遊戯王5D’s 治安維持局特別対策室   作:ピクサ

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第8話

 

 

 

 熱、(ほど)ける体は流れる風に伏していた。

 花弁(はなびら)、舞散る舞台は月夜の色めきを()していた。

 

 過ぎ去りゆく灼熱風が少年の心を撫で、溶かしてゆく──心に根張る"氷雪"はふつふつと、眼前に立ちはだかる"頬傷の男"に溶かされかかっていた。

 相対する少年が崩れた態勢を立て直し、もう一度頬傷の男に向かって固い表情で見合わせる。

 

 そこには静謐ながら闘熱に揺れる少年の瞳があった。

 

「"道標の連鎖"……」

 

 少年は己の手に携えた2枚の手札をみやり、その涼やかな声を夜に奏でた。

 

「"艱難辛苦"、か……」

 

 少年、"星宮綾人"は決闘の続きを結ぶ。

 

「俺のターン」

 

 勝負に構え直した少年のドローは、先程までの粗雑な勢いのものとは違い、ただただ緩やかなものだった。

 無意味に桜を揺らすわけでもなく。

 風に八つ当たりをするのでもなく。

 

 一変の乱れもない、細波(さざなみ)のような動作のドローだった。

 

 空気の変化を察した頬傷の男が構える。

 

(様子が変わった……!?)

 

 少年の佇まいの変化に頬傷の男、牛尾哲はただならぬものを感じとり、次なる展開にその身を強く構えた。

 ここにきて額から嫌な汗が流れる。

 ひとつ汗が吹き出て牛尾の頬筋を流れた。

 

 おかしい。

 先程までの勢いは鳴りを潜めたはずなのに、どういうわけか星宮の覇気が一段と強くなったように感じる。

 

「牛尾さん」

 

 少年の声が月下に響く。

 

「俺にはまだ自分の答えが出せない。けれど……」

 

 モンスターを1枚。

 そして伏せカードを2枚セット。

 少年のターンは静かな動作と言葉を経て──。

 

「俺は、このデュエルにその答えをかけようと思う」

 

 ──何事もなく、そのまま牛尾へと順番が手渡された。

 

「ターンエンド」

 

 落ち着いた言葉をもっての終了宣言だった。

 同時にこの局面で出てきた2枚の伏せカードに牛尾は警戒を払う。

 牛尾は未だに星宮の"急激"な面持ちの変化の理由が察せていなかった。

 

 それでもただひとつ、なんとなくの感覚で言うのならば。

 不思議と星宮の顔から"執念"じみたものが消えた気がする。そんな感覚だけは牛尾にもあった。

 

「……」

 

 いくら思案したところで答えを確かめる術はない。

 確実にいえるのは相手はまだ戦いを諦めていないということ。

 "いいだろう"。

 その気概に答えるべく牛尾も意を決して、山札のカードを引き抜いた。

 

「いくぜ」

 

 伏せ札は気にかかるが、ここで臆しては勝てる勝負も勝てない。

 下手に臆し、怯え、守勢に入れば逆転を許すきっかけにもなりえる。

 伏せ札に怯み行動を臆してしまえばそれこそ相手の思うつぼだ。

 

 ここは、攻める。

 勇気を振り絞り、奪ったトリシューラを攻撃表示に変えてバトルに臨んだ。

 

「バトル!」

 

 銀髪の執行者が駆け出し、切り込み役としてその身を戦場に舞い踊らせる。

 

「"カオスハンター"でセットモンスターに攻撃!」

 

 女王の操る鞭が撓りを効かせて、星宮の前に構える"セットモンスター"を穿ちにかかった。

 迎撃に反転するモンスターの姿が月光に反射する。

 

 伏せられたモンスターの正体は"地に咲き乱れる赤き花"だった。

 

「なんだ!?」

 

 奇怪な出で立ちに思わず声をあげる。

突如立ち昇った謎の異臭に牛尾は己の鼻をつまんだ。

 不愉快な異臭が空に立ち昇る──開かれた"屍臭花"から紫の"毒鱗粉"が溢れ出す。

 

「"幻惑のラフレシア"の"リバース"効果」

 

 セットモンスターの正体"幻惑のラフレシア"が表返り、迫り来るカオスハンターにその姿を現した。

 奇々怪々で毒々しく、真っ赤に艶めく激臭花が悦を誘う。

 

「このカードが表になった時、そのターン終了時まで相手の表側表示モンスター1体を奪い取る。俺が奪い取るのは──」

 

 甘く漂う毒鱗粉が、銀髪の執行者を"(めと)り"従える。

 

「今まさにラフレシアに攻撃を放った"カオスハンター"だ!」

 

 哀れにも毒鱗粉に"娶られ"、鱗粉中毒を起こしたカオスハンターは快楽に惚けたような表情を浮かべて星宮のモンスターに洗脳されてしまった。

 振るった鞭は明後日の方向に飛んでゆく。

 "幻惑のラフレシア"の破壊に成功はしたものの、中毒にやられた執行者は大切な武器を手放してしまった。

 星宮陣営にカオスハンターが堕ちる。

 銀髪の執行者は膝を崩し、無防備な態勢のままにその意識を幻覚の世界へと預けてしまった。

 まんまと屍臭花に"洗脳"され惚けてしまった従者に牛尾は苦悶づく。

 

「くっ……!」

 

 何より"カオスハンター"が相手の場に渡ってしまったことがまずい。

 

「カオスハンターの"除外封鎖"が溶けた……!」

 

 カオスハンターの効力が及ぶ範囲は"その場から見て相手のカード"のみ。

 コントロールが移ったこの状況では星宮の"カード除外処理"は許されてしまう。

 つまりそれは──。

 

「まずい、ゴヨウ・ガーディアン!!」

 

 "シラユキ"の自己蘇生効果、彼女のタイミングを選ばない"裏返し"効果を一時的に許してしまったということ。

 

 それを許可するのはまずい。

 すかさず牛尾は幻覚に惚けたカオスハンターを取り返しにかかった。

 

「カオスハンターを取り返せ、ゴヨウ・ラリアット!」

 

 幸いゴヨウ・ガーディアンには撃破モンスターを奪い取る効果がある。

 再度除外封殺の構えを敷くにはこの効果でもう一度カオスハンターを取り返すしかない。

 主人の命令に沿い肩衣の戦士は即座にその十手をカオスハンターに投げつけた。

 が、しかし牛尾はここで冷静になるべきだった。

 

 シラユキが除外できるのは"墓地"だけではない。

 

「悪いが、シラユキが払えるコストは墓地に限らない」

 

 計7枚。墓地のカード6枚と──"場"のカオスハンター1枚を手に取って星宮はそれらをゲームから除外した。

 

「シラユキの除外コストに利用できる場所は"手札"、"墓地"──そして"自分フィールド"!」

 

 カオスハンターを含めたカードたち7枚が復活のコストに支払われ、墓地より妖精伝奇"シラユキ"が星宮の場に守備表示で復活を果たした。

 蘇生まもなくして獣人の少女が十手に突き払われ墓地に落ちる。

 せっかく復活させたシラユキはいともたやすく牛尾の手に屠られた。

 

 が、別にそれは特段取り沙汰することではない。

 当の星宮の本懐はそんなところにはないのだ。

 

 ここで肝心なのは、"カオスハンター"を牛尾に奪い返されないこと。

 ──そう。

 

 間違いなく今、星宮は牛尾の目論見を達成寸前で絶ち切ったのである。

 

「──しまっ……!」

 

 牛尾は"間接的な方法"でまんまとカオスハンターを除去されてしまったのだ。

 

「……シ……"シラユキ"の"コスト"を利用して……!」 

 

 星宮が行ったのは、"一時的に奪い取ったモンスターを奪い返される前に何かしらのコストに支払い完全除去を行う"という、"エスケープ戦術"の応用。

 つまり。

 

「邪魔なカオスハンターを"エサ"にしやがった……!」

 

 星宮は、妖精伝姫シラユキの"コスト処理"をカオスハンターの"除去"に利用したのだ。

 なにも相手を裏返したり自由に自己蘇生するだけがシラユキの取り柄ではない。

 シラユキは時に邪魔なカードの"除去剤"として活用できるのだ。

 

 "敵の厄介なカードを奪い、返す前にシラユキで除去する"。

 

 扱いに慣れた星宮だからこそ行える彼なりの戦術だった。

 本来敵の"除外を封じる"モンスターが、封じるべき敵のコストにより"除外"される。

 

 "除外封殺"を標榜するカオスハンターにとってこれ以上に皮肉な仕打ちはないだろう。

 

「まずい……完全に除外封殺が解けた!」

 

 これで星宮を縛りつけるカードは完全に無くなってしまった。

 逆転劇を決めたは良いが貴重な封殺モンスターを失っては意味がない。

 徐々に戦いの形勢は牛尾から星宮の方に傾きかけていた。

 

 しかしここで牛尾に新たな疑問が湧く。

 

(しかし……どうして"シラユキ"の効果を使わなかったんだ?)

 

 牛尾としては不可解な点があった。

 

 何故か星宮はシラユキの効果でゴヨウ・ガーディアンの攻撃を妨害しなかったのである。

 

(シラユキの裏返し効果を使えばゴヨウ・ガーディアンを妨害できたはずだ。それをなぜ──?)

 

 ゴヨウ・ガーディアンで撃破したシラユキが牛尾の場に"守備表示"で特殊召喚される。

 当然だ。

 今までの流れを顧みてもう一度星宮の墓地にそのまま埋葬するなんて選択をこの状況で取るはずがない。

 

 そもそも奪われたカオスハンターを取り返そうとまでした理由はたった今、奪い取ったシラユキ(こいつ)にあったのだ。

 

(ここまで見てきた中では、星宮の野郎が持つカードで一番厄介なのは"シラユキ"のはずだ)

 

 仮にシラユキがゴヨウ・ガーディアンを妨害していれば続くロード・ウォリアー、トリシューラの攻撃をかわせたはずだ。

 どちらかに撃破されたシラユキを再度コストを支払って蘇生すれば後続を無力化できた上でシラユキを場に残せるためだ。

 除外コストに関しても星宮の墓地にはまだ沢山のカードが残っているため懸念する必要もない。

 

 ──ならば、なぜ?

 そこまで考えて牛尾は"発想"を変えた。

 

(……そうか……)

 

 そもそも──星宮が攻撃を"避けようとしている"と考えるのが間違いなのである。

 

(あの"2枚"の伏せカードのための──"布石"か?)

 

 星宮の下にセットされた、2枚の不気味なセットカードに牛尾は注目した。

 夜の陰影に揺れる謎の一組──。

 

 おそらくあれらのどちらかは、"直接攻撃"に反応する類の"罠"。牛尾はそう考えた。

 

(いや……でもおかしいか? ならわざわざシラユキを渡す必要は……)

 

 ──そこまで考えたのだが、やはり不可解な点が拭えなかった。

 

 仮に直接攻撃に反応する罠だとしてもわざわざシラユキを相手に渡す利点が思いつかない。

 別にゴヨウ・ガーディアンの奪取効果にその身を捧げさせる必要はないのだ。

 

 直接攻撃を受けたいならゴヨウ・ガーディアンをシラユキで伏せた後に後続のモンスターに戦闘破壊させフィールドを空けてやればいい。

 寧ろそちらの方が展開としては自然だったはず。

 

「さあ、どうするんだ?」

 

 星宮綾人の真の狙いとは一体──。

 待ちかねた星宮が悩む牛尾に催促をかけてきた。

 

「罠に臆して一端退くのもよし、勇気持って攻めにかかるもよし。けど……」

 

 余裕を取り戻した星宮は大胆不敵に、必死に思慮を凝らす牛尾を挑発した。

 

「けど……どっちにしたって俺には良い結果が得られるんだ。ここまでの露骨な"お膳立て"を見ればそれはあんたにもわかるだろ?」

 

 すべて見透かされている。星宮の述べる通りだ。

 恐らくどういった行動を取ろうとも星宮の術中に陥り危機を招く。

 

 実質、牛尾は何を選んでも悪循環を招く"最悪の選択肢"を迫られていたのだ。

 

 だかしかし──。

 

「……」

 

 待っていても戦況は動かない。

 寧ろ待っている間に相手に活路の一手を引かれる可能性もあるのだ。

 それで尚且つ伏せ札も残るのが一番最悪のパターン。

 星宮の残りライフは"800"。

 攻めるしかない──ここは攻める。牛尾は緊張を振り払うようにして心を決めた。

 

「やるしか……ねぇ」

 

 ここは攻めて、出来るだけ相手に札を消費させることを選ぶ。

 牛尾は自軍のモンスターに掛け声を放った。

 

「バトルだ、"トリシューラ"!」

 

 立ち構えた氷龍の三首の顎門に、氷雪の息吹が集束する。

 

「星宮綾人に"直接攻撃(ダイレクトアタック)"! "絶氷"のアイシクルストリーム!!」

 

 顎門より一気に解き放たれた蒼白く煌めく"冷光線"が、降り注ぐ桜花弁を押し退けて星宮の下に切迫を始めた。

 発射され、空気を凍てつかせる"絶対零度"が風を巻き上げて少年の下に迫る。

 

 推し迫りくる冷刃を前にして、星宮綾人はただじっと、揺れることのない瞳を据えていた。

 

「……」

 

 ──実際、敢えて身を切り、相手の札を消費させるという行為はデュエルモンスターズにおいて何も間違った行為ではない。

 事実この局面で躊躇して星宮の伏せ札の除去策の到来を待っていればその間に星宮の有利を招く危険性は高く、牛尾としても得策ではなかった。

 ここは攻めて、相手のジリ貧を招くのがこの場面における"定石"。

 

 しかし所詮"定石"は"定石"である。

 いざというとき"型破り"できない人間は──脆い。

 

「──開け、トラップカード」

 

 発射された絶対零度の息吹に向かって少年が仕込んでおいた罠を立ち開く。

 地を凍てつかせ、削り進む冷光線に星宮は散々匂わせておいた"対抗策"を開いた。

 今その答えが牛尾の前に提示される。

 

 如何に"凝り固まった考え方"が危険であるかをこの時、牛尾は痛感した。

  

 ──発動された罠の意思に呼応して大気が捻れてゆく。

 空間が歪み、吹き荒ぶ桜吹雪は大地より空に突き出た2本の"光条"により弾き飛ばされ、その身を月下に散らせていった。

 湧き出た2本の"翠緑の光条"が互いに渦を巻き、巻いた先の中心点で合わさり、"チューニングリング"を形成してゆく。

 ここで牛尾は嘆く。

 

 どうしてあそこまで、星宮が躍起になってカオスハンターを除去しにかかった理由に自分は考え及ばなかったのかと。

 

 

 詰まるところ──星宮の狙いは"シンクロ召喚"だったのだ。

 

 

「"王魂調和"よ!」

 

 開かれたトラップカードの名を宣言して、星宮綾人が劣勢の状況に反旗を翻す。

 

「今、"墓地に眠るふたつの魂"をかけあわせ!」

 

 埋葬された魂が混合し、新たな"シンクロモンスター"を生み出す。

 

「新たな命を顕現させよ!」

 

 激烈に光輝く同調輪が高く高く音を響かせてゆく。

 かけあわさり一筋の光条となった"魂"が夜を焼きつくしてゆく。

 

「集いし絆が更なる力を紡ぎだす」

 

 トリシューラの放った冷光線は容易く光に溶かされてしまった。

 攻撃は不発に終わる。

  

「闇夜を貫く"紅玉の爪"となれ!」

 

 そして光は大爆発を起こし──"新たな真紅の機械戦士"を生み起こした。

 牛尾は驚嘆する。

 

 何故なら、牛尾にとってその機械戦士の姿は"苦い想い出"のあるものだったからだ。

 

「シンクロ召喚!」

 

 真紅の体より這い出た"排煙筒"が、夜の帳を掻き鳴らす。

 

 

「轟け──"ターボ・ウォリアー"!!」

 

 

 ターボ・ウォリアー レベル6 攻撃力2500。

 

 

「──"ターボ・ウォリアー"!?」

 

 今、何が起こったのか。悠然と佇む"真紅の機械戦士"を前にして牛尾は今一度振り返る。

 

 先ほど星宮により発動されたのは相手の直接攻撃を無効にしてシンクロ召喚を執り行う通常罠"王魂調和"だ。

 

 これは場ではなく"墓地"のモンスターを素材としてシンクロ召喚を行う特殊なカードであり、本来このタイミングでは叶わない"相手ターンでのシンクロ召喚"を可能にするカードである。

 ゆえに星宮は墓地のレベル1"ターボ・シンクロン"とレベル5"ターレット・ウォリアー"を素材として"ターボ・ウォリアー"をシンクロ召喚できた。

 この時素材となったモンスターは"ゲームから除外"される。

 

 つまりカオスハンターを維持出来ていれば発動を許さずに済んだカードなのだ。

 無理やりシラユキで消しさった理由がここにある。しかも。

 

「──トラップカード、"リジェクト・リボーン"の効果」

 

 星宮は、同時にもう1枚の伏せ札を開いていた。

 

「相手が直接攻撃を宣言した時、墓地に眠る"チューナーモンスター"と"シンクロモンスター"を自分の場に復活させ──」

 

 そしてこのターンにおける牛尾の戦いは──。

 

「──このターンのバトルフェイズを終了させる」

 

 ──敢えなく終了を余儀なくされてしまった。

 

「なっ……!」

 

 勇気の進軍の結果は散々たるものであった。

 本来相手をジリ貧に追い込む為の行動が本末転倒。

 せいぜい収穫と言えるのは"シラユキ"をこちらの手に奪取できたことぐらいでその他は寧ろ相手に利益しかもたらしていない。

 すべては"カオスハンター"を奪われた時から牛尾の布陣は瓦解していたのだ。

 

 間違いなく牛尾は星宮のペースに呑み込まれかけていた。

 

「俺のターン!」

 

 山札のカードを引き抜き少年が勢いのままに進軍をかける。

 リジェクト・リボーンで蘇生させた"2体のモンスター"にその号令を放った。

 

「墓地の通常罠"妖怪のいたずら"の効果を発動、このカードを除外して蘇生させた"スターダスト・チャージ・ウォリアー"のレベルをひとつ下げる!」

 

 先ほど牛尾のロード・ウォリアーに切り伏せられた星屑の突撃兵のレベルが"5"に引き下げられる。

 これはまあ良い、まだ些細な問題なのだ。

 

 真に問題なのは同時に蘇生されたもう一体の"燃料缶"のチューナーモンスターの方だ。

 

「妖怪のいたずらでレベル5に引き下げたスターダスト・チャージ・ウォリアーに──」

 

 ひょうきんな面持ちをたたえた"燃料缶"のチューナーモンスターが──。

 

「──リジェクト・リボーンで蘇生させたレベル2"ニトロ・シンクロン"をチューニング!」

 

 ──今、突撃兵にかけ合わさる。

 

 "妖怪のいたずら"。

 "ニトロ・シンクロン"。

 どちらも序盤に発動されたマジックカード"隣の芝刈り"によって落とされていたカードだった。

 やはりカオスハンターを失ったのは痛手だった。

 カオスハンターによって塞き止められていた"墓地リソース"が息を吹き返し、星宮は序盤の勢いを取り戻してしまったのだ。

 

 なにより──あの"ニトロ"と名のつくモンスターには牛尾としても辛酸を舐めさせられた過去がある。

 

「集いし思いがここに新たな力となる。月夜に反射する"翠玉の弾丸"となれ──シンクロ召喚!」

 

 巌山裂破──光が大地を引き裂いて赫焉の焔を湧き散らす。

 

「燃え上がれ、"ニトロ・ウォリアー"!!」

 

 

 ニトロ・ウォリアー レベル7 攻撃力2800

 

 

 忘れもしない。

 あの怒り立つ二本角を携えた"悪魔"のような出で立ち。

 "鬼"のような力強さでその"尻尾(ロケットブースター)"を震わせる姿を牛尾は今の今まで忘れたことはない。

 

 よく覚えている。

 あの翠緑の機械戦士に牛尾は"頬傷"をつけられたのだ。

 

「"ニトロ・ウォリアー"……!」

「──まだだ、"ニトロ・シンクロン"の効果」

 

 "ニトロ・シンクロン"はシンクロ素材になった際プレイヤーに1枚のドローの施しを与える効果を持っている。

 まさに手札の潤滑油だ。

 そのまま星宮はその潤滑油で次なる一手をその手に引き当てた。

 すかさず引き当てた札がディスクに差し込まれる。

 

 それはマジックカード"戦士の生還"であった。

 

「マジックカード、"戦士の生還"を発動。 墓地の戦士族モンスター1体を手札に加える。俺が呼び戻すのは──」

 

 墓地から排出されたその"切り札"を、星宮は指取る。

 

「戦士族チューナー、"ジャンク・シンクロン"!!」

 

 ──もはや牛尾は予感していた。

 

「マジかよ……!」

 

 脳裏に"あの"光景を見た瞬間、思わず牛尾は苦笑いにも近い興奮の笑みをこぼしてしまった。

 それもそうだ。

 "ターボ"に、"ニトロ"。

 

 ここまで来たらもう、牛尾には"あれ"が飛んでくるとしか思えない。

 

「ジャンク・シンクロンを召喚、その効果により墓地のレベル2モンスター、"ドッペル・ウォリアー"を特殊召喚!」

 

 橙色の小型ロボットがリコイルスターターを引っ張り上げ、背に積んだバックパックエンジンを駆動させる。

 エンジン音に共鳴して黒軍服"ドッペル・ウォリアー"が復活し突撃銃を肩に抱えてその場に降り立つ。

 舞い散りゆく桜吹雪の中、かのモンスターたちは一筋への光へと変わった。

 

 ジャンク・シンクロンとドッペル・ウォリアーは緑粒子へと変化して更なる展開への"調律"を始める。

 

「集いし星よ!」

 

 今、2対の星は一筋の流星となり──。

 

「今こそ"絆"を奏でる音となって──」

 

 空を穿つ光条となり、眩き閃光は辺り一面へと解き放たれた。

 

 

「光差す、"道"となれ!!」

 

 

 放たれた閃光の内より──その"天色の機械戦士"は姿を現した。

 

 真っ白な光に灯されたその姿の瞳に"赤き燐光"を宿して──機械戦士たちは"始動"を告げる。

 

「シンクロ召喚!!」

 

 そして背面の両スラスターを吹かしあげた天色の機械戦士は、夜空より馳せ参じて、桜吹雪の中に到来を果たした。

 

 突き出された機械戦士の拳が、相対する牛尾哲を鼓舞するようにして威嚇する。

 

 

「いでよ──"ジャンク・ウォリアー"!!」

 

 

 ジャンク・ウォリアー レベル5 攻撃力2300

 

 

「……はは」

 

 牛尾は空笑いするしかなかった。

 

「まさしく"同窓会"じゃねえか……!」

 

 "天色"と、"翠緑"と、"真紅"。

 

 これらすべてが、かつての牛尾と苦い因縁を持つモンスターたちであった。

 月下の桜模様の中に並び立った三体の機械戦士たちを眺め上げる。

 その姿、勇猛さはまるで今の時代でも衰えることなくその力強さを艶めかせていた。

 妙に胸が高鳴り鼓動する。

 

 まさにこれが、牛尾にとって過ぎ去った"因縁"たちと再会を果たした瞬間だった。

 

「ドッペル・ウォリアーの効果! このカードがシンクロ素材になったとき場に2体の"ドッペルトークン"を特殊召喚する!」

 

 アクセル・シンクロンのときと同じ流れだ。

 星宮の場に攻撃力400のドッペルトークンが2体特殊召喚された。

 そのレベルは"1"。

 

 つまり──"天色の機械戦士"に加護を与えられるモンスターの一種が現れたということになる。

 

「ジャンク・ウォリアーの効果!」

 

 天色の機械戦士の右手に嵌め込まれた、"ナックルダスター"が青き光に磨かれる。

 

「このカードがシンクロ召喚に成功した時、このモンスターは自分の場の"レベル2以下"のモンスターの攻撃力の合計の数値を自分の攻撃力の数値に加え入れる!」

 

 友の力を得て青粒子の光を纏わせた機械戦士は更なる火力の研磨を果たした。

 

 機械戦士たちのスラスターが、一斉に爆炎を吹き散らす。

 一挙に噴き出す三色の噴射炎が舞い散る花弁たちを溶かし払った。

 

「──バトルだ!」

 

 牛尾も身構え、迎撃の準備に備える。

 迫りくる"過去の因縁"を前に、牛尾は更なる勝利への決意を固めた。

 固く口を閉じ、機械戦士たちを見据え、地面の桜を舞い上げながら肉薄してくる彼らと正面から立ち向かう。

 

 "もう、逃げはしない"。

 まずは真紅の機械戦士が真っ先に襲いかかった。

 

「ターボ・ウォリアーで、ロード・ウォリアーへと攻撃!」

 

 2500の攻撃力の真紅の機械戦士が、攻撃力3000の黄金の機械戦士をその真紅の爪で貫きにかかる。

 

「──貫け、"アクセルスラッシュ"!!」

 

 ──敢えなくロード・ウォリアーは撃墜され、その身を沈没させる事となった。

 なぜ打点で勝るロード・ウォリアーがターボ・ウォリアーに敗北したのか。

 それはターボ・ウォリアーの能力に理由がある。

 

(ターボ・ウォリアー……"レベル6以上のシンクロモンスターに攻撃した際、相手の攻撃力を半分にする"効果……)

 

 弾き砕かれたロード・ウォリアーの破片を見据えながら、牛尾は過去の"走馬灯"に浸っていた。

 

(懐かしいじゃねえか……それで"あいつ"にやられたな……)

 

 かつて──治安維持局に潜入した"サテライトのクズ"を追跡した際、牛尾は彼と戦い、そして"真紅の機械戦士"にとどめを喰らい敗北した。

 

「──まだまだ!」

 

 星宮綾人の激はまだ続く。

 

「ニトロ・ウォリアーで、氷結界の龍トリシューラに攻撃!」

 

 ロケットブースターを噴射させて桜吹雪を推し進む機械戦士が、悠然と待ち構える無感情の氷龍へと狙いを定めた。

 

「ニトロ・ウォリアーが場に存在する時に魔法カードを使用したターン!」

 

 引き抜いた両腕を一挙に突き出し、"翠緑の弾丸"となって機械戦士は推し進む。

 

「一度の戦闘だけニトロ・ウォリアーの攻撃力を"1000ポイント"引き上げる事ができる! ──砕け!!」

 

 マジックカードの力を受けた両腕のブースターが噴き上がり、翠緑の機械戦士は勢いのままに氷龍へと己の怒天の一撃を叩き込んだ。

 

「"ダイナマイトナックル"!!」

 

 氷に包まれたトリシューラの体が翠緑の弾丸に穿たれる。

 体に貫通穴を空けた氷龍はたちまち爆散してその衝撃を大地に巻き散らした。

 

「くっ──!」

 

 ニトロ・ウォリアーの巻き起こした爆風に揺られて牛尾の体が激しい勢いに弾き飛ばされる。

 尋常ではないその爆発の勢いに態勢を崩したのは牛尾だけではなかった。

 

「──シラユキ!!」

「ニトロ・ウォリアーのモンスター効果!」

 

 爆風に揺られ、守備表示の構えを解いてしまったシラユキに、ニトロ・ウォリアーの怒撃が迫る。

 

 そう、これがわざわざシラユキを牛尾に奪わせた理由だった。

 

「ニトロ・ウォリアーが戦闘破壊に成功した際に相手フィールドに守備表示のモンスターが残っているのならば!」

 

 すべては星宮の目論見通り──"攻撃表示"の態勢を晒してしまったシラユキに、ニトロ・ウォリアーの拳が差し込まれる。

 

「そのモンスターを攻撃表示に"変更"させて、もう一度攻撃する事ができる!」

 

 差し込まれた拳が、シラユキの体を穿ち抜く。

 

「嘶け、"ダイナマイトインパクト"!!」

 

 ──これで3体のモンスターが機械戦士たちに撃滅され、牛尾は合計"3050"のダメージを受けることとなった。

 牛尾のライフはすり減り、その残りライフは"950"。

 

「──さあ、最後だ! ジャンク・ウォリアーよ、残ったゴヨウ・ガーディアンに攻撃!」

 

 これでゴヨウ・ガーディアンを破壊され、残る2体のドッペルトークンの突撃を受ければ牛尾は終わる。

 

「──スクラップ、フィストォ!!」

 

 荒ぶる巨拳と化した天色の機械戦士がスラスターを燃やし、肩衣の剣士を穿ちにかかる。

 ここでエースモンスターを失えば牛尾は本当に終わる──轟音に揺れ動く視界の中で牛尾はすかさず手札のカードを場へと切った。

 

「"工作列車 シグナル・レッド"の効果!」

 

 牛尾の手札より到来し、ジャンク・ウォリアーとゴヨウ・ガーディアンの間に割り込んだ一台の列車車両が機械戦士の巨拳を受け止めた。

 

「なっ!?」

「"シグナル・レッド"は相手の攻撃宣言時に手札から場に特殊召喚できるモンスター!」

 

 工作列車 シグナル・レッド レベル3 守備力1300。

 

「この効果で特殊召喚されたこいつは攻撃されたモンスターの身代わりとなり!」

 

 守備表示で巨拳を受け止めきったシグナル・レッドはジャンク・ウォリアーを弾き返し、その戦闘を終了させた。

 

「その戦闘では、破壊されない!」

「くっ──」

 

 間一髪であった。

 バトルを終えた星宮は手札を1枚伏せてターンを渡す。

 牛尾はこの、先ほど引いた最後の手札がなければ間違いなく敗北していた。

 やはり、"ウォリアー"たちは強い。

 "シンクロン"の胆力、それを改めて牛尾は実感することになった。

 なにより──。

 

(明らかに、変わった)

 

 星宮の面持ちが、プレイスタイルが間違いなく変わったように思えるのだ。

 

(さっきまでの、ふて腐れたような顔つきとは違う)

 

 トリシューラを撃破した後とそれ以前では間違いなく雰囲気が違う。

 最初は相手を嵌め殺すような、"冷えた鉄塊"のような戦い方だったのに、今は"激熱を放つ鉄拳"を撃ち込まれているような気分になる。

 

 なにより──少年の顔は最初出会ったときよりも何倍もすっきりとした面持ちをしている。

 

(……変わった……)

 

 何かが、少年の心を変えた。

 

(変わった、な……)

 

 心に根張る"絶氷"が──少年の胸から、溶け落ちていた。

 

(よかった。これが──お前の本当の、"強さ"なんだな)

 

 無意識に微笑みを漏らし、牛尾は己のターンに身構えた。

 牛尾の現在の手札は"ゼロ"。

 牛尾はここで起死回生の一手を引かなければいけない。

 

(しかし、星宮)

 

 牛尾には退けない理由がある。

 

(勝ちを譲る気は毛頭ねえぜ)

 

 牛尾には、雛宮との約束がある──負ける訳にはいかない。

 引き抜いたカードをその目に覗き込む。

 引き当てたカードを静かにディスクに流し入れた。

 

「マジックカード、"命削りの宝札"を発動」

 

 "命削りの宝札"。

 発動ターンの相手への戦闘ダメージと自身の特殊召喚の権利を捨てて3枚のカードをデッキより引くドローソースマジック。

 星宮は静かに発動を承諾する。

 

「このターンを捨てたか」

「ああ」

 

 空手に3枚のカードを引き入れ、2枚のカードを伏せて牛尾は残りの手札をすべて墓地に捨てた。

 命削りの宝札の効果だ。発動プレイヤーはそのターンすべての手札を墓地に送らなければならない。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 "戦闘ダメージ"を与えられなくなるだけなので本来ならゴヨウ・ガーディアンでターボ・ウォリアーを撃破に向かうこともできた。

 しかし星宮のバックには伏せ札が1枚。

 ここは一旦失った布陣を建て直すことを牛尾は選んだ。

 

 ひとときの静寂の時。

 先ほどまで熱にほだされて聞こえなかった風の音、木々のざわめきがふたりの心に落ち着きを与えた。

 

 星宮も空手にカードを引く。

 

「……」

 

 少しばかりドローカードを眺めて、星宮はそのままそれを伏せてターンを返した。

 桜の香りが鼻をつく。

 

 辺りはすでに、激しい攻防で舞い落ちた沢山の花びらで広袤を彩られていた。

 

「牛尾さん」

 

 月明かりに照る桜の木々から、立ち構える牛尾に静かな眼差しを向けて、星宮綾人は告げた。

 

「たぶん……もうすぐ決着がつく」

 

 牛尾も同じく答えた。

 

「ああ……だろうな」

 

 ふたりともこの静寂な空間の中で、確かな予感を抱いていた。

 白熱した戦いからの、ひとときの休戦の訪れ。

 

 それは終幕の予兆なのだ。

 掴み確かな"ターニングポイント"を、ふたりは肌身で感じていた。

 

「牛尾さん、俺はたとえあんたにどんなに退けない理由があったとしても」

 

 星宮は、揺るがなきその信念を、決意の瞳をたずさえて告げる。

 

「勝ちを譲る気はないよ。俺は正真正銘、最後まで決闘者(デュエリスト)として戦う」

 

 へっ、と笑い、牛尾は吐き捨てた。

 

「心配されるまでもねぇ、俺が勝つんだからな」

 

 牛尾は、改めて己の決意を告げる。

 

「俺は雛宮と約束した」

 

 その手に、最後のドローを引き入れる。

 

「お前を"治安維持局"に引き入れるってな!」

 

 風が──。

 桜が──。

 夜が──その動きを止めていた。

 

 停滞する空間の、その静寂の中で、立ち向かい合うふたりはお互いの顔を見据えていた。

 

 すべての一挙手一投足が、緩やかに流れ動く。

 時間の流動が遅くなったような、そんな空間の中で、ふたりは"戦いの再会"の刻を待ち望んでいた。

 

 立ち止まった静寂の時間を頬傷の男が切り開く──冷涼な面差しの少年は従える戦士たちに、己の想いを告げた。

 

 時間が、動き出す。

 

「──ゴヨウ・ガーディアン!」

「──ウォリアーたちよ!」

 

 立ち止まっていたモンスターたちは再び、戦いに身を投じるように動き出した。

 桜が揺れ、大地が鳴り響く。

 

 桜舞台は迫る終幕の時を迎えるために、桜花弁の弾幕を浮き上がらせた。

 ふたりの声がかけ合わさる。

 

「今、"決着の舞台"へ!!」

 

 互いに伏せ札は2枚。

 星宮の場には3色のウォリアーと2体のトークンの計5体。

 そして牛尾の場には肩衣の戦士に身代わり列車が1体ずつ。

 

 先陣を切ったのはゴヨウ・ガーディアンだった。

 十手を投げつけ桜弾幕を弾き上げる。

 投げつけられた先に立つのは場に低火力を晒した"ドッペルトークン"。打点400の彼らを攻撃すれば星宮の残り"800"のライフなんて軽く消し飛ぶ。

 だが通るはずがない。

 星宮には取り戻したあのカードがあるのだ。

 

「"妖精伝姫シラユキ"の効果!」

 

 墓地に眠る獣人姫の効果が肩衣の戦士を襲う。

 

「場のドッペルトークン2体とターボ・ウォリアー、そして墓地の4枚のカードを取り除いて守備表示で特殊召喚する!」

 

 7枚のカードをゲームから除外し星宮は牽制をかけた。お得意の"エスケープ"戦術だ。

 復活する献身姫。

 

 だがその少女はすぐに鎖に縛りつけられた。

 

「なに!?」

「"永続トラップ"!!」

 

 "命削りの宝札"で引き入れた1枚が窮地に光る。

 

「"デモンズ・チェーン"を発動! シラユキの効果を消滅させ無力化させる!」

 

 黒き鎖によりシラユキは効果を無効化され、身動きが取れなくなった。

 必死にもがくシラユキ、同時にゴヨウ・ガーディアンの攻撃先も失われた。

 

「さあ、次は誰に攻撃する! "シラユキ"か、"ジャンク・ウォリアー"か、"ニトロ・ウォリアー"か!?」

 

 星宮は臆さない。

 想定の範囲内として戦いを進めた。

 

「さあ、どいつだ!」

 

 牛尾が次なるゴヨウ・ガーディアンの攻撃先に選んだモンスターは──。

 

「……!?」

 

 ──"ニトロ・ウォリアー"であった。

 互いに攻撃力は"2800"。相討ちとなってしまう。

 

(何か企んでいる──)

 

 すかさず星宮は伏せ札の1枚を開き、不可解な進撃に対処をはじめた。

 

「トラップカード、"くず鉄のかかし"を発動!」

 

 桜吹雪に埋め尽くされた地面より鉄十字のかかしが立ち上がった。

 

「相手モンスター1体の攻撃を受け止め、再びかかし自身をセットする!」

 

 しかしくず鉄のかかしは電流(スパーク)を放ち爆散してしまった。

 

「なに──!?」

「"カウンタートラップ"、オープン!」

 

 残っていた牛尾の最後の伏せ札の1枚が、星宮の対抗策を封じた。

 

「"ギャクタン"を発動! 悪いが星宮、こちとら何年もセキュリティ隊員をやってねぇ、そのくらい自前の持ち勘で容易に想像がつくんだよ!」

 

 "ギャクタン"。相手の発動したトラップカードを無効化しデッキに戻させるカウンタートラップ。

 牛尾の張っていた"逆探知の仕込み札"により星宮の罠は先んじて潜り抜けられてしまった。

 しかしこれで牛尾の伏せ札はゼロ。

 手段を無くしたかに思える牛尾は構わず従者に攻撃命令を向かわせていた。

 このままでは本当にニトロ・ウォリアーとゴヨウ・ガーディアンは相討ちする。

 牛尾は最後の切り札を失うがいいのか。

 そこまで考えたとき。

 

 星宮は内容不明の、"命削りの宝札"で捨てられた謎のカードがあることを思い出した。

 

「まさかッ!?」

「俺は墓地から!!」

 

 事前に仕込み、潜めていた"トラップ"がこの土壇場で火を噴く。

 

「トラップカード、"スキル・サクセサー"を発動!!」

 

 "スキル・サクセサー"。墓地から発動できる通常罠。

 墓地にあるこのカードをゲームから取り除く事で場のモンスターの攻撃力を800ポイント上げる効果を持つ。

 当然その対象は"肩衣の戦士"。

 

「その効果により、俺はゴヨウ・ガーディアンの攻撃力を"3600"に上げる!!」

 

 これでゴヨウ・ガーディアンがニトロ・ウォリアーの攻撃力を上回った。

 切迫の時、肉薄するゴヨウ・ガーディアンがとうとうニトロ・ウォリアーの眼前に辿り着いた。

 しかし対する星宮も甘くはない。

 腕を振り抜いたゴヨウ・ガーディアンに対してこちらも最後の伏せ札を開き即座に切り返した。

 

 最後の伏せ札の効力を受けたニトロ・ウォリアーが雄叫びをあげる。

 

「トラップカード、"シンクロ・ストライク"を発動! ニトロ・ウォリアーを対象に、その攻撃力を"シンクロ召喚に使用した素材モンスターの分だけ"攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 

 ニトロ・ウォリアーのシンクロ素材に使用したモンスターの数は"2体"。

 よってその加算数値は"1000"ポイントとなる。

 現在のニトロ・ウォリアーの攻撃力にシンクロ・ストライクの上昇数値を足した数は"3800"。

 

 従って──攻撃力"3600"のゴヨウ・ガーディアンをニトロ・ウォリアーは威力"3800"をもって返り討ちにすることとなる。

 

「叩き返せ、ニトロ・ウォリアー!」

 

 ブースター爆炎に体を反転させた機械戦士の破岩撃が、肩衣の戦士の顔を真っ直ぐに撃ち砕く。

 

「"ダイナマイトナックル"ッ!!」

 

 敢えなく返り討ちに遭い、ゴヨウ・ガーディアンは消滅することとなった。

 最後の攻め札を撃墜され、そのライフを"750"に削り落とす牛尾。

 

 だが彼の目は諦めていなかった。

 

「……!?」

 

 牛尾の不審な様子に星宮は動揺する。

 意外なほどに照らめく眼差しを向ける牛尾の余裕な姿に星宮は驚きの表情を隠しきれなかった。

 反応した星宮に牛尾が(わら)う。

 

「──星宮!」

 

 お互いの伏せ札はもう既にゼロ。

 しかし牛尾には最後の手札が残っていた。

 このターンの初めのドローフェイズに補充していた"奥の手"。

 

 そして"赤信号(シグナル・レッド)"は布石だったのだ。

 

「お前のことだ、十中八九すべて切り返してくると思った」

「なっ──!」

「だから俺はお前に使わせたのさ、すべての対抗札を!!」

 

 今、牛尾の手に秘められた"本命の速攻魔法"が──。

 

「正真正銘──これが、俺の引き当てた最後の"切り札"だ、星宮!」

 

 ──桃色の桜舞台に、開かれる。

 

「速攻魔法、オーブン!!」

 

 驚愕に揺れる星宮の瞳が、その切り札の正体を確かめた。

 

 発動された"速攻魔法"に従い、シグナル・レッドが霧散する。

 

「──まさか!?」

 

 霧散して、噴き上がった煙の中から一本の"黒いコード線"が伸びはじめた。

 

「マジックカード──"エネミーコントローラー"を発動!!」

 

 猛烈な勢いで花びら弾幕を潜り抜け、差し迫った"コード線"が狼狽するニトロ・ウォリアーの体を貫く。

 

「ニトロ・ウォリアー!!」

 

 貫かれたニトロ・ウォリアーは夜空へと引っ張りあげられ、牛尾の陣営側へと連れ込まれてしまった。

 

 つまりこれはゴヨウ・ガーディアンにもあった敵モンスターを自軍に引き込む特殊な能力──"コントロール奪取"の効果だ。

 

「エネミーコントローラーは自分の場のモンスターを1体墓地にリリースすることで!」

 

 コントローラーに支配された、"シンクロ・ストライク"によって攻撃力を3800に"上げさせられてしまった"ニトロ・ウォリアーが、牛尾の側に着き星宮へと臨戦態勢をとった。

 

 

「相手フィールド上のモンスター1体のコントロールを、エンドフェイズまで得る!!」

 

 

 星宮は気づく。

 

「────しまった────!!」

 

 ゴヨウ・ガーディアンの特攻は、本命に"シンクロ・ストライク"を使わせる為の罠だったのだ。

 

「そうさ星宮、すべては俺の予想通りだった、お前の伏せ札を読みきったんだ!!」

 

 驚愕に瞳孔を開く星宮に牛尾は追撃をかける。

 

「俺の持つモンスターでは仕留めきれない、俺の持つ"今のモンスター"ではお前の持つウォリアーたちの陣営を突破しきれなかった!!」

 

 あの時牛尾の場にあった最高打点は"攻撃力2800"のゴヨウ・ガーディアン。

 一応ドッペルトークンとターボ・ウォリアーはゴヨウ・ガーディアンで倒せていたがやはりシラユキのコストにされて逃げられてしまった。

 残るは打点で上回る"ジャンク・ウォリアー"と打点同一の"ニトロ・ウォリアー"。

 "シラユキ"を殴ったところで意味はない。間違いなく返しのターンで牛尾は"死ぬ"。

 

 そこで牛尾は残る最後の希望に賭けた。

 最後のドローで引き当てた"エネミー・コントローラー"、これに賭けたのだ。

 

 恐らく星宮は十中八九"シラユキ"で妨害してくる。しかも星宮のことだ、念入りにドッペルトークンと打点で負けるターボ・ウォリアーも除外し、守備表示でシラユキを出してくるだろう。

 となると星宮の場に残るのは攻撃表示の"ジャンク・ウォリアー"と"ニトロ・ウォリアー"と守備表示の"妖精伝姫シラユキ"。

 ここまで考えて牛尾は気づく。

 

 面白い事にニトロ・ウォリアーの打点問題さえ解決すれば星宮を倒しきれるのだ。

 

 "エネミーコントローラー"の発動に成功させ、ニトロ・ウォリアーを奪い、"仮にジャンク・ウォリアーさえ破壊できれば"ニトロ・ウォリアーの追撃効果でシラユキの守備態勢を解いて星宮に戦闘ダメージを与えられる。

 

 ニトロ・ウォリアーでシラユキを攻撃した際の戦闘ダメージは少なくとも"950"以上──星宮の残りライフ"800"を削りきれる。

 

「だからお前に誘導させ、すべての伏せ札を使わせたのさ!」

「……!」

「"ニトロ・ウォリアーの攻撃力を上げさせ、シラユキを守備表示で召喚"してもらうようにな」

「全部……読みきって!?」

「さあ、いくぜ!」

 

 牛尾の側についたニトロ・ウォリアーがロケットブースターを燃やし、ジャンク・ウォリアー目掛けて飛び迫る。

 

「ニトロ・ウォリアーよ、星宮のジャンク・ウォリアーを叩き潰してやれ!!」

 

 両碗に取り付けられた推進ブースターが一斉に開き──構えるジャンク・ウォリアーに向かってニトロ・ウォリアーが弾丸の如く駆け抜けた。

 

「砕け──ダイナマイトナックルッ!!」

 

 翠緑の弾丸がジャンク・ウォリアーに着弾する。ニトロ・ウォリアーがジャンク・ウォリアーの体をそのまま推し進み、取っ組み合いの形を取るようにして押し競り合いをはじめた。

 立ち向かうジャンク・ウォリアーと推し進むニトロ・ウォリアーの噴かせるスラスター風が一気に桜花弁を巻き上げて満月の夜空へと花を巻き上がらせる。

 お互いの競り合い熱に弾き飛ばされる花弁たちはやがて端まで飛んでいってふたりの周囲からすべての桜を弾き飛ばさせた。

 円を形作るように競り合う機械戦士たちの周囲から桃色の花弁が消える。

 2対の機械戦士たちは最後の押し込みをかけ、推進剤の勢いを爆発させてスラスター筒から鼓膜打ち鳴らすほどの爆炎を空へと噴かせた。

 

 天色の機械戦士の体に、一筋の亀裂が奔る。

 

「……!」

 

 ニトロ・ウォリアーの勢いに負けはじめたジャンク・ウォリアーが、瓦解の兆候をみせはじめた。

 

「──ぶち抜けええぇぇぇ!!!!」

 

 満身創痍の牛尾が最後の力を振り絞ってニトロ・ウォリアーに激を飛ばし最後の押し込みをかける。

 

 そして──。

 

「…………」

 

 ジャンク・ウォリアーの体は砕け散り──。

 

「…………!」

 

 

 星宮綾人の下にニトロ・ウォリアーの攻撃が──。

 

 

「────!?」

 

 ──届くことは、なかった。

 

「──馬鹿な!?」

 

 牛尾は戦慄し驚愕する。

 

「どうしてジャンク・ウォリアーが"破壊されない"!?」

 

 そして星宮綾人の最後の布石が──。

 

「牛尾さん、あなたは──」

 

 ──"墓地"にて、開く。

 

 

「"シラユキ"以外の墓地のカードにも注目するべきだった──!」

 

 

 ──首の皮一枚で耐え残ったジャンク・ウォリアーがニトロ・ウォリアーの拳を弾き返した。

 何が起こったかわからない。牛尾はただただ絶句するしかなかった。

 

「──なぁ──!?」

 

 なぜだ、攻撃力では間違いなく勝っていたはず。

 

 事実デュエルディスクのモニターを見ても星宮のライフポイントはニトロ・ウォリアーの超過ダメージ分"残り100"にまで削られていた。

 

 ではなぜ──ここで牛尾はあることを思い出した。

 

 "不動遊星"が、時折"戦闘破壊"を無効にするモンスターを使っていたことを。

 

「──まさか!?」

 

 間違いなくその"まさか"であった。

 星宮の手により取り出される"墓地"のカード。

 星宮の発動意思により提示される1枚の"モンスターカード"。

 

 そう──やはりカオスハンターを失ったのは痛手だったのだ。

 

 星宮の手により、その正体は明かされる。

 

「俺は"隣の芝刈り"で墓地に埋葬しておいた──"シールド・ウォリアー"の効果を発動!」

 

 吹き荒ぶ戦場の風の中で、星宮は声を張り上げて牛尾に告げる。

 

「墓地に眠るシールド・ウォリアーを"ゲームから除外する"ことで!」

 

 正真正銘──牛尾哲がその敗北を告げられた瞬間だった。

 

「そのモンスターの戦闘破壊を、一度だけ無効にする!!」

 

 牛尾の策は、すべて尽きた。

 

「こ……この、最後の最後で!」

 

 牛尾が、最後の手段を失った瞬間だった。

 

 ──エネミーコントローラーの効力が消え、ニトロ・ウォリアーが星宮の下に帰還する。

 手札もモンスターもすべて失った牛尾は物悲しくその場に膝から崩れ落ちた。

 

 すべての力を出しきり敗北を受け入れた瞬間だった。

 

 ターンを渡された星宮が、最後の命令を天色の機械戦士に放つ。

 

「──ジャンク・ウォリアーで!」

 

 スラスターオン──錐もみ回転の要領で螺旋を描いてジャンク・ウォリアーが牛尾哲に迫る。

 

「牛尾哲に、ダイレクトアタック!!」

 

 そして最後の一撃が──崩れ落ちる牛尾に放たれる。

 

「スクラップッ!!」

 

 

 激震の、一撃。

 

 

「──フィストォォォ!!!!」

 

 

 真っ直ぐ放たれた、驚異的な推進力の一撃に牛尾哲の体は成すすべなく無惨にも弾き飛ばされた。

 弾き飛ばされた体が桜の海を駆け巡り宙を舞い踊る。

 抵抗空しく撃ち抜かれた体は桜吹雪の弾幕を割って激しく弾き飛ばされていった。

 

 すり減りゆくライフポイント。

 最後の記録にかかるデュエルディスク。

 そして牛尾哲のデュエルディスクのライフカウンターは滞りなく"0"の数値を記録して──。

 

 

「────ぐあぁぁぁぁ…………!!!!」

 

 

 桜吹雪の剣呑舞台は"星宮綾人"の勝利をもって、"終幕"を迎えることとなった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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