Fate / replay night   作:JALBAS

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柳洞寺で見られた士郎の変化。
それは、アーチャーでなければ気付かないような、些細なものでした。
しかし、聖杯戦争が激化していくに従って、その変化は大きくなっていきます。
そして凛も、それを目の当りにする事に……




《 第五話 》

 

アーチャーのお蔭で難を逃れた俺だが、一難去ってまた一難。家に戻ったところで、また問題が発生した。

セイバーが、俺の部屋で一緒に寝ると言い出したのだ。

「就寝時の警護はサーヴァントの務めです。そもそも、マスターとサーヴァントが別々に寝ている事の方がおかしい。離れていては、いざという時に護りきれない。」

こう言って、セイバーは譲らない。

「だいたい、あんなに簡単に誘き出されるなんて、貴方にはマスターとしての自覚が欠けています。そんな人を、ひとりで寝かせられません!」

まったくもってその通りで、言い訳はできないのだが、一緒の部屋で寝るなど冗談では無い。

相手はサーヴァントだ。

俺は、彼女に一度殺されているのだ。

そんな相手が同じ部屋に居ては、おちおち寝ていられない。

そこで、俺は譲歩案を出す。

「お前の言い分は分かった。しかし、良く考えてみろ。普通、家臣が主と同じ部屋で寝るか?」

「え?……た……確かに、それはしません。」

「そういう場合は、交替で寝ずの番をするものだ。だが、俺達の場合はそれはできない。交替要員は居ないし、セイバーは睡眠を取らないと戦闘に支障をきたす。」

「は……はい、その通りです。」

「だから、俺も譲歩するからセイバーも譲歩してくれ。俺の部屋の隣は空き部屋だ。襖ひとつで仕切っているだけだから、緊急時も直ぐに駆け付けられる。今夜から、セイバーはその部屋で寝ればいい。」

「はい……了解しました。」

多少不満そうだったが、何とかセイバーはこれで納得した。

 

翌日は、学校には行かなかった。

昨夜の件で、自分の実力不足を痛感した。それと、もうひとつ懸念事項があった。

 

俺の知っている聖杯戦争と、あまりにも展開が違い過ぎる。

昨日も思ったが、受けに回っているのはリスクが高い。こちらから攻める事も考えないといけない。

 

そう思い、その日は一日鍛練に努めた。

日中は、セイバーに戦闘術を鍛えてもらった。

そして夜は、また土蔵に籠って魔術の鍛練を行った。

 

その翌日もそうしたかったが、慎二とライダーの動向も確認する必要があるので、少し遅れて学校に行った。

昼休みに、遠坂に屋上に呼び出され、一緒に昼食をとった。

そこで、何気にアーチャーの事が気になったので、遠坂に聞いてみた。

「遠坂、アーチャーはそこに居るのか?」

「ううん、アーチャーは家に置いて来た。」

「え……どうして?」

すると、遠坂はちょっと言い難そうに語り出す。

「……この間の件で、ちょっと揉めちゃって……」

「この間の件?」

「……ほら、先日の夜、貴方柳洞寺に誘き出されたでしょ?」

「あ……ああ、あれね……」

こっちも、バツが悪かった。あんなに簡単に罠に嵌り、また遠坂にこっぴどく叱られると思ったからだ。

「あいつ、キャスターを討つチャンスだったのに、みすみす見逃すなんて……私が、キャスターを目の敵にしてるの知ってる癖に!」

しかし、遠坂の怒りは俺では無く、アーチャーに向けられていた。

「あれ……でも、アーチャーお前に全部報告したのか?自分の気まぐれだって言ってたけど。」

「ええ、あいつは隠し事はするけど、基本嘘は付かないわ。いきなり傷付いて帰って来れば、こっちは当然何をして来たのか聞くでしょ?そしたら、洗いざらい白状したわ。」

 

そうか……妙に律儀なんだな?あいつ……

 

「だいたい、何が“通りがかり”よ。あんな胡散臭いところ、偶然通りかかる訳が無いでしょ!絶対様子見に行ったのよ。だったら、マスターの私にも声をかけろっての!」

「何だ、仲間外れにされたのを僻んでるのか?」

「違うわよ!……それにあいつ、衛宮くんとの同盟関係にまでケチを付けて来るのよ。手を組むなら、キャスターの方が有効だなんて言って……」

 

?……あいつ、あの時はキャスターの申し出断ってなかったか?

 

「私は“衛宮くんとの同盟関係を止める気は無い”って言ったら、また口論になって。」

「俺を庇ってくれたのか?遠坂。」

「ま……まあ、私から提案した事だし……そもそも、衛宮くんは絶対に裏切らないでしょ?あの魔女と手を組んだりしたら、いつ裏切られるか心配で、おちおち夜も安心して眠れないわ。」

確かに、俺もキャスターは信用できない。何より、キャスターの行動は許せない。

その時、俺の心にひとつの疑問が湧いた。

 

そういえば、アーチャーは“通りがかり”と言ったが、何故あの場に現れた?

キャスターを倒すために動向を探っていたのなら、あの場でキャスターを見逃す筈は無い。

待てよ……あいつは、あの時確かに言った。“私の目的は、そこの男にあったからな”と……

アーチャーは、キャスターの動向を探っていたんじゃない!俺の動向を探っていたんだ!

しかし、何故?

 

「……衛宮くん?」

 

以前の聖杯戦争の時もそうだった。

あいつは、何かにつけて俺をつけ回し、意味深な言葉を吐いていた。

他のサーヴァントは、俺みたいな半人前のマスターは完全に度外視していた。ギルガメッシュに至っては、視界にも入らないゴミ扱いだ。

何故、あいつは俺をここまで意識する?

 

「衛宮くん!」

 

それに、あいつは俺の事を異常なくらい知っている。俺のサーヴァントでも無く、常に一緒に居る訳でも無いのに……セイバーだって、あそこまで俺の事を理解していない。

遠坂ですら判らなかった、俺の魔術特性まで理解していた……どうして?

 

ふと、キャスターが言った一言が頭を過る。

“では、あなた達は似た者同士と言う事?”

 

似ている?……俺とアーチャーが?……

 

「ちょっと士郎っ!」

遠坂の叫びで、我に返る。

「え……ああ、わ……悪い。」

「何を、そんなに考え込んでいたの?」

「い……いや、その……」

まさか、アーチャーの事だと言う訳にもいかないので、とっさに話題を逸らす。

「そ……そういえば、ライダーのマスターの事なんだが……」

「ああ、慎二の事?」

「は?」

 

何で、遠坂が知ってんだ?俺、まだ話して無かったよな?

 

「気付いてたのか?」

「私も、今朝知ったんだけどね……」

そう言って、遠坂は今朝慎二に“手を組まないか”と誘われた事を話す。当然、遠坂は断ったのだが、しつこく慎二が言い寄って来たため……

「……だから“私には衛宮くんが居るから、間桐くんはいらないわ”って言っちゃった。」

「お……お前、そんな事言ったら……」

「大丈夫よ。あいつ魔術なんか使えないから、何もできないわ。」

「しかし、それでやけになって、結界を発動させたら。」

「え?」

「気付いて無かったのか?学校に結界を張っているのはライダーだ!」

その時、突然校舎が大きく揺れ出し、校舎内、校庭、至る所から赤い帯のようなオーラが発せられ、学校全体をドームの様に包み込んでしまう。

「こ……これは?」

「結界が発動してる?」

「と…とにかく、止めさせるんだ!」

俺と遠坂は、急いで校舎内に入る。中は、一面血のような赤だった。空気までも赤く染まり、息をするだけで普通の人間は昏睡してしまうだろう。

魔術師ならば、体内で魔力を生成できるからそう影響は受けない。遠坂はもちろん、俺も一度経験しているから、直ぐさま魔術回路のスイッチを入れた。

四階の、階段に一番近い教室に飛び込む。

「……」

一瞬、遠坂は足を止めて、その惨状に踏み入るのを躊躇した。

そこは、地獄のような光景だった。どの生徒も、衰弱し、苦しみ、倒れている。

俺は、倒れている生徒に寄って行き、顔に耳を近づける。

「息はある。まだ、間に合わない訳じゃ無い。とにかく、急いで結界を解かないと!」

遠坂は、茫然と佇んでいる。

「遠坂、セイバーを呼ぶ!この結界がライダーのものなら、まずライダーを倒すしか無い!」

「え?……ええ……」

ようやく、遠坂は我に返る。

俺は、左手の甲の令呪を眼前に翳し、叫ぶ。

「来い!セイバーっ!」

俺の前に、光り輝く球体が現れ、その中からセイバーが姿を現す。

「召喚に応じ参上しました。マスター、状況は?」

「見ての通りだ。ライダーに結界を張られた。一秒でも速くこいつを消去したい。」

「承知しました。確かに、このフロアにサーヴァントの気配を感じます。」

その言葉を聞いた、遠坂が反論する。

「このフロア?……四階に居るって言うの?」

「間違いありません……凛、それが何か?」

「い……いえ、セイバーの感知なら確かでしょうけど、結界の基点は一階から感じられるわ。」

そこに、俺も口を挟む。

「サーヴァントはこの階に居るのに、結界を張っているのは一階だって事か?遠坂。」

「う……断定はできないけど、私にはそう感じられる……」

少し自信なさげに、遠坂は返す。

 

どういう事だ?……まさか、どちらかが罠なのか?

 

「凛、アーチャーはどうしたのです。彼が居るのなら、もう少し確かな判断ができる。」

「それがあいつ、呼んでも応えないのよ!この結界、完全に内と外を遮断してる。令呪を使うか、あいつがこっちの異状を感知して駆け付けて来る以外無いわ。」

そんなのを待っていられない。また、ここで無駄に遠坂に令呪を使わせるのも考えものだ。

俺は、即座に判断する。

「セイバー、この階のサーヴァントは任せた。俺と遠坂は、一階に行って結界の基点を潰す。」

「はい、賢明な判断です。」

「相手がライダーだったら、ここで確実に倒すんだ!いいか、絶対に逃がすな!」

「は……はい!解りましたマスター。」

俺の鬼気迫る様子に、セイバーも遠坂も少したじろいでいた。

 

ここでライダーを逃がしたら、前回の二の舞だ。奴が宝具を使う前に仕留めないと……

 

俺は、椅子の脚を折ってそれを強化して、簡易的な武器にする。本来なら武器を投影した方が良いのだが、まだ遠坂やセイバーには投影魔術の事を言っていなかったので、今はそれで我慢した。

「マスター、外に微弱な気配がします。どうやら包囲されたようです。」

セイバーが言う。

「包囲された?!……何に?」

「判りかかねます。ですが、外に出て確認するだけの話です。」

「判った。じゃあ、先陣を頼む、セイバー。」

「了解しました。」

セイバーは廊下に飛び出し、その“何か”を迎撃する。俺達も、それに続く。

「こ……こいつらは?!」

そこに居たのは、骨で出来たゴーレムの大群だった。

 

ば……馬鹿な?こいつら……確か、キャスターの使い魔じゃなかったか?

何故、キャスターの使い魔がここに居る?この結界は、ライダーが張っている筈だ。それは間違い無い。俺は、一度体験している……

 

考えても、答えが出る筈は無かった。どの道、展開は変わってしまっている。今は、一階の結界の基点を叩くしか無い。

「セイバー、目の前のこいつらをどけてくれ!」

「はい!はああああああっ!」

セイバーが、行く手を塞ぐゴーレムを一掃する。セイバーが開けた隙間を抜け、俺達は階段を駆け降りて行く。

しかし、一階に向かう俺達の前に、次々とゴーレムが湧き出て来る。強化した机の脚で戦っていたが、それでは攻撃力が弱く、思うように進めない。

「ちっ……こんな物じゃ埒が明かない……」

 

もっと、強力な武器がいる……そうだ!あいつが持っていたような……

 

士郎の中で、何かが切替わる。

士郎は、持っていた机の脚を目の前のゴーレムに投げ付けた。それで、彼は丸腰になってしまう。

「ちょっと、何してるの衛宮くん?」

「トレース……オン!」

苦言する凛の目の前で、士郎はアーチャーが持っていたのと同じ、白と黒の夫婦剣を投影する。

「え?……うそ?!」

それを見た、凛は驚く。

「邪魔だ!どけえええええええっ!」

投影した剣で、士郎は次々とゴーレムを粉砕していく。その様は、アーチャーのそれに近かった。並みいるゴーレムを薙ぎ払い、士郎は一階へ急ぐ。

 

 

 

上階では、セイバーがゴーレム達を蹴散らしていた。そこに、ようやくライダーのサーヴァントが現れ、セイバーに襲い掛かって来る。

鎖の付いた鉄杭の攻撃を交わし、セイバーの剣がライダーを貫く。

「ふふっ……」

しかし、胸を貫かれたライダーは、何故か笑みを浮かべる。そして、徐々に姿が変わっていく。紫のローブを羽織った、キャスターの姿に。

「お……お前は?」

驚くセイバーの前で、キャスターは、無数の光の蝶に姿を変えて消え去ってしまった。

 

 

 

ゴーレムの群れを一掃し、士郎達はようやく一階に辿り着いた。そして、凛が感知した結界の基点の教室に飛び込む。ここも、四階の教室同様、生徒達は皆衰弱して倒れている。いや、結界の基点なので、生徒達はより衰弱していた。

凛は、教室の隅で怯えている慎二を見つけ、直ぐさま駆け寄って胸ぐらを掴む。

「慎二!あんた……」

「ち……違う……僕じゃない……」

「何言ってんの!この結界を張ったのはあんたでしょ!さっさと結界を解きなさい!」

「ち……違う、僕じゃない!殺したのは、僕じゃないいいいいっ!」

何か、全く話が噛み合わない。

その時士郎は、慎二が凛を見ていない事に気付く。そして、慎二の視線の先の床を見て、思わず声を上げる。

「遠坂!」

「え?」

言われて、凛も士郎の視線の先を見る。

「?!」

そこには、ライダーが横たわって死んでいた。

大きな外傷は無いが、唯一、首が捩じれたように千切れかかっていた。ほぼ、一撃で倒されたと思われる。

士郎達の見ている前で、ライダーの体は消滅していった。

ライダーが消滅するのと同時に、学校に張られていた結界も消えて無くなった。

「一体、誰がライダーを?まさか、キャスター?」

「いや……」

士郎は、冷静に分析する。

「あれは、どう見ても格闘戦の跡だった。キャスターは、格闘タイプじゃ無い。」

「え?それじゃあ……」

「当然、バーサーカーでも無い。だったら、ライダーは原形を留めて無いだろうし、校舎も倒壊している。ランサーやアサシンも、こんな戦い方はしない……」

「何言ってんの?それじゃ、犯人が居ないじゃ無い。」

士郎は、未だに教室の隅で震えている慎二の前まで行く。

「慎二、ライダーを殺したのは誰だ?」

「……は?」

慎二は、怯えきった顔で士郎を見る。

「ライダーは誰に殺られた?お前は、犯人の顔を見たんだろう?」

「し……知るもんか!」

「言え。」

「ふ……ふん、次は、お前達の番だからな!せいぜい怯えてろっ!」

そう言って、逃げ出そうとする。しかし、士郎はそれを許さなかった。直ぐに回り込んで彼の胸ぐらを掴み、壁に押し付けた。

「言え!慎二!」

「ちょ……ちょっと、士郎!」

そのあまりの剣幕に、凛も止めに入る。

「言わないなら……」

士郎は、慎二の首を掴み、締め始める。

「や……止めろ……衛宮……ぼ……僕を……殺す気か?」

「今更何を言ってる!お前は、学校の皆を殺そうとしたんだろ!」

「士郎!止めなさい!」

凛も止めようとするが、士郎は全く手を緩めない。

「や……止めて……」

「なら言え!言わなければ……」

士郎は、更に手の力を強める。

「い……いう……くずき……くずきだ……」

「何?!」

士郎は、そこで手を離す。首を掴んで吊り上げた形になっていたため、慎二はお尻から床の上に落下する。

「がはっ……ごほっ……げほっ」

その場で咳き込み、苦しむ慎二。

「だ……大丈夫?慎二?」

心配して、凛が駆け寄る。しかし、ようやく呼吸が整ったところで、

「ひっ……ひいいいいいいいいっ!」

今度は士郎の様相に怯え、慎二は脱兎の如く逃げ出して行った。

「くずき……葛木だと?!」

士郎は、そんな慎二の様子は、全く目に入らないようだった。

凛は、しばらくそんな士郎を見詰めていたが、思い出したように士郎に問い掛ける。

「衛宮君……さっきのは、何?」

「ん?……さっきのって?」

「アーチャーの剣を投影してたでしょ!貴方、強化魔術しかできないんじゃ無かったの?」

「あ……ああ、実は、最初にできたのが投影で……」

「それ、頭に来るくらい聞いてない!」

 

 

 

セイバーと合流した士郎達は、セイバーと戦ったのはキャスターの分身であった事を聞く。凛は驚きを見せたが、士郎は驚く事は無かった。彼らを襲って来たのは、紛れも無くキャスターのゴーレムであった。キャスターは結界の発動を利用して、逆にライダー達を罠に嵌めたのだ。

 

その後、教会に連絡し、倒れた教師や生徒達の処置を依頼した。皆、衰弱していたが、命に係わるような状態では無かった。

動揺して、殆ど呆然としていた凛は、冷静にてきぱきと対処した士郎を見て言う。

「衛宮くん……随分冷静なのね?意外だった……」

「冷静じゃ無いぞ、怒りで我を忘れていただろ。」

そう言われて、凛ははっとする。

時折見せる、士郎の態度は常軌を逸していた。

セイバーに、ライダー討伐を命じた時。

一階に向かう際、ゴーレムに対して剣を投影した時。

慎二に、ライダーを殺した犯人を問い詰める時。

まるで、人格が変わったような、今迄の士郎とは思えないような変貌を見せていた……

「そ……それでも、皆の傷を把握してたじゃない……私には、できなかったけど……」

「別に大した事じゃない……死体は見慣れているだけだ。」

「見慣れてる?」

 

校内には、倒れた生徒達を病院に運ぶため救急隊員が入って来たので、士郎達は校舎裏の雑木林に移動する。

そこに、外界との繋がりも元に戻ったので、アーチャーも現れた。

「何だ、セイバーが居るとは驚いたな。」

「アーチャー!あんた、今頃やって来て何のつもりよ!」

凛は、いきなりアーチャーに不平を言う。

「決まっているだろう、主の異状を察して駆けつけたのだ。もっとも、遅すぎたようだがな。」

「ええ、もう全部済んじまったわよ!あんたがのんびりしている間に何が起きたのか、一から聞かせてやるからそこに直れっていうの!」

「いや、それは後にしてくれ。遠坂。」

『え?』

士郎が、凛とアーチャーのやりとりに口を挟む。いつになく冷静な態度に、二人とも怪訝な顔をする。

「今の状況を簡潔に言おう。キャスターの罠に嵌まって、ライダーが殺された。殺したのは、キャスターのマスターと思われるこの学園の教師葛木宗一郎だ。」

「何だと?!」

これには、アーチャーも驚愕した。サーヴァントが人間の手で殺されたのだ、到底信じられない話だろう。

「どうやったかは判らない。ただ、キャスターの魔術で葛木の力が強化されているのは確かだろう。唯の人間と油断したライダーは、その隙を突かれたんだ。」

皆、黙って士郎の話を聞いていた。

「まあ、お陰でキャスター陣営の戦力は判明した。門番のアサシン、キャスター、そしてマスターの葛木だ。」

「なら、柳洞寺の外で葛木を襲うのがいいわね。キャスターは付いて来るかもしれないけど、アサシンは居ない訳だし……」

そんな凛の言葉を、士郎は否定する。

「いや、駄目だ。今夜柳洞寺に奇襲を掛ける。キャスターは、今夜中に倒す。」

『ええっ?!』

凛とセイバーが、同時に驚きの声を上げる。アーチャーは、無言で士郎を見詰めている。

「こうしている間にも、街中で誰かが犠牲になっている。時間が経てば経つほど、キャスターは魔力を蓄えていく。あいつは、至る所に罠を張る。知らない内に、こっちが追い込まれていく恐れもある。

叩くなら今だ。今日の件で、奴もかなりの魔力を消耗している筈だ。」

そこに、アーチャーが口を挟む。

「この間も言ったが、キャスターを利用してバーサーカーを倒そうとは考えないのか?」

「あいつがそんな玉か?逆に、こっちを利用しようと考えているさ。何をするのか判らない分、キャスターはバーサーカーより危険だ。

もちろん、あいつと組むのも御免だ。キャスターは信用できないし、俺は、あいつを絶対に許せない。」

「ちょ……ちょっと待って士郎。それでも、柳洞寺に攻め込むのはリスクが高いわ。葛木がマスターなら、柳洞寺の外で葛木を待ち伏せる方が……」

「奴は、慎二に顔を見られてるんだ。もう柳洞寺に籠って、出て来ないかもしれない。」

「それはそうだけど……」

「どうしても反対するなら、俺達だけでも行く。いいな?セイバー!」

「はい、マスターがそう望むのでしたら。」

元々、戦闘を優先するセイバーは二つ返事で答える。

士郎のあまりの剣幕に、凛も、渋々承諾する。

「分かったわ……今夜、柳洞寺を攻めましょう。いいわね?アーチャー。」

「仕方あるまい……」

そう答えながら、アーチャーはじっと士郎を見詰めていた。

“こいつは、本当に衛宮士郎なのか?この間も感じたが、どこか違っているような……”

 






士郎の異常に気付くのは、アーチャーだけです。まあ、本人も同然だから当然ですが。
凛は、聖杯戦争が始まってから親しくなったので、二面性には気付きますが、異常だということはまだ判りません。セイバーも同様です。
もう気付かれたと思いますが、この話では士郎はセイバーに自分の名前を呼ばせません。
その前の聖杯戦争の教訓として、セイバーと親密な関係にならないようにしています。いざという時に、情に流されないために。

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