キャスターの行動を見逃せなくなった事と、受けに回って翻弄され続けた経験から、一転攻めに回る士郎。
どんどん、好戦的に変わっていきます。
但し、何の勝算も無く無謀に突撃する訳ではありません。アーチャーのように、敵を観察して冷静に対処します。
士郎の気迫に圧され、凛達もその日の内に柳洞寺に攻め込む事に同意した。
日が沈んだ後、一行は衛宮家の門の前に集まり、柳洞寺に向かう。
到着するなり石段を駆け上がり、境内を目指す。
山門の前に差し掛かったところで、アサシンが行く手を塞ぐ。
「アーチャー、ここは任せたわ。あいつを引付けて、私達が通る道を開けて!」
「了解した。」
すかさず、凛が指示を出す。しかし、セイバーがそこに口を挟む。
「ま……待て、アーチャー。私は、彼と再戦を誓った。ここは私が……」
「駄目だ!」
セイバーの言葉を、士郎が遮った。
「ま……マスター?」
「遠坂の判断は正しい。ここは、アーチャーに任せるんだ。」
「し……しかし、それでは私の誓いが……」
「マスターの指示に従えないのか?セイバー!」
士郎は、セイバーを怒鳴りつけた。その剣幕に、セイバーだけではなく凛も驚いている。アーチャーだけは、無表情で士郎を見詰めている。
「……わ……解りました、マスター……」
少し項垂れて、セイバーは士郎の指示を受け入れる。
「……じゃあ、お願い!アーチャー。」
改めて、凛は指示を出す。無言で反応し、アーチャーは双剣でアサシンに斬り掛かる。そうして、アサシンを石段の脇に追い込んでいく。
「今よ!」
凛の合図で、士郎達は一気にその横を駆け抜ける。
そして、山門をくぐって行く。
士郎達が山門をくぐった後、アーチャーはアサシンに問い掛ける。
「意外だな?すんなり侵入者を見逃すとは……そもそも、お前はセイバーとの勝負に固執していたのではなかったか?」
「ふっ、仕方あるまい……気に喰わぬ女狐とはいえ、私の主だ。その命には、従うしかあるまい。」
「何っ?!」
アーチャーは、一旦後方に飛んで間合いを取る。
「どういう意味だ?」
「どうもこうも言葉通りよ……セイバーとあの小僧どもを通すのは、キャスターの指示でな。私の役目は、ここでお前を足止めする事よ。」
「何だと?」
「判らぬか?もうお前達は、あの女狐の罠にまんまと嵌っているのだ。」
境内に辿り着いた士郎達を、待っていたかのようにキャスターとそのマスターの葛木が迎える。
「遠坂に衛宮か?」
葛木が言う。
「間桐だけでは無く、お前達までマスターとはな……魔術師とはいえ、因果な人生だ。」
士郎が、葛木に問う。
「葛木、あんた、キャスターに操られているのか?」
「その質問は的を射ていないな、衛宮。仮に私が操られていたとして、その者にそんな自覚があると思うのか?」
いきなり質問の矛盾点を突かれ、士郎は顔を顰める。
「く……そう言うのなら、あんたは正気って事だな?なら、その上でキャスターのやっている事を容認しているのか?」
「キャスターがやっている事だと?」
「そいつはここに巣を張って、町中の人間から魔力を集めてる。ここ最近の昏睡事件は、全部そいつの仕業だ。このまま放っておけば、いずれ死んじまう人間も出るだろう。」
「成程、それは初耳だ……だが、それは悪い事なのか?衛宮?」
「何だって?!」
葛木の回答に、士郎も凛も愕然とする。
「キャスターも、随分半端な事をしているな。一息に命を奪った方が、効率がいいだろうに。」
「あんたは、無関係な人間が巻き込まれてもいいって言うのか?」
「構わんな、他人が何人死のうと、私には関係無いことだ。私は魔術師では無いし、聖杯戦争とやらにも興味は無い、誰と誰が殺し合おうと構わん……私は、そこいらに居る朽ち果てた殺人鬼だよ。」
「そうか、では、ここで死しても構わぬのだな?キャスターのマスターよ!」
後ろにいたセイバーが飛び出し、葛木に向かって突進して行く。
「ま……待て、セイバー!」
士郎は、セイバーを制止するが、セイバーは止まらない。弾丸の如く葛木に向かって行く。
ただ、士郎がセイバーを止めたのは、葛木の身を案じての事では無かった。
“あいつは、どうやったか知らないがライダーを殺した男だ。魔術師では無いとはいえ、油断ならない。”
「お待ちなさい!セイバー!」
キャスターは、突進するセイバーを阻止しようと光弾を放つ。
しかし、その光弾は悉くセイバーに弾かれる。
「な……何ですって?」
セイバーの体をオーラのようなものが覆い。魔術を無効化している。
“す……凄い。セイバーの耐魔力は、ここまで強かったのか?アーチャーだって、あの光弾を躱すしかなかったというのに……”
一気に間合いを詰めたセイバーが、葛木を一刀両断した……
と思われたが、葛木は肘と膝で、セイバーの剣を受け止めてしまった。
「何?」
「侮ったな?セイバー!」
そして、素早くセイバーの頭部に一撃を加える。
「ぐっ……」
とっさの反応で致命的なダメージは避けられたが、体勢を崩すセイバー。そこに、葛木の正拳が矢の如く飛んで来る。何発かは交わすが、何発かは喰らってしまう。
茫然と、その光景を見詰める士郎と凛。
「う……うそ……」
「拳が、魔力で強化されているのか?」
「良く交す。動体視力というより、勘の鋭さ故か?」
僅かな隙をついて、葛木が右手を繰り出す。正拳と判断して後方に躱すセイバー。だが、葛木はとっさに手を開き、その指をセイバーの喉元に突き刺した。
「ぐはっ!」
更に、その手で首を握り締め、そのままセイバーを吊り上げる。
「ぐわあああああああっ!」
「だ……駄目だ!セイバー!」
このままでは、セイバーもライダーの二の舞と、叫ぶ士郎。
ただ、セイバーもそのままやられはしなかった。とっさに葛木の腕を切り払おうと。剣を動かす。
しかし、葛木もそれを察していたのか、セイバーの首を絞めるのを止め、そのままセイバーの体を振り回して山門に向かって投げ飛ばした。
「セイバー!」
「そんな……馬鹿な?」
山門に叩きつけられ、項垂れるセイバー。かなりのダメージを喰らい、直ぐには起き上がれそうにない。
「マスターの役割を、後方支援と決め付けるのはいいがな、例外は常に存在する。私のように、前に出るしか能の無いマスターも居るという事だ。」
山門では、アーチャーとアサシンの攻防が続いていた。
だが、アーチャーの剣では、アサシンを倒すのは難しかった。
「どうした?そんな事では、いつまで経ってもここを圧し通る事などできぬぞ。」
「確かにな……」
アーチャーは後方に飛び退いて、再びアサシンと間合いを取る。
「私も、サーヴァントとしてマスターの身が心配だ。ここで、時間を食っている訳にはいかん。」
アーチャーの体から、白いオーラが立ち昇り始める。
「私の真髄を見せよう……I am the bone of my sword.」
「何?」
「Unkown to Death. Nor known to Life.」
魔力の渦が、アーチャーを包み込む。
そしてアーチャーは左手を前に翳し、最後の呪文を唱える。
「Unlimited Blade Works.」
突如、周りの景色が一変する。見渡す限りの荒野、そこには無限の剣が、まるで墓標のように刺さっている。
「これは……固有結界か?」
「ご覧の通り、貴様が挑むのは無限の剣……剣撃の極地、その身に受けるがいい!」
「上等、セイバーは面食らってやられたけど、要は近付かれる前に倒せばいいんでしょ?」
凛は、葛木に向かってガンドを放つ。だが、素早い動きで全て交わされ、あっという間に間合いを詰められてしまう。葛木の正拳が凛を捕えようとしたその時……
「遠坂っ!」
士郎が割って入り、葛木の正拳を弾いた。
「え……衛宮くん?」
士郎の両手には、アーチャーと同じ白と黒の夫婦剣が握られていた。
「何ですって?あの坊や……投影魔術を?」
今度は、キャスターが驚く。
「うおおおおおっ!」
葛木の正拳を、士郎は夫婦剣で悉く弾く。一度聖杯戦争を終盤まで戦い、アーチャーの戦闘をその目に焼き付け、セイバーに鍛えられた士郎の剣術は、それまでとは比べものにならない程上達していた。
しかし、それでも幼少期から殺人術を仕込まれた葛木には及ばない。徐々に、追い詰められて行く。
「遠坂!援護を!」
「わ……分かったわ!」
凛が、後方からガンドで葛木を狙う。それによって、士郎は何とか葛木と互角に戦えるようになる。
「セイバー!立てっ!」
更に、士郎は叫ぶ。
「は……はい……マスター。」
士郎の叫びで、ようやくセイバーは立ち上がる。
「セイバー、お前はキャスターを討て!」
「はい!マスター!」
士郎の指示に、即座に反応し、キャスターに向かって突進して行くセイバー。
「そうはさせないわ!」
キャスターが、士郎達に向かって右手を上げる。すると、地面の中から、無数の骨のゴーレムが湧き出してくる。そして、士郎と凛に襲い掛かる。
「ちょっ……ちょっと、何よこの数!」
慌てて、ガンドでゴーレムを攻撃する凛。当然、それで手一杯になり、士郎の援護が出来なくなる。
「ぐっ……」
そうなると、途端に士郎は劣勢になる。
「ま……マスター?!」
思わず、足を止めてしまうセイバー。
「止まるな!」
そんなセイバーに、士郎は叫ぶ。
「キャスターさえ倒せばこいつらは消える!俺達を心配するなら、一秒でも速くキャスターを倒せ!」
「は……はい!」
士郎の言葉に、再び突進を開始するセイバー。
「ちっ!」
キャスターは再び光弾を放つが、やはりセイバーには通じない。そのまま、セイバーがキャスターを斬り裂くと思われたが、寸でのところで、セイバーの動きが止まった。
以前アーチャーを捕えたのと同じ、霧状のオーラがセイバーを包み込む。キャスターが今迄動かなかったのは、ここにセイバーを誘い込むためだった。が……
「……こんな程度か?」
ガラスが割れるように、その呪縛は崩壊した。アーチャーにも破られた呪縛が、セイバーに通じる道理は無い。
しかし、そんな事はキャスターは百も承知だった。要は、僅か一瞬でもセイバーを止められれば良かったのだ。その一瞬の間に、キャスターはその右手に持つ歪な短剣を振り上げていた。
「ここまでよ、セイバー。」
キャスターは、その短剣でセイバーの胸を刺す。
「うわあああああああああっ!」
凄まじい魔力の放出が起こり、苦しむセイバー。
「な……何?セイバー……うっ!」
突然、士郎の左手の甲から、令呪が消失する。それはキャスターの左手の甲に移り、新たに三つの令呪が刻まれる。
「ふっふふふふふ……ははははははははっ!」
高笑いするキャスター。
「驚いたかしら?これが私の宝具、ルールブレイカー!この世界にかけられたあらゆる魔術を無効化する、裏切りと否定の剣。契約は成立したわ。これからは、私がセイバーのマスターよ。」
その場に蹲って、未だ苦しむセイバーに、キャスターは言う。
「貴女もこれで私と同じ、主を裏切り、その剣を私に預けなさい!」
呆然とする、士郎と凛。
“あいつのあの剣に、そんな力が……”
士郎は、キャスターのルールブレイカーを凝視する。
「宗一郎様、もうお下がり下さい。その者達の始末は、セイバーにやらせます。」
「うむ……」
葛木は、士郎達から離れ、後退する。襲い掛かっていたゴーレム達も、後退して士郎と凛を囲むようにして待機する。
「さあセイバー。貴女の、元マスターを仕留めなさい!」
「ふ……ふざけるな……誰が貴様などに……」
逆らうセイバーに、キャスターは令呪を使う。赤い波紋が、セイバーを包み込む。
「いいえ、従うのよセイバー。この令呪がある限り、身も心も私には逆らえない!」
「う……うううっ……」
懸命に抵抗しようとするが、令呪に操られ、セイバーはゆっくりと立ち上がる。そして、士郎に向かって歩き出し、徐々に剣を構え、最後には走り出した。
「し……士郎!」
「来るな!遠坂!」
近寄ろうとする凛を制止して、士郎は静かに呟く。
「トレース……オン……」
一本の剣を投影して、向かって来るセイバーに叫ぶ。
「止めろ!セイバーっ!」
「?!」
それは、とっさの懸けだった。
本来の倍の場数を踏んでいる士郎は、窮地に追い込まれた経験が豊富だった。
この土壇場でも取り乱す事も無く、冷静に判断を下す。
“セイバーの耐魔力は、令呪に対しても抵抗している……現に、始めは命令に逆らおうとした。今の突進も、セイバーの全力とは思えない。なら、更に障害を増やしてやれば……
まともに行っても、俺がセイバーに一撃を入れるのは不可能だ。だが、お互い密着すれば……
ここで、急所さえ外せれば……“
セイバーの剣が、士郎を貫く。
しかし、セイバーの必死の抵抗で、剣は急所を逸れ、士郎の左肩口に突き刺さった。
「ぐはあっ!」
「士郎っ!」
凛は、悲鳴に近い声を上げる。
しかし、士郎の口元は笑っていた。今、士郎とセイバーの体は、完全に密着していた。
「う……うううっ……」
突然、セイバーが苦しみ出す。士郎に刺さった剣が消え、彼女は士郎から離れる。
「うわあああああああああっ!」
再び、セイバーから魔力の放出が起こる。そのセイバーの胸には、士郎が投影した短剣が刺さっていた。それを見た、キャスターが驚愕する。
「そ……そんな馬鹿な?あ……あれは?!」
セイバーの胸に刺さった剣は、正に、先程キャスターが使った“ルールブレイカー”だった。
キャスターの左手の甲から、令呪が消失する。そして、士郎の左手の甲に、新たに三つの令呪が刻まれる。
「え?……ど……どうなってるの?これ?」
訳が分からず、困惑する凛。
「な……何故?貴方が私の宝具を……ま……まさか、ひと目見て、複製したと言うの?」
狼狽えるキャスター。
「ふ……」
そこまでやって、力尽きて士郎は倒れ掛かる。
「マスター!」
すかさず、セイバーがそれを抱きかかえる。
「ええい、ならば!」
キャスターは、再びゴーレムを動かし、士郎達を襲わせようとする。
が、その時、無数の光の矢が雨のように降り注ぐ。それは、士郎達を囲むゴーレムを一掃する。
「アーチャー!」
凛が見上げる上空に、アサシンを倒して駆け付けたアーチャーの姿が。
「遅くなった。あとは任せろ。」
言いながら、アーチャーはキャスターに向かっても矢を放つ。幾多もの光の矢がキャスターに襲い掛かる。
「ちいっ!」
キャスターは飛行して交わすが、矢はどこまでも追尾して来る。
セイバーは、悲痛な表情で傷付いた士郎に言う。
「も……申し訳ありません。マスター……私が迂闊なばかりに、貴方をこんな目に……」
「……そんなことは……いい……」
「え?」
懸命に士郎に詫びるセイバーに、士郎は冷静に命令を下す。
「今度こそ……キャスターを討て……ここで……確実に……」
「は……はいっ!」
セイバーは、即座に立ち上がり、キャスターに向かって駆け出して行く。
キャスターは巨大な魔法陣を張って、追尾して来るアーチャーの矢を何とか相殺した。
が、その直後、目の前にセイバーが現れた。
「な……」
「はああああああああっ!」
セイバーの剣が、キャスターを一刀両断する。
「ああああああああああっ!」
断末魔の叫びと共に、キャスターは消滅していった。
「やった!」
歓喜の声を上げる凛。
セイバーも凛も、これで全てが片付いたと油断していた。そして、ある人物の存在を、一時忘れていた。そう、キャスターのマスター、葛木の存在を。
キャスターを失っても、葛木の戦いは終わっていなかった。彼は、セイバーがキャスターに向かうと同時に、士郎に向かっていた。
「士郎?!」
凛が葛木に気付いた時には、もう士郎は葛木の射程圏内だった。キャスターの魔術による強化は無くなっても、その戦闘力は常人を遙かに凌駕している。ましてや、セイバーの剣に体を貫かれ、満足に動けない士郎に葛木の暗殺拳を防ぐ術は無い。
セイバーも、凛も、もう間に合わなかった。
だが、アーチャーは違った。彼は、葛木の動きに気付いていた。しかし、あえて動かなかった。それは、士郎を見殺しにするためではなく、ある事を確認するためだった。
今にも、葛木の拳が炸裂するかというところで、俯いたまま士郎は呟く。
「ゲイ……ボルク……」
葛木の拳が士郎を捕らえるより一瞬速く、赤い槍が葛木の心臓を貫いた。
「……」
断末魔の声を上げる事も無く、葛木はその場に崩れ落ちた。
「え……あれは?」
「ランサーの……槍?!」
驚いて、呆然と佇む凛とセイバー。
キャスターの宝具に続き、士郎はランサーの宝具まで投影して見せたのだ。それも、ただ投影しただけでは無い。まるで持ち主のように、宝具としての魔力まで再現して見せた。
「や……やはり……」
だが、アーチャーだけはその投影自体では無く、別な事に衝撃を受けていた……
士郎は傷付きましたが、奇襲は成功し、キャスター陣営は全滅しました。
正義を貫くために、決して負けられない、死ぬわけにはいかない士郎。
そのためには、非情に徹し冷徹に行動していきます。
一度に契約解除と再契約を何度もさせられて、セイバーは振り回されっ放しです。
おまけに自らの手でマスターを傷付けてしまい、一人落ち込んでしまいます。
ただ、士郎はそんな事何とも思っていません。もっと大きな、決定的な裏切りを一度受けて、サーヴァントはそういうものだと割り切ってしまっていますから……