士郎の方は、信じていた(愛していた?)セイバーに裏切られ、正義の味方になる理想を砕かれ命を落としてしまう……
筈ですが、そこで、誰も予想だにしなかった事態が起こります……
第五次聖杯戦争は、終盤に差し掛かっていた。
ここに来て、突如出現した八人目のサーヴァント、ギルガメッシュ。
その圧倒的な力で、あっという間にアサシンとキャスターを消し去ってしまった。
彼は、十年前の聖杯戦争からそのまま残っていた“アーチャー”のサーヴァントであり、十年前に、セイバーと最後まで生き残り戦っていた。
ギルガメッシュの圧倒的な力の前に、倒されかけた士郎とセイバー。だが、士郎の体の中に埋め込まれていた、セイバーの失われていた宝具“全て遠き理想郷(アヴァロン)”の力により、何とか難を逃れた。
その後、ギルガメッシュを倒す助言が得られないかと、士郎はひとり言峰教会に向かう。
無人の教会で得体の知れない違和感を覚え、士郎は教会の地下に降りて行った。
そこで士郎は、生気を吸い尽くされた無残な孤児達を目撃する。驚愕する士郎だが、直後、背後から胸を貫かれてしまう。
遅れて、士郎を捜しにセイバーも教会を訪れた。同じように地下に降りたセイバーが見たものは、傷付いて倒れた士郎と、セイバーを待っていた言峰綺礼とランサーだった。
朦朧とした意識の士郎とセイバーに、綺礼は語る。
既に、願望機としての聖杯に必要なサーヴァントの魂は集められ、現時点でも聖杯の器を召喚する事は可能であると。
そして、自分は聖杯に相応しい者を見定めるため居ると言い、士郎に聖杯を望むのなら与えると告げる。
しかし、士郎は綺礼に言う。
「聖杯なんていらない……この道は、間違って無いって信じてる……俺は、置き去りにして来たもののためにも、自分を曲げる事はできない……」
士郎の回答に失望した綺礼は、今度はセイバーに問い掛ける。
「……では、お前はどうだ?セイバー。小僧は聖杯などいらぬと言う。だが、お前は違うのではないか?お前の目的は、聖杯による世界の救罪だ。よもや英霊であるお前まで、小僧のようにエゴはかざすまい?」
この問いに、セイバーの理性は揺さぶられた。綺礼は、聖杯を譲るという。その目的、叶えるべき願いがあるのならば、聖杯を譲り渡すと……
「そ……それは……」
“拒む理由など無い。
そのためだけに戦ってきた。
そのためだけにサーヴァントになったのだ。
ならば……シロウが何と言おうと、私には関係無い。
聖杯が手に入るのなら、私は……“
「では交換条件だ。セイバー、己が目的のため、その手で自らのマスターを殺せ。そのあかつきには聖杯を与えよう。」
「え?」
それは、あまりにも予想外の言葉だった。彼女の中に、そんな選択肢は存在すらしていなかったのだ。
「迷う事はあるまい……もはや助からない命だ。ここでお前が引導を渡してやるのも、情けではないのかな?」
綺礼は、士郎の体を担ぎ上げ、セイバーに向かって放った。
朦朧とした意識で、セイバーに手を伸ばし、寄り掛かって来ようとする士郎。
“長かった旅の終わり。
自らを代償にして願った聖杯。
それが、ただ剣をひと突きするだけで叶う。
元より、マスターとサーヴァントは、聖杯を手に入れるまでの協力関係だ。
ここでそれが終わっても、それは……誰に、責められる事でもない。“
ほんの、ほんの一瞬の、僅かな気の迷い。それが、セイバーを思わぬ行動に走らせた。
まるで、見えない意志に操られるように、縋って来る士郎にセイバーは自らの剣を突き立てた。
その剣が、士郎の心臓を貫いた。
「な……なんで……さ……」
一瞬だけ、信じられない物を見たように目を見開いた後、士郎はその場に崩れ落ちる。
セイバーは、士郎の体を貫いた体勢のまま、茫然と佇んでいた。
「え?……し……シロウ……」
焦点の合わない目で、自分の足元に倒れている士郎を見詰める。
「わ……私は……な……何を……」
セイバーの手から、聖剣が姿を消す。剣が無くなったその両腕には、士郎の体から流れ出した血がこびり付いていた。セイバーは震えながら、その両手を自分の目の前に持って来る。そして、血に染まった両手を凝視している。
「……良くやった、セイバー……その慟哭、聖杯を受け取るに相応しい。約束通り、お前に聖杯を授けよう。」
満足そうに笑みを浮かべ、綺礼が言う。
一方、黙ってそれを見詰めていたランサーは、不機嫌そうに言う。
「けっ!見損なったぜセイバー!……所詮、お前も聖杯に目が眩んだ、亡者に過ぎなかったって事か?それで、何が騎士王だ!」
ランサーの言葉は、自分のしでかした事の重大さに押し潰されそうになっていた、セイバーの心に止めを刺した。セイバーの自我が、崩壊する。
「う……うう……あああ……ああああああああああっ!!」
血まみれの両手で顔を抑え、天井に向かって奇声を上げるセイバー。叫びながら、そのまま跪いてしまう。
「あああああああっ!あっ!あっ!わああああああああああああっ!!」
両手の血はセイバーの顔を覆っていき、血まみれの顔で、狂気の目で、セイバーは叫び続けた。
「へっ……今頃になって、後悔したっておせえんだよ!」
吐き捨てるように言って、ランサーは地下室を出て行こうとする。
「何処へ行く?ランサー?」
「見るに堪えねえんでな、外させてもらうぜ!そいつはもう戦えねえ……俺の仕事は終わりだろうが?」
「いや、まだだ。」
「何?」
綺礼の言葉に、ランサーは立ち止まる。
すると、綺礼は令呪の付いた腕をランサーに向け、言う。
「自害しろ!ランサー!」
「な……何だと?!」
ランサーの体は、自分の意志に反して動き出す。赤い槍を取り出し、それで一気に自分の心臓を貫いた。
「ぐはあああああああっ!」
口から大量の血を吐き、ランサーはその場に蹲る。
「ど……どういう事だ?」
「ふふふふふ……聖杯を十分に機能させるには、あと一人分の英霊の魂が必要なのでな……」
「て……てめえ……最初から……そのつもりで……俺を……」
そこまで言って、ランサーは力尽きて倒れる。そして、消滅していった。
少しして、その場に、もうひとり男が現れる。
金色の髪をした、気位の高そうな振る舞いの男……八人目のサーヴァント、ギルガメッシュであった。
彼は、小脇にイリヤを抱えていた。
「全く……この我に、つまらない雑務を押し付けおって……」
「良いではないか……それで、お前もお望みの物を手に入れられるだろう。」
綺礼は、放心して蹲ったままのセイバーに、目線を送りながら言う。
「我が欲しかったのは、こんな抜け殻では無い……が、まあ良い。気長に、元に戻るのを待つか……それとも、我の色に染めていくのも一興か?」
そう言って、ギルガメッシュはイリヤを綺礼に渡す。
綺礼は、イリヤを抱いたまま奥の間に入って行く。
数分後、綺礼は黄金に輝く杯を持って、戻って来る。
そして、蹲ったまま小刻みに震えているセイバーに、杯を差し出す。
「聖杯だ……受け取るが良い、セイバー。」
セイバーは、その場に蹲ったまま、夢遊病者のようにそれを受け取る。
「さあ、望みを言うがいい。」
だが、セイバーは何も言わない……いや、もう言葉を発する事ができなかった。それどころか、思考を巡らせる事すらできなかった。
茫然と、相変わらず焦点の合わない目で、手に持った聖杯をただ見詰めていた。
セイバーに、心臓を貫かれた士郎……しかし、彼はまだ完全に死んではいなかった。
生死の境を彷徨いながら、心の中で問答を繰り返していた。
もう、痛みも感じない……俺は、死ぬのか?
セイバー……どうして、俺を……
いや、それが当然なのか?
遠坂が言っていた。サーヴァントが、マスターに手を貸すのは、聖杯を欲するからだ。“聖杯などいらない”と言ったら、セイバーに殺されるって……
俺は、確かに断言した。“聖杯なんていらない”と……この言葉は、セイバーに対する裏切りだったのか?
そういえば、セイバーは、十年前に親父にも裏切られていたんだ。
親父は、よりにもよって、セイバー自身に聖杯を破壊させた。絶対に逆らえない、令呪による命令で。
それは、セイバーにとって、どれほど辛い事だったか?
どれほど、親父を呪った事か?
俺は、血は繋がって無くても、その衛宮切嗣の息子。セイバーにとっては、仇も同然だったろう。
本当は、俺の事も恨んでいたのかも?
セイバーを、女の子扱いして、サーヴァントとして扱わなかった事も……
そうだ……そもそも、それが間違いだったんだ。
サーヴァントは、人間じゃ無い。
遠坂に、何度も言われてきた事だ。
その通りだった。
どんなに姿が似ていようと、人間とサーヴァントは違う。
利害が合えば共闘する事はできるが、心を通わせる事はできない。
絶対に、気を許してはいけなかった。
自分の考えを、全て曝け出してはいけなかった。
例え、分かり合えたように見えても、それは幻だ。
サーヴァントには、聖杯こそが全てなのだ。
マスターを護るのも、聖杯を手に入れるためだ。
聖杯を求めないマスターを、サーヴァントが護る道理などは無いのだ。
俺の心が、セイバーと繋がっているなんて……俺は、何て勘違いをしていたんだ。
俺を殺した事で、セイバーは聖杯を手に入れられる……
それで、セイバーは幸せになれるのか?
なら、結果的に、俺はセイバーを救えたのか?
自分の命など、どうでもいい。
俺の犠牲で、セイバーが幸せになれるのなら本望か……
いや、待て。
セイバーの望みは知っている。
セイバーが望みを叶えても、彼女は救われない。
彼女は報われないまま死を迎え、未来永劫世界の奴隷として使役され続ける。
それでいいのか?
それで、俺は“正義の味方”になれたのか?
結局セイバーすら救えないで、何が正義の味方だ?
俺は、誰も救っていない。
まだ、何も成していない。
それで終わりでいいのか?
俺は、切嗣の代わりに、正義の味方になるんだろう?
あの大火災で、助けられた命を使って、大勢の人を助けるんじゃ無かったのか?
まだだ……まだ、死ねない!
死んでたまるか!
どこで間違えた?
何がいけなかった?
お……俺に、もう一度チャンスをくれ!
そうしたら、二度とこんな間違いはしない!
必ず、この聖杯戦争を勝ち抜く!
絶対に生き残って、大勢の人の命を救っていく!
その時、士郎の脳裏に語り掛けてくる意志があった。
“ソレガ……オマエノ、ノゾミカ?”
そうだ!
もう一度、俺を戦わせてくれ!
「?!」
気が付くと、俺は倒れているのでは無く、座り込んでいた。
妙に、意識がはっきりしている。それに、体に痛みの感覚が戻っている。
俺は……あの世に来てるのか?いや、それにしては、体がリアルに痛い。それに、ここは……
そこは、衛宮家の土蔵の中だった。
な……何で、俺はこんなところに?確か、教会の地下で殺された筈……
ふと、目の前に立つ人影に気付いて、顔を上げる。そこにあったのは……
「あなたが、私のマスターか?」
青い礼装に、銀の鎧を纏った、ブロンドの女騎士の顔だった。
「うわああああああああああっ?!」
思わず、悲鳴を上げていた。もう、何時間も前の事のように思えるが、心臓を貫かれた時の記憶が蘇った。
情け無く大声を上げて取り乱す俺に、女騎士は言う。
「どうしたのですか?マスター?」
「へ?」
そこで気付く。
全く場面が変わっている。ここは、教会の地下では無く、衛宮家の土蔵の中だ。
ここには、言峰も居ない。衰弱死した子供達の亡骸も無い。何より、この場面は以前に一度見ている。
「サーヴァント、セイバー、召喚に従い参上した。マスター、指示を。」
俺に、指示を求めて来るセイバー。
こ……これは?時間が巻き戻っているのか?
今迄、“Fate / stay night”はアニメしか見て無くて、ゲームをやって無かったのですが、この度Vita版のゲームを実際にやってみました。
それで驚愕したのは、あまりにも残酷で理不尽なBAD ENDの数々。
まあ冗談のような選択肢を選んだ場合は仕方ないですが、普通に考え得る選択肢で迎えたBAD ENDやDEAD ENDの酷いのなんの……これは、ネタにするしかないと、二次創作意欲が湧き上がりました。
特に酷いのが、No.13のDEAD END。
絶対にマスターを裏切らない筈の、あのセイバーが……
これは酷い、酷過ぎる。いくらゲームでも、ここまでやっていいの?
それまでの、士郎とセイバーの交流は何だったの?
最初は反発し合っていた2人だけど、徐々にお互いを理解し合い、惹かれ合い、魔術回路が繋がって心も通い合ったんじゃなかったの?
そもそも、その前夜のアレは何だったの?
あれで好感度が上がらないなんてのは、欠陥ゲームじゃないの?
そもそも、王たる者があんな誘惑に負けるなんて、それでも騎士王と呼べるのか?ランサーの言葉じゃないが、見損なったぞ、セイバー!
そして……
ランサーが死んだ!この人でなし!
は、お約束という事で。
ちなみに、最愛の人に裏切られた士郎の中でも、何かが壊れています。
“やり直す事などできない”が信条だった士郎が、よりにもよって聖杯の力を使い、聖杯戦争をやり直す事に……
ゲームのプレイヤーの如く、最初の内は選択肢を誤らないよう進めて行きます。
ですが、それはつまり、展開が変わって行くという事になり……