セイバー対ランサー、
アーチャー対ギルガメッシュ、
士郎対綺礼、
全ての戦いの決着がつきます。
しかし、戦いに勝っても士郎の呪いは解けません。それどころか……
固有結界の中では、アーチャーとギルガメッシュの戦いが続いていた。
無数の時空の歪から、次々に武器を放ってアーチャーを攻撃するギルガメッシュ。
アーチャーは、無限の荒野に刺さった剣の中から、それに対応した剣で応戦する。
だが、アーチャーの剣は宝具を完全に再現しているが、模造品であるが故に宝具としてのランクは一段階下がる。それに対し、ギルガメッシュの武器は宝具の原型の本物であり、宝具としてのランクは落ちない。物によっては、アーチャーが投影した宝具よりランクが高い物もあった。故に、真正面からぶつかれば、ギルガメッシュの武器の方が威力が勝っていた。
ぶつかり合いを制した武器の一部は、アーチャーの腕や脚を霞めていく。少しずつ、アーチャーにダメージが蓄積していく。
「くっ……」
「どうだ?それが本物の重みだ。疾く、その身に浴びるがよい。」
ギルガメッシュは、最初からアーチャーを見下していた。
ただ、アーチャーにも優位性はあった。
ギルガメッシュが、一度蔵から武器を取り出さなければならないのに対し、アーチャーの武器は既にこの荒野に出揃っている。そのため、常に先手を打って戦いを優位に進める事ができる。
また、ギルガメッシュは武器の所有者であり担い手では無い。万遍無く使いこなす事はできないし、どんなにランクの高い宝具でも真名解放はできない。それに対してアーチャーの剣は、そのどちらも模倣できる。それにより、より戦いを有利に進められる。
しかし、アーチャーはそれを一切やっていなかった。ギルガメッシュの攻撃に応じて、同じように剣を放つ事しかしなかった。
その戦いの中、アーチャーが尋ねる。
「ひとつ聞きたい……何故、お前は聖杯を求める?」
「何?」
「お前は、十年前に聖杯の中身を浴びて受肉を果たし、既に二度目の生を得ている……」
「やけに事情に詳しいな……やはり貴様、あの雑種のなれの果てであったか?」
「生前、全ての財を我が物にしたお前に、叶えられない望みなど無かっただろう。そんなお前が、聖杯に何を望む?」
「ふん、別に聖杯に望む願いなどは無い。だが、あれは我の物だ。」
「何だと?」
「貴様もさっき言ったであろう?この世の全ての財は我の物だ。聖杯も例外では無い。我の物を、他の雑種が勝手に使うなど許される筈が無かろう?」
「ふっ……そういう事か……」
「それにな、別な使い道もある。」
「別な使い道だと?」
「あれは、兵器も同然だ。不完全な物を作ってやって孔を開けてやれば、そこから呪いが溢れ出す。」
「呪いだと?!」
「何だ、そんな事も忘れてしまっていたか?先の聖杯戦争で、馬鹿な人間どもの強欲の代償として、聖杯の中はこの世全ての悪“アンリマユ”に汚染されている。」
「な……」
その時、アーチャーにかつての聖杯戦争の記憶が、一部蘇る。
「そうか……あいつがああなったのは、聖杯で望みを叶えたため”人を殺す呪い“を、その身に受けてしまったのか……」
「俺が呪われているだと?どういう事だ!」
士郎の言葉に、綺礼はいやらしい笑みを浮かべて言う。
「ふん、自覚は無いか……まあ、それは当然か。」
綺礼は、懐から柄が赤い十字架を模った細い刀剣を取り出す。柄を指の間に挟み、片手に三本、計六本を持つ。それは“黒鍵”と呼ばれる、死徒を葬るための代行者の装備だった。綺礼は、それを獣の爪のようにして構える。
「マスターとしてでは無く、聖杯戦争の監督役として確認させてもらう。お前が、それに相応しいマスターか否かを。」
この言葉に、士郎は更に怒りを露にする。
「何が監督役だ!あれだけ裏で謀略を重ねたお前を、俺は監督役とは認めないぞ!」
「元から、監督役など体裁を取り繕った誤魔化しにすぎん……だが、そんな議論はもうどうでもよかろう。この私を殺すのだろう?なら、後は戦うのみ。」
「ああそうだ……言峰、お前を殺す!」
士郎は、干渉・莫耶を構える。
その士郎の後ろで……
「だ……だめ……」
士郎から溢れ出る只ならぬ殺気に圧され、凛は、満足に言葉を発することができなかった。
「言峰ええええええっ!」
綺礼に突進して行き、斬り付ける士郎。綺礼は、その斬撃を黒鍵で受ける。高い金属音が礼拝堂内に響き渡り、激しい剣戟が交わされる。
士郎の投影は、アーチャー同様単に宝具を複製するだけでは無い。その宝具に宿った意思や経験、担い手の技量も再現できる。その再現度は、まだアーチャーには及ばないが、投影する度にアーチャーのそれに迫っていく。
今の士郎は、葛木と戦った時よりも更に技量が上がり、戦闘力も高くなっていた。
「や……やめて……もう……やめ……て……」
引き攣った顔で、満足に出せない声で、凛は訴えていた。
凛は、綺礼と撃ち合いを交わす度に、士郎が無慈悲な殺人鬼に染まっていくようで怖かった。
武器の強度では、士郎の干渉・莫耶の方が勝っていた。何度かの激突の末、遂に士郎の剣が綺礼の黒鍵を砕いた。
「何?」
「死ねえっ!言峰っ!」
ここぞとばかりに、綺礼に斬り掛かる士郎。
「ふん……」
だが、綺礼の武器は黒鍵だけでは無かった。士郎の斬撃を紙一重で交わし、懐に入り込む綺礼。そして、士郎の腹に正拳を叩き込む。
「ぐうはあっ!」
更に、回し蹴りで士郎を弾き飛ばした。
「ぐうわあああっ!」
「え……えみ……や……」
凛は、まだ声が出ない。
凛の足元近くまで飛ばされた士郎。
「く……ちゅ……中国拳法……だと?」
それでも、よろけながら士郎は立ち上がる。
綺礼の一撃は、本来なら内臓破裂でとても動ける筈の無いものだったが、士郎の体の中の聖剣の鞘が、直ぐさま彼のダメージを治癒していた。
「驚いたな……全盛期を過ぎたとはいえ、私の正拳の直撃を受けてなお立ち上がるとは……さすが、衛宮切嗣の息子というところか……」
綺礼は新たな黒鍵を取り出し、また両手に構える。
「くっ……」
士郎は、再び綺礼に斬り掛かっていく。
セイバーとランサーの戦いは、立場が完全に逆転していた。
迷いを断ち切ったセイバーの動きは、ランサーの速さに引けを取らない。そうなれば、近接戦闘では圧倒的にセイバーが有利になる。リーチの長い槍は、大きい相手には有効でも小さい相手には不利になる。小柄なセイバーに高速で動かれては、槍ではとても追い切れない。直ぐにセイバーは、ランサーの懐に潜り込んで剣を放つ。ランサーも何とか槍を駆使して凌ぐが、連続で来られては防ぎ切れないので、間合いを取るために後退せざる負えない。そのため、全てが後手に回ってしまう。
「へっ、流石だなセイバー。騎士王の名は伊達じゃねえってか?」
「貴方はここまでだ!ランサー!」
このままでは勝ち目は無いと、ランサーを大きく飛び退いてセイバーと距離を取る。
「むっ……」
「どうせこのままじゃ勝てねえんだ。一か八か、一気に決めさせて貰うぜ!」
槍を深く構え、全魔力を込めていくランサー。
「く……来るか?」
只ならぬ気迫を感じ、セイバーも魔力を集中する。
「今度は外さねえ……その心臓貰い受ける!ゲイ・ボルク!!」
ランサーの全魔力を込めた渾身の一撃が、セイバーに迫る。
セイバーは、瞬時に状況を把握する。この一撃を、完全に弾く事はできない。また、躱す事に全力を注ぎ込んでは、攻撃ができない。下手に深手を負えば、そこで勝敗は決してしまう。ならば、同時に攻撃を繰り出すしかない。
但し、剣と槍では間合いが完全に異なる。先に攻撃を受けるのはセイバーだ。急所を突かれれば、それで終わり。だが、僅かでも急所を外せば、それはランサーの敗北となる。
風王結界を解き、セイバーはカウンターの突きを放つ。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
「はあああああああああああっ!!」
速さは、ほぼ互角。ならば、勝負の別れ目は……
ランサーの槍が、セイバーを貫く。直後、セイバーの聖剣がランサーを貫いた。
交錯したまま、二人はしばし停止していた。そして……
「へっ……不憫な生涯で語られる俺が……幸運度で、騎士王様に勝てるわきゃねえよな……」
ランサーの槍は、僅かにセイバーの急所を逸れていた。しかし、セイバーの聖剣は、確実にランサーの心臓を貫いていた。
「……愉しかったぜ……セイバー……」
「ら……ランサー……」
交錯したまま、ランサーは槍と共に消滅していく。
「うっ……」
急所を外れたとはいえ、ランサーの全力の一撃をその胸に受けたセイバーは、その場に蹲ってしまう。
「そらそら、休んでいる暇は無いぞ!フェイカー!」
ギルガメッシュは、次々と雨のように武器を放って来る。それを見てから、アーチャーは対応した武器を荒野から放つ。そのぶつかり合いを制した武器が、アーチャーの体を貫いていく。
「うぐっ!」
何故か、アーチャーはそれだけを続けていた。
そのため、既に体は傷だらけであった。
「ははははははははっ!所詮、それが偽物の限界よ!身に染みたか?フェイカー!」
徐々に、武器のランクを上げていくギルガメッシュ。それにより、ぶつかり合いを制する武器が多くなり、更にアーチャーのダメージは増えていく。
「ぐうはああっ!」
とうとう複数の剣に体を貫かれ、アーチャーはその場に蹲ってしまう。
「ふん!」
もはや限界と見たのか、傷付き蹲ったアーチャーの前に、ギルガメッシュが歩み寄る。
「どうやらここまでのようだな?いい加減贋作には見飽きたところだ。」
ギルガメッシュは、一本の剣を取り出す。そしてその切っ先を、蹲ったアーチャーに突き付ける。
「ここまで頑張った褒美だ。我、自らの手で引導を渡してくれよう。」
その時、アーチャーが呟いた。
「この時を待っていた……」
「何?」
「トレース・オン!」
アーチャーの手に、黄金に輝く一本の剣が投影される。
「貴様、まさかそれは?!」
顔を上げ、アーチャーは立ち上がって剣を構える。
「この聖剣の原型だけは、お前も持ってはいまい。」
「馬鹿な!神造兵器の複製などできる筈が無い!」
初めて、うろたえを見せるギルガメッシュ。
「この剣は私にとって特別でね……もっとも、不完全な出来損ないだがな……」
「お……おのれ、ならば……」
ギルガメッシュは、背後に時空の歪を発生させ、エアを取り出そうとするが、
「エクス……カリバー!!」
アーチャーの疑似聖剣が、それを取り出す前にギルガメッシュを両断する。
「ぐうはああああああああっ!」
ギルガメッシュを斬り裂いた直後、疑似聖剣は直ぐに消滅してしまう。
その威力は、到底本家の足元にも及ばない。だが、至近距離で鎧も纏わないギルガメッシュを倒すには、十分な威力だった。
「お……おのれ……」
致命傷を受け、吐血するギルガメッシュ。それでも、倒れる事はせず、必死にその場に立ち続ける。そんなギルガメッシュに、アーチャーは言い放つ。
「お前の敗因は、最後まで本気を出さなかった事だ。慢心王!」
「貴様、それで……わざと我に……やられ続けていたのか……」
「最初から本気を出されていれば、数分で私は消滅していただろうな。」
「ふぇ……フェイカー風情が……」
意地でも倒れず、アーチャーを睨み付けたまま、ギルガメッシュは消滅していった。
地下の礼拝堂では、士郎と綺礼の殺し合いが続いていた。
未だに現役の代行者である綺礼の戦闘力は、葛木のそれを遥かに上回っている。如何に士郎の技量が上がろうが、まだまだ戦闘力は綺礼の方が上だった。
「どうした?衛宮士郎!そんな事では、この私は殺せないぞ!」
「うるさいっ!」
焦りで、士郎の攻撃が荒くなる。その隙を、綺礼は見逃さない。
綺礼の黒鍵が、士郎の右腕を斬り裂く。
「ぐうわああっ!」
その衝撃で、右手の莫耶を落としてしまう。
間髪入れずに、綺礼は次の攻撃を繰り出す。士郎は左手の干渉で何とか受けるが、剣は砕かれ、更には後方に大きく跳ね飛ばされてしまう。
「ぐうふううっ!」
壁に叩きつけられ、士郎は腰を落としてしまう。
「そこまでだな!」
丸腰となった士郎に、一気に止めを刺しに来る綺礼。
「えみやくんっ!」
ようやく声が出て、叫ぶ凛。
「トレース……オン……」
しかし、士郎は慌てず、新たな武器を投影していた。そして……
「ゲイ・ボルク!!」
「があはああああああっ!」
向かって来る綺礼の心臓を、赤い槍が貫いた。
如何に、綺礼の戦闘力が士郎のそれを上回っていようと、“心臓に槍が命中した”結果が先に決まるこの攻撃は、避けられなかった。
士郎の前に、崩れ落ちる綺礼。それを見て、士郎はゆっくりと立ち上がる。
「え……衛宮くん?」
士郎は、凛に向かってゆっくりと歩いて来る。途中、先程落とした莫耶を拾い上げる。
「……」
凛は、不安に駆られてしまう。地下室は薄暗く、士郎は俯いているため、彼の表情が見えない。
大分近づいたところで、士郎は顔を上げ、声を出す。
「遠坂……待たせたな……」
「し……士郎……」
士郎は、元の表情に戻っていた。凛の表情にも、安堵感が戻る。
「今、解いてやるからな。」
そう言って、士郎は莫耶で凛を縛っている聖骸布を切っていく。
「あ……ありがと……?!」
突然、礼を言い掛けた凛の表情が凍り付く。
「衛宮くん!後ろっ!」
悲鳴に近い凛の声に、慌てて後ろを振り向く士郎。
「?!」
そこには、先程倒れた筈の綺礼の姿があった。しかもその右腕は、今にも士郎を突こうとしていた。
「うがああああっ!」
振り向いた直後に、綺礼の右手の黒鍵が、士郎の胸に抉り込んだ。
「衛宮くんっ!」
更に悲鳴を上げてしまう凛。
「き……貴様……心臓を穿たれて何故……」
「ふっ……私の心臓など、十年前に……衛宮切嗣に潰されている……私は……聖杯の泥で生かされていたに過ぎん……」
「な……何だと?」
「しかし……それももう限界のようだ……その前に……監督役としての、務めを果たさなければ……」
「な……何を……」
綺礼は、左手で懐から何かを取り出す。それは、イリヤの心臓だった。
「衛宮……士郎……お前が……この聖杯戦争の勝者だ……聖杯を、受け取るがいい!」
綺礼はそれを、右手の黒鍵でこじ開けた士郎の胸に押し込んだ。
「ぐうわあああああああああっ!」
「え……えみやくうううううんっ!」
「た……確かに……渡したぞ……」
そこまでやって、今度こそ綺礼は息絶えた。
「ぐっ……ぐふっ!があはああああああああっ!」
苦しみ出し、数歩歩いた後、その場に蹲ってしまう士郎。
「え……衛宮くん!」
凛が駆け寄ろうとした瞬間、
「ぐうはあああああああああっ!」
士郎の衣服が弾け、体から無数の肉塊が溢れ出して来た。
「な……何?これ?」
更には、その肉塊から無数の剣のような突起物が飛び出して来る。
「きゃあああああっ!」
とても、近づく事など出来なかった。
「にげろおおおおおっ!とおさかああああああっ!」
その時、異様な肉の塊となった士郎が叫んだ。
「え?」
「にげろおおおおおおっ!はやくううううううううっ!」
自我を失いつつある士郎の、最後の叫びだった。
「え……えみや……くん……」
身を切る思いで、凛は地下室を脱出した。
冬木の聖杯は、全ての望みを“人を殺す”という手段でしか叶えられません。
その聖杯で、願いを叶えてしまった士郎。
時間を巻き戻すだけなので、その過程で誰かを殺す事はありません。
ですが、士郎は“正義の味方になる”ために聖杯戦争をやり直します。そのために、“人を殺す”者になっていきます。
が、それは人として生きていった場合の話で……
聖杯の器と化した、士郎の運命は?
次回、最終話です。