僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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日常編Ⅱ
二週間後


 根本の一戦から一週間―――。

 明久の傷はすっかり癒え、いつも通りの生活を送っている。

「吉井、もう一度『係り結び』の『係り助詞』を言ってみろ」

 吉井明久は訓練所の一時限目の授業を受けていた。一時限目は古典だった。

 騎士とはいえ、学力は欠かせない。その証拠に絶対とは言えないが『召喚武器』はテストの点数に比例する場合が多い。

 そして、明久が今、古典文法の『係り結びの法則』の『係助詞』を質問されている。答えは「ぞ」、「なむ」、「や」、「か」、「こそ」なのだが…。

「えーと、『z』、『N』、『Y』、『K』、『K´』です。」

 何故か古典なのにアルファベットが出てくる。それもイニシャルで。

「吉井、貴様は古典をなめてるのか!?」

 すると、明久は…。

「鉄人、僕は古典は舐めてません!飴は舐めてますけど!」

 真顔でキッパリと答える。よく見ると明久の頬が膨らんでいた。

「吉井、貴様には嘗てない地獄を見せてやるべきだな」

 鉄人は関節をポキポキと鳴らす。殺意の対象は明久のハズなのに他の訓練兵に向きだされているような感じがまた一段と怖い。

「ゲッ!?嘘っ?」

 戦闘モードに入る西村教官を見て明久は外へ逃げようとする。…しかし…。

「吉井君、何処に行く気かしら?」

 逃げようとした先にはには監視役の優子が立っていた。

「き、木下さんッ!?」

 後ろを振り返ると既に鉄人との距離は零だった。

「ぎゃああああああああああああっ!」

 そんな明久の叫び声も空しく虚空へと消える。

 

 そして放課後―――。

 

「アキ、アンタたまには真面目に授業受けたらどうなの?怒られてるのはアキのハズなのに私達が怒られてるみたいなんだけどっ!?」

 美波は本気で嫌そうな顔をする。それもそうだ。明久が問題を起こす度に西村教官は戦闘モードを発動するのだ。他の訓練兵からしたらいい迷惑だ。

「イヤ、なんで僕だけに言うの!?それを言うなら雄二だって寝てるし、ムッツリーニだってエロ本読んでるし!怒られるべき対象は僕だけじゃないハズだ!」

 すると、雄二とムッツリーニはやれやれ…と言い。

「…分かってないな、明久。」

「…分かってない…」

 やけにクールそうな二人を見て明久は気味が悪くなる。

「そういうのはばれない様にしてやるんだよ、バカ」

 どうやら二人は先輩的なアドバイスをしたつもりなのだろうが、先輩的になれる分野が負の分野でしかないことに嘆きたくなる。

 

 それにしても平和だ。二週間前の事件が嘘かのように…。

 どうやら、根本を倒したのが明久というのはその場にいた優子と翔子、あと王族、そして国の代表ともいえる国家騎士くらいしか知らされていない。というより極秘扱いとなっている。

 階級的に一番下の下級騎士である明久が一番上の階級である国家騎士に就く根本を倒したのだから…。一番強いのが国家騎士…そんな現状が覆された事件でもあった。しかし、そんな現状を町の人々に教えるわけにはいかない。そのため、このことは極秘とされている。

 しかし、それ以外に一人だけ根本を明久が倒したという現実を知る人物がいた。

 

「明久…。」

 明久を呼んだのは秀吉だった。

「何?秀吉…。」

「ありがとう」

 秀吉から出た言葉は感謝の言葉だった。明久は「ふぇ?」と間抜けな顔をするが…。

「この事件で本来なら姉上は殺されてもおかしくなかった…。でも、今、姉上はこうして生きておる。お主のおかげじゃ、明久。」

 ニコリと秀吉は微笑む。その笑顔にドキリとした。

(あとは女の子だったら文句ないんだけどな…。)

 素直に感謝され、嬉しい気持ちの反面、少し残念な気持ちもある。こんな可愛い顔をして男?こんなことがあっていいのだろうか?そんな気持ちだった。

「じゃあ、私はそろそろ帰るね。」

「え?もう帰るの、美波?」

「うん、美春のお見舞いに行かないと…。」

 少し寂しげな表情だった。そう、美波の友人の清水美春さんもあの事件の被害者だったのだ。そのせいか美波は少し元気がない。

「明久…じゃない馬鹿!俺達も帰ろうぜ。」

「何で馬鹿って言い直した!?コラ」

 馬鹿扱いした雄二にキレつつも帰る準備をしたその時だった。

「吉井君ッ!」

 ドアをバンッ!と音を立てて現れたのは優子だった。

「き、木下さん!?」

「陛下が呼んでるわ。一緒に王宮に来てもらえる?」

「へ?ババアが?」

(何かババアに呼び出される程の問題を起こしただろうか?)

 そう思いつつも王宮へ向かうことにする。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――

 

「お久しぶりです。明久君。」

 王宮に着いて真っ先に声をかけてきたのはヒメージ三世だった。

「あ、ども。」

 一応、王族の人間なので軽く一礼する。相変わらずこのお姫様はピンク色のドレスを着ている。このお姫様にはピンク色が何故か似合っていた。

 すると、隣にいた優子が明久の足を思いっきり踏む。

「…いッ!?」

 いきなり踏まれたので思わず明久は声を上げてしまう。

「な、何すんのさ!?木下さんッ!?」

「別に。ただ、さっきからそこのお姫様をいやらしい目で見てたから。」

 優子は「フン」と頬を膨らませて言う。

 明久はただヒメージ三世の服装は城下では中々見られない服装だったので不思議そうに見てただけだったのだが、優子にとってはそれもいやらしい目で見てるのと同じなのだろう。

「んで、お母さんはどこに居るの?」

 明久はヒメージ三世にカヲール二世の場所を聞き出す。

「お母様なら向こうの奥の部屋にいますよ。」

 ヒメージ三世の指差す方向に明久と優子は歩いていく。そして、部屋の前までたどり着き、ノックをし「失礼します」と言い、静かに入る。

「よく来たね」

 カヲール二世は鉄板で肉を焼きながら明久達を迎える。明久達は話をしに訪れたのだが、カヲール二世の行為は明らかに話をするときの態度ではない。何が「よく来たね」だ。

「今回はお前に話があるんだよ、吉井明久。」

「へ?僕?」

 カヲール二世の顔は真剣だった。その表情だけで大事な話をするというのが感じ取れたが…。「ジュージュー」と肉を焼く音がうるさい。この音のせいで真剣な雰囲気も台無しだ。

「何となく呼ばれた理由は分かってるんじゃないのかい?お前の『召喚武器』についてだよ。」

「召喚武器…。」

 そう、彼の召喚武器は今までは木刀だった。だが、根本の一戦で黒い漆黒の剣を召喚した。

「アンタはあの剣を知ってるのか!?」

「ああ、知ってる。」

 カヲール二世は静かに頷く。

「お前は召喚する前に何か見たんじゃないのか…?」

「…何か…見た…?」

 すると記憶は黒い剣を召喚する前へと遡る。

 

 

 そこは何もない場所だった。何処までも白く広がる世界。そこにいるのは明久しかいない。

 しかし、後ろからこんな声が聞こえる。

『アナタがこの剣を持つのにふさわしい』

 金髪の長い髪を靡かせた小柄な少女がそこにいた。彼女は『黄金の剣』を持っていた。

『アナタにこの剣を授けます。アナタならきっと扱える。』

 そう言い、明久にその剣を手渡す。少女はそのままこの白い澄みきった世界から姿を消してしまう。

 

 

 

「どうだ?心当たりあるだろう…?」

 カヲール二世はニヤリと笑う。

「アレは夢…じゃなかったんだ。」

 明久は少し呼吸を荒くして言う。

「何を見たのか説明してもらおうか…?」

 カヲール二世は明久に問い詰める。もちろん肉を焼きながら。

「黄金の剣を持った少女が…いた。」

 すると、カヲール二世は納得したように頷いた。

「成程な…。お前は本当はその黄金の剣を召喚するはずだったんだ。」

「…? どういう…?」

「お前の持つ黒い剣は不完全ということだよ。本来はそこで黄金の剣を召喚するはずだった。だが、お前は下級騎士だ。武器の点数も足りてない上にあのときお前は根本に対する『憎しみ』も抱いてたんじゃないか?」

「ようするにババアはその二つが原因で本来召喚されるはずの黄金の剣じゃなくて、黒い剣が召喚されたって言いたいのか?」

 明久が聞くとカヲール二世は少し難しそうな表情を浮かべる。

「だが、それだけが原因とは言い切れない。」

「…?」

「とりあえず、此処で黒い剣を召喚してみろ。」

「さ、サモン!」

 カヲール二世に言われ、明久は渋々黒い剣を召喚する。

「…やはりそうか…。」

 カヲール二世は再び納得したような表情を浮かべる。だが、明久は先程からカヲール二世が何を言いたいのかさっぱり分からない。隣にいる優子は疑問が多いせいか、何が何だか分からないというような表情を浮かべている。

「以前、お前以外にもこの剣を使っていたヤツがいた。それもお前と色違いの『白い剣』だ。」

「…ハ…?」

 話がさらにややこしくなっていく。

 


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