令呪を使ってセイバーのアーチャーへの攻撃を止めた事で、士郎は前に体験した聖杯戦争と違う流れの中に入ってしまいました。
しかし、本人はそんな事を知る筈もありません。
少しずつ、その違いに困惑していく事になります。
目が覚めると、俺は自宅の自分の部屋に寝ていた。
辺りを見渡すと、脇に遠坂が座っていた。
「あら、ようやくお目覚め?」
「……遠坂……」
体を起こす。昨夜感じていた、異様な吐き気はもう無くなっている。
遠坂は、倒れた俺を運んで、看病してくれていたのだろう。やり直す前の聖杯戦争でもそうだった。
「ありがとう。俺を運んで、看病してくれたんだな。」
「ちょ……ちょっと、何敵にお礼を言ってんのよ。」
すると遠坂は、照れくさいのかわざと憎まれ口を言う。
こんなのは一度体験しているので、その場は適当に返事をして、遠坂の言い分に従っておいた。
言いたい事を言った後、“ここから先は敵同士だからね”との言葉を残し、遠坂は帰って行った。何か忘れているような気がしたが、その時は、考えても思い出せなかった。
遠坂が帰った後、道場に向かう。
道場では、前回同様セイバーが正座して待っていた。遠坂から貰ったと思われる、白いブラウスと紺のスカート姿で。
もう見慣れているので、今更その姿にときめく事もない。それに、サーヴァントの本性を知ってしまった今は、セイバーを“女の子”とは思えなくなっていた。
「おはようございます。マスター。」
「おはよう。」
事務的な挨拶を交わし、本題に入る。
こちらは特に聞く事は無いが、セイバーは色々と聞いて来る。
まずは今後の方針を聞かれたが、俺の魔術回路を使えるレベルにするまでは、俺自身はまともに戦えない。セイバーひとりに任せては、前回のライダーの時のように魔力切れにもなり兼ねない。
だから、しばらくは様子見ということにさせた。それだけでは納得しないだろうから、“足手纏いにならない程度に俺を鍛える”という日課を組み込んだ上で認めさせた。
また、俺に真名を明かすのは控えさせて欲しいと頼んで来た。そんな事を言われても、もう知ってしまっているのだが、その場は了承しておいた。
その後、早速セイバーに鍛えてもらった。
当然全く歯が立たないのだが、セイバーは感心していた。
「驚いた。やはり、マスターに選ばれるだけのことはありますね。とても素人とは思えない。」
「はあ?なんでさ。全然適わなかったじゃないか?」
「はい。ですが、とっさの場合に、常に何らかの対応ができています。素人は、そういう場合固まってしまって何の対応も取れなくなるのですが、貴方は違います。」
そうか……前の聖杯戦争でセイバーに鍛えられ、実戦も経験してきた。それが、少しは役に立っているって事か……
昼になって、居間で昼食を取る。その後、突然藤姉から電話が掛かって来た。
今日は休日で、藤姉は弓道部の顧問として練習に付き添っているのだが、弁当を忘れたので至急持って来いとのことだった。
渋々準備をして行こうとすると、セイバーも付いて来ようとする。これも、前回と同じなので言いくるめようとしたが、遠坂と違ってうまくいかなかった。
幸い、今日は休日で、学校にいるのは部活動に来ている学生だけだ。一度学校に連れて行って危険が無いのを見せれば、明日以降説得し易くなる。いずれライダーの結界が発動するが、それはまだ先の事だ。
そんな訳で、セイバーを伴って学校に行った。
弓道場では、桜が不思議そうな顔でセイバーを見ていた。
ひと通り学校を案内し、セイバーも危険が無い事を認識した。遠坂の魔術痕には気付いたようだが、ライダーの結界には気付かなかったようだ。そのライダーのマスターである慎二も、部活をさぼって練習には来ていなかった。
帰りは、藤姉と桜も一緒に帰った。俺が先頭を歩き、藤姉と桜がそれに続く。一番後ろを、セイバーが歩いて来る。
「あの……先輩?」
桜が、俺に聞いて来る。
「あの人……先輩のお知り合いですか?」
セイバーの方を向きながら言う。
あ……そうか、忘れてた。良く考えたら、まだセイバーを二人に紹介して無かった。
とりあえず前回のように、親父が外国に行っている時に知り合った娘で、親父を頼って日本に来たのでしばらく同居すると説明した。
また前回のように道場でやり合うのかと思ったら、今回の藤姉はやけにあっさり納得した。桜は、納得がいかないようだったが。
ところが、夜になって藤姉はとんでもない事を言い出して来た。
「私、今日からここに泊まるから。桜ちゃんもそうする?お宅には私から言っておくから。」
「はい!ありがとうございます。藤村先生頼もしいです!」
勝手に二人で、泊まって行くことに決めてしまった。まあ、広い家なので部屋はいくらでもあるのだが……
「という訳で、セイバーちゃん宜しく!」
結局、藤姉と桜は、セイバーと一緒の部屋で寝るようだ。
皆が床についた後、俺は土蔵に籠った。
昨日は、何もできなかった。これでは、聖杯戦争をやり直している意味が無い。一刻も早く、自分の魔術回路を使いこなし、武器の投影ができるようにしなければ。
まずは、魔術回路のスイッチを使えるようにする。感覚は覚えている。だが、今は遠坂の宝石は無いので、実践するのは容易では無かった。三十分程続けて、ようやくオンオフが容易に行えるようになった。
次は投影といきたいところだが、いきなりそれでは無理がある。以前セイバーに魔術回路を移植した時に、自分の中に使われていない魔術回路が多くある事を知った。まずは、それを使えるようにするのが先だ。自分の中の魔術回路を全て使いこなせれば、もっと強力な投影ができる筈だから。
日付が変わってもそれをやり続け、結局その夜は土蔵で疲れて眠ってしまった。
翌朝、藤姉達は三人で寝てどんな話をしたのか、すっかり意気投合していた。桜も、セイバーの事が気に入ったようだ。昨夜のお通夜のような夕食と打って変わって、朝食時は会話が弾みずいぶんと賑やかだった。まあ、仲良くやってくれる分には有り難い。
朝食の片付けを済ませて、学校に向かう。
セイバーはやはり付いて来ようとしたが、昨日の見学で危険が無い事は判っただろうと説得して。家に残ってもらった。
但し、緊急時には必ず令呪で自分を呼ぶようにと、念を押された。
前回と違って今回は、既に令呪をひとつ使ってしまっている。できれば使うような事は避けたいものなのだが……
学校に着いて、教室に向かう途中に遠坂に会う。
挨拶をしたが、機嫌の悪そうな表情をされ、無視された。
なんなんだ?いったい……
慎二は、その日も学校に来ていなかった。なので、相変わらずライダー陣営の動向は判らない。
その後は特に異常は無く下校時間となったが、階段の前をひとりで歩いていた時、遠坂に呼び止められた。
「呆れた!サーヴァントも連れずに、ひとりでのこのこ敵の前に現れるの?」
階段の上の踊り場で、遠坂は俺を睨み付けている。
「敵?何を言ってるんだ?遠坂……」
言いかけて、気付く。
しまった……そういえば、まだ遠坂から同盟関係の誘いを受けてない……じゃあ、今の遠坂は、まだ敵……
彼女は自分の左腕の袖を捲り上げる。そこには緑色に輝く回路のような模様が刻まれている。
「これが私の魔術刻印。ここに刻まれた魔術なら、私は魔力を通すだけで発動する事ができる。」
や……やばい……こいつ、本気だ……
「アーチャーは置いてきたわ。あなた程度なら、ここに刻まれたガンド撃ちで始末できる。覚悟なさい!」
「ちょ……ちょっと待て!俺と……」
「問答無用!」
本当に問答無用で、遠坂はガンドを撃って来た。とっさに避けたが、命中した所の床は大きく抉れてしまった。
「ま……待て!こんなのが当たったら、ただじゃ済まないぞ!」
「そうよ!観念して死になさい!」
「じょ……冗談じゃない……」
俺は、一目散に逃げ出していた。
「待ちなさいっ!」
遠坂は、追いかけながらガンドを連発して来る。俺は、避けながら必死に走って逃げる。
どうする?戦うか?サーヴァントと戦うのはまだ無理でも、人間と戦う武器くらいなら投影できるだろう。しかし、ここで戦ったら遠坂を完全に敵に回しちまう……第一、遠坂を倒せたとしても、アーチャーが黙って無いだろ?
考えながら、逃げ回る。そして、適当な教室の中に逃げ込む。
「そうだ、窓から外に……」
そう思って窓に近付くが、弾き返されてしまう。
「け……結界か?あいつ、容赦無いな……」
そうしている内に、今度は壁越しに教室内にガンドを連射して来る。
「や…やばい!」
姿勢を低くし、適当な机を横にする。それを強化して、盾代わりにする。
連射は更に激しくなり、周りの机が破壊されていく。
「む……無茶苦茶だ!」
次第に、盾にしていた机も限界が来る。このままではじり貧と思い。壊れた机の脚を強化して武器にして、思い切って教室から飛び出した。
「ようやく出て来たわね。」
遠坂は、ガンドを放つ姿勢で指先を俺に向けている。
「降参すれば、命だけは助けてあげるわ。観念して、その令呪を渡しなさい。」
「令呪を渡す?どうやって?」
「魔術回路を引き剥がす事になるけど、死ぬよりましでしょ?3秒待ってあげるわ。その変てこな武器を捨てなさい!」
それはできない。それでは、聖杯戦争をやり直した意味が無くなってしまう。
……もう限界だな。遠坂には悪いが、本気を出させてもらう。うまく、加減ができればいいが……
俺が、投影を行おうとしたその時、
『きゃあああああああああっ!』
悲鳴が、校内に響き渡る。
「悲鳴だ!」
俺は、遠坂を無視して、悲鳴の元へ駆け出していた。
「ちょ……ちょっと、衛宮くん!」
遠坂も、俺を追って来る。
一階まで降りると、非常口の近くにひとりの女生徒が倒れていた。俺は、彼女に駆け寄る。
「良かった。気を失ってるだけか?」
「そんなわけ無いでしょ!血の気が全く無いのが分からないの?」
そう言って、遠坂は俺を押しのけてその女生徒に寄り添う。
「だいぶ弱ってるけど、この程度ならまだ何とかなる。」
遠坂は宝石を取り出し、それを使って女生徒に生気を送り込む。
「……ああ、もう気が散る。そこの戸を閉めて!」
非常口の戸は半開きだった。この女生徒を襲った賊は、ここから逃げたのだろう。
俺は、言われた通りその戸を閉めようとするが、その時、こちらを……いや、遠坂を狙う気配を感じた。
「?!」
俺は、思わず遠坂の顔の前に右腕を出す。その右腕を、何かが貫いた。
「ぐわっ!」
激しい痛みが走る。腕には大きな穴が開き、血が滴り落ちる。
「え?……え……衛宮くん?」
「と……遠坂は、その娘を頼む!」
俺は、攻撃のあった方向に向かって走り出していた。殆ど条件反射的に、体が動いていた。
冗談じゃない!今のは、間違い無く遠坂を狙っていた。俺が腕を出さなければ、遠坂の頭に当たっていた……
やったのは……ライダーか?だとすると、慎二は遠坂を殺すつもりだったのか?ふざけやがって!
雑木林の所まで来て、俺は叫んだ。
「慎二!何処だ?居るんだろ、出て来い!」
突然、目の前から鉄の杭のような物が飛んで来た。
「うわっ!」
慌てて俺は屈んで避ける。その鉄杭は、俺の背後の木を砕いた。
鉄杭には鎖が付いており、瞬く間に持ち主の元に戻る。そこに立っていたのは、慎二では無くライダーだった。
く……まずい、ここでライダーと出くわすとは……俺が一度経験した聖杯戦争と、展開が変わってしまっているのか?
俺は、とりあえず強化した机の脚を構える。
敵はサーヴァント、俺が太刀打ちできる相手じゃ無い……セイバーを呼ぶか?しかし、ここで令呪を使ってしまったら……
悩んでいる間にも、ライダーは襲い掛かって来る。鎖の付いた、鉄杭が飛んで来る。俺は、何とかその攻撃を受け流す。
どうやら、完全に格下と見て本気を出していない……これなら、何とか凌ぎきれるか?
「驚いた?あなた、令呪を使わないのですね?」
ライダーが言って来る。
「へっ……生憎と、数に限りがあるんでね……」
「勇敢ですね。私のマスターとは大違いです……ならば、あなたは優しく殺してあげましょう。」
くそ……やっぱり殺す気か?なら、どうする?セイバーを呼ぶか?
どうしても、ここで令呪を消費する事が躊躇われた。だが、ここで死んでしまっては元も子もない。
まてよ……こいつは完全に油断している。その隙を突けないか?
ぎりぎりまで粘って、そこで武器を投影する。今の俺じゃ、まだ完全なカリバーンは投影できないが、バーサーカーの腕を砕いた程度の物なら……
考えている間にも、次々と攻撃が飛んで来る。それを何とか受け流しながら、チャンスを待つ。
「ふふふ……何かを企んでいるようですけど、ここまでです。あなたは既に、私に捕まっているのですから。」
「何?」
突然、右腕が凄い力で引っ張られる。
「うぐっ!」
傷口が広がるような、強い痛みも同時に襲って来る。
「ふふふふふふ……」
良く見ると、俺の腕にはまだ最初の鉄杭が刺さっていた。今迄は、魔力で見えなくなっていただけだ。ライダーは鉄杭についた鎖を引っ張り、俺の体を振り回す。
「ぐわああああああっ!」
激しい痛みと共に、俺の体は右腕を引っ張られて木に吊り下げられてしまう。
「さあ、どう料理してあげましょうか?」
動きの止まった俺に、ライダーが迫る。
「まずは、この目から潰してあげましょうか?」
背後から俺の顔に手を回し、その指を俺の目に近付ける。
俺は、完全にまな板の上の鯉だった。だが、逆に好機でもあった。
ライダーは今、俺に密着している……ここで、あの剣を投影すれば……
その時、彼方から飛んで来たガンドが、俺を吊り下げている鎖を砕いた。
「?!」
更には、ライダーに向かって連射して来る。ライダーは、とっさに避けて俺から離れて行く。
「ぐはっ!」
俺は、地面に尻餅を付く。
「衛宮くん!無事?」
遠坂が、駆け寄って来る。それを見て、ライダーは雑木林の向こうに立ち去ってしまう。
「大丈夫?衛宮くん。」
「あ……ああ、助かった。」
「今のは……サーヴァント?」
「ああ……」
「マスターは?」
「……見ていない……」
見てはいないが、マスターが慎二である事は知っている。
しかし、まだ俺と遠坂は同盟関係になっていないので、ここは黙っていた。
遠坂は、ハンカチを取り出して、俺の腕に簡易的な手当をしてくれた。
「遠坂、あの女生徒は?」
「え?……ああ、持ち直したわ。もう心配無い。」
「そうか……」
俺は立ち上がって、真剣な顔で遠坂を見詰める。
「な……何?私じゃ無いわよ!サーヴァントにあんな事をさせたのは……」
「そんな事は判ってる。さっきの続きをやるのかって話だ。」
「は?……いいえ、やらないわ。そんな気は失せちゃったし、また借りができちゃったしね。」
そう言って、遠坂も立ち上がる。
「じゃあ、行きましょうか?」
「行く?何処へ?」
「私の家よ。その腕、ちゃんと処置しておかないと……」
そういう訳で、俺は遠坂家に連れて来られた。
そういえば、ここに来るのは初めてだ。前の聖杯戦争の時は、遠坂が衛宮家に下宿していたから、遠坂家に来る事は無かった。
「あれ?」
傷の手当てをしようとした、遠坂が言う。
「ん?どうした?」
「傷口が塞がってるわ……何で?」
ああそうか……今俺の体は、セイバーと繋がっている関係で異常な治癒能力があるんだった。
俺は、その事を遠坂に伝える。
傷口は塞がっているが、一応消毒をして、包帯を巻いてもらう。
それが終わった後で、遠坂が同盟を結ぶ話を持ちかけて来る。
俺は当然のように、その申し出を受けた。
順番が違ったが、これでやっと遠坂と協力関係になれた。
その後、少しお互いの家庭の話をして別れた。
遠坂は、気を利かせてアーチャーを護衛に付けてくれたのだが、はっきり言って有難迷惑だった。
アーチャーは霊体化して俺に付いて来たが、始終異様な殺気を放っていた。これでは、護衛されているのか、襲われているのか判らない。本当に、気を抜けば背後からばっさり殺られるような気がして、生きた心地がしなかった。
ようやく家の近くまで来て、俺はアーチャーに言う。
「ここまででいい。」
アーチャーは、霊体化したままで答える
『ほう?護衛はいらないと。』
「そんなに殺気だった護衛がいるか。」
すると、アーチャーは実体化して来る。
「見直したよ。殺気を感じ取れる程には、心得があるらしい。」
「馬鹿にするな、これでも魔術師だ。お前がやる気なら、相手になるぞ。」
「たわけた事を。血の匂いがしない魔術師など半人前だ。」
「俺からは、血の匂いがしないって言うのか?」
「無論だ。少しは凛を見習うがいい。アレもいささか甘すぎるきらいはあるが、手を下す時には容赦はすまい。」
確かに……それは、今日身をもって体験した。
「お前も、聖杯が欲しいのか?」
俺は、何故かそのような質問をしていた。
「ああ、人間の望みを叶えるという悪質な宝箱か……興味は無いな。私の望みは、そんな物では叶えられまい。」
「何だって?」
聖杯がいらない?サーヴァントは、聖杯を欲するから魔術師の召還に応じるんじゃなかったのか?
「お前は、サーヴァントが自らの意思で呼び出しに応じている、とでも思っているのだろうが、サーヴァントに自由意志など無い。英霊とは他者の意思により呼び出される者だ。不都合があった時に呼び出されて、その後始末をして消えるだけの掃除屋だ。それが英霊……守護者と呼ばれる都合のいい存在だ。なってしまったが最後、意志を剥奪され、永遠に人間のために働き続ける。」
「そんな筈は無い!セイバーもお前も、ちゃんと意思があるじゃないか!自分の意思とは無関係に呼び出されるにしても、こっちに出て来てからの選択肢はある!」
そうだ、その選択肢に、俺は殺されたのだから……
「誰が作った儀式だか知らんが、この戦いがよく出来ているのだ。英霊に形を与え、本体そのものとして使役するのだからな。サーヴァントという殻を与えられた英霊は、その時点で元の人間性を取り戻せる。かつての執念、かつての無念と共にな。それを晴らすために、サーヴァントは聖杯を求めるのだろうよ。」
「……何で、そこまでの物を、お前は要らないって言うんだ?生前叶えられなかった、願いが叶うんだろう。」
「単純な話だ。私には、叶えられない願いなど無かった。」
「え?」
「他の連中とは違う。私は、望みを叶えて死に、英霊となった。故に、叶えたい望みなど無いし、人としてここに留まる事にも興味は無い……」
そこまで言って、アーチャーは再び霊体化して去って行った。
しばらくそこに佇んで、アーチャーの言った事を考えていた。そして、ある矛盾に気付いた。
叶えたい望みなど無いだと?あいつは、確かに言った。
“私の望みは、そんな物では叶えられまい”
やつには望みがある。この聖杯戦争に参加する目的がある。しかし、聖杯は求めない。
どういう事だ……
考えても答えの出る筈も無く、俺はそのまま家に戻った。
夕食を終えた後、セイバーに遠坂と同盟を結んだ事を告げる。
その後、セイバーとの修行を行い、また土蔵に籠る。
今日一日の動きで分かるように、もはや俺の知っている聖杯戦争と展開が変わってしまっている。
ならば、いつまでも“自分ではサーヴァントと戦えない”などと言っていられない。真正面からは無理でも、相手の隙をつくくらいはできるようにならないと。
そのためには、一日でも早く自分の魔術回路を使いこなし、強力な武器を投影できるようにしなければ……
やっきになって鍛錬を続けた俺は、その日も疲れて土蔵で眠ってしまった。
二度目の聖杯戦争だから、展開が分かってスムーズに……とはいきません。
前とは違う展開に、士郎は戸惑うばかり。
この後も、どんどん知らない展開になっていきます。
それと同時に、士郎にも変化が生じていきます。