原作では、アーチャーに攫われた凛。
その目的は、士郎との対決に割り込ませないためでした。
しかし、この話での凛誘拐の目的は……
士郎達は、凛救出のために言峰教会に乗り込みます。
そして、最終決戦が始まります。
言峰教会の礼拝堂裏手には、かなりの広さの中庭と居住区画がある。
その隅に、良く見ないと気付かない地下に降りる階段があり、地下にはもうひとつの礼拝堂があった。
その祭壇に椅子が置かれ、一人の少女が座っている……いや、座らされている。
両手を後ろに回され、椅子の背もたれと一緒に縛り付けられている。足も揃えて縛り上げられ、椅子の脚に繋がれていた。
「ん……んんっ……」
凛は、ようやく目を覚ます。
“こ……ここは?……教会?”
動こうとして、体の自由が利かない事に気付く。
“え?私、縛られてるの?……そうだ、確か綺礼に襲われて……”
そこで、自分の状況を把握する。捕まって、教会の地下に監禁されている事に。
“な……何とか逃げなくっちゃっ!まずは、これを解かなくちゃ……”
戒めを解こうとするが、直ぐにそれが無理な事に気付く。普通の縄で縛られているのなら、魔術師である凛は簡単に抜け出せるであろう。しかし、彼女を縛り上げているのは、魔術を封じ込める聖骸布であった。
“だ……駄目……これじゃ、逃げられない……”
そこに、一人の男が階段を降りて来る。
だが、それは彼女を攫った言峰綺礼では無かった。
「ふっふっふっ……いい格好じゃないか?遠坂。」
ギルガメッシュのマスター……いや、自分だけそう思い込んでいる間桐慎二であった。
「慎二……あんた……」
「最初から僕の誘いを断らなければ、こんな目に遭う事も無かったんだ。でも、後悔しても遅いぜ。もう、お前の処分は決定してるんだからな。」
「ああそう。ならもう気が済んだでしょ?悪い事は言わないから、とっとと逃げなさい!」
「はあ?何を言ってるんだ?逃げなきゃいけないのはお前の方だろ?逃がさないけどな!」
「本当に救いようが無いわね。利用されてるだけって、まだ判らないの?」
「うるさい!」
慎二は、凛の頬を殴る。
それでも凛は、気丈な表情のまま彼を睨み付けた。
「こ……こいつ……まだ僕を馬鹿にする気か?」
慎二は、更に凛を痛めつけようと拳を振り上げる。
「待ちたまえ。」
それを、背後からの声が制止する。
「儀式の前に、あまり器に傷を付けられては困るな。」
言峰綺礼が、凛の前に現れる。
「き……綺礼っ!」
凛は、厳しく綺礼を睨み付けた。
衛宮家の庭では、ようやく回復した士郎とアーチャー、そしてセイバーが今後の事を話し合っていた。
セイバーは、険しい表情ですまなそうに俯いている。
「申し訳ありません。私が、勝手に家を離れていたから凛を……」
そこで、セイバーを庇うようにアーチャーが言う。
「いや、例えセイバーが居ても結果は同じだったろう。あの英雄王一人で、俺達全員を足止めするつもりだっただろうからな。」
「し……しかし、私が勝手に持ち場を離れたのは事実です。マスターの危機に、私は……」
「済んだ事はいい。そんな話は、遠坂を助けた後だ。」
アーチャーとは対照的に、士郎はあくまで冷徹に会話を進める。
「は……はい……」
セイバーは、黙って指示に従うしか無かった。
アーチャーは、そんなセイバーを不憫に感じる。だが、今は凛の救出が最優先であるため、二人のやりとりには口を挟まなかった。
「だけど、何で言峰は遠坂を攫ったんだ?」
「おそらく、“聖杯の器”にするつもりだろう。」
士郎の疑問に、アーチャーが答える。
「何だって?」
「イリヤは、実はこの聖杯戦争の“聖杯の器”そのものだったのだ。代々、聖杯の器はアインツベルン家が用意して来た。奴らは、より自分達に有利に聖杯戦争を進めるために、器自身に人格を持たせ、マスターとしてこの聖杯戦争に送り込んだのだ。」
「なら、イリヤ本人を求めるんじゃないのか?何で遠坂なんだ?」
「ギルガメッシュは、イリヤの心臓を抉り取っていただろう。核となるのはその心臓だ。それを他の魔術師の体に移して、新たな“聖杯の器”にしようとしているのだろう。」
「何で、そんな回りくどい事をするんだ?」
「それは判らん。だが、急がなければ凛が危険なのは変わらない。」
「分かった。場所は言峰教会だろう。直ぐに乗り込もう。」
しかし、そんな士郎にアーチャーは問い掛ける。
「それは、正義の味方としての考えか?」
「ん?どういう事だ?」
「同盟関係にあるとはいえ、お前にとって凛は本来倒すべき敵マスターの一人だ。聖杯戦争に勝つのが目的ならば、命を懸けてまで救う価値は無いのではないか?」
「アーチャー!凛のサーヴァントのあなたが、何故そのような事を?」
セイバーが感情的になって口を挟むが、士郎はいたって冷静に答える。
「いや、借りを返しに行くだけだ。」
そう言って、士郎はポケットから宝石を取り出す。それは、アーチャーがずっと持っていた物と同じ、ランサーに殺され掛けた士郎を救った、凛の父親の形見であった。
「気付いていたのか?」
「あの場に居たのは、ランサー以外はお前と遠坂だけ。お前が俺を助ける筈は無いし、そんな魔術も使えないだろ?じゃあ、答えはひとつしかない……」
すると、アーチャーは僅かに笑みを浮かべて言う。
「判った……正式に頼もう。凛の救出に、力を貸してくれ。」
「ああ。」
深夜、士郎達は言峰教会の前まで来る。そこで、アーチャーが言う。
「時間が掛かれば掛かるほど、凛の身が危険になる。敵を、一人ずつ倒している時間は無い。分担を決めて、各個に撃破する。」
士郎もセイバーも、この意見に同意する。
「セイバー、君はランサーを頼む。」
「了解しました。」
「衛宮士郎、お前は真っ直ぐに凛救出に向かってくれ。ギルガメッシュの相手は、私がする。」
「ちょっと待て。お前一人でか?」
「そうだ。今、各個撃破と言っただろう?」
「無茶です、アーチャー!いくら何でも、一人で彼の相手をするなど……」
「聞け。別に、ここで絶対に倒さなければならない訳では無い。要は、凛を救出できればいいのだ。あの男相手に、一番時間稼ぎができるのは私だ。」
「それはそうだが……」
「それに、凛のところに居るのは間違い無く言峰綺礼だろう。奴は、お前が倒さなければならない相手では無いのか?」
「……確かに……判った。遠坂は、必ず助ける。」
「ああ、任せたぞ。」
教会の門を入ると、数メートル先にランサーが現れた。
「よう、俺の相手は誰だ?」
士郎達の考えは、相手もお見通しのようだ。
「貴方の相手は私だ。ランサー。」
セイバーが一歩前に出る。
「いいねえ、そっちのいけ好かない野郎だったらどうしようかと思ってたところだ。」
「ふっ、嫌われたものだな。」
ランサーの軽口に、アーチャーはいつもの調子で返す。
「じゃあ行くぜ!セイバー!」
「望むところだ!」
言うや否や、ランサーは凄まじい速さでセイバーを突いて来る。セイバーは即座に反応してこれを弾く。こうして、二人の最終決戦の幕は開く。
士郎とアーチャーは、その横を抜けて礼拝堂を目指す。
礼拝堂の扉を開けて中に入ると、祭壇の前にギルガメッシュが立っていた。
「何だ、セイバーではないのか?これは興が削がれたな。」
そこで、アーチャーが小声で士郎に言う。
「凛は地下の礼拝堂だ。俺が奴を引きつけている間に行け。」
「判った。」
「トレース・オン!」
アーチャーは、いきなり複数の剣を投影してギルガメッシュに放つ。
「ふん、そんな偽物なぞ……」
ギルガメッシュの背後に無数の時空の歪が発生し、そこから同数の武器が放たれる。
それらは、アーチャーの放った武器を全て打ち落としてしまう。が、その隙に士郎は礼拝堂を駆け抜け、中庭へと向かって行った。
士郎が立ち去った後、ギルガメッシュは言う。
「ふふ……無事に雑種を小娘の所に送れたかな?」
「やはり……判っていて見逃したか?」
「当然だ。言峰に頼まれていてな。何やら、あの雑種に話があるようだ。」
「そうか……だが、残念だったな。相手がセイバーでなくて。」
「ふん、どの道あの狗ではセイバーには勝てん。愉しみは、後にとっておけばよい。それまで、暇つぶしに貴様に付き合ってやろう。」
「ふっ……ならば、存分に付き合ってもらうぞ!」
アーチャーの体から、白いオーラが立ち昇り始める。
「I am the bone of my sword.」
「ふん……」
ギルガメッシュは、相変わらず鼻で笑っている。
「Unkown to Death. Nor known to Life.」
魔力の渦が、アーチャーを包み込む。
そしてアーチャーは左手を前に翳し、最後の呪文を唱える。
「Unlimited Blade Works.」
突如、周りの景色が一変する。見渡す限りの荒野、そこには無限の剣が、まるで墓標のように刺さっている。
「ほう……固有結界か?よくもまあこれだけ集めたものだ。だが、所詮は贋作のコピー。本物の前では屑鉄にすぎん。」
「そうかな?……では、試してみるか?」
「図に乗るなよ、フェイカー。」
中庭を抜け、士郎は教会の地下に辿り着く。
「士郎!」
士郎の姿を見て、祭壇の椅子に縛られている凛が叫ぶ。
その凛の前には、一本の剣を持った慎二が立っている。
「良く来たな、衛宮。」
階段を降り、地下の礼拝堂に入る士郎。それを見て、慎二が語り掛ける。
「さあ、それじゃあ始めようじゃないか。マスター同士の最後の……」
「言峰は何処だ?」
慎二の言葉を遮り、士郎は冷たく言い放った。
「はあ?」
「お前に用は無い。言峰は何処だ、慎二?」
この言葉に、慎二は激怒する。
「いい加減にしろよ衛宮!どこまで僕を無視するんだ?ギルガメッシュのマスターは僕なんだぞ!」
だが、士郎は冷徹に答える。
「失せろ。慎二。」
「な?!」
「覚悟の無い奴が、マスターを語るな。今直ぐ消えるのなら、見逃してやる。」
「え……衛宮……くん?」
凛は、士郎の様子に底知れぬ恐怖を感じてしまう。
今迄、何度か豹変した士郎を見て来たが、今の士郎はそのどれとも違っていた。
そう、まるで葛木に感じたような、殺人鬼の雰囲気を漂わせていた。
「なんだと……」
しかし、慎二にはそんな雰囲気を感じ取れる筈もない。完全にブチ切れた慎二は、手に持った剣を振り上げて、士郎に突進して行く。
「僕に、人殺しになる覚悟が無いと思ってるのか!だったら、死んで後悔しろよ衛宮!」
持っていた剣を、士郎に向けて思い切り振り降ろす。だが、そんな素人の大振りが当たる筈も無く、士郎は難無くそれを躱す。
「ふん!うまく避けたな?だけど、避けてるだけじゃ勝てないぜ!衛宮!」
「覚悟があるんだな?慎二。」
冷静さを崩さず、士郎は言う。
「あたりまえだっ!今更後悔しても遅いぜ!衛宮!」
「そうか……」
士郎は、静かに呟く。
「トレース・オン。」
士郎の両手に、干渉・莫耶が投影される。
「へん、そんな偽物を出しても無駄だぜ!僕の剣は、ギルガメッシュから貰った本物さ!お前の贋作になんて負ける訳が無いだろう!」
慎二は、再び士郎に斬り掛かる。
「やめなさいっ!慎二っ!」
凛が、大声で叫ぶ。
それは、士郎が殺される事を心配した叫びでは無かった。
そもそも、全くの剣の素人の慎二が士郎に適う筈が無い。
ただ、今の士郎は普通では無い。
このままでは、士郎は慎二を殺してしまう。
それだけは絶対にさせてはいけないという、悲痛の叫びだった。
士郎は左手の干渉で、慎二の持っている剣を弾き飛ばす。
「え?!」
一振りで、慎二の体は全くの無防備になる。
「俺が言ったのは、自分が死ぬ覚悟だ……慎二。」
凛の心配も空しく、士郎は非情に斬撃を振るう。
二振り目、士郎の右手の莫耶が、慎二の体を斬り裂く……
「やめてええええええええええっ!!」
凛は、枯れんばかりの大声で叫んでいた。
「?!」
その叫びが、士郎の自我を一瞬呼び戻す。寸でのところで、士郎は手を緩めた。
士郎の剣は、慎二の体を軽く掠った程度だった。だが、士郎の放った凄まじい覇気は、慎二の体を大きく跳ね飛ばした。
「ぎゃはああっ!」
背中から、床に叩きつけられる慎二。直ぐに、上半身だけ起こすが、士郎の顔を見た途端……
「ひ……ひいっ……ひいいいいいいいいいいいいっ!」
恐怖に引き攣った顔で、慌てて逃げ出して行く。何度もみっともなく転びながら、必死で階段を登り、地下室を出て行った。
「遠坂……」
士郎は、凛に顔を向ける。それは、いつもの士郎の表情だった。
「し……士郎……」
凛は、ほっと安堵の息を漏らす。しかし……
「ふふふ……衛宮士郎、面白いなお前は……」
言峰綺礼が、ゆっくりと地下室の階段を降りて来る。
「こ……言峰っ!」
士郎は、一転して鬼のような形相に変わってしまう。
「最初は、魔力も半人前で血の匂いもしない、つまらぬ理想に囚われた甘いだけの小僧だと思っていた。」
礼拝堂に入り、士郎と向き合う綺礼。
「それが、今ではどうだ?ただ魔力が増しただけでは無い。お前から溢れ出る血の匂い……いや、死の匂いと言った方が良いだろう。先程の間桐慎二への対応は、宛ら代行者に迫るものだった。」
「ふん、お前が相手なら躊躇しない……確実に殺す。」
士郎は、殺意に満ちた目で綺礼を睨み付ける。
「えみ……や……くん……だ……だめ……」
凛は、あまりの士郎の変わりように、不安と恐怖で押し潰されそうになってしまう。
それに対し綺礼は、全く怯むことなく淡々と語る。
「そういえば、お前は初めて私に会った時も、その目で私を睨んでいた。何故だ?切嗣から、何かを聞いていたのか?」
「親父は関係無い。お前は、俺と同じく十年前の災害で孤児になった子供達の……お前にあの英雄王への貢物にされた者全ての仇だ!俺は、あの地獄の光景を絶対に忘れない!」
「何だと?!」
その言葉に、綺礼は驚きを見せる。
「どうして、お前がそれを知っている?あの死骸は、既に処分したからここにはもう無い。お前がここに来たのは、セイバーのマスターとなったあの夜だけだ。あの時には、この地下室には降りていない。お前が、あの孤児達を見られる訳が無い!」
士郎は、もう隠す必要も無いと、真実を語る。
「いや、俺はこの地下室でそれを一度見た。聖杯戦争が、終わりに近づいた時にな。そこで俺は、お前の策略に嵌って一度殺された。」
「な……なんで……すって……」
驚く凛。
「その時、生死の境を彷徨いながら俺は願った。この聖杯戦争のやり直しを。その俺の望みを、何故か聖杯は叶えた……だから、お前は俺自身の仇でもあるんだよ!言峰っ!」
「そ……そんな……」
凛には、信じられなかった。既に士郎が、聖杯によって望みを叶えていた事がでは無い。今はともかく、出逢った頃は争いを好まない、殺し合いを否定していた士郎が、自ら望んでこの戦争を繰り返していた事が。
しかし、綺礼は……
「ふ……ふふふふ……ふはははははは!はあっはっはっはっはっ!」
突然、気が違ったかのように笑い出した。
「何が可笑しい?!」
「そうか……お前は、アレを使ったのか?だからか……それで判った。」
「判った?……何がだ!」
「ふふふふ……衛宮士郎。お前が、既に呪われているという事がだ。」
建物の外では、セイバーとランサーの戦いが続いていた。
だが、戦局はセイバーが完全に圧されていた。
一度戦っている事もあって、ランサーは既にセイバーの見えない剣の間合いを掴んでいた。
しかし、理由はそれだけではなかった。
「どうしたセイバー?あの夜に比べて、全く覇気が感じられねえぞ!」
「くっ……」
セイバーは、全てにおいて精彩を欠いていた。その原因は、心の迷いにあった。
「でりゃあっ!」
「うぐっ!」
ランサーの猛攻に、防戦一方のセイバー。本来、リーチが長い槍は近接戦闘には不利だ。間合いの短い剣と近接戦闘をすれば、隙も生じ易い。だが、ランサーの速さはその不利を覆す。超高速で繰り出される突きは、付け入る隙を与えない。セイバーは懐に飛び込む事ができず、その猛攻を凌ぐのがやっとという状態だった。
「何か、心ここに有らずって感じだな?」
ランサーは、武器を交える事でセイバーの心の迷いを感じ取った。
「何だ?遊び保けて、坊主の救援に遅れた事を気にしてんのか?」
「うっ……」
それは確かにあるが、迷いの根源はそんな事では無い。
“私は、騎士の誓いを破った……もう、私に騎士の資格など無い……そんな私が、何を糧にこの剣を振るうのか?”
それは、今現在のセイバーが犯した罪ではない。
だが、既に失われた時間の中の出来事とはいえ、それを行ったのは全く同一人物の自分に他ならない。
ならば、同じ状況では今の自分も同じ行動をとったに違いない。
何より、彼女のマスターにとってそれは、紛うことなき現実なのだ。
更に動きが鈍ったところで、ランサーの槍がセイバーの右肩を貫いた。
「ううっ!」
その場に跪いて、剣を落としてしまうセイバー。
「けっ!何でえ、その程度で戦意喪失かあ?」
槍を肩に担ぎ、呆れてしまうランサー。
「どうしたってんだよ?セイバー。今日のお前の剣には、全く誇りが感じられねえ。」
セイバーは何も言わないが、心の中で答えていた。
“それはそうだ……今の私に、騎士の誇りなどどこにも無い……”
「たかが一回ヘマしただけで、そんなに軟弱だったのかよ?てめえ。」
“例え一回でも、決して犯してはいけない過ちがある……私は、それを犯したのだ……”
「まったく……これならアーチャーとやりゃあ良かったぜ……見損なったぜセイバー!」
「?!」
ランサーのこの言葉は、何故かセイバーの心に深く突き刺さった。
「う……うう……あああ……ああああああああああっ!!」
セイバーは悲鳴を上げ、両手で頭を抱えてその場に蹲ってしまう。
ランサーは、完全に呆れ返って言う。
「はあ……だめだこりゃ。とうとう壊れちまったか?」
そう言って、セイバーに背を向けて教会の中に向かって歩き出す。
「仕方ねえ、他の奴の手助けでもしに行くか……と言っても、あの英雄王様はそんな事すりゃ、逆にこっちが殺られちまうか?ま、する気もねえけどよ。」
セイバーは、全く反応しない。
「なら、言峰しかいねえか……そういやああの坊主、俺は二度殺し損なってたんだったな。三度目の正直で、今度こそきっちり殺しとくか?」
この言葉に、セイバーは反応する。
“マスターを殺す?……ランサーが?
私は、それを見過ごすのか?マスターを見殺しにするのか?
見殺しにするということは、私が殺すのも同じではないのか?
私は、またマスターを殺すのか?二度も、マスターを……“
この言葉が、セイバーの迷いを吹き払った。
「うわあああああああああっ!」
突然剣を持って立ち上がったセイバーは、疾風の如くランサーに斬り掛かった。
「何っ?!」
慌てて向き直り、槍でその剣を弾くランサー。何とか弾き返すが、勢いで少し跳ね飛ばされる。
「貴方に、マスターを殺させはしない!ランサー!」
「ふん、ようやくやる気になったか?そうでなくちゃ面白くねえ!」
仕切り直しで、セイバー対ランサーの第二ラウンドが始まる。
遂に、士郎が壊れていきます。
凛は、その様を目の前で見せつけられる事になります。
その一方で、セイバーも壊れかけます。後押しする役は、やっぱりランサー。
でも、ここでのランサーは、壊れかけたセイバーを現実に引き戻しました。
そのおかげで、
“ランサーが死んだ!”、“この人でなし!”
も無くなります。(最終的には死ぬんですが……)
士郎が慎二に言った、
“覚悟の無い奴が、マスターを語るな。”
“覚悟があるんだな?”
“俺が言ったのは、自分が死ぬ覚悟だ……”
を一言でまとめて言えば、
“撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ!”
になります……なんちゃって。