つけないと決めていたのに。

 

「……俺は……!」

 

 夜空に向かって──想いのありったけを心の底から叫んだ。

 とうとうサイコ能力で人間を殺してしまった。

 歩いてきた"道"から外れてしまった。

 ハイトマンの述べていた、自分の味方になってくれるかもしれなかった優しき人物。

 

 そんな"牛尾哲"を──この手で殺してしまった。

 

「……」

 

 ただ、呆然としながら、夜の桜に肌身を寄せる。

 風に寄せては退いてゆく若桃色の花弁が、地に落ちて、何処かから落ちてきた"情緒の残照"に染め上げられた。

 抱えた頭が重い、もう一度抱え上げるには重たすぎる。

 一挙に押し寄せてきた果てなる絶望に、星宮は絶えられそうになかった。

 

「どうして、俺は……!」 

 

 ──だが。

 そんなとき。

 呆然自失としていたとき、

 

 あの、"昔気質"な男の声は聞こえたのだ。

 

「──勝手に!」

 

 不意に届いた声に、星宮が振り向く。

 

「っ!?」

「終わった気になってんじゃ──!」

 

 一瞬の間に──一閃に振るわれた"何か"が根張り重なる"絶氷"を砕いた。

 

「──ねぇーー!」

 

 氷の棺から復活を果たした男に、星宮が絶句する。

 

「──まさか!」

 

 幾重にも重なっていた氷塊達が、"振るわれる何か"によって次々と砕き弾き跳ばされてゆく。

 氷のクリスタルを次々と砕き、切り払い、最後にはすべてを弾き飛ばした"何か"。それを使役する決闘者は再び星宮の前に立ち上がった。

 

 砕かれた氷の中心に立っていたのは、間違いなくあの"頬傷の男"だった。

 

「あれに耐えた、生身の人間が!? いや、それよりも──!」

 

 憔悴しながらも復活を果たした男に星宮は驚きを隠せないでいた。

 そして、何よりも、星宮は男の傍らに未だ"四本足"で立つモンスターの存在が気にかかった。

 

「──どうしてトリシューラで除外したはずの"アサルト・ガンドッグ"がまだ生きてるんだ!?」

 

 男──牛尾哲は空笑いする。

 

「へへっ……」

 

 星宮の目論見を撃ち絶った事に充足したのか、牛尾の顔はこんな途方もない状況の中でひとり得意気に笑った。

 自信を顔に据えて復活してきた牛尾に、星宮は驚嘆の意を示し、ただただ驚きながら、ある"違和感"をおぼえた。

 

「……えっ……?」

 

 おかしい。光を目に宿し、星宮は気づく。

 

 トリシューラの効果を行使した時、牛尾の手札は"2枚"だったはず。

 

「な、に……?」

 

 トリシューラで除外される手札は"1"枚。

 

「なぜ……?」 

 

 ならば残る手札はやはり"1"枚。

 だが、

 

「なぜ……!?」

 

 牛尾の手には、"1枚のカード"も"存在していなかった"。

 

「おかしい! トリシューラで除外した手札は"1枚"! あんたの手札はあと1枚残るはず!」 

 

 つまり計算が合わない。そしてガンドッグが生き残っている事もおかしい。

 では、いったい──? ──星宮が察したように先ほどの"氷を振り払った存在"の方を見上げ、驚愕に見舞われる彼に代わって牛尾が"タネ明かし"を始めた。

 

「気になるか?」

 

 正体を確認した星宮の瞳が、強く揺れる。

 

「その正体は──これだ!」

 

 氷竜の呪氷を打ち払ったその正体。

 夜に目を凝らして星宮が確認する。

 驚愕して見上げる星宮の目に映った、そのモンスターの正体は──。

 

「……"カ"……」 

 

 月に重なり、漆黒のドレスをたなびかせるは、月夜に銀髪を揺らすレベル7の"女"モンスター。

 決闘に手練れた星宮は知っている。

 "あれ"は"除外効果"に対して封殺能力を持つモンスター。

 

 正体の判明したそのモンスターの名を──星宮は意識引っ張り上げられるようにして叫び上げた。

 

「"カオスハンター"!?」

 

 カオスハンター レベル7 攻撃力2500。

 

「そうさ、お前を煽ったのはこれが狙いだったのさ!」

 

 氷の雨から生還した牛尾が割り込まんばかりに舌を振るう。

 

「カオスハンターは相手が特殊召喚に成功した時に、手札を1枚捨てて呼び出せるモンスターだ! 呼び出されたカオスハンターが場に存在する限り!」

 

 鞭を一挙に地に奮い叩き付けて、カオスハンターは星宮を威嚇した。

 共に牛尾も相手に指を差し向け、"トリシューラの効果を妨害したトリック"を星宮に告げ始める。

 

「相手は、"いかなる場合でも"カードを除外できなくなる!!」

 

 呆然と立ち尽くす星宮が──すべての"タネ"に気付いて絶句した。

 

「ば……」

 

 目を見開き、信じられないといった表情のままに、カオスハンターに向かって静かに後退りをした。

 

「ばかな……!」

 

 つまり、こういう事である。

 牛尾が先ほど"強欲で貪欲な壺"で引き当てたカードはトリシューラの除外効果に対して封殺能力を持つ"カオスハンター"であった。

 しかしカオスハンターはレベル7の最上級モンスター。召喚するには場の持ち得るリリース素材の数では足りない。トリシューラの"メタ"を引き当てながら手札で腐らせてしまうという、度しがたき最悪の事態を招いてしまったのである。

 だがこのままみすみす敗北を迎えるわけにはいかない。

 ならばどうするか。

 

 そこで牛尾が考えたのは"相手にカオスハンターのトリガーを引かせる"という方法であった。

 

 実はこの牛尾、星宮の出方次第によっては負けもありえた。

 手札で腐り続けるカオスハンターとリクルート先を失ったアサルト・ガンドッグでは星宮の猛攻には耐えきれないからだ。

 間違いなくこの機を逃せば敗北一直線の道を辿るハメになる。

 

 ならば──。

 そこで牛尾はその答えとして、"敢えて相手を煽り自分の手札に打開策があるように思わせる"事を選ぶ。

 

「おそらくデュエルの経験が豊富なお前さんの事だ、俺の不自然な煽りを聞いて、俺が"ダメージを抑えるような手札誘発を引いた"とでも思ったんだろう?」

「くっ……!」

「バトルフェイズを中断させる"バトルフェーダー"みたいなヤツをな! 何も伏せず自信ありげに構えられたら普通はそう考える! けれど俺が実際に引いたのは"カオスハンター"だったんだ!」

 

 牛尾は続ける。

 

「だから俺はお前に召喚のトリガーを引かせる事にしたんだ。そして狙い通り、お前はまんまと俺を確実に追い詰める為の"堅実的な一手"を放った」

 

 図星を突かれ、星宮が苦悶する。

 そう、牛尾の言うとおりトリシューラは牛尾の妨害札を撃ち抜き除外する為のものだったのだ。

 壁となっているアサルト・ガンドッグも処理できて一石二鳥、そのはずだった。

 しかし、

 

「……"シラユキ"を封じられた……!」

 

 そう、むしろ一石二鳥なのは牛尾の方だったのである。

 "カオスハンター"の召喚に成功すればトリシューラの除外効果は使えない。そしてシラユキの"墓地コスト"も払えない。

 シラユキの自己蘇生に要求するものは"カードの除外"。

 

 つまり──まんまと踊らされていたのは、夜桜の下で勝手に勝利した気でいた星宮綾人の方だった。

 

「この、土壇場で……!」

 

 牛尾の術中に綺麗に嵌まっていた事を星宮は知る。その事に星宮は想いつらづらと感嘆と、驚愕と、そして感服の意を吐き出した。

 あの絶望的な状況で起死回生の一手を打った牛尾は素直に凄い。星宮は牛尾の意外な程の"強か"さに驚かされ、敬服の念を抱かざるを得ないでいた。

 素直な感情が、星宮の身を包んでいた。

 包みかけていた、しかし──。

 

「──だが!」

 

 しかし、まだ星宮の"優勢"に変わりはないのだ。何せ星宮はまだ"バトルフェイズ"を行っていない。

 表情を強く戻した星宮が、気を取り直してモンスター達に号令をかける。

 

「これで正真正銘、あんたを守る"策"はなくなった!」

 

 そう、いくら牛尾が策を講じたところで今はまだ"メインフェイズ"。

 結局打点最高点を抱える星宮には造作もない状況なのだ。

 厄介な効果の肉壁などバトルで打ち払いとどめをさしてやればいい。

 ここでカオスハンターとガンドッグを葬ればそれこそ牛尾を守る者は消える。

 再び尖り始めた星宮の眼差しが牛尾に向く。

 

「終わらせる、トリシューラ! 今度こそヤツの退路を絶ってやれ!」

 

 三つ首の氷龍の顎門が、一斉に開く。

 

「"絶氷"の、アイシクル・ストリームッ!!」

 

 顎門から放射された冷光線が夜にたなびくカオスハンターを一斉に穿ちにかかった。

 幸いアレの打点は"2500"。所詮"2700"のトリシューラの敵ではない。

 青く輝く三射の冷光線が悠然と構えるカオスハンターを撃破に向かう。

 しかし、だからといって。

 

 牛尾に何も策がないわけではないのだ。

 

「──なっ!?」

 

 刹那に生じた電磁波が、二人の間を駆け巡る。

 

「なんだと!?」

「俺は墓地より、"超電磁タートル"の効果を発動!」

 

 青く稲妻のように虚空を迅った電磁波が冷光線の弾道を捻じ曲げた。

 あらぬ方向へ曲がり、明後日の方向へ飛んでいったトリシューラの攻撃は、星空に跳弾して霧散していった。

 牛尾の取り出した"策"──星宮が確認する。

 

 これが──あの時"強欲で貪欲な壺"で引いた、もう1枚の"レベル4"のモンスターのカードの正体だった。

 

「"超電磁タートル"!? まさかカオスハンターのコストで!?」

「そうさ、同時に布石を張らせてもらってたのさ! 超電磁タートルは墓地の自身を除外する事で!」

 

 墓地より"磁石亀"を取り出し、牛尾が星宮に発動の意思を提示する。

 

「その"バトルフェイズ"を、終了させる!!」

 

 牛尾の言葉と共に大気が振動し、バトルフェイズは電磁波の下に強制終了させられる事となった。

 中心から広がった大気振動の列波により夜桜の薄桃花弁が一気に振り払われる。

 吹き上がった花弁が、絶望的な状況を乗り越えた牛尾を一斉に祝福した。

 それは戦局が明確に牛尾の方へと切り替わった事を示していた。

 

「さあ、常人(オレ)でも耐えてみせたぜ! サイコ能力なんざ痛くもかゆくもねぇ! お前なんかに心配されるまでもねぇんだ、お前の"想い"を受け止められないほどオレ様は(やわ)でもねぇ!」

 

 流れはようやく牛尾に傾き──デュエルは、最終局面を迎える。

 

「逆転させてもらうぜ! 新"治安維持局"の誇りをかけた──オレのターン!!」

 

 窮地を乗り越え、一身に引き抜かれた"魂"のドロー。

 精魂込めた"画竜点睛"の想いを瞳に携えて、牛尾は星宮の敷いた布陣に反旗を翻すのであった。

 

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