僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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下級騎士vs国家騎士

 少しずつ辺りは暗くなり始める。外も少し冷え始める。明久達のいる場は禍々しい殺気で包まれている。

「流石に下級騎士にはハンデやらないとな…。」

「ハンデ?」

 すると、根本は『アルマッス』からただの西洋剣を召喚する。どうやら明久を対等の敵とは見ていないようだ。

「…ふざけやがって…!」

 明久は走り出す。

「フン、三下が…!」

 明久の剣に対抗するため、根本も明久に刃を向ける。そして、明久の剣と根本の剣は激しくぶつかりあう。

「ぐ…ッ…!」

 激しい金属音がその場に響き渡る。しかし、明久は下級騎士。いくら根本が『アルマッス』を召喚していないとはいえ、剣圧に耐えられるという保証がなかった。根本の剣圧に徐々に圧されていく。

「ああああああああッ!」

 すると、明久はもう片方の剣を根元に向ける。

「…ッ!」

 すると、明久のもう一本の剣が根本を襲う。

「ぐああああッ!」

 根本にとって予想外の攻撃だった。

 というより、明久がもう一本剣を持っていたことを忘れて油断したらしい。明久の剣は根本の右肩に傷をつける。

 そして、わずかだが根元に隙が出来る。明久はその隙を見逃さなかった。

「オオオオオオオオォッ!!」

 すると、明久の右手に持つ剣が根本の隙を突こうとする。、次に左、、右、また左と両手の剣が交互に根元を襲う。

 根本は何とか明久の剣を防ぐが、明久につけられた傷がダメージになったのか反応が少し鈍い。

「クソがぁアアアアッ!」

 だが、根本も国家騎士だ。明久の不意打ちにやられたものの凄まじい斬撃はそのままだ。

 しかし、明久の二刀流の剣戟も根本の斬撃に対抗し、勝負は互角…かと思ったが…。

「…っ…!?」

「おいおい。傷一つ付けて終わりか!?」

 徐々に根本の攻撃が速くなる。明久も必死で二刀流で対抗しようとするがその圧倒的なスピードには明久もついてはいけなかった。明久の二本の剣が根本の剣の速さを抜こうとするが、追いつけない。

 明久の剣も決して遅いわけではない。下級騎士ながらも素速さに瞬発力はどの騎士よりも優れている。だが、その剣はまだ目で何とか追える速さである。

 しかし、根本の場合、速いという次元が違う。目で追えない…いや、正確には目に見えないほどの剣戟だったのだ。

「うオオオオオオオオっ!」

 それでも明久は根元に隙がある限り剣を向けてく。だが…。

 

 ビシッ…!

 

 剣に亀裂が入る。一瞬、その亀裂が気になり、剣に目をやるが、その動揺もすぐに消え明久は攻撃をやめない。

 だが、そんな剣で立ち向かっても剣は折れるだけ。

「……」

 根本は明久を見下すような目で見て亀裂の入った剣を破壊する。二本ともだ。

「これで武器はなくなった」

 すると、西洋剣を使わず、ただの蹴りで明久にダメージを与える。

「ぐあッ!」

 その衝撃に明久は蹴り飛ばされ、倒れ込む。根本は倒れた明久の腕を足で踏みつける。ミシッと不吉な音を立てている。

「ぐ…ッ…」

「まさかオレに傷つけるのは王族でもなく国家騎士でもなく、三下の下級騎士とは一生の恥だ。お前はただ殺すのではオレの怒りがおさまらない。体の一部一部地獄に落とした上で殺してやる。」

 根本は悪魔のようなセリフを言った瞬間――――。

 

 ボキリ…ッ!

 

 大木が折れたような音がする。

「ぐああああああああああああああああッ!」

 それと共に明久の絶叫がその場に響き渡る。明久の右腕の手首が折れたのだ。

「まずは右腕だ…。」

 ニヤリと笑い、今度は左足の太腿に剣を突き立てる。勢いよく突き立てたためか、突き立てた部分からは血が飛び散る。

「ぐ…あっ…アアアアアアアアあああっ!!」

「今度は左足…だ。どうだ?痛いか…?ハハッ!そりゃ痛いよなァ!?手首やられた上に足もやられんだからよォ…!」

 根本はヒャハハハハハと甲高い声で笑う。

 あるときは低い不気味な声で喋ったり、あるときは甲高い声で笑う、よく分からない男だ。

「ぐ…ッ…」

 しかし、腕に足が負傷し、とてもじゃないが、今の明久には根本と戦う力なんて残っていない。

「…フン、次は何処にしようか…?呼吸出来ないよう、肺をやろうか?」

 根本は悪魔のような微笑みで明久に剣を向ける。しかし、西洋剣ではない。

「お前には絶望的苦しみを味あわせるためにこの剣で刺してやる。」

 明久達のいる場は再び冷気に包まれる。『アルマッス』だ。

「…やめ…ろ…」

 明久は必死に抵抗しようとするが、声は弱々しい。

 剣は徐々に明久の胸部分に近づいてくる。すると、後ろから…

「やめてーーーーーー!!」

 優子が悲痛に近い叫び声を上げ、根本の剣を弾く。まだ、『アルマッス』の冷気で感覚は鈍ってるが、どうにか動けるまでには回復したようだ。

「ホウ、まだ動けたか…。」

 しかし、回復したというものの、優子の手は震えている。根本に対する恐怖なのか、もしくはアルマッスのダメージなのか…。

「吉井君には手を出させない。アナタに用があるのは『国家騎士』である私でしょ?」

 震えながらも優子は剣の柄をギュっと握る。

「フン、そこまで言うならまずはお前から殺そう。だがな、そいつもその後で殺す。」

 根本はまたしても悪魔のような笑みを浮かべる。

「き…きの…した…さん」

 明久は体の痛みに耐えながらも優子の名前を呼ぶ。

 ―――この人を行かせてはいけない――――。

 そう心の中で呟いても、体が動かない。足も負傷してるせいか、立つことすら出来ない。しかし、優子は…。

「…大丈夫…。」

 ニコと微笑み、再び根本の方へ剣を向ける。だが、やはり彼女は震えていた。

「フン…。」

 根本もアルマッスを構える。再び国家騎士同士の戦いが始まる。

 根本は強い冷気を、優子は『鬼切』から紅色の闘気を噴きだす。

「ハアアアアアアアアアッ」

 ギィイイイインと激しい音を立て、根本の剣と優子の刀は激しくぶつかり合う。そして、そこから

優子は縦、横、斜めと素早く斬りかかる。根本もその斬撃を軽く躱す。

「…『紅千本』(べにせんぼん)…!」

 優子の鬼切の刃が消え、その代わりに、紅色の針千本が根本を襲う。この技は優子の持つ技の中でも攻撃範囲が広い。

 しかし、根本はその千本をアルマッスで次々斬り捨てる。そして、根本は一瞬で優子の後ろに回りこみ、剣で傷をつける。

「…ッ…!」

 そして、優子の手足はアルマッスの冷気で氷結される。まるで抵抗できないよう、拘束するみたいに…。

「終わりだ…。『第三国家騎士』…」

 振り上げられた剣は徐々に優子に向けられる。

「やめろオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!」

 明久がどんなに叫んでももう根本の剣がとまることはない。

(やめろ、やめてくれ!)

 明久の中で根本に対する憎しみが増幅する。

(根本、お前だけは…!)

 

 

 そのとき――――。

 

 フッと場の景色が変わる。何処までも広がる真っ白い世界。そこには優子も根本もいなかった。

「ここは…どこだ?」

 その白い世界には何もない。ただその世界の中に明久がいるだけだ。

 だが、後ろから…。

『この剣はアナタが持つにふさわしい…。』

 少女の声が聞こえる。

 後ろを振り向くと、金髪の髪を靡かせた150cm前半くらいの小柄な少女が立っていた。

「…君は…?」

 明久はその少女に誰なのか問うが、少女はそれには答えず、

『アナタにこの剣を授けます。アナタならこの剣をきっと扱えるはず…。」

 すると、彼女は明久に黄金の光を浴びた剣を差し出す。そうして、その少女は消えてしまう。それと共に白い世界は歪み、徐々に明久の視界には元居た場所の景色に戻っていく。

 

 

 ――――――――――――――――

 

 徐々に根本の剣は優子に迫っていく。明久の心の中ではどうしようもないほど憎しみが積もっていた。

 国家騎士とはいえ、彼女はこの事件が起きてからいつ自分が襲われるか…?そんな恐怖を抱いていたのだ。なのに、あの男はそんな気持ちも知らずに優子の命を奪おうとしている。

 何故、あんな男に国家騎士達が、優子が消されなければならない!?

 明久がここまで憎しみが積もるのは『あの時』と重なったからだ。そう、姉の玲が死んだ時と。

 その時も自分の目の前で殺されたのだ。それも根本のような卑怯者に殺された。あの時の二の舞にだけは絶対になりたくなかった。

「ね…も…と」

 明久はうつ伏せになっていた体を無理やり起こす。起こした瞬間に体中に激痛が走る。右足に左手がやられ、とても戦える状態ではない。

 それでも、明久は立ち上がる。

「ね…もと…ッ!」

 すると、根本が振り下ろそうとした剣がピタと止まる。

「吉井君…。もう、やめて…。」

 死にかけてもまだ立ち上がる明久を見て優子は辛そうな表情を浮かべる。

「…おかしいな…。もう立ち上がることなんて出来ないくらい痛めつけたのに、まだ立ち上がるか」

 根本は相変わらず余裕そうな表情を浮かべるが次の瞬間、その表情は一変する。

「…!?」

 揺らりと明久の体から黒い闘気が噴きだす。徐々にその闘気は強くなっていく。

「な、何だ!?アレは…!?」

 その闘気は禍々しい。まるで明久の憎しみの感情を色で表したかのような黒さだった。その上、明久の憎しみに比例し、闘気は強くなっていく。

「…試験召喚(サモン)…」

 明久は武器を召喚する。すると、その武器は黒い闘気に包まれ、現れる。

「なっ…!?」

「…え?」

 驚きの声を上げたのは根本と優子だ。

 明久が召喚したのは普段明久が召喚する木刀ではなかった。柄も刃も黒く染まった黒い剣だった。

 剣の正体は分からないが、明らかに下級騎士が召喚する武器ではなかった。国家騎士クラスの武器だ。明久はその剣を構える。


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