僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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 今回は根本の過去のお話です。


根本恭二

「ほら、恭二、起きなさい!」

「あ、あと20分…。」

「ダーメ!もうお昼よ!いい加減起きなさい。」

 根本恭二はモソッと起き上がる。今日は休みの日だ。特に訓練所に行く必要もないのだが…。恭二はリビングへと向かう。そこには朝食が用意されている。メニューは食パンと目玉焼き。しかし、どうやら朝作ったもので大分時間が経っている。食べるんだったらもっと早く起きればよかったと嘆息する。

 そして、朝食を食べ終えた恭二はいつも通り外に出る。

 彼には二人の大親友がいた。一人は天野和夫(あまの・かずお)。坊主頭のわんぱくな感じをただ寄せる少年だ。

 もう一人は桐川真子(きりかわ・まこ)。黒髪のショートヘアの少女で清楚な雰囲気をただ寄せる少女だ。実は恭二は真子に好意を抱いているがそれは本人には気づかれてはいない。

「なあ、知ってるか?」

「何を?」

 坊主頭の和夫が話しかける。普段楽しげの表情を浮かべる彼が何故か真剣な顔つきだった。恭二はそんな表情が気になりつい聞き返してしまう。

「イヤ、実は三つくらい隣の町でさ、敵のフミヅキ兵が襲撃したって噂、知ってるか?」

「え!?そうなの!?」

 最初に声を上げたのは真子だった。それに続き恭二も顔をしかめる。

 この町がいくら戦争には関係ない場とは言えまったく関係ないとは言えない。いつ襲ってくるか分からない。

「でもよ、オレの親はさ、『ああ?そんなもん来るわけない』とか言ってたけどやっぱり不安でさ」

 そう言い、和夫は下をうつむく。

「まあ、確かに親とかは俺達よりもこの町に長く住んでるからな。どれだけこの町が平和とかってのもよく分かってんだろ。」

 恭二は親の気持ちを推測して言う。当然、子供より親の方が生きている。この町での生活も長い。そのため、親の気持ちというのも分からなくはなかった。

 和夫の持ち出した話で三人の表情は暗くなる。しかし、真子は気持ちを切り替えて、

「ホラ、暗い話は終わりにしよ!私達遊ぶために集まったんだから楽しまなきゃ!」

 真子はニコッと微笑む。

「う、うん」

「あ、ああ。それもそうだな」

 和夫と恭二はうんと頷くしかなかった。

「んで、遊ぶって言っても今日は何をするんだ?」

 恭二が言うと、二人はうーんと考え込み…

「あ、じゃあこれはどうだ?『冷山』(れいざん)に行くってのは?」

和夫が提案した。

『冷山』というのはこの町から少し歩いたところにあるのだが、その山は氷で覆われ、夏でもその氷は溶けないという。そこには伝説の剣があるというのだが…。

「なあ、こんなトコで何するつもりなんだ?」

「そんなの決まってんだろ。伝説の剣をゲットするんだよ!」

 和夫は自信満々に答える。その答えに恭二は「ハァ」とため息をつける。なぜならその剣は冷山にあるという噂があるだけで本当にあるという確証があるワケではない。そのため絶対見つかるとは言い切れないのだ。

 それにしても山は涼しい。いや、少し寒いくらいだ。今、季節は夏だというのに外とは正反対だ。

 山に入り一時間程経過すると、言いだしっぺの和夫は、

「なかなか見つかんねーな、オイ。やっぱ帰らない?」

「お前が言い出したんじゃねーか!」

 すると、少し離れたところから真子が、

「ねえ、二人とも!ちょっとこっち来て!」

 その声に二人は反応し、真子の下へと行く。

「何だ?」

 すると、氷の棺が置かれていた。

「これ、私一人じゃ重たくて開けられないの。手伝ってくれない?」

「イヤ、待て。コレ開けていいのか?」

 恭二は少し警戒する。しかし、和夫は

「いいね。開けようぜ。」

 多数決で結局開けることになる。そして開けようとするが…。

「お、重い。」

 三人でも中々動かない。そして十分くらい経ってようやく棺を開けることが出来た。

「…うわ…」

 そこには氷塊から出来たような剣が置かれていた。そして、そこには剣の名前も刻まれていた。

「え…と、なんて読むんだ?コレ…。ア…ル…マッ…ス?」

「アルマス…?」

 文字がほとんど消えていて読むのが難しかった。

「よーし、コレ持って帰ろうぜ!」

「いや、でもこんなモンを俺達みたいのが勝手に持ってっていいのか?」

 友人の提案に少し表情を険しくする恭二。

「いいんじゃない。持って帰ろうよ。」

 真子まで和夫の提案に賛成する。恭二は渋々「わかった」と頷く。

 そして山を抜ける。抜けると日は落ちかかっていた。

「早く帰んなきゃな~。」

 しかし、和夫は…。

「ゴメン、オレちょっウンコしたいから待っててくれない?」

「ちょっ!女子のいる前でそんなこと言わないでよ!」

 和夫の言葉に真子は本気で嫌そうな顔をする。それもそうだ。女子の前でこんなことを言う男子は和夫くらいだろう。

「いや、でもこの辺りはトイレないけど…。」

「バカッ!頭使えよ!草叢という自然のトイレがあるじゃねえか!」

 和夫はグッと親指を立てる。

 しかし、そんな友人の言動に恭二と真子は親指を下に立てたいくらいに引いていた。そして、和夫は草叢に走り、恭二と真子は二人きりになる。

 普段一緒にいるが、真子は女の子だ。二人きりになると少し緊張する。会話も止まり少し気まずくなる。

 すると、真子が、

「ねえ、恭二はさ、将来の夢とかあるの?」

「夢?」

 恭二には一応夢があった。立派な騎士になるという。そして自分が騎士になって戦いもない平和な世界にすること。今思えばいかにも子供が抱くような馬鹿げた夢で叶いもしない戯言だ。でも、その頃の彼にはとても眩しいくらいにその夢は輝いていた。

 その夢に彼女も「いい夢だね」と微笑む。

「私も恭二が言う平和な世界に住んでみたいな…。」

「…え?」

 不意にドキリとする。

「そして私はそんな平和を守る騎士を支える妻。素敵じゃない?」

 すると、恭二は赤面する。すると、真子はプッと笑い、

「もしかして本気にしてた?」

「…え?お前からかってたのか!?」

 すると、恭二の顔はさらに赤くなる。真剣な空気だったので真子は本気だと思っていた。

「恭二赤くなっちゃってかーわいい。」

「う…うるさいな…!」

 すると、向こうから和夫がやって来る。

「イヤー、案外時間かかった。待った?」

「いや…。」

 

 そして、三人は町へと戻る。

 

 しかし、その頃町では…。

 

 フミヅキ軍が町に侵入しようとしていた。

「た、隊長、ホントに攻めるんですか?」

「当然だ。この町にはシワス兵の武器の倉庫があるんだからな。それにこの町出身の有力な兵は何人もいる。ここは潰さねばならん。だが、一般人は攻撃するな。悪魔で倉庫の破壊を優先しろ。だが、一般人でも抵抗するようだったら…殺しても構わん。」

 しかし、隊長の目は抵抗しようとしなかろうと別に殺していい、そんなふうにも見えた。

「行くぞ」

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 三人は町に戻る。だが、いつもと違う町の光景に三人は唖然とする。町は火に包まれ、赤い血を地面にこびりつけ倒れる人が何人もいた。

 町には何人もの兵士がいる。兵士の軍服には五芒星が描かれていた。これはフミヅキ軍のマークだ。

 フミヅキ軍は逃げる人を無差別に殺しているように見えた。これはもう虐殺と言っていい。

「ヤバいぞ、俺達も逃げなきゃ…」

 三人は必死に隠れながら逃げる。物音ひとつ立てれば殺される空気。息を殺し、三人は音を立てず、ゆっくりその場を離れる。

「か、母さんや父さん、無事かな…?」

 和夫は涙目で言う。

「わかんねーよ。でも、今、出れば殺されるぞ。」

「とりあえず、あそこに隠れない?」

 真子が指差したのは武器倉庫だった。とりあえず三人はそこに隠れることにする。

「ここならそう簡単には見つからないだろうな…。」

 三人ともホッと一安心する。この倉庫には今のところ近づいてくる兵士はほとんどいない。そのため襲われる心配は少ないのだろうが…。妙なのはこの倉庫だけ建物が無事ということだ。それ以外の建物は燃やされているというのにここだけは何ともない。

 

 ドゴオオオオオオッ!

 

 倉庫の入り口付近で爆発音がする。見ると、フミヅキ兵がこちらに近づいてくる。だいたい十人くらいか。そしてついには三人の姿がばれてしまう。

「オイ、子供がいるぞ」

 すると、兵は迷わず恭二たちに銃口を向ける。…そして…

 

 ドオオオオン!

 

 銃声音。そして次にバタリと倒れる音。見ると、和夫が倒れていた、銃弾が頭を貫通していた。もう死んでる。

 心臓の音が激しくなる。そして恭二はワケが分からなくなり兵士に噛みつく。

「テメッ、このガキッ」

 

 ドオオオオンッ!

 

 再び銃声音。しかし、銃弾が貫通したのは恭二ではない。貫通したのは…

 

「ま、真子!?」

 彼女はゆっくり倒れる。

「ご…め…ん。きょう…じ。」

 真子は苦しそうに喋る。

「きょ…うじ…の妻に…なるって約束…果たせ…なかった。」

「お前、さっきの言葉は本当だったのか!?」

 先程、真子は恭二をからかうようにその言葉を言った。だが、それは本当だったらしい。

「…だっ…て、私、恭二…のこと…好き…」

 すると、彼女の瞳は閉ざされる。その瞳はもう開くことはない。

「…ま…こ…」

 

 不意に彼女との記憶が脳内に過る

 

『ねえ、恭二はさ、将来夢とかあるの?』

『うーん、立派な騎士になってこの国を戦争のない平和な国にすることかな…。何か変かな?』

『ううん、そんなことないよ。素敵な夢だよ。私も恭二の言う平和な国に住んでみたいな。そうしたら、私、恭二の妻になって、ずっと支えてあげる。約束だよ?』

 

 

  …ふざけやがって…

 恭二の心の中には二つの憎しみが込み上げてくる。

 一つは彼女を守れなかった自分に対してだった。この国を平和にするという大層な夢を抱いても、目の前の女の子一人救えないという現実。

 もう一つは自分たちの平和を奪ったフミヅキへの憎しみ。

 

「うああああああああああああああああああああああああッ!」

 恭二は絶叫する。どんなに叫んでも友人二人の命は帰って来ない。だが、この現実を黙って見過ごせるわけでもない。

 

 恭二は『冷山』で得た伝説の剣を握る。すると、根本の怒りに呼応して氷の剣は強い冷気を生み出していく。

(殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!)

 この思いが殺気へと変わる。






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