僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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王族暗殺集団

「いないわね…。」

 優子、翔子、雄二、美波、秀吉、ムッツリーニの六人は王都の城下町にある商店街を歩いていた…が、明久とヒメージ三世の姿はどこにもない。

「アキのヤツ、見つけたらたっぷりと可愛がらないとね」

 美波からは黒いオーラに指の関節を慣らす音。そんな美波を見る男子三人組(秀吉、雄二、ムッツリーニ)は美波から危険な雰囲気を感じるため距離をとる。

「優子…。」

「分かってるわ。霧島さん。ここはもう探しても無理そうね…。」

 優子は「ハァ…」と大きく溜め息をつく。

(何で、こう毎日毎日、陛下の都合に合わせなきゃいけないのかしら…。)

 優子は『明久監視任務』に就いてから、よくカヲール二世に買い物を頼まれたり、暇だから物まねをしてくれと頼まれたり、終いには娘を探してくれと頼まれる。

 その前まではもっと国家騎士らしい敵の暗殺部隊の殲滅など大きな任務を任されたりしてたのだが、今はどちらかというと召使のような扱いをされている。そう思うと異様に腹が立つ。

「なあ…」

「何よ!?」

 雄二が優子に喋りかける。しかし、優子は機嫌が悪いためつい怒鳴ってしまう。

「オレが思うにはだが、人の多いところにはアイツらいないんじゃないか…?」

 そんな雄二の発言に優子は目を細める。

「何でそう思うの?」

「イヤ、流石にあの天然な姫君でもこんな場所に来たらきっと目立つだろ?だから、もうちょい人がいないところにいるんじゃないかと思うんだが…」

 雄二の発言に優子は「あ、そっか」と頷く。

 普段の優子ならこんな単純な考えにすぐに気づくハズなのだが、何故自分が親子喧嘩に巻き込まれなければいけないのか?ということに腹が立って、明らかに冷静さを失っていた。

 しかし、冷静になって考えればそうだ。王族の者がこんな人がたくさんいる商店街を歩けば間違いなく目立つ。

 優子はその前までは人がいるところに姫君が紛れ込んでると思っていたが、それは大きな勘違いだ。仮に紛れこんだとしても、人々に注目を集める。その注目の視線に、あの精神面が弱そうな姫君が耐えられるはずもない。そう考えると、人がいない場所にいると考えるのが妥当だ。

 それにしても、訓練所を見る限り頭の回らないバカばっかりと思っていた優子だが、雄二みたく、少しは頭の回る人物がいるのだと、納得する。

「じゃあ、今度は人気(ひとけ)がないとこ探すわよ!」

 と優子が指揮を執る。

 

 

 ――――――――――――――――

 

「……」

 ヒメージ三世は明久に何か自分を元気づけてくれ、と言わんばかりの表情をする。

「……」

 しかし、明久には彼女を元気づけるほど大層な言葉が思いつかない。

 家族のいない明久には親子喧嘩の理由なんて分からない。彼女が何に思い悩まされているのかも。会話は止まり、暫くこの沈黙の時間が続く。明久は少しでも和ませようと、

「そ、そうだ…。僕、何か飲み物買ってくるからそこで待ってて。」

「は…はい」

 そう言い、明久はその場を去ってしまう。ヒメージ三世は「ハア…」とため息をつき、ぼんやり空を眺める。空は曇り空で暗い雰囲気を出していた。ヒメージ三世の胸中もそれに近いモノだった。

 誰もいない公園で一人ポツンと座るヒメージ三世の姿はどこか寂しげだった。

 そんなとき…。

「やっと見つけましたよ、姫君。」

 現れたのはカヲール二世の側近、竹原だった。

「王女も心配されています。一緒に帰りましょう。」

 竹原はニコと笑い、ヒメージ三世に手を差しだす。

「……?」

 何かがおかしかった。竹原は普段無表情でこんな風には笑わない。その上、眼鏡が違う。竹原が普段かけてるメガネはいかにも老人がかけてそうな地味なメガネだが、今、目の前にいる竹原がかけてるメガネは若い世代がかけてそうなメガネである。それに気のせいか、笑顔とは裏腹にヒメージ三世には竹原から殺気らしき闘気を感じる。

「あ、アナタは誰ですか…?」

 すると、竹原の笑みは一層強くなり、

「忘れてしまわれたのですか?私は陛下の側近の竹原ですよ?」

 すると、竹原は懐からナイフを出す。

「死ねぇえええええッ!」

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 その頃、王宮では…。

「…瑞希のヤツ帰って来ないね…」

 カヲール二世は暢気そうにバナナを食べている。カヲール二世の周りはバナナの皮で汚い。

「ゴリ…じゃない、陛下。」

「なんだい、お前遅かったな…。てか、お前、私がバナナ食べてるからってゴリラって言おうとしただろ?」

 目の前にいたのは竹原だった。

「敵の暗殺集団は殲滅したのか?」

「ええ…まあ…」

 竹原はカヲール二世の質問に肯定する。竹原はフミヅキ内にいる『王族暗殺集団』の殲滅に当たっていた。

「一人だけ逃がしてしまいましたが…」

 すると、バナナを食べていたカヲール二世の手は止まり、

「ああっ!?何やってるんだ!?お前!」

 カヲール二世は思いっきり竹原に怒鳴る。すると竹原は、

「うっせ、ハゲ」

 竹原は素っ気なく言い返し、横を向く。

「バカ野郎!ハゲでもいい!外には一般人、それに瑞希もいるんだぞ!?お前は、もうダメだ、ホントにダメだわ!」

 ダメだしばかりするカヲール二世にキレた竹原は、

「バナナ食ってるヤツに言われたくねーぞ、コラ」

 と言い返す。確かに、バナナ食って何もしてないヤツにダメだしされたら誰でも怒る…が、今はそんな暢気なこともいってられない。『王族暗殺集団』は竹原の手でほぼ殲滅されたものの、一人はこの王都の中に紛れ込んでいる。それはつまり、今、王宮にいない家出中のヒメージ三世は狙われる可能性は十分にある。

「それと厄介なのは敵のその最後の一人が召喚した武器は『鏡の姿』(ミラー・シェイプ)。相手の姿をそっくりそのままの姿に変身する武器です。」

「つまり、敵はお前そっくりの姿をしているわけだ…!」

 王宮内は焦りに包まれる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「死ねええええええええッ!」

 竹原の姿をした男はヒメージ三世にナイフを向ける。

「きゃあああああああああっ!」

 ナイフの刃がヒメージ三世の肌に触れようとした瞬間だった。

 

 ボゴッ!

 

 鈍器で殴りつけるような音がする。ヒメージ三世はその音の正体を確認するため、ゆっくりと目を開ける。

「あ、明久君ッ!」

 そこには、木刀を持った少年が立っていた。

「ゴメン、飲み物買おうとして自販機行ったんだけど、故障してた。」

 明久はこの場でどーでもいい説明を吐く。

「で?この人は誰?何か痴漢に見えたから、つい殴っちゃった。」

 たしかに遠くから見ればそんな風にも見えるのかもしれないが、ヒメージ三世はこの少年はきっとバカなんだろう…と嘆息する。

 すると、竹原の姿をした男はゆっくり立ち上がる。

 瞬間、ビギッ!と音を立て明久に殴りつけられた部分がひび割れする。そのひび割れは全身に広がりパリーンと音を立て塵になる。そこに立っていたのは竹原の姿ではない、別の姿をした男が立っていた。

 長身でサングラスをかけた男だ。

「オレの『鏡の姿』(ミラー・シェイプ)が解けたか…。」

 男はそう言いながらカチカチとライターを鳴らしタバコを吸い始める…が、

「げほっ…!げーーーーほっほ…!」

 突然、咳を出し始める。殺気だった雰囲気が一気になくなる。ふざけてるようにしか見えず、どうも深刻(シリアス)になれない。

「…何やってるの?あの人…」

「…さ、さあ?」

 明久とヒメージ三世は「何やってんだ、コイツ」と、バカにするような視線を送る。すると、男は、

「いや、タバコ吸ってるとこう、シリアスな感じになると…げーーーほっほ!」

 どうやらタバコを吸えばなんでもシリアスになると思ったようだが今はむしろその逆の状態である。

「明久君…」

 急にヒメージ三世が青ざめた顔で明久を呼ぶ。

「な、何?」

「あの服、見てください…。」

 見ると、男が来ている黒いパーカーには何かマーク、模様がついていた。王の冠、その上にバツ印がついていた。

 これは、つまりこういうことを表す。

『王族の者を殺す』

「おそらく、『王族暗殺集団』の一人です」

「王族暗殺集団…。」

 明久も王を暗殺する集団くらいには名前を聞いていた。

「でも、彼はその中でも最も危険に思われます。」

「な、なんで?」

「彼の頬を見てください」

 見てみると、頬には『頭』という文字が刻まれていた。

「頭…?」

「アレは『頭』(かしら)…。つまりは、『王族暗殺集団』の頂点、つまりリーダーを意味します。」

 すると、一瞬沈黙の空気が訪れる…。そして少し遅れて、

「ええええええええええッ!?嘘オオオオォ!?」

 明久は泣き声に近い叫び声を上げる。


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