僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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如月ハイランド

 根本恭二の一件から約20日ほど経つ。

 私、木下優子は相変わらず彼、吉井明久の監視任務を務めている。何故、こんな任務に就いているか?

 理由としては吉井明久は王都中を騒がせる問題児だからだ。例えば、スーパーの試食コーナー。これは知っての通り試食するための場である。だが、彼の場合、それを一食分…いや、一日分の栄養を摂取するかのように食い尽くすのだ。

 他にもソーセージの取り合いで坂本雄二と商店街のど真ん中で喧嘩したり、エロ本を買う為に千円札を偽造したり、女子更衣室を除く(これは土屋康太という吉井明久の悪友を含む)など、数々の負の伝説を作り上げた少年である。

 そんな彼を危険視したカヲール二世は私を監視役として任命する。正直「え?ウソでしょ?」と言いたい気持ちだった。

 しかし、そんな負の伝説を持つ彼だが、自然と周りには彼に寄って来る者が多い。最初はそれを不思議に思っていた私だったが、根本の一戦で何故いろんな人たちが彼に寄り添いたくなるのかを理解する。

 彼は人に迷惑をかけることはよくあるが、人を傷つけるようなことは一切しない。それどころか周りを和ましてくれる。みんなそんな彼に惹かれているんだろうと思う。

 私もこの戦いで彼には助けられた。この事件では国家騎士が次々消えていくという事態の中、私はいつ自分が殺されるか不安で仕方なかった。しかし、そんなとき、彼、吉井君は下級騎士にも関わらず私を案じてくれた。そして「ずっと傍に居る」と言ってくれた。それだけじゃない。根本の攻撃で私が殺されそうになった時も彼は私の前に現れた。自分が殺されるかもしれないにも関わらずだ。

 だから彼には感謝している。だから私は彼に感謝の気持ちを表したいのだが、私は自分の気持ち素直に表すのが苦手なせいかどうしても攻撃的な言葉を吐いてしまう。

 …どうしたものか…

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 私はレストランである一人の友人と食事をしていた。

「へェ、国家騎士って国の代表って言うくらいだから憧れたりもするけどやっぱり大変なんだ」

「まぁね。特に監視役に任命されてからは大変かな…。」

 私はため息をつきながら言う。話の相手は工藤愛子。この国の上級騎士に所属する騎士だ。

「その監視の対象の吉井君ってカッコいいの?」

 愛子は悪戯っぽく聞いてくる。顔がニヤニヤしている。それはどうも私には不快に感じたがキッパリと、「イヤ、全く。」と答える。

「え~…そうなの?」

 残念そうに言うがニヤニヤな顔はそのままだ。彼女との付き合いは長いが昔から何を考えているか分からない人物だ。

「…何か企んでるでしょ?」

「別に?たださっきから吉井君の話すると優子楽しそうだったから…。」

「…え…?」

 すると自分でもよく分からなかったが、顔が沸騰するように熱くなった。

「…もしかして…」

「ち、違うってば!」

 必死に反論しようとするが悪戯っぽい笑みはそのままだ。そんな彼女に反論するのも難しいと思い、私は店を出てしまう。

「あ、優子。お金は~?」

「私の分もお願い!あとで返すから!」

 愛子には悪いと思ったが昔から彼女は人をからかう様な態度をよくとる。正直私はそれが苦手である。プライドが高いせいなのかそういう冗談を上手く受け流せないのである。

 別に愛子は嫌いじゃない。ただそういう態度をとるときだけ正直面倒くさい。

 しかし、私も私でもう少し自分に素直になっても良かったのである。そうすれば吉井君にももう少し素直になれるんだろうが…。

 そう、自分の中では分かっているのだが…。

「ハァ…。」

 溜め息をついて帰り道を歩く。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 優子の分まで代金を払い、店を出る愛子。

「な~んか怒らせちゃったみたいだなァ」

 何となく優子を怒らせたことには自覚があるみたいだった。

 優子も帰ったから自分も帰ろうかな~と考えていたが今日は休日なので特に何もすることがない。暇つぶしに商店街を歩くことにする。

 そのときフッとある四人組の男子の会話が耳の中に入ってくる。

「あー、テメッ!明久!テメッ!オレの携帯をぶっ壊しやがって」

「見苦しいぞ!雄二!自分だけ僕の携帯を壊した罪を認めない気かっ!」

 どうやら二人の男子は携帯を壊したとかで喧嘩をしてるらしい。

「お、落ち着くのじゃ。二人とも。」

「…ここはお互い様…」

 もう二人の男子は喧嘩している二人を止めようとする。 

「雄二、よく考えてみろ!コレはある意味iPhoneに変える良いチャンスなんだぞッ!」

「そういう問題じゃねえッ!」

 本当にそういう問題ではない。明らかに問題を軽くしようとしているのが感じられる。

 しかし、愛子は理解する。アレが優子の言う吉井明久なんだと…。明久という名を持つ者はフミヅキには「吉井明久」しかいないから間違いないだろう。

「くっそ!覚えてろ雄二!」

 そう言い少年はその場から逃げるように言う。

「それはこっちのセリフ…って、オイ!コラ、待て」

 しかし、少年は不良品となった携帯だけ置いてそのまま去ってしまう。

 しかし、それは愛子にとっても都合のいいことだった。

「ねぇ、君たちあの吉井君の友達?」

 すると、三人は、

「ああ。」

「そうじゃが…。」

「…(コクリ)…」

 愛子はニヤリと笑う。

「実は私、こんなこと考えてるんだけど…。」

 愛子は三人の耳元で小声で内緒話をするように何かを提案した。

 すると、三人もニヤリと笑う。

「面白そうじゃの。」

「…(コクリ)…」

「ちょうど良い。明久には携帯を壊された借りがあるしな…。」

 四人は一体何を企んだのだろうか…?

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 翌朝――――。

 今日も祝日で休みだった。

 「ふわぁ」と可愛らしいあくびをし、優子は目覚める。隣ではまだ明久が寝ていた。

 いつものように「スピー、スピー」という鼻息を立てて寝ている。やはりいつ見ても彼の寝顔は幼さが感じられる。

「吉井君、そろそろ起きなさい。」

「…ん~」

 優子は起こそうとするが明久はそのまま布団にもぐってしまう。そして、再び「スピースピー」と鼻息を立てて寝てしまう。

「いい加減…起きなさいッ!」

 すると、明久の体からメリッと何かねじるような不吉な音がする。

「ぎゃあああああああああッ」

 優子がどうやら関節技をきめたらしい。

「ちょ、ちょッ!いきなり痛いよッ!?」

「ようやく起きたわね」

「あの、もう少し優しく起こしてくれません?」

「いつもそうしてるけど、吉井君、いつも起きないじゃない。」

 頬を膨らませ怒る優子に明久は素直に「ハイ」と言う。

 そこで起き上がろうとしたとき、電話が鳴る。

「はーい、もしもし。吉井ですけど」

 ダルそうに電話を取る。

『おー、明久か?』

「アレ?雄二」

 電話の主は雄二だった。

「何だよ、こんな朝早くから…。」

 明久は迷惑そうに言う。しかも電話の主が雄二となると余計気が怠かった。

『あ~、明久。今日、空いてるか?』

「イヤ、一応空いてるけど…。」

『そうか…』

 雄二は少し嬉しそうに言う。だが、嬉しそうな声を出す雄二は明久にとって正直無気味であった。何を企んでいるか分からないからだ。

『俺とムッツリーニと秀吉は如月ハイランドに行く予定なんだがお前もどうだ?』

「イヤ、雄二…。」

 悪い話ではないが、何故か嘆息する明久。

『分かってる。そんなところに行く金がないって話だろ?』

「分かってるなら誘うなよ」

 明久は不機嫌そうに言う。それもそうだ。明久はお金を全て自分の趣味に使ってしまうため生活費は愚か、遊ぶためのお金なんて一切残されていない。しかし、それを知ってて遊びを誘う雄二も正直嫌らしい。

『オレ、一応無料券持ってるからそれを提供してやらんこともないが…。』

「え!?ウソッ!?マジで!?」

『イヤ、流石にここまで言って嘘は言わねえよ…。』

 「それもそうか」と納得しながらも明久は嬉しそうだった。

『じゃあ、如月ハイランド前のコンビニで待ち合わせな~』

「了解っ!」

 そう言い、明久は電話を切る。明久は実は遊園地に行くのが初めてだった。そのせいか異様に興奮している。

「どうしたの?吉井君。」

 優子はキョトンとした表情で聞いてくる。

「ちょっとフィーバーしてくる。」

「…は…?」

 「どういうこと?」と聞こうとしたが、既に明久は家から出ていた。監視役の優子は明久を監視しなければならないが、明久が何処に行くのかが分からなければ監視の仕様もない。

 そこで「ハア」とため息をつくと「ブーブー」と携帯が鳴る。「誰からだろ?」と思い、画面を見ると愛子からだった。

 

 『突然だけど、今日遊園地行かない?如月ハイランドってあるでしょ?霧島さんも来るって言うから優子もどうかな?』

 

 本当に突然だなと思いつつも愛子には昨日のレストランのお金も返さなきゃいけなかった上、明久も今、どこに居るか分からない。

 

 優子は『分かった。私も行く』と返信した。

 




 遊園地の話は今回だけで何とか納まると思ったんですが、納まらないので次回に続きます。

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