僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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 今回は鉄人をメインにした話です。


鉄人

 フミヅキを代表する騎士は誰もが知る通り『国家騎士』と呼ばれる選ばれた七人のことを指す。

 しかし、フミヅキにはもう一人強力な力を持つ騎士がいた。彼の名前は西村宗一(にしむら・そういち)。又の名を「鉄人」。

 彼はフミヅキ兵で唯一武器を持たない騎士である。だからといって彼を嘗めてはいけない。彼の体はある意味では召喚武器よりも強力な一つの武器のようなものだ。

 どんな硬い物も一撃で粉砕する鋼のような拳。皆、空気の抜けたボールでサッカーするのに対し彼は鉄球でリフティングをこなすという並外れた脚力。

 彼の噂は王都中に広がっていた。これはそんなアイアンボディを持った男の物語である。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 西村宗一は普段訓練兵の教官を務める騎士だ。

 今日も訓練兵を一人前の騎士にするため訓練所へ向かう。そして、扉を開けた時だった。

「雄二ィーーーーーーーー!」

「明久ァーーーーーーーー!」

 何と二人の訓練兵が殴り合ってる。足元には壊れたゲーム機と音楽プレイヤーが転がっていた。

「貴様、僕のPSPを何だと思ってる!?木下さんが監視役だかよく分からない任務に就任して以来、僕のエロ本とかエロ本とか漫画とかPSPが全て売り飛ばされて…そこからどれだけ苦労してお金溜めて買ったPSPを貴様ァーーー!」

 話を察するに明久は雄二にゲーム機を壊されたらしい。どうやら雄二に対して怒ってるのだろうが、自分の過去を語ってるようにも感じた。過去というよりは惨劇に近い気もするが…。

「やかましい!オレだってなァ、翔子にエロ本見つかってビリビリに破かれて…それで苦労してようやく手に入れたiPodだぞ!?それを明久テメェーーーー!」

 明久と同じように自分の惨劇を語るように怒る雄二。しかし、言葉から察するに、エロ本見つかって破かれて悔しいならば、iPodではなく、エロ本を買うべきなんじゃないかとと突っ込みも入れたくなるが…。

 しかし、そんなことは西村にはどうでもいいことだ。訓練兵を一人前にすることが彼の役目だ。今の二人を見る限りじゃ、立派になるどころか崩壊寸前の状態だった。

「貴様ら、ここは訓練する場所であって喧嘩する場ではないッ!」

 怒鳴って止めようとするが彼達は聞こえていないようだ。そして西村の注意を無視し、そのまま殴りあう明久と雄二の拳が西村に直撃する。

「「……ゲッ……」」

 ここで初めて二人は西村がいたことに気づく。

 すると西村は満面の笑みで、

「そうか、そうか。お前たちはそんなにオレの鬼の補習が受けたいか?そうかそうか。」

 笑っている。だが、何故か関節を慣らしている。明久と雄二にはそれは恐ろしいほどの殺気にしか感じなかった。

「ふんんっ!」

 西村の拳が二人の顔面に思いっきり直撃する。

「ぎゃあああああああああああああッ」

 二人は泣き叫ぶかのように絶叫する。

 これが西村宗一の一日のスタートともいえる仕事である。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 一時限目が始まる。授業態度は最悪だ。

 一番多いのは寝る、喋る。ところどころ隠れ食い。。だが、一人だけ堂々と授業中に食べている訓練兵がいた。いや、そもそも食べてるというより吸ってるに近い。

「おい、土方。授業中にマヨネーズ吸うのはやめろ。」

「大人には分からないだろ…。この味が…。ジュルルルルル。」

 勝ち誇ったような顔でマヨネーズを再び吸い始める。べつにこんなところで勝ち誇った表情をされても羨ましくもなんともない。むしろドン引きだ。その証拠に周りの訓練兵は目を覆ったり、鼻をつまんだりしている。

「貴様…。授業中に食べるのは…。」

 土方の下まで行って説教をしようとする。だが、そこで西村はとんでもない光景を目にする。それもマヨネーズを吸うよりも酷い。

「何をしている?近藤?」

「ヨガです。」

西村は眉間にしわを寄せた。この世に授業中に素っ裸でヨガをする者がいるだろうか…?いや、だがその現実を簡単にぶち壊す馬鹿がそこにはいたのだ。

「先生。いいですか?何もちゃんと机に座ってペン持ってノートに書くことが勉強とは思いません。どんな姿でも、どんな格好でも内容を理解できればいいと思うんです。自分はこの前まで分詞構文が分かりませんでしたが、ヨガをしながら学ぶことで分からない単元も分かるようになりました。要は分かればいいんです。」

 すると、当然訓練兵の中にはドン引きする者がいた。当然西村もドン引きだったが、中には目を潤ませ感激したのか拍手する者もいた。そいつは恐らく馬鹿だろう。

 ヨガをしながら勉強できるのはある意味では才能なのだろう。…しかし…。

「近藤…。ヨガをしたいなら家で好きなだけすればいいが…。ここは訓練所だ。そんな行為が許されないというのは当然分かってるつもりだが…?」

 すると、近藤は全身から冷や汗が出る。一応西村の言いたいことを理解したらしい。

「服を着ろっ!」

 西村の拳が思いっきり近藤の腹に命中する。

「ぐはァッ!」

 渋々服を着ることにする。

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 次は体育の時間だった。

 訓練所では召喚武器を扱えるようにするために実戦訓練もあるが普通に体を動かすこと、基礎体力をつけることを目的とした体育もあった。

「よーし、今日は二十分完走だ。」

 ただひたすら走るだけだ。訓練兵の中には「え~」と言う者が多かった。

 先ほど問題を起こしていた明久、雄二、近藤、土方も今回はちゃんとやってるようだ。フミヅキで一番の問題児の明久が真面目にやってるなら他の生徒は大丈夫だろう…。ホッと一安心する。

 しかし、先程からブンッ、ブンッと空気を擦るような音がする。

「…ん?」

 妙だな…と思い、西村はその音がする方へ向く。

 すると、そこにはよく近藤、土方、沖田とつるんでいる山崎が皆必至で走る中を、必至でバドミントンの素振りをしていた。

「おい、山崎」

 しかし、山崎は聞こえなかったのか素振りをそのまま続ける。

 素振りを無理やりやめさせようと本人のいる所まで近づくと…。山崎は誤ってラケットを投げてしまった。そしてそのラケットは西村の頭にコツーンと音を立て綺麗に当たる。

「や・ま・ざ・き」

「はっ!?て、鉄人!?」

 そこでようやく鉄人の存在に気づく。だが、もう遅い。彼は既に戦闘モードに入りかかっていた。

 山崎は必死に逃げようとするが、十秒も経たない内に鉄人に捕まる。

 そして、鉄人は瞬時に山崎の後ろに回りこむ。そして、両手の人差し指に力を集中させる。

「千年殺しッ!」

「ぎゃああああああああっ!」

 その人差し指は尻の穴に命中する。その威力は指が尻を貫通するのではないかと思うくらいの威力。その証拠に指が命中すると共にズドンッという音がする。喰らったものは間違いなくと言っていいほど痔になる確率が高い。

 山崎は尻を抱えながら涙目になる。

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 午後四時半。訓練兵は授業も終わり、帰宅する時間である。

 そこで教官である西村はホッと一息をつく。ようやく一日もほぼ終わったと思える時間だ。

 まだ教官としての仕事はまだ少しだけ残っているが、訓練兵の授業に比べれば大したことはない。

 一息つくためにコーヒーを飲んでいたそのとき…。

 電話が鳴る。普段はこの時間帯は電話などまったく掛かってこないのだが…。「何だ?」と思いながら電話を手にする。すると…。

『た、助けてくれっ!』

 「もしもし」と言う前にいきなり助けを求める声が響く。

「どうしたんですか?」

『アンタのところの訓練兵がうちの武器を使い荒らしてんだよっ!』

 恐らく電話の主は武器ということから武具店の店員だろうと推測する。電話の説明だけじゃ現状が分からないので現地へ赴くことにする。

 そして…。

「バカ野郎ッ!お前このメリケンサックのこの使い心地分からねえかっ!?こう使っててパアアってなる感じ!」

「雄二こそこの木刀の素晴らしさ分かんないかな!?これ、刀よりもスパって斬れんだよ!?スパって!」

「良いだろう、なら試してみるか!?明久。」

「雄二こそ後悔するなよ!」

 すると、二人は殴りあいになる。

 足元を見るとこの店のものと思われる武器が破片となって散らばっている。おそらく二人の喧嘩が原因だろう。

「おい、貴様ら…。」

 止めようとすると二人の攻撃が鉄人に命中する。

「「あ…。」」

 二人は同時に「ヤベ、やりすぎた」という表情を浮かべる。

「吉井、坂本。貴様らはそんなにオレの拳が恋しいか?んん?」

 ポキリ、ポキリとゆっくり関節を慣らすのがまた一段と怖い。

「「ぎ…ギャアアアアアアアアアアアアアッ」」

 二人が悲鳴を上げても容赦なく西村は拳を入れてく。

 

 だが、これで理解する。訓練所には何人もの問題児がいるがその頂点に立つのはやはり吉井明久だと悟る。

 これからも吉井明久は要注意しなければならない人物である。

 

 


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