僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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不安と恐怖

「ご、ごめんなさい。」

「い、イヤ。まぁ、大丈夫。」

 明久にとび蹴りを喰らわせた優子は素直に明久に謝る。

「でも、どうしたの?木下さん。普段なら木下さんが僕を起こしてくれるのに…。」

「吉井君、まるで私に起こしてもらうのが当たり前の口ぶりだけど…もう少し自分で起きれるように努力しなさい」

 全くの正論である。

「…はい、すみません」

 あまりの最もな言葉に明久はただ謝るしかない。

 しかし、どうも優子の様子がおかしかった。普段の優子ならもう少しガミガミと説教を言ってくるのだが…。どうも元気がないみたいだ。

「あの~、木下さん?」

 どうも話しかけづらいので少し間接的に呼んでみる。

「ねぇ、吉井君はさ…。何かに恐怖したり不安になったりしたことってある?」

「…へ?」

 いきなりの予想外の質問に明久は声を上げる。

「イヤ、まあそれはあるけど…」

「どんなこと…?」

「イヤ~、まあ鉄人の補習とか?」

 すると、優子は弱々しく笑う。

「…平和ね」

 その表情は何処か悲しそうにも見えた。

「…さっきからおかしいよ、木下さん。体の具合でも悪いんじゃ…?」

 普段とは違う態度をとる優子が心配になる明久。しかし、優子は首を振り、

「そうじゃないの…」

 と答える。

「ただ、不安で怖くてしょうがないの…。」

「…え?」

 予想外の言葉だった。普段、あんな強気で負けず嫌いの優子が不安と恐怖を抱いていると言うのだ。驚かずにはいられない。

「今、国家騎士が襲撃される事件…知ってるよね?」

「うん、まあ。」

 当然、明久もこの事件を知ってる。何と言ったって、国を代表する騎士がやられるというのだ。

「今朝、朝早くに電話が掛かってきたの。そしたら、警務部隊は壊滅的状態で、国家騎士も二人ほどやられたの…」

「…えっ!!?二人も!?」

 国家騎士が二人やられるというのは尋常ではない。

「私…怖いの…自分が…次に狙われるのが…自分なんじゃないかって…」

 優子の手は確かに震えていた。表情にも恐怖、そして不安が表れていた。そんな優子の手を明久はギュッと握る。

「…え…」

 いきなり手を握られ、驚く優子。しかし、その温もりに優しく温かく包まれた感触だった。

「僕はバカだし、頭も良くないから木下さんが今、どれだけ大きな不安を抱えているかは分からない。多分、僕の予想を超えるモノなんだと思う。でもね、木下さん。そういうときは一人で抱えこんじゃダメだ。」

「…吉井君…」

 先ほど、優子は明久に「不安はないのか?」と聞いてきた。当然、それは明久にもある。

 だが、その不安、恐怖を乗り越えられたのは雄二、秀吉、ムッツリーニ、美波という友人がいたかだ。自分一人だけの力で乗り越えたのではない。自分を支えてくれた人がいたから乗り越えられたのだ。

「僕はずっと木下さんの傍にいる…。だから…。」

「ありがとう、吉井君…。」

 優子の目からは一滴の涙が零れ落ちる。

 

 明久の手の温もりが優しく温かく優子の手を包み込む。

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 その頃、病院では―――――。

 

「あの、清水美春さんの病室って何号室ですかっ!?」

 美波は病院まで急いで来たのか息が荒い。

「え…と、すみません。清水さんは…って、ちょっとアナタ!」

 美波は清水の部屋の場所を聞かず、そのまま走り出す。病院のカウンターが清水美春は重傷の為、面会は出来ないと言うのを予想していたのだろう。しかし、それに構わず、美波は走り出す。

 病院中を走り、ようやく「清水美春様」と書かれた札を見つける。

 コンコンとノックしゆっくり病室へ入る。

「美春…。」

「お姉様…。」

 重傷と聞いていた美波はホッと胸をなでおろす。少し安心したのだ。重傷と聞いていた美波はてっきり包帯グルグル巻きになっていると思ったのだ。

「良かったわ…。思ったよりも元気そうで…。」

 すると、清水は弱々しく笑い

「迷惑かけてすみません。」

「いいの、いいの。あ、それよりもコレ、お見舞いのプレゼント」

 美波から渡されたのはヘアピンだった。コレは以前から清水が欲しいと思っていたヘアピンだ。

「コレ、つけてみて。」

 美波は笑顔で言う。怪我をした清水に少しでも元気を出してもらおうと思ってのことだったのだろう。しかし、清水は…。

「お姉様…。つけてくれませんか?」

「へ?いいけど、どうして…」

 すると、美波の視界から見えなかったが清水の左腕なかったのだ。

「み、美春…。腕、どうしたの?」

「敵に…斬られました…。」

「斬られた…って、そんな…!」

 清水は下を向いたまま顔を上げない。

「ごめんなさい、お姉様の気持ちは…嬉しいです。でも、もう自分ではつけられないんです。そのヘアピンは…。」

 清水から大粒の涙が零れる。しかし、それでも清水は涙を必死にこらえようとするようにも見えた。

「う…そ…」

 あまりの衝撃的な事実に美波も胸が痛んだ。

 すると、後ろから看護師がやってきて、美波の肩をポンと叩く。

「清水さんの所属の警務部隊ね、大体20人くらいいる部隊なんだけど、生き残ったのはその内の部下三人と彼女だけだったのよ。彼女は自分のせいで部下が死んだと酷く自分を責めてる。だから、今はそっとしておいてあげて…。」

 そう言われ、美波はフラフラと病室を出る。そして、下の階に降りるのにエレベーターを使わず、非常口用の階段を使う。

 そして、力が抜けたようにしゃがみこむ。そして、

「…美春…ッ!」

 美波の目からは大粒の涙が零れる。

 普段、いつでも美波に笑顔で接していた清水。その彼女が初めて美波に辛そうに顔で涙を零した。それが美波にとって酷く辛いことだった。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

「姉上がそんなことを…」

「うん、何か辛そうだったよ…」

 騒々しい商店街の中を明久と秀吉は歩いていた。

「確かに、今、国家騎士が三人もやられておるからの…」

 秀吉は不安そうな顔を浮かべる。それも当然だろう。もしかしたら自分の姉、優子が狙われるかもしれないのだ。

「明久…」

「ん?何、秀吉。」

「姉上の傍に居てやってくれないかの…」

「え…?」

 秀吉は苦笑し、

「姉上はお主の監視任務につく前はピリピリしておった。まるで、国家騎士という誇りにとらわれるかのように…」

 そんな優子の話を初めて聞く明久は目を丸くする。

「しかし、姉上はお主の監視任務に就いてから表情も柔らかくなって良く笑うようになった。お主のおかげじゃ、明久。」

「そ、そうかな…?」

 素直に褒められ明久は少し赤面する。

 そして、話を切り替えるかのように秀吉は、

「そういえば、さっき雄二の家に行ったら留守じゃったの。」

「へ?雄二?」

 

 

 ――――――――――――――

 

 …その頃雄二は…。

 

「コレが、小山がやられた時と警務部隊がやられた件のレポートだ。」

「おう」

 カヲール二世から二つの事件の資料を渡されその資料をペラペラめくる。

「何か、分かったか?」

「……。」

 雄二は黙り込んだ。

「小山の事件に採取した武器の破片についてだが、一つは小山の召喚武器の『不滅の聖剣』(デュランダル)。もう一つは敵の召喚武器のモノだと思うんだが…。」

 すると、黙り込んでいた雄二が口を開く。

「オレは昔、この武器の破片を見たことがある。」

「デュランダルか?」

「いや、もう片方、敵の武器だ。その武器を持っていた敵は圧倒的な強さで、その武器の名前は『アルマッス』だ。恐ろしいほどの冷気を持つ剣だ。事件現場にわずかではあったが、凍ってる部分があった。」

 カヲール二世は驚愕した表情になる。

「待て、アルマッスだと!?それじゃあ、まさか…」

「そう、小山が残した血痕『N・K』の人物と一致する。」

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 …そして、夕方17時ごろ。日は既に堕ちかかっていた。

「『第二国家騎士』、霧島翔子だな?」

 翔子はコクリと無言で頷く。翔子の目の前には『黒尽くめの男』が立っていた。

 翔子は躊躇わず武器を召喚する。

「…『蜘蛛切』(くもきり)…!」

 『蜘蛛切』(くもきり)。優子の持つ『鬼切』(おにきり)と同じく源氏の宝刀である。

 優子は鬼切を召喚すると瞳、刀の刃が美しい紅色になるのに対し、翔子は瞳、刀の刃が美しい青色を放っている。

「…フン。」

 男は余裕そうな態度で翔子に斬りかかる。そのとき後ろから…。

「ハアアアアアアアッ」

 もう一人の戦士の姿が見える。優子だ。

「…ムッ!?」

 優子の気配に気づかなかった黒尽くめの男は危うく斬られそうになるが上手く攻撃を躱す。

 …しかし…。

 

 ピシッ…!

 

 黒尽くめの男の仮面に亀裂が入る。

 

 

 

 


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