事件
時間はもう真夜中である。昼間の王都は賑わっているが夜には人がいないせいなのだろうが、静けさに包まれている。
そんな中、一人の少女が王都の街を歩いていた。
彼女の名前は小山友香(こやま・ゆうか)。フミヅキの第七国家騎士である。
彼女はカヲール二世の命令で夜、こうして見回りをしているのである。
その理由は、先日、第二国家騎士の翔子、第三国家騎士の優子に妙な報告があったためだ。
二人の報告には『黒尽くめの男』と名を上げられている。その男は突然、二人の前に現れ、二人を襲ったと言う。さらに優子の報告にはその男はゼウスの盾『アイギス』を召喚したらしい。
本来、神話に出てくる、もしくは伝説の武器とは召喚するにはそれだけの実力が必要で国家騎士レベルにでもならねば、召喚できない武器である。しかし、男は国家騎士ではない。そんな者がどうしてそんな武器を召喚出来たのか…?『試験召喚システム』を作ったカヲール二世ですら「分からない」と言う。
しかし、それ以前にその黒尽くめの男は仮面で顔を隠してるためか正体が分からない。フミヅキに住まう者なのか?それとも敵軍の一員なのかも分からない。彼は一体何者なのだろうか?
そんなことを考えながら友香は暗い王都の道を歩いてく。そんなとき、ゴオオオオと一際強い風が吹く。
友香は風避けるように目をつむる。そしてその眼をそっと開けてみる。
「―――――――!」
そこには優子と翔子の言う黒尽くめの男が立っていた。
その姿を見て友香はゴクリと息を飲む。彼の着る黒い服には禍々しさが感じられた。
「フミヅキの第七国家騎士の小山友香だな?」
男は低い不気味な声で友香に問い詰める。
「え、ええ。そうよ。」
友香は国家騎士という誇りを忘れずどうにか平静を装うが、心には焦りがあった。
この男が放つ殺気だけで周りの空気はひどく淀んでいる感じがした。
すると、男は西洋剣を召喚する。男は凄まじい速さで友香に斬りかかる。が…。
「…?」
斬った手ごたえはなかった。
「甘いわね…。」
彼女は彼の剣を受け止めたのだ。…『白刃取り』…。
「…ほう…。オレの剣を受け止めるとは流石は国家騎士というところか」
男は友香を見下すように言う。
「試験召喚、サモン」
友香は剣を召喚する。
男はその剣を見てピクと反応する。その剣の名前は『デュランダル』。
フランスのシャルルマーニュ伝説に出てくる剣である。シャルルマーニュの十二勇士の一人、ロランの持つ聖剣である。
その姿は鎌とも剣とも言え、その切れ味はどんな防具でもひとたまりもないと言われる。さらには決して折れない『不滅の聖剣』とも言われる。
「ほう…。それが『不滅の聖剣』(デュランダル)か…。」
男は興味深そうに言う。まるでその剣に興味があるかのように…。
友香はその男に斬りかかる。それに気づいた男は自分の持つ西洋剣で対抗する。
ガギィイイン!
激しい金属音。二人の剣は激しくぶつかる。しかし…。
男の剣はすぐに塵となった。おそらくデュランダルの剣圧に耐えきれなかったのだろう。
「流石は聖剣といったとこか…」
自分の武器が破壊されたにも関わらず、男の余裕そうな態度はそのままだ。一体何処にそんな余裕があるのかと、友香は目を細めた。
「はああああああッ!」
それでも、武器を破壊された男には隙が生じていた。友香はそこを迷わず刃を向けてく。
ガギィイイイイッ!
友香の聖剣が何かに弾かれた。鋭い切れ味を持つと言われるその剣が今まで弾かれたことは一度もなかった。
「え…?」
その予想外さに友香も思わず声を上げる。そこには優子の報告にもあった、ゼウスの盾『アイギス』があった。
「どうしてアナタがその盾を…?」
疑問を感じた友香は男に質問する。それとともにアイギスは消えてしまう。
「答える気はない。どうせお前は死ぬ。」
「………ッ!」
突然、冷気が友香を襲う。シャルルマーニュ十二勇士、大僧正チェルマンの名剣『アルマッス』。
「ローランの歌」では『氷の刃アルマッス』とも言われている。
まだ季節は冬でもないのに、刃から発せられる冷気はそれ以上だった。
「はあああああああああっ!」
友香は黒尽くめの男に再び斬りかかる。そして、素早く剣を振るうが、そこには男はいなかった。
(…どこに…?)
上、下、右、左と素早く敵の位置を確認するが敵の姿はない。そのときだった。
グサリ…。
体を貫く嫌な音。見ると、友香の腹部から剣が貫いていた。そこには冷たい冷気も感じる。
「…じゃあな。七番目の国家騎士…。」
アルマッスは友香を貫いたまま消える。そして、友香はゆっくり倒れる。
「…これで一人目…。」
そう言い、彼はその場をすぐに去る。
――――――――――――――――――
翌朝―――――。
この日は土曜日。騎士にとっても、土曜、日曜は休日である。そして、優子も普段は六時くらいに起きるのだが、休養日の日は八時に起きる。
「ふァああああ…」
小さく欠伸をし、スッと横を見る。そこには「スピースピー」と鼻息をたてて寝てる明久がいた。
そう、優子は『明久監視任務』により四六時中明久を見張ってなきゃいけない。そのためこの任務期間中は明久の家に住まわせてもらってる。
そんな任務も既に一か月が過ぎようとしている。最初は嫌々任務を承諾した優子だが、今、密かに新しい趣味が出来た。
それは明久の寝顔を見ること。
なぜだか明久は精神年齢そのものも低く見えるのだが、寝顔も幼児のように幼く感じられるのであった。
この一か月、優子は明久より早く起き、明久が起きるまでの間、その寝顔を見つめるのが趣味となっている。優子にとってその寝顔は小動物を見るみたく癒されるらしい。
すると、パチと明久が目を開ける。
「うわっ!」
優子は驚いて声を上げる。
「アレ?木下さん、どしたの?」
「な、なんでもない!」
優子はブンブンと首を振る。
「…?」
明久はキョトンとした表情で優子を見つめていた。その時―――。
ブーブーと優子の携帯が鳴る。
「こんな休みの日に何かしら?」
と優子は少し不機嫌そうに、携帯をとる。
「ハイ、もしもし。木下ですが…。」
「優子、今から病院に来て…。」
声の主は翔子だった。
「どうしたの代表。こんな朝早くから…。」
すると、翔子は
「小山友香が今朝、何者かに襲撃された。」
「しゅ、襲撃!?」
優子は声を上げる。無理もない。小山友香は優子と同じ国家騎士。国家騎士の中では一番下の階級だが、それでも国を代表する騎士の一員だ。傷をつけられ倒れるなんて想像もでつかない。
「何とか息はしてたから、急いで病院に運んだんだけど…。今、その手術が行われるとこ…。」
「分かった…わ。」
優子は青ざめた表情になる。
一応、この話から『国家騎士消失編』という章タイトルに管理しています。