僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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国家騎士

 ギイイィイイイン!

 

 金属を弾く高い音が響き渡る。

 明久と雄二がぶつかろうとする中、一人の少女がその間に割り込む。

「「…え…?」」

 明久と雄二は同時に呆けたような声を上げる。何が起きたのか理解できていないようだった。

 自分たちの攻撃は弾かれ、そこにいたのは一人の少女。

「な、なんてことするんだッ!?秀吉!この雄二のアンチクショーは僕の貴重な食料を横取りしようとして…!」

「テメー、明久!アレは元々オレのだと…!」

 雄二が喋り終わらない内に…

 

 ゴンッ!

 

 その少女は明久を思いっきり殴り飛ばす。その一撃は少女の拳とは思えない一撃だった。

「い…だあああああああッ」

 見た目からはまったく感じられない、その重い攻撃に明久は悲鳴を上げる。

「フ…。秀吉。まさか、こんな短期間でそんな怪力を手にするとは…。流石、僕の嫁。」

 明久は痛みを堪えながらも感嘆したように言う。

 すると、その少女は不機嫌そうに倒れている明久を踏みつけ、

「あのバカと私のどこが似てるのかしら?」

「…え…?」

 よく見ると、秀吉に似てはいたが、前髪の分け方に、プライドの高そうな態度が秀吉との決定的な違いだった。

「アレ?秀吉じゃないな。」

「当たり前よ!あんなバカと一緒にしないで。」

 どうやらその少女は秀吉と同一視されるのを嫌っているようだ。

 そこで明久が思案の表情で少女に告げる。

「なんか、こう…。秀吉はもっと可愛かったような…。」

「なっ…!?」

 明久の発言に傷ついたのか、その少女はさらに明久を強く踏みつけ、

「私の何処に魅力が欠けているのかしら…?」

「…ぶ…ばばっばば…っ!」

 明久は「すぐに暴力を振るところが魅力に欠けている」と訴えようとするが、上手く言葉にならない。

 そこで、明久は雄二に目でサインを送る。

(ちょっと、雄二!ボーッとしてないで、助けてよ!今にも顔の皮がはがれそうだよ!)

 すると、そのサインに気づいた雄二は、

(フッ。悪いな、明久。)

(雄二…?)

(実はな…オレは…)

(オレは…?)

 雄二にしては妙に真剣な雰囲気が感じられる。明久は何だろう、と首をかしげる。

(ソーセージを食ってるところだ。)

 そう、彼は先程、明久と取り合っていたソーセージを美味しそうに食べていたのだ。

 友人の真剣な眼差しに自分も真剣な雰囲気を心に漂わせていたが、ソーセージを食べていると聞いては呆れるばかりである。

 同時に腹立たしくも感じた。

(雄二イイィ!貴様ーーッ!今の真剣な雰囲気は何!?てか、いい加減、ソーセージを頭から離せ!)

 明久は雄二に助けを求めた自分がバカだったと嘆く。

 そして、そんなやりとりをしてるうちに、少女は踏みつけていた明久を解放する。

「ぶ…っ…はァ…!し、死ぬかと思った…。」

 明久は声を荒らげて言う。左の頬は少女の足を擦りつけられたせいで、右の頬は地面に擦りつけたせいで赤くなっている。

「それはそうと、アナタ達下級の騎士は教官の許可がない限り、武器は召喚できないハズなんだけど…。」

 すると、雄二と明久はお互い顔を見合わせて、「あ。」と言う。

 この世界では下っ端の下級騎士と、それなりの戦闘訓練を受けた中級騎士に、高い戦闘力を持つ上級騎士、さらにその上は、王族に仕える七人しかいない国家騎士と階級分けされていた。

 下級騎士は見習いの騎士で位の高い騎士の許可でもない限り、召喚は許可されない。自分で召喚できるようになれるのは中級クラスになってからである。

 明久、雄二は下級騎士だ。つまり、規律を破ったことになる。

「まあ、アレは不可抗力というか…ね?雄二。」

「そ、そうだな。俺達、手が滑っただけだもんな。」

 二人はぎこちなく笑う。すると、

「どう手が滑れば武器を召喚して戦うハメになるのかしら?」

 その少女は満面の笑みを浮かべて、その二人に質問する。

 しかし、その笑みの裏には殺意らしきオーラを感じる。少女は一歩、そしてまたもう一歩二人に近づく。雄二と明久はそれと同時に後ずさる。

「ぎ…ぎゃあああああああああああああああッ!」

 王都の城下町に悲鳴が響きわたる。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 ここは下級、中級騎士が訓練を受ける『フミヅキ訓練所』。ここで、戦闘訓練をする。また、戦闘だけでなく、『召喚武器』に必要なのは、点数である。その点数を補充するためにも学力は欠かせない。いわゆる学校みたいなところだ。

 そんな訓練所で、正座をさせられている二人の姿があった。

 雄二と明久である。

「まったく、お前たちは何回言えば、分かるんだ!?お前たちは見習い騎士だから勝手な召喚はダメだと何回言えば…」

 クドクドと説教するのはここの訓練所の教官、西村教官である。一部の騎士には「鉄人」と呼ばれている。そう称される理由の一つはやはりこのがっしりとした体つきが要因の一つなのだろうか。

 そして西村に注意を受けた二人は、

「すいまっせーん」

 と、心のこもっていない謝罪をする。

「ハァ…。もういい。お前らには言葉が通用しないみたいだからな…」

 西村教官は深いため息をつく。

 説教から解放されたと思った明久は、

「イヤー、よく分かってるじゃないか、鉄人。そうだ、僕に言葉は通用…ブッ!」

 喋ってる途中で顔面を殴られる。

「鉄人じゃない、西村教官と呼べ!大馬鹿者!」

「…ハィ、スンマセン。」

 少し調子に乗ってしまったと、反省する。

 

 二人は訓練所を出る。すると、訓練所の門の前に秀吉とムッツリーニが立っていた。

「お主らはまた酷く説教されたみたいじゃな。」

 秀吉は苦笑しながら言う。

「……」

 ムッツリーニも無言で頷く。

「それにしても、暴力反対だぜ。」

 雄二は殴られた箇所を手で擦る。今日一日で明久と雄二は20発は殴られている。一人は今朝会った少女、一人は西村教官。

「ホントだね、秀吉のそっくりさんにも会うし…。」

 すると、秀吉は目を丸くし、

「もしかして姉上のことか?」

 と、聞いてくる。

「姉上?秀吉お姉ちゃん居るの?」

「初めて聞くぞ、それは。」

「…初耳…。」

 三人は興味津々に尋ねる。

「う、ウム。まあ、そっくりなのも無理は無いの。わしらは双子の姉弟だからの。」

「ふ、双子っ!?」

 初めて聞くその話に三人は声を上げる。

「ただ、ワシもめったに姉上とは会わんのじゃ。ワシは一番下の下級騎士じゃが、姉上は国家騎士の第三騎士なのじゃ。」

「こ、国家騎士ィィィィーーーーーッ!?」

 さらに声を上げる。

 三人は同時に、秀吉にそんな偉大なお姉さんがいたとは…。と何故か感心する。

 七人しかいない国家騎士は騎士の中でも一番上の階級だが、その国家騎士にもランクづけをされていた。

 一番強い国家騎士を第一騎士、一番下の七番目は第七騎士と、数字により力の序列が決められていた。秀吉の姉は第三騎士。つまり、国家騎士の中でも三番目という極めて高い位を持っている。

 明久は、そういえば秀吉のお姉さんのあのプライドの高さは国家騎士だからなのかな、と納得する。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 王宮ではカヲール二世(藤堂カヲル)がイライラした表情で、何故かラーメンを食べていた。

 皇帝が一般人の食すラーメンを口にしているというのはとても不釣り合いな光景である。

「吉井君と坂本君が暴れたせいで町の店五件から苦情が来ております。」

 側近の竹原はクールな雰囲気で城下町の状況を報告する。

「分かってるよ。さっきもソレは三回聞いたよッ!」

「いえ、何回も言わないと、ババ…じゃない、陛下の脳みそにインプットされないんじゃないかと思いまして…」

「年寄り扱いすんな、ボケ!アンタ、時々サラッと毒舌言うな、オイ!」

「そんなことねーよ、ボケ。」

「おい、言動が綻び始めてるぞ。」

 とても、王と側近のやりとりとは思えない光景だ。こんなに私語と毒舌を言う側近があるだろうか?そして側近にこうも舐められている王が居て良いものだろうかと、つい考えてしまいたくなる。

 そんな状況下でもカヲール二世はハフハフとラーメンを食べ続ける。

 そんな時だった。

「失礼します。」

 少女の声だ。

「おお、優子じゃないか、待ちわびたよ!」

 入室したのは王族に仕える国家第三騎士の木下優子だ。

「実はお前に話があるんだよ。」

「話…ですか?」

 優子はキョトンとする。

「その前に、ラーメン食うかい?」

 カヲール二世は自分が先程まで食べていたラーメンを優子に手渡そうとする。

 優子は「うわぁ」と引くような目で、

「いえ、遠慮しておきます。」

 と言う。

「そうかい。まあ、良い。話に移ろうか」

 カヲール二世は再びラーメンを食べ始める。

 

 


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