そのデッキはね、"繋がり"を重視したデッキなんだ。
モンスターとモンスターの繋がり同士を描いて、より強力な"シンクロモンスター"を呼び出して戦っていく。
ようは"絆"さ。絆をもって戦うデッキなんだ。
どんなに"個"がちっぽけでも
組み合わさればそれは大きな"力"となる。
はは、ずっと使ってるのに知らないのかい?
それはね、かつて"不動遊星"が愛用したデッキなんだよ。まさしく"人の絆や繋がり"を表現したデッキなんだ。
──名前?
俺の名前は……。
"赤堀陸"。"リク"っていうんだ──よろしく。
──その日、リクと出会った俺は自分の使ってるデッキ、"シンクロン"の由来を初めて知った。
けれどリク。
本当に"人の絆"なんてあったのか?
"繋がり"なんてあったのか?
今の俺にはどうしてもそう思えないんだ。
"親友"を失い、
"友人"たちとは以前のような関係でいられず、
お前を慕っていたヤツらから俺は忌み嫌われた。
世間はそう甘くないんだ。
"凶器"の存在になった人物を両手広げて受け入れてくれるほど人は優しくない。
なあ、リク。
"不動遊星"の言っていた"絆"なんて本当にあったのか──?
──かつての記憶の回想を終えて、サイコ能力者の少年、星宮綾人は目の前の状況に意識を戻した。
自分と対峙するのは、わざわざサイコ能力者と戦いたがる"物好きな大人"。
そんなどうしようもない大人に、少年はひとつたずねてみた。
「聞いてもいいか……?」
山札のカードを引きかけていた牛尾哲の手がピタリと静止する。
視線が静かに星宮の方へ傾いた。
「ん……?」
牛尾の見た先には、静かに瞼を降ろして桜風に身をたゆわせる無垢な少年の姿があった。
先程まで発していた決闘者としての覇気はそこにはない。先程までとは違い、いやに落ち着き、そして柳眉を垂れ下げる少年がそこにいた。
少年の髪が桜吹雪に揺れる。
少年は緩やかな語調で牛尾にたずねた。
「"雛宮聖華"の言っていたこと……」
剛眉をしかめさせた牛尾が、星宮に聞き返す。
「なに……?」
「雛宮聖華の言っていたこと……本気で信じてるのか?」
"キミに治安維持局の隊員になってほしいの、キミにしかできないこと、キミにしか解決できない問題がある"。
"キミもよく知ってるでしょ……今、ネオドミノシティはサイコデュエリストの脅威に晒されてる"。
"過去、サイコ能力集団“アルカディアムーブメント”はその力を利用して悪事を働いたわ。今では糾弾され、解体に至ったものの……その歴史はサイコデュエリストの脅威を示し、人々に偏見をもたらしてしまった"。
"力の使い方でそれは“悪”にも、“正義”にもなるということよ。サイコ能力は誰かを傷つけるだけじゃなく、人々を助ける力にもなるとわたしは考えてる……“正しい力”になることを証明したいの"。
"キミのようにサイコ能力で偏見を向けられてる人を助けるために、そのために“治安維持局”を復活させたいの! サイコ能力を悪用する犯罪者への対抗手段としてサイコデュエリストを集めることで、ネオ童実野シティを守る為の“特別対策室”を設立したい、その正義を証明すればきっとサイコデュエリストへの差別もきっと取り除ける!"
"だから……協力してほしい"。
"上手くいけば真犯人を探り出してキミの濡れ衣も晴らせる。きっとキミも“懐疑の眼差し”を向けられずに済むようになる"
"おねがい……サイコデュエリストにはサイコデュエリストの力を用いて対抗するのがもっとも適切なの。“治安維持局特別対策室”……その初めの戦闘隊員として入隊してわたしたちを助けてほしい……"。
「"サイコ能力者の在り方を改めれば周りの反応も変わる"……今のシティの現状に対してあの人はそう言っていた」
けれど──。
そう述べて、星宮は踏み込んだ。
「でも俺は……そうは思えないんだ。確かに能力者本人からすればその在り方は大事だが、周りの人間、"他者"からすればそれは違う」
星宮の眼が、開く。
「怖いものは怖いんだ」
"当事者"の星宮はよく知っていた。
「他人からすればカードの力を実体化させ、それを操るサイコ能力者なんて"凶器"同然。それを近くに置いて良しとするほど他人は甘くない、どうしても"畏怖"の感情が纏わりついてしまうんだ」
リクを失ってから。
デュエルをやめてから。
すべてと疎遠になってから。
星宮はある結論を心に抱くようになった。
「例え本人がどう"行動"しようが、どこまでいっても"サイコ能力者"は"凶器"。どう人の認識を改めようとしたところで人は"凶器"をそばに置きたがるわけがない。だからこそ……」
次に放たれた彼の言葉が、牛尾の心に突き刺さった。
「俺にはどう行動したところで人が変わると思えないんだ……そこに"繋がり"や"絆"なんて安っぽい言葉はなかった……」
"凶器"はどこまでいこうが"凶器"でしかない。
危険なものに人は触ろうとしない。
表面上は優しい顔をしても、
誰かがどんなに倫理観を謳おうとも、
実際に、星宮の下に居残り続ける人間はいなかった。
星宮の下に残った絆は──一本たりとも存在しなかった。
「だからこそ聞きたい」
星宮綾人は、その答えを確かめる為、牛尾哲に強い語調で詰めよった。
「それでもアンタが雛宮聖華の下に着こうとするのは……なんでだ?」
純粋な瞳を携えての問いだった。
「本気で……人を変えられると思ってるのか?」
少年の眼差しの向こうにいる男の周囲に、冷たい桜風が吹き荒れた。
地に落ちた桜花弁は風に吹き上がり、静かにたたずむ男の様子を彩る。
固く見合わせる男の瞼が静かに降りた。
答えを探すように、男はその構えを解いた。
自分の想いを再確認する。
そして目を開けて想いを確かめた頬傷の男は、静かにその答えを語りはじめた。
"もう、何年かな"──そんな言葉を枕詞にして。
「昔な……“不動遊星”っていう男がいたんだよ」
不器用な言い回しで男は続ける。
「いけすかねえやろうでさ、俺は当時そいつのことを“サテライトのクズ”と罵ってた。
けど、どこか不思議な雰囲気というか気質を纏っていた野郎で……何かと人を惹きつけるものがあったんだ。
かつて
どこか心あらずといった感じだった。
自嘲したように男が微笑む。
満月を見上げた男は降り落ちる桜の花弁をひとつ手に取り、何かを想い馳せるようにしてそれを強く手の平で握り締めた。
「英雄だったんだよ、そいつは。当時“治安維持局”の隊員でサテライトの小悪党せびってお山の大将気取ってた俺なんかよりよっぽどシティの未来に貢献した男だった」
──"すげえ奴だった"。
──"器量がよく"、
──"決闘の腕が立ち"、
──"皆に慕われてさ"。
──そんな風に感情的に語る男の姿が、相対する星宮にはこう見えていた。
ああ、この人はどこかに"忘れ物"をしてきてしまった大人なんだな、と。
それが"過去"なのか。
"現在"なのか。
──星宮の疑問を他所に牛尾の言葉はつらつらと続く。
想い鈍らせたような男の言葉はひとつひとつ月夜に溶け込んでいった。
「一方で……一方で、俺は……」
風に揺れる桜のざわめきに乗せて──男は十年来の言葉を、無垢な少年に告げた。
「この街の未来の為に……いったい何を残せるんだろうな。ずっと……そう考えてた」
──ずっと牛尾哲が抱え続けてきた想いだった。
"街を救った英雄"に対して不甲斐ない自分はとても無力で、力不足で、幼稚だった。
当事見下していた"サテライトのクズ"は自分よりも遥かに立派になって、皆に受け入れるようになった。
下だったのは自分だったのだ。
いや、序列の問題ではない。問題なのは自分の在り方だった。
かつて"街を救った英雄"に対し、スラムの人間相手に大将気取り、下を見ることで安心を得ていた自分は遥かに惨めで愚かで、大馬鹿者だった。
本来市民を守る事こそが"治安維持局"の務めだったのに、振り返ればそんな信念はいつの間にか粉々に砕かれていた。
元よりそんな心はなかったのだろうか。
今となっては確かめる術はない。
しかし確実に理解できることはただひとつ。
気付いた時には牛尾には"結べるもの"など何ひとつもなかったということだ。
「さっきの"追いかけっこ"の話の続きか? くだらない」
幼稚な大人を少年は一蹴し、毒を吐き捨てた。
「やり残したこと、やれなかったこと。英雄に追い付けなかったことを悔やみ、雛宮聖華を通して過去の清算でもしようとしてるのか?」
それは結局、自分の理念の為に誰かを利用しようとしているだけではないか。
星宮綾人は愚直な大人を目の前にしてそう思った。
雛宮聖華にしてもそうだ。
結局は自分の本願の為、他者のサイコ能力者を利用しようとしているだけだ。
そういう意味では牛尾も、雛宮聖華も、星宮からすれば今まで関わってきた"傍観者"たちとさしてなにも変わらない。
結局は皆"利己的"であるということだ。
そんな考えのどこに"人の絆"や"繋がり"という大層な理念が存在するのか。
結局、誰もが自分の為にしか行動せず、真の意味で誰かを理解しようとしない。
性善説などまやかしなのだ。
だからこそサイコ能力に目覚めた星宮は──。
人の"絆"など、まがいものでしかない。
そう、考えるようになった。
「…………」
少年の突き刺してくるような問いを受けて、牛尾は強張らせていた肩を緩く力落とすしかなかった。
あながち間違いでもなかったからだ。
自分は確かに雛宮聖華を通して過去の清算を行おうとしている。
しかし──かといって"今"の牛尾はそれだけで行動しようとしているわけでもないのだ。
「……?」
固く張っていた表情が、緩んでいく──そんな牛尾の様子を星宮は垣間見た。
なんだ?
どうした?
何が起きた?
そう思ってしまうほどにこの状況における牛尾の反応は星宮からすれば意外なものだった。
意外な展開に星宮は思わず面食らい、尖らせていた眼差しを緩めて、純粋な瞳をそこにたたえはじめた。
なんというか憑き物が取れたような表情を見せはじめたのだ、目の前の男は。
何かを乗り越え、何かの葛藤を打ち払ったような、すっきりとした顔──そんな表情を牛尾は浮かべていた。
「……けどさ、ホントは違ったんだ。考えすぎてたんだ」
先程までの辛気臭い語りが緩く、なだやかな語調に変化を遂げはじめる。
ついさっきまで何かに悩み葛藤していた男の姿はそこにはなかった。
「最近わかったんだ。考えすぎてたんだよ。あいつは別に何かを残そうとしてたわけじゃねえ。
常に"行動"してただけなんだ。自分の信じる道を行き、困難に突き当たっても、答えを探しながら進んでただけなんだ。
何かの影を追うとか、何かを成し遂げようとかそういうのじゃなく、ただ自分の"道"を進み、それが結果として誰かの"
"ジャック・アトラス"。
"クロウ・ホーガン"。
"十六夜アキ"。
双子の"龍亜、龍可"。
"ブルーノ"
こんなもんじゃねぇ、影響を受けた人間はまだまだたくさんいた。俺含めてな。
……ある日な、俺はひとりの少女と再会したんだ。
10年前、神社の境内で保護したその子が最近、本当につい最近、俺の目の前に現れたんだ。
"お久しぶり"です、てな。
俺は最初驚いた。けど俺に影響されて市役所を志したって聞いた時は心底嬉しくなった。
"サイコ能力者のような、偏見を持たれている人の為に市役所の中に新たな部署を作る"。そいつは意気揚々としてそう言っていた。
名前を"治安維持局、特別対策室"──かつて俺が口を滑らした言葉に影響を受けてあいつが設立を決めた名だった。
──そう、雛宮さ。星宮、必死にお前さんを誘いに来てた雛宮さ。
その想いは本物だったのさ。
自分と同じ境遇の人間を護る為、救う為。
その為に自分は"行動"しているんだと雛宮は語った。
そして今の"道"は俺に影響されて選んだものだと言った。
そうさ。
俺のかつての"行動"が雛宮の"道標"となったのさ。
遊星の進んだ"道"が俺の"道標"になって俺を変えた。
俺の進んだ"道"が雛宮の"道標"になって雛宮のやつを変えた。
"誰か"の進んだ"道"が、また"誰か"の"道"を変える。
そして──」
そして牛尾はもう一度星宮に眼差しを向けて、表情を固くして見合わせはじめた
少年の"問い"に、答える為に。
全霊の言葉を星宮に投げかける。
「──星宮、お前の進む道もきっと誰かに影響を与えるんだ。
遊星が俺を変え、俺が雛宮を変えたように。
きっとお前の行動もまた誰かの人生を変える。
そしてその"道標"の連鎖はいつかきっと、サイコ能力者への考えを変えてくれるさ。
なあに、心配すんじゃねぇ。
なんせ"サテライトのクズ野郎"だった遊星が頑固な俺の考えを変えちまったぐらいだぜ?
それに比べりゃサイコ能力者への偏見の除去なんて屁のカッパも同然よ。
大丈夫、"人は変わる"。
俺は思うぜ、星宮。きっとそんな"道標の連鎖"こそを──」
月下の桜吹雪の中──牛尾は静かに少年に、その答えを告げた──。
「人はそれを──"絆"と呼ぶんだろうぜ」
──降り落ちる桜の花弁写す星宮の瞳が、光に揺れた。
「……。」
頬傷の男を写す無垢な少年の瞳が、月夜に揺れた。
「もう一度言うぜ。人は変わる、変われる」
頬傷の男、牛尾哲の手がもう一度己の山札にかけられた。
「"偏見"さえ、誰かの行動によって変わるんだ。俺が遊星への認識を改めたようにな」
覚悟を決めた男の手が、山札に魂の一手を込め──。
「俺は賭けるぜ、星宮。雛宮が、そしてお前たち、"新たな未来を担う子供たち"が──」
未来への逆転札を、その手に引き抜く。
「ネオドミノシティの未来を育み、サイコ能力者への確執を取り除くってな!」
大波の如く迫る男の言葉に少年の心が揺れた。
泥臭い語りで感情を込めた牛尾哲の言葉が星宮綾人の心を揺らした。
場の状況は間違いなく星宮の優勢。
誰からみても絶望的な牛尾のフィールド。
牛尾の場には打点で負けるアサルト・ガンドックとカオスハンターだけ。
手札は星宮の猛攻に磨耗しきりドローカードの"1枚"のみ。
なのに──。
(逆転、される──)
星宮はその培ってきた特有の勘により、たった一枚からの"逆転劇"を脳裏に予感してしまっていた。
「俺は手札から──!」
覚悟を決めた男の手に逆転の一手が芽吹く。
「──これは!」
闘熱吹き上がる桜舞台に"翠緑のアンクレット"は浮き上がった。
「まさか、引き当てたのか!?」
星宮は驚愕する。
それはなぜか。
なぜなら淡い翠緑色で場に浮かび上がったそれは、デュエルモンスターズ界隈に置いて間違いなく最も有名な"蘇生魔法"の発動演出を表していたからだ。
逆転札を引き当てた牛尾が得意げに笑い、高らかに宣言を果たす。
「マジックカード、"死者蘇生"を発動!」
取り巻く風。
吹き荒れる嵐。
翠緑のアンクレットが風に融解するようにして形を変えてゆき、"蘇生対象"のモンスターの造形を象り始めた。
「俺が蘇生させるのは──!」
そしてアンクレットが象りあげたその"モンスター"は──。
「星宮、お前さんのロード・ウォリアーだ!」
桜幕の嵐の中に現れたのは黄金の機械騎士、"ロード・ウォリアー"の姿だった。
「まずい、ロード・ウォリアーは!」
攻撃力3000。場の打点最高点を更新され、吹き荒れる風の中で星宮は戦慄した。
いや、本当に懸念すべき問題はそこではない。
"あの"効果が牛尾哲のデッキにも有効に働くのが厄介なのだ。
「よく覚えてるぜ、こいつの"モンスター効果"は! 俺はロード・ウォリアーの効果によりデッキからレベル2以下の"戦士族チューナーモンスター"を場に特殊召喚する! 俺が呼び出すのは──」
翻され、打ち払われた騎士のマントの内より現れたのは──。
「"ジュッテ・ナイト"! レベル2チューナー、"ジュッテ・ナイト"を攻撃表示で特殊召喚だぁ!」
──これで牛尾の場に4体のモンスターが馳せ参じることとなった。
ひとりは銀髪なびかせる"カオスハンター"。
もう一匹は遠吠え吹かせる"アサルト・ガンドッグ"。
もう一体は黄金色に艶めく"ロード・ウォリアー"。
そして最後は十手を携え戦いに構える岡っ引きの"ジュッテ・ナイト"。
瞬く間にジュッテ・ナイトは質量変換を起こし、
(遊星、お前の力を借りるぜ)
かつての遊星のモンスターに敬意を表し──。
(お前の力を借りて)
──牛尾は、苦楽を共にしてきた我が"エースモンスター"を場に降臨させようとしていた。
(星宮の目を覚ましてみせる──!)
吹き荒ぶ嵐と桜の中、牛尾はもう一度言葉を投げかける。
「星宮、これが俺の答えだ! 俺は雛宮の意志に乗る! たとえどんなに"
場を震わせんばかりの覇気の中で戦いに臨む牛尾は、"治安維持局特別対策室"の一員として、その決意と覚悟をネオドミノシティの夜空に表明してみせた。
「俺は、お前たちの"
牛尾の決意に今、モンスターたちが共鳴を果たす。
「"
あいよあいよと桜吹雪が吹き荒れて、
「"
ソイヤソイヤと剣呑舞台が鳴り響き渡る。
──場に並ぶモンスターの一体、アサルト・ガンドッグは同調輪に飛び込んでエネルギー回路を潜り抜けた。
"ジュッテ・ナイト"の作り出したレベル2の同調輪をレベル4の"アサルト・ガンドッグ"が駆け抜けてゆく。
今、モンスターたちが牛尾の想いに応え進化を果たそうとしていた。
「さあいくぜ星宮! ありったけの"本気"をお前にみせてやる!」
モンスターのレベルの合計は"6"──同調輪は大きな焔を広げて、リングは閃光裂波を迸らせ──。
「──"シンクロ召喚"! 桜舞台へかけ上がれ、"制裁の、権力"──!」
今──剣呑舞台に"肩衣の戦士"は舞い降りた。
「出合え! ──"ゴヨウ・ガーディアン"!!」
ゴヨウ・ガーディアン。地属性 レベル6 攻撃力2800。
「攻撃力2800……!? レベル6で!?」
隈取り化粧の戦士を前にして星宮綾人はひとり狼狽えた。
まずい、ゴヨウ・ガーディアンの到来により星宮のモンスターはすべて相手のモンスターの攻撃力を下回った。
しかも伏せ札も手札誘発もない──完全なる"無防備"を晒して。
「バトルだ!」
牛尾の一斉によりカオスハンターが鞭をしならせ、ロード・ウォリアーが鉄剣を引き抜いて迫り出した。
騎士の鉄剣と女王の鞭が星宮のモンスターたちを切り裂きにかかる。
「カオスハンターでドッペルトークンを、ロード・ウォリアーでスターダスト・チャージ・ウォリアーを攻撃!」
敢えなくモンスターたちは切り裂かれ、星宮は今試合初の"戦闘ダメージ"を受けた。
剣撃の余波に星宮が苦悶する。そのダメージは合計3100にものぼった。
牛尾の一転構成はまだ続く。まだ牛尾の場には"肩衣の戦士"が呼び掛けを待っている。
「さあ、"逮捕"の時間だぁ!」
牛尾の号令に沿い、肩衣の戦士は縄通しした十手を振り回し、それを"青の氷龍"に向かい投げつけた。
「ゴヨウ・ガーディアンで氷結界の龍、トリシューラに攻撃!」
投げつけられた十手が桜吹雪を駆け抜け、猛烈な勢いで氷龍に差し迫る。
「"絶氷"を砕け、ゴヨウ・ガーディアン! "ゴヨウ・ラリアット"!!」
──強烈な勢いで向かった十手は氷龍の硬い竜鱗を貫き穿ち砕いて、悲痛の咆哮を満月のもとに上げさせた。
悲鳴の咆哮が轟き、大気振動が夜空に広がる。
たちまち悲鳴あげる氷龍の体は眩い光を放ちはじめた。
「トリシューラ!」
一挙爆散──星宮の呼び掛け虚しく、トリシューラは体を爆発させ、その冷氷を散らして体を崩壊させていった──。
戦闘ダメージの余波が星宮を襲う。
「くぅぅ……!!」
爆散した氷龍は最後には大地の骸となってその命を終え、桜吹雪の中に体をうずめ落ちていき──。
──そして星宮の場からすべてのモンスターが消え去った。
モンスターを一掃され、
"シラユキ"を封じられ、
"絶氷"さえ砕かれた星宮の場には──。
先程まで築き上げていた強固な布陣の跡形など、微塵もなくなっていた。
「はぁ……はぁ」
星宮は狼狽する。
「はぁ……はぁ……!」
ゴヨウ・ガーディアンとトリシューラの戦闘を受けて星宮の残りライフは"800"。
そして彼に残された手札は"2枚"。
しかしこれは──。
「本当に……逆転された──!?」
──これは、カオスハンターによって"封殺"されている"2枚"である。
今の星宮に牛尾への対抗手段はない。
しかも更にここで星宮に追い討ちがかかる。
「ゴヨウ・ガーディアンのモンスター効果!」
牛尾が何かを宣言すると、ゴヨウ・ガーディアンが地中に十手を投げつけた。
なんと投げつけられた十手の先から、先程撃破されたはずのトリシューラが引っ張りあげられて姿を現した。
「なっ──!?」
「ゴヨウ・ガーディアンでモンスターを戦闘で破壊した場合、そのモンスターをこちらの場に守備表示で特殊召喚できる!」
十手に引かれ縄打たれた氷龍が、哀れにも無惨な姿で牛尾の場に到来を果たしてしまった。
これで牛尾の場には上級モンスターが"4体"。
対して星宮の場にモンスターどころか伏せカードも"0"。
正真正銘、牛尾と星宮の立場が"逆転"した瞬間であった。
「どうだ星宮、絶望的な状況でも案外なんとかなるもんだろう!」
4体のモンスターをその身に従えた牛尾は動揺に表情狼狽する星宮に意気揚々と告げた。
まさしく、これが窮地を乗り越えた"可能性の形"なのだと。
「さあ来い、 今度こそお前の想いをぶつけてみせろ!」
牛尾はその身を構え、心揺れる星宮に発破をかけた。
「お前のすべてを、その"ウォリアー"で!!」
くすぶり消えかかっていた火が、もう一度点火しはじめる──。
"絶氷"に冷めていた心は再び熱を帯びはじめ、纏わりつく氷を溶かしかかっていた──。
「"リク"、俺は……!」
冷えていた"鉄"が、もう一度"激熱"を吹かせはじめ──。
「もう一度、"デュエル"をしてもいいのか……!?」
鳴動する心は──間違いなく徐々に、高鳴りをはじめていた──。