「写真はいかが…?」
ボソッと話しかけてくる店員。声に明るさがないせいか、ちょっと暗い。それに他の店員に比べ少し背が低い。彼のアフロ、サングラスは何故かコスプレしているようにも見えた。そのため何か不自然さも感じられる。
「…何か何処かで見たような…」
明久は目をしかめてみる。
「…気のせいです。」
店員はブンブンと首を振る。
「吉井君、せっかくだし撮ろうよ。」
優子はニコと微笑む。こんな楽しそうな優子の表情を見るのは初めてだった。そんな表情を見て、明久も「じゃあ撮ろうかな」と心に決める。
「じゃ、じゃあ写真一枚お願いします。ちっこい店員さん」
「ちっこいは余計。」
無意識に「小さい」という本音を口出す明久。彼は自分の失言に気づくが店員はそれほど気にしてはいない様だった。
「…じゃあ手、握ってください。」
店員はボソッと言う。
「え!?手を握らないといけないんですか?」
まるで当然のように言う店員に優子は動揺したような態度をとる。
「…だって二人はカップルでしょ?」
ボソッと当然かのように言う店員。そう、優子達は男女のカップル券で入園することが出来た。つまり、店員からしてみれば明久と優子はカップルに見えるわけである。
「へ?何?カップ?」
しかし、明久はカップル券で入園できたのを知らない。その証拠に店員がカップルと言ってるのをよく聞かずにカップと聞き間違えたのだ。
明久はAカップ、Bカップという女性の胸の大きさを表すあのカップが瞬時に思い浮かんだのである。
そのせいか明久は店員が先程言った言葉を「女性の胸の大きさがどれくらいがベストですか?」と勝手に解釈してしまう。
「店員さん、女性の胸は大体Dカップ位がベストだと思います。」
思ったことを正直に述べる明久。隣にいた優子は「ハ?」と思わず声を上げてしまう。いきなりこんなとんでもないことを言われたら声を上げたくなる気持ちもよく分かる。店員も当然優子のような反応をするかと思ったのだが…。
「いいや。甘い。貴様は甘い!」
先ほどまでボソッとしていた店員の声には妙に鋭さが感じられた。
「オレの中ではA、Bは小さい、だが、Dだともはや巨乳の領域に走ってしまう!大きすぎず小さすぎず。オレはCカップがベストだと思う!」
店員の表情はとても真剣だった。目も光り輝いているような感じもしたが、何故かダラダラと華字が出ている。
「な…なるほど…。」
明久はまるで手強い強敵に出くわしたような反応をする。確かに彼の意見も最もだと思ったのだ。
要するに彼は小さすぎだと魅力に少し欠けるものがあるが、大きすぎだと逆に魅力が感じられなくなる、そう言っているのだ。
「だからこそオレはノーマルなCの道を行く。」
彼はグッと親指を立てる。
「…おおおおおっ!」
ただただ感動する明久。しかし、内容は本当に下らない。男性の欲望に満ちた内容である。
そこで優子が「吉井君」と呼びかける。
「ああ、何?木下さん」
振り向くと優子は何故かニコニコしながら関節を慣らしていた。笑ってるハズなのに異様に殺気に満ちている。
「Dカップが良いってのは私に対するセクハラかしら?」
「ええッ!?イヤ、ちょ…待っ…」
ただ純粋に胸について語っていただけだったのだが、優子はどうやら明久達の理想の女性と比較された気分で妙に傷ついてるようだった。
すると優子は小さな手をギュっと握りそれを明久に思いっきり向けてく。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
明久はその拳圧に耐えられず近くの壁に思いっきりめり込む。
小柄で華奢な感じを思わせる優子だがとてつもなく怪力があるようだ。流石、国家騎士と言うべきか…。
「ハイ、チーズ」
店員はそんな彼らの情景をカメラで撮る。
――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま。」
「おお、ご苦労だったな。ムッツリーニ」
暗く狭いモニタールームにいた三人はずっとムッツリーニの帰りを待っていたのだ。
「それにしても明久は何か殴り飛ばされておったの」
「ああ、壁にめり込んでたぞ。」
秀吉と雄二は優子に対し恐怖の表情が顔に表れていた。とくに秀吉は自分の姉の恐ろしさはよく分かってるハズだ。
「ホント、優子は…。」
愛子は呆れたような顔をする。しかし、すぐに気持ちを切り替える。
「ムッツリーニ君。写真は?」
「撮ってある。」
「じゃあ、見せてもらうよ~」
そして彼が撮った写真を見ると、それは優子が明久を殴った後の情景だった。優子は鬼のような表情で拳を握りしめてる。それに対し、明久は壁にめり込んでる。
こんなカップルの写真が存在していいのか…?そんな風にも感じる。
愛子、雄二、秀吉は眉を引きつっていた。この光景には正直引くものがある。
「ま、まあ次の作戦を成功させようよ。」
「そ、そうだな」
「そうじゃな」
「…(コクリ)…」
無理やりポジティブになる愛子に続き雄二、秀吉、ムッツリーニも頷く。
「じゃあ、次の作戦は任せたよ、秀吉君。」
「うむ。任せるのじゃ!」
そう言い、秀吉は暗い部屋を出る。
―――――――――――――――――――――――――――――
「あの…木下さん…痛いんだけど…」
「悪いのは吉井くんでしょ」
明久はまだ優子に殴られたダメージがまだ抜けきっていない。
どうやら女の子の前ではこういう話は良くないんだな、と悟る。
そして二人は何のアトラクションに乗るか迷う。どれに乗ろうか迷っていると後ろから、「お困りですか?」と言う声が掛かってくる。
振り向くと、黒い長い髪をツインテールにしたメイドがいた。
「え…と、店員さんですか?」
「はい、そうです。」
他の店員に比べやけに華やかな感じがあったので優子は念のため聞いておく。
「…どこかで見たような…」
「気のせいですよ…」
「イヤ、確かにどこかで見たような」
優子は疑いの視線を向ける。明久も何となく優子の言いたいことを理解する。そのメイドは異様に優子に似ていた。優子に似ているとなると秀吉が思い浮かぶのだが彼はこんな黒い髪をしていない上に少しだけ雰囲気が違うような気もした。
「まあ、いいわ」
優子は詮索しないことにする。店員も少しだけホッとしているようにも見えた。
「カップルのお二人にはあのアトラクションがいいと思いますが…。」
店員が指差したのはアトラクションの内の一つ『スペースマウンテン』だった。
優子は楽しそうに、
「へえ、良いわね乗りましょ?吉井君」
「え?ああ、うん。」
何故か明久は顔を真っ青にして言う。
「何処か体調でも悪いの?」
「ああ、いや別に…。」
「…?まぁ、いいわ。行きましょ」
そう言って二人は後ろに並ぶ。
今日は祝日なので混んでいる。そのため中々乗れない。一時間半くらい経ちようやく乗ることが出来た。
「わぁ~、楽しみ。」
優子は楽しそうだった。しかし、明久は顔色が悪かった。
そして、ついにアトラクションが動き出す。すると、暗い景色に変わる。まるで宇宙にいるかのように思わせる光景だ。アトラクションがある程度上のところまで行くと…。
「ぎゃああああッ!」
急に凄まじい勢いで走り出す。暗い世界を凄まじい速さでグルグル回っている。
「きゃああああああああああああああッ」
優子は悲鳴を出すがとても楽しそうに聞こえる。一方明久は…。
「……。」
何故か固まっていた。
そしてようやく元の地点に戻る。
「ハァ~。楽しかった~」
優子は満足そうな表情を浮かべる。
「吉井君も楽しかった?」
明久の方を振り向くと…。
「え…吉井君?」
明久は意識を失っていた。目が白目になって少し危険な状態である。
「ちょっ、吉井君―――――!」
――――――――――――――――――――――――-